5 『青の水晶』の冒険者たち
「このぉっ!」
ラスが斬撃を繰り出す。
スピードが乗った鋭い斬撃だった。
さすがは将来の有望株にして剣術の天才少年だ。
がきん。
その斬撃が、女の前方で止まった。
「えっ……!?」
ラスが戸惑いの声を上げる。
まるで見えない壁にでもぶつかったように、ラスの剣は空中で止まったまま。
「あたくしは『防壁』のフローラと申します。その防御は鉄壁――」
淡々と告げる女。
「いかなる攻撃も通しません」
「ちいっ!」
ラスはさらに二撃、三撃と繰り出す。
だが、透明な壁に跳ね返されてまったく通らない。
「では、次はあたくしから」
ふたたびフローラが剣を繰り出した。
ざんっ!
すさまじい斬撃がラスの鎧の胸元を斬り裂く。
「くっ……!」
慌てて跳び下がるラス。
「あ、あぶねー……」
攻撃の寸前でわずかに体をのけぞらせたおかげで、鎧を切られただけで済んだようだ。
鋼鉄の鎧は紙のように斬り裂かれていたが、ラス自身は薄皮一枚斬られただけで助かったみたいだった。
「防御と違って、攻撃にはなんの能力も使っておりませんよ。あたくしの剣は、あくまでもあたくし自身の実力です」
フローラがニコリともせずに告げる。
やはり、この女の剣技は素の戦闘能力によるものか。
「だから、今のは『天の遺産』ではない、ただの斬撃――ただし、その威力は大陸で五指に入る、と自負しておりますが」
そして防御面では『天の遺産』の力がある。
攻守両面において強大な女剣士――。
こいつは強敵だ。
「たとえあなたの『付与』で強化された武具でも、あたくしには通じない。試してみますか」
と、フローラが俺を見据える。
茫洋とした目だった。
何の感情も浮かんでいない、まるで無機物のような瞳。
「そうだな」
俺は懐からナイフを取り出した。
こいつにある程度の『強化ポイント』を注ぎこめば、ドラゴンすら一撃で倒せるチート武具と化すだろう。
だけど――問題は『停止』を使うジグだ。
あいつがいる限り、俺の『付与』は力を失う。
目の前の三人の中で、まずジグをなんとかしなければ。
「あの小僧がお前の付与魔術をキャンセルしてるんだな?」
バーナードさんが前に出た。
「なら、俺たちがサポートする」
「いつもお世話になってるから恩返し」
ミラベルが言った。
「後で恩返し料を請求」
「ちょっといい話っぽい感じだったのに、その一言で台無しだな」
「お金は大事。超大事」
「まあ、そうだけど……」
「ふん、なんの力も持たない者たちが、僕らに立ち向かうつもりか?」
ジグが鼻を鳴らす。
リサが不敵に微笑み、フローラが淡々と剣を構える。
そして――俺たちの戦いが始まった。
『青の水晶』の冒険者チームVS『天の遺産』使いたちの決戦が。
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