7 勝負の決め手は
「なんて――強い……っ!」
リリィがうめいた。
魔体状態のメトラムは、すさまじい攻撃力と突進力でリリィたちを寄せ付けなかった。
とにかく近づくことができない。
少しでも距離を詰めようとすると、巨大なツノを活かした【突進】スキルを発動。
リリィたちを簡単に跳ね飛ばしてしまう。
こちらも伝説級の剣による攻撃で威力を相殺しているからいいものの、そうでなければ体中バラバラにされているだろう。
と、
「……先輩、一ついいか?」
マーガレットが背後から小声でささやいた。
「……何?」
「俺が奴に隙を作る。そこを狙ってくれ」
「隙を?」
「次のあいつの攻撃を確実に避けてくれれば――いけるはずだ」
マーガレットには何か策があるのだろう。
「分かった。信じるわ」
「へへ、任せろって」
「二人とも、構えて! 次の攻撃が来る――」
マルチナが警告した。
その言葉通り、メトラムが突っこんできた。
【突進】系のスキルを使っているのか、速く重い体当たりだ。
まともに受けたら人間の体など一撃で肉片と化すだろう。
リリィとマルチナは先ほどから剣でなんとかその突進をいなしているが、わずかでもタイミングがズレれば終わりだ。
そんな綱渡りのような攻防を先ほどから何度も繰り返している。
と、
「【加速】!」
マーガレットが魔法を発動した。
ただし、その対象はリリィやマルチナではない。
「えっ……!?」
メトラムの【突進】がさらに速くなった。
マルチナがかけた【加速】によって。
「なんだと……!?」
さすがにメトラムも驚いたようだ。
リリィとマルチナは大きく横に飛んで敵の体当たりを避ける。
スピードが上がりすぎたせいで自分でも上手く制御できないのか、メトラムの動きが直線的になっていた。
いくら速くても、これなら予測は容易だ。
二度、三度、四度――。
敵の体当たりをリリィたちは避け続ける。
「【加速】!」
マーガレットは二度目の【加速】をメトラムにかけた。
「ぬおっ!?」
さらに三度、四度……と【加速】をかけていくマーガレット。
メトラムの動きはどこまでも速くなり、そして――。
「し、しまっ――」
メトラムがひときわ大きく体勢を崩した。
それは――致命的と言っていい隙を生む。
「へっ、俺を雑魚だと侮ったか……?」
ほくそ笑むマーガレット。
「き、貴様……っ!?」
「俺にはリリィ先輩やマルチナみたいな剣もなければ、実力も足りない……けどこれくらいのことなら」
「貴様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「メトラム!」
マーガレットが作ってくれた隙を、リリィは決して逃がさなかった。
頼もしい後輩が生み出した、値千金の隙を――。
(……だけど、足りない)
その隙だけでは高位魔族メトラムへの致命傷とはならないことも、リリィは理解していた。
もう一手、必要だ。