3 冒険者たち、大量離脱の兆し《追放者SIDE》
追放者サイドです。次回は主人公サイドに戻ります。
「冗談じゃない! なんで俺の武器が弱くなってるんだよ!」
「あたしの魔法の杖、全然魔力を増幅してくれないんだけど!」
バリオスの元に数十人の冒険者が押しかけていた。
いずれも『王獣の牙』に所属する冒険者たちだ。
自分たちの武器や防具が突然弱体化──というか、今までレインが強化してくれていた効果がいきなりゼロになったことへの抗議だった。
彼らの怒りはすさまじかった。
何せここ数日クエストは失敗続きである。
それも、今までなら楽勝だった相手に、まるで歯が立たない──というケースが続出している。
副ギルドマスターの三人は逃げるように執務室を出て行った。
後に残されたバリオスが一人で必死に対応しているところである。
「武器と防具のメンテナンスをしてくれてたのはレインだろ? あいつに頼んでくれよ!」
「そうだよ、あいつ、俺たちが頼めばいくらでも強化してくれただろ!」
「本当、あいつ便利だったよな。なんでクビにしたんだよ!」
「まだ利用価値があったんだ。追放しちまうなんて無能だぜ!」
冒険者たちが口々に叫ぶ。
「き、貴様ら、ギルドマスターであるこの俺になんて口の利き方を──」
バリオスが歯ぎしりした。
「うるさい! レインがいなくなってから、急にこのざまじゃねーか!」
「あいつを呼び戻せよ! まだまだ働かせろ!」
「そうよ、レインをクビにしちゃったのは、あんたらの失態でしょ!」
「お、お前らだって、レインを馬鹿にしていたじゃないか!」
バリオスが叫んだ。
「武器や防具の強化は終わったし、もう必要ないとも言っていたよな!」
「うるさい! こんなことになるとは思わなかったんだよ!」
「そうよ、もう一回レインに戻ってきてもらってよ! 土下座でもなんでもして!」
「貴様ら……!」
あまりにも勝手な言い分に、はらわたが煮えくり返るようだった。
「心配しなくても、代わりの付与魔術師を連れてきている! 今、武器と防具の強化をやらせているから少し待っていろ!」
バリオスは集まった冒険者たちに怒鳴った。
そう、何もレインだけが付与魔術師ではないのだ。
代わりの者に武器や防具を再強化すればいいだけだった。
「今は一時的に弱体化してしまっているが……すぐに俺たちは元通りの強さを取り戻す。もう少しだけ我慢してくれ。な?」
強気な態度を見せた後に、少し優しい態度に変じてみせる。
「迷惑をかけてすまないが、ここ数日だけ耐えてくれ。な?」
「ちっ、しょうがねーな……」
冒険者たちも渋々といった様子で退く。
「よし、後は強化を待つだけだ──」
バリオスは胸をなでおろす。
だが──。
数時間後。
「武器と防具の強化……って、これがか?」
「はい。とりあえず十の武器と防具に『+3』の強化を施しました」
「たったの3? あいつは──レインは平均して『+10』以上の強化をしていたぞ。『+15』や『+20』以上の武器や防具もあったが……?」
「そ、そんな数値は無理ですよ!? 私はこれでも上位の付与魔術師ですが、『+3』の強化を十の武器と防具に施すだけでもほとんどの魔力を使ってしまいましたし……」
「……そういえば、あいつは少しずつ魔力を溜めて、コツコツと強化を重ねていたような……」
レインのことを思い浮かべるバリオス。
「長い時間をかければ、もう少し強化することは可能です。ただ、短時間での強化ならこれで限界──というか、これでも破格ですよ? 『王獣の牙』さんの依頼だからこそ、ここまでしたんです」
「なんと……では、今まで通りの強化武器や防具を作ることはできないのか?」
「この国──いえ、世界中のどんな付与魔術師でも、短期間にそんな数値の強化をするのは無理でしょうね」
「なんだと……」
バリオスは付与魔術師の言葉を呆然と聞いていた。
「ふざけるな、約束が違う!」
「俺たちの武器、前とほとんど変わらないじゃないか!」
「もういい、こんなギルド、出て行ってやる!」
「ここにいたら、まともに戦えないわ!」
話を聞いた冒険者たちは次々にギルドを出て行った。
残っている者も、離脱を検討していそうな者が少なからずいる。
(まずい……まずいぞ……)
バリオスの額に汗が伝う。
このままでは愛想をつかされ、大量の離脱者が出かねない。
大陸最強ギルドの一つ『王獣の牙』に──今、崩壊の危機が訪れていた。