17 最終局面
「ヴィクターさんの力って……」
「ああ、平たく言えば『幻覚』を作り出す能力のようだ」
驚く俺にヴィクターさんが答える。
「正確には、少し違うようなのだが……詳しく調べている暇はなさそうだな」
「奴らを倒した後で、じっくり検証すればいいですよ」
言って、俺は剣を構える。
その左右にマルチナと――リリィが並んだ。
「リリィ、もう大丈夫なのか?」
「はい、マーガレットが治してくれました。ありがとう、助かりました」
「へへへ」
マーガレットが照れたように笑う。
「じゃあ、リリィも戦線復帰か。頼もしいよ」
「あたしだっているんだからね。この勇者マルチナも」
と、マルチナがニヤリと笑う。
「勇者候補、だけど」
「はは。光竜王を倒したら、勇者を名乗ればいい」
俺は軽口を叩いた。
半分は緊張感を減じるため。
もう半分は、気分の高揚からだ。
戦いは、間違いなく最終局面に入った。
あと少しだ。
すでに七竜騎はいないし、ヴィクターさんが新たな力に目覚めた。
リリィも復帰した。
これで、万全の陣形を取ることができる。
俺たち全員の力を結集すれば、きっと勝てる――。
そんな自信が俺の気持ちを高ぶらせていた。
俺とリリィ、マルチナが伝説級の剣を手に衝撃波を放つ。
光竜王は『強化』された装甲でそれを弾き返した。
すでにわずかな亀裂が走っている装甲に、さらに傷が増える。
とはいえ、破壊するには至らない。
そう簡単には破壊できない――。
「次は私だ」
と、ヴィクターさんが時間差で剣を繰り出した。
放たれた斬撃衝撃波は、途中で七つに分裂する。
【幻惑】の力で攻撃が分裂したように見せかけたのか。
「しょせん幻であろう! 七つに見えても、実態は一つ! それでは我の装甲に大した傷を与えられぬ!」
光竜王が哄笑した。
「お前たちの攻撃が終わった瞬間に、ブレスを食らわせてやろう。種が分かれば、恐れることなど――ぐおっ!?」
七つの斬撃衝撃波は光竜王を直撃するなり、連鎖的な爆発を起こした。
「幻覚とは少し違う、と言ったはずだ」
ヴィクターさんがニヤリとする。
今の七つの斬撃衝撃波は単なる幻覚じゃない――。
俺はハッと気づいた。
「実際にダメージを与えることが可能な、実体を伴った幻覚――?」
呆然とつぶやく。
まさにチートである。
光竜王は全身から白煙を上げ、その装甲にも大きな亀裂が走っている。
攻撃のチャンス――と思ったところで、
「ちっ、さすがに『天の遺産』だけあって、厄介な力だ」
「だけど、これならどう――」
ディータとシリルが二人がかりで突っ込んできた。
圧倒的な破壊能力を誇り、俺の加護アイテムにすら大ダメージを与えるディータの【万物破壊】。
そして神出鬼没の能力を発揮するシリルの【移動】。
彼女たちの連係は脅威である。
だけど、
「これを凌げば……!」
俺は二人を見据えた。
彼女たちの攻撃を凌げば、その隙に光竜王に追撃を叩きこめる。
うまくいけば、そこで勝負を決められるはずだ。
「正念場、ってやつか」