16 力の正体
ヴィクターさんに『天の遺産』の力が宿った――。
俺は驚いてヴィクターさんを見つめる。
いや、その場にいる全員が驚きの視線を送っていた。
『天の遺産』。
俺も正確に理解しているわけじゃないけど、どうやらそれは超越的な異能のことを言うらしい。
俺の『付与』や光竜王の『強化』、そしてディータの『破壊』とシリルの『転移』。
ヴィクターさんにもなんらかの異能が宿っているんだろう。
なぜ突然宿ったのか、理由は分からないけど、今はそれは重要じゃない。
重要なのは、ヴィクターさんにどんな能力があるのか、ということだ。
その内容次第では、俺たちに逆転の目が出てくるかもしれない。
「そんな、あり得ない……!?」
「どうなってるのよ……!?」
ディータとシリルが初めて焦ったような表情を浮かべた。
「なぜ、奴に『天の遺産』が――」
「ねえ、ちょっとまずくない?」
二人が顔を見合わせている。
一番厄介な二人の動きが止まっているのは幸いだった。
その間に、マーガレットはリリィの治癒を進めているし、ヴィクターさんは、
「こっちだ!」
七竜騎や光竜王の攻撃を引きつけている。
あいかわらずドラゴンブレスを受けて吹き飛ばされては、すぐに復活するヴィクターさん。
再生能力の類なんだろうか?
「ならば再生できないほど粉々に吹き飛ばすまで!」
光竜王と七竜騎が同時にブレスを放った。
直撃を受けたヴィクターさんは粉々になり――。
「何っ!?」
竜たちが驚く。
今度はブレスを受けても傷一つ受けていない。
そこに平然とたたずんでいる。
「どうなっている――」
「私の力は『再生』じゃない」
驚く彼らの背後に、突然ヴィクターさんが現れた。
いつの間にか回りこんでいたのか。
「そうか、ヴィクターさんの本当の力は――」
俺はハッと気づいた。
「私に授けられた異能は――『幻惑』だ」
告げて、剣を振り下ろすヴィクターさん。
七竜騎たちを次々と打ち倒していく。
「おの……れ……」
三体はいずれも首を刎ねられ、倒れた。
残るは光竜王とディータたちだけだ。