6 S級とA級と勇者候補と最強魔族3
――戦いは、あっという間に防戦一方に追い込まれた。
「はあ、はあ、はあ……」
リリィは息を切らせながら大きく後退した。
そのすぐ横では、同じくマルチナが息を切らせている。
後方で魔法によるサポートをしてくれているマーガレットも、かなり魔力を消耗している様子だった。
「なんて強さなの――」
戦慄する。
メトラムは、異常な戦闘能力を備えていた。
かつて光竜王やその配下、あるいは『天の遺産』を持つ者といった強敵との戦闘経験は何度かあるが、メトラムの強さは彼らに勝るとも劣らない。
「どうしたの? 目論みが外れたかい?」
メトラムが余裕の笑みを浮かべた。
初撃に対魔族用のスキル【斬魔刃】で敵の隙を作り、そこにマルチナの攻撃スキルを叩きこむ――というのが当初の作戦だったが、まったく通用しなかった。
とにかく、防御が固い。
「だいたい分かった。確かにその二本の伝説級の剣は脅威だ。『王』の称号を持ち、『王』を封じるために作られた剣だけのことはある――」
メトラムが微笑む。
「あいにく闇の属性の者にその剣は扱えないからね。君たちを殺したところで、私にはその剣は使えない。惜しい……実に惜しいよ」
言いながら、彼の全身から魔力が湧き上がっていく。
「くっ……まだ魔力が上がる――」
リリィの額から汗が伝った。
「まあ、それはいいか。ともあれ、そろそろ終幕だ。いつまでも君たちを遊んでいるわけにはいかない」
ご……ごごごご……。
地面が、揺れた。
同時に、
「がああっ!」
咆哮とともにメトラムの姿が変わる。
塔のような巨大なツノに、楕円形の巨体、そして透明の羽根。
それは体長10メートルほどもあるカブトムシのような姿だった。
「これが私の真の姿――『魔体』」
メトラムが告げた。
その威圧感にリリィは動けなかった。
まるで金縛りだ。
「高位の竜族が戦闘形態である『竜体』に変身できるように、力ある魔族もまた固有の戦闘形態に変身する能力を持っている。一部の高位魔族だけがなし得る術式さ」
巨大な甲虫と化したメトラムが笑った。