2 マルチナと勇者の称号2
光竜王から世界を救った勇者――。
そんなふうに認定される可能性に気づき、俺は呆然となっていた。
確かに激闘だったけど、世界を守るために――というよりは、仲間とともにがんばるいつものクエストの延長上のような気持ちで戦っていたのだ。
だけど、冷静に考えれば、光竜王は世界を滅ぼすほどの力を秘めていたはずだ。
それを討ったのであれば、俺たちがやったことは十分に勇者級である。
「うーん……微妙に実感が薄いんだよな」
やはり、この付与魔術がチートすぎるんだろうか?
ただの剣が、ドラゴンを瞬殺する最強武器に早変わりするくらいだからな……。
「今ごろ気づいたの? もう」
マルチナが苦笑した。
「レインくんって、けっこう天然だね」
「天然……」
「あ、けなしてるわけじゃないよ。純粋ってことだと思うし」
マルチナが微笑む。
「しかし、俺が勇者か……ピンとこないな」
一介の付与魔術師に過ぎなかったころが、遠い昔のようだった。
「でも、あたしだって勇者になるのを諦めてないからね。あ、そうだ。ちょっと勝負してみない?」
「勝負?」
「勇者にもっとも近い剣士であるレインくんに勝てば、あたしこそが勇者最有力候補になるかもしれないし」
「目が爛々としてるな……」
「ねーねー、お願い~」
袖をグイグイ引っ張ってくるマルチナ。
俺たちは王城内部にある訓練場で模擬戦をした。
もちろん、互いにケガしないように安全措置を何重にも施している。
――のだが、
「ひあああああっ!?」
俺の一撃によって、マルチナは大きく吹っ飛ばされた。
「だ、大丈夫か?」
慌ててマルチナに駆け寄った。
そっと撃ったつもりだったんだけど――。
「ケガはしてないんだけど、威力にびっくりしちゃって……ごめん、気を遣わせて」
「いや、ケガがないならよかった」
俺はホッとした。
それからマルチナを助け起こす。
「ふうっ……ありがとう。それにしても、本当に便利だね。レインくんの加護アイテムって。というか、付与魔法全般かな。これなら高レベルの剣士や魔法使いでも安心して模擬戦ができる」
「だな。マルチナやリリィたちにも必要なら貸すよ。今までは模擬戦に使うってことを思いつかなかったんだ」
「じゃあ、あたしが君に挑戦したおかげだね」
ふふっ、と笑うマルチナ。
「ねえ、もう一回……しよ?」
上目遣いに見つめてくる。
なんだか『年上の色香』みたいなものを感じてしまい、ドキッとした。
「あれ? 目が泳いでない?」
「い、いや……」
「ふふ、おねーさんにドギマギしてるわね? そうでしょ、ね? ね?」
「ち、違うって」
言いながら、俺の声はうわずっていた――。