8 さらなる先へ
マーガレットのおかげで生まれた、千載一遇の好機――。
だが、自分たちには『攻撃力』という点で決め手に欠けていることに、リリィは気づいていた。
以前は、超常的な付与魔術を備えたレインが一緒にいてくれたから、トドメの一撃は彼に任せることができた。
(だけど、レイン様はここにはいない――)
自分たちで、なんとかするしかない。
だがリリィの攻撃でも、マルチナの攻撃でも……メトラムを一撃で倒すには至らない。
現に今までの攻防で、二人は何度かメトラムに斬撃スキルを当てているものの、目立ったダメージを与えられていない。
もう一歩、突き抜けたダメージを与えられるだけの技が必要だった。
(どうすれば――)
反射的にマルチナを見る。
彼女はわずかに目を伏せ、首を振った。
自分には無理だ、ということだろう。
なら、どうするか。
考えたとき、結局脳裏に浮かぶのは、あの青年の姿。
頼もしい、彼の姿。
(そうだ、あたしもレイン様のように――)
彼の付与魔術第二術式は、他者のスキルを習得し、さらに強化するものだった。
つまり、レインが操った【虹帝斬竜閃】は、リリィが操る【斬竜閃】の延長線上にあるスキルということだ。
今回使うスキルは【斬竜閃】ではなく【斬魔刃】だが、しかし、基本的な要領は同じはず。
ならば、
「あたしにも――いける……?」
自問しつつ、さらに走る。
甲虫メトラムは相変わらず自身のスピードに加速がつきすぎ、上手く止まれないようだ。
マーガレットの【加速】が本当にいい仕事をしてくれている。
「メトラム!」
リリィは叫びながら『紅鳳の剣』を振りかぶった。
剣から強い脈動が伝わる。
まるで剣に固有の意志があり、リリィの闘志に応えてくれているかのようだ。
「力を貸して――『紅鳳の剣』!」
一歩、今までよりも強く踏み込んだ。
きゅいいいい……んっ。
リリィの意志の高まりに反応してか、刀身が激しく震える。
剣が、リリィに力を貸してくれている……!
「いっけぇっ、【虹帝斬魔刃】!」
放たれた一撃が、虹色の光の螺旋となって突き進んだ。
「何……っ!? この力は――」
驚愕の声を飲みこみ、その一撃は魔族の巨体を両断した。