植物の聖女と妖魔の聖女
物心付いた時には、私の3つ上の姉は聖女だった。
美しい姉。
何でも出来る姉。
愛される姉。
聖女とは、神に愛され、奇跡を起こす事が出来る女性を言う。男性ならば聖人である。
そして、私も聖女だった。
奇跡とは様々で、神によってその恩恵は異なる。
姉は植物の聖女、豊穣の聖女、居るだけでも作物の実りが良くなる国にとっても大きな力だった。お胸もたわわで、婚約者の王子様もきっと幸せだろう。
私は妖魔の聖女。豊穣の聖女の対であり、良い言い方をすれば治癒の聖女とも呼ばれる。あっちは植物、こっちは妖魔。
妖魔とまとめて呼ばれるけれど妖精や魔物、そして人など動く?生き物全般を指していて、良いモノも居れば悪いモノも居る。そして私はそれら全てに好かれやすい性質だった。
姉は聖女と持て囃されては居たけれど、私も聖女で好かれやすい。私と接する人が多くなるにつれて、私は愛されるようになった。
『クスクス、アイリスはもっともーっと、好かれるべきよ。でも、エディアは邪魔ね』
『ダメダメ。エディタは良い子だけど、ルノワールは悪い子。好かれるならエディタが良いわ』
『そんな事より、ワタシタチとずっとお話ししまショ?』
「アイリスは可愛いからそのままで良いのよ」
「アイリス、私と一緒に遊ばない?」
私は愛されるから、皆が私に声をかける。けれど、私は一人だから一つだけしか選べない。
私を愛するモノか役に立つモノしか要らないと言う妖精達も
独占しようとする魔物達も
愛情だけをくれる両親も
愛情以外のモノも見せる姉も
私はあんまり好きじゃない。
何でだろう……?
「お姉さまと遊ぶ!」
それでも、私は愛される聖女だからニコニコと笑うの。
姉は豊穣の聖女。一緒に庭に出ると、綺麗な花を咲かせてくれる。
「キャッ……まったく、虫は葉に穴を開けるから嫌いよ」
芋虫。
「でも、成長すれば綺麗な蝶になるわ」
「そうねぇ、蝶なら受粉に役立ってくれるのに」
払われた芋虫に、こっそり回復の奇跡を施す。私は妖魔の聖女。
豊穣と言うのは曖昧で、慣れれば人は実りの奇跡を当たり前だと思う。
回復と言うのは明確で、大切な人が元気になれば奇跡だと感謝する。
そして、植物に愛される聖女と、妖魔に愛される聖女。
「エディア、私はお前の妹を愛してしまった。それに、アイリスは聖女だ。婚約の解消を、受け入れてくれるな?」
それは、王子故の傲慢か。
「私も聖女ですが、ええ。承りましたわ。どうぞ、幸せに過ごせると良いですね」
植物の聖女に見捨てられた国から豊穣が消えるのは当然で。
それは、聖女故の傲慢である。
そして、無知である。
植物と違い、おしゃべりな妖魔達は沢山の事を教えてくれた。
豊穣と妖魔の聖女は対である。
何故、ほとんど同じ時期に同じ場所に産まれたのか。
果実の、せっせと花粉を運ぶ、虫達は妖魔なのよ……?
「お姉さまも、お幸せに」
ああ、植物しか愛せないお姉さま。人に愛を向けようとしないお姉さま。
そうよ、お姉様の言うとおり。聖女じゃないと愛されないのではなく、聖女だから愛される。
だから私は、妖魔を愛していて、大嫌い。
それから、聖女様の望み通り。
とある国は砂漠と化し、とある場所は実りの無い緑に呑まれ、やがてゆっくりと世界は衰退していくのでした。
だけど、私が私であるように私が聖女なのは事実。
生まれの身分を嘆こうが、どうしようもない。
私が聖女じゃなかったら、私は私ではないのだから。