農民の封じた魔物
「落花生……房総半島に封じられた魔物ですね」
夕飯前、ビールを片手に私は言う。
明日、息子の通う幼稚園で行われる落花生掘り。それに妻も同伴するとの事での発言である。
「落花生が魔物?」
「ええ、江戸時代の農民達が房総半島に封じ込めた魔物……それが落花生なのです」
「房総半島のある千葉県が日本最大の落花生……ピーナッツ産地って事は聞いた事があるんだけど?」
料理中の妻は、私の話に胡乱気である。
「ピーナッツはナッツ……つまり木の実です。大きな木に育ち、高い枝から実を落とすことで地中に種を埋める……コレが落花生という日本名の由来ですね」
「成程。一応の説得力はあるわね……」
私の言葉に妻は納得したように頷く……が、この説明は真っ赤な嘘である。
「小さな実ですから大怪我に繋がる事は無いけど、それでも当たると痛いから気を付けてください。あと、決して取りこぼしの無いようお願いします」
私の言葉に妻は納得がいかないようだ。
「取りこぼしがって……なんで?」
その問いに、私は真面目な口調で言う。
「落花生は成長が早く繁殖力がとても強いのです。つまり実を回収できなかった場合、すぐに木に育って新たな実をつけてしまいます」
私の言葉に、妻もようやく納得が行ったようである。
「つまり、落花生の森が広がってゆく?」
その言葉に私は頷く。
「そう、落花生は管理を誤ると際限なく広がる森となってしまいます。江戸時代に落花生が日本に伝来しましたが、管理を誤り爆発的に繁殖してしまった……」
私の説明に、妻は房総半島に封じられた魔物という言葉の意味を理解したようだ。
「けど、海に囲まれた半島という地形をもって、江戸時代の農民達は房総半島に落花生と言う魔物を封じ込めた?」
妻の言葉に私は重々しく頷いて見せるのだった。
だが、別名たる南京豆が示すよう落花生は中国経由で日本に伝来している。
本当に爆発的繁殖力があるならば千葉県に辿り着く前に、とうの昔に日本は落花生に埋め尽くされているはずだ。
そもそも落花生は豆科の一年草。断じて樹木ではない。元より私の説明は嘘八百で与太話なのだ。
与太話の手応えに満足し、明日真相を知るだろう妻を思いつつ私はビールを飲み干した。
翌夕、帰宅した私は待ち構えていた妻に思いっ切りブっ飛ばされ、飛び散る流れ星を見たのである。
まさに落下星であった。
要点のみに絞りはしたものの、ワリと気ままに書いたのにサクッと1000文字に収まってビックリ。
落花生の豆知識
マメ科の一年草で原産は南米大陸。大航海時代にヨーロッパに伝わり、日本には東アジア経由で江戸時代に伝来。
受粉後、茎が長く伸び地中に潜り込み、子房の部分が膨らんで地中で実を結ぶ。
花が落ちた場所で実が生まれる事から落花生と命名されたわけだ。
種や苗はホームセンターでも売っているので、別に取扱注意な作物ではない。
プランターでも栽培・収穫は可能。
12/9
無改稿で行きたかったけど読み返すと気になるところが出まくりんぐ。
チマチマ弄り、一応いまが完成形……で良いのかな?
弄った結果、文字数オーバーでやっぱ削るのに悩みまくり。
明記されていないため空白・改行は含まなくてもOKだと思われますが、含んで1000文字って縛りで書いてます。
含まないなら数十文字ほど文字数が増やせるんですけどね……
12/10
何度も弄った結果、投稿直後とはだいぶイメージが変わったんじゃないかと……
語り手たる旦那の心理に、だいぶ踏み込んでみました。
元ネタたる「ティーシナルヒビ」の「落花生」は三人称で書いてましたし心理描写というか、心の声は一切入れませんでしたからね。
そっちに引っ張られ心理にまでは考えが回らず、書きあがった作品に違和感があったんですよね……
とりあえず、現状で書き手としての違和感は無くなりましたね。
たぶん、まだ弄ります。