7 ギルド『王獣の牙』その末路1《追放者SIDE》
「ええい、いつになったらイルジナは戻ってくるのだ!」
バリオスは苛立っていた。
ギルドの再建人として雇った女イルジナ。
その彼女にギルド『王獣の牙』の権利書を渡したっきり、一向に戻ってこないのだ。
連絡を入れてみたが、こちらも返答なし。
「……まさか、このまま雲隠れしたなんてことは」
嫌な想像に胃が重くなった。
さすがにこのまま逃げられたら洒落にならない。
イルジナの手に渡った権利書を使われたら、ギルドを乗っ取られるかもしれないし、あるいは売却されるかもしれない。
いずれにせよ、彼女にもし悪意があるなら、ギルドは完全におしまいだ。
少なくともギルドマスターとしての地位はなくなり、バリオスは資産も地位も失って路頭に迷う。
「馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な……」
不吉な未来を一度想像すると、その想像はどこまでも広がっていった。
イルジナの協力を得て、『王獣の牙』は復活するはずだった。
彼女はプライベートでもバリオスの愛人となり、公私ともに充実していくものだと思っていた。
それが――。
「まさか、俺はあの女の手の上で踊っていただけ……?」
遅まきながら、そんな思考にたどり着く。
ギルド再建の道を示され、さらに若い美女に迫られ、自分は舞い上がっていたのだ。
――数日後、バリオスの不吉な予想は的中した。
「『王獣の牙』が売却されているだと!?」
報告を受けて、彼は怒声を上げた。
「は、はい、ギルド連盟から受けた営業許可や各種認可、さらに建物そのものに至るまで――丸ごと売られてしまったようです」
それはつまり『王獣の牙』の消滅を意味していた。
世界各地に乱立する冒険者ギルド――。
それは連盟から受けた営業許可があって、初めて運営することができるのだ。
その権利自体が売却されてしまったら、『王獣の牙』はもう冒険者ギルドとして成立しない。
「ふざけるなよ! 『王獣の牙』は俺のギルドだ! 即刻取り返してやる!」
だんっ!
怒りに任せて手近の机を殴る。
硬い木の机に打ちつけた拳が、ひどく痛んだ。
「いててて……くそ、ついてない!」
毒づくバリオス。
ともあれ、今は一刻も早く行動しなければ――。
痛む拳を押さえ、バリオスは売却先だというギルドへと出向いた。