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ワールド・バトラー・クリエイト・サービス

 ローライトは出し抜けに「さて、さっそくだが、私のものを返却してもらおう」と言った。ライルズさんはうんうん、とうなずいて、重い腰を上げ、工房の奥の方へと歩いて行った。


「何を返してもらうの」

「お気に入りのガンと、ソードだ」

「……物騒な話ね」

「なーにを寝ぼけているのだ、これからもっと物騒になるぞ」


 ライルズさんはゆっくりした足取りで戻ってきて、手に持っていた茶色い袋と黒いロングコート、それから背負っていた細長い黒筒をテーブルの上に置いた。


「……君が帰ってこない間、ずっと手入れし続けてきた。……二度と帰ってこないかもしれない顧客のために武器を磨くのは切なかったね、でも今日で終わりだ」

「料金はどのくらいになっているのだ」

「聞かない方がいい、千年分の維持費は恐ろしい」

「フフフ、儲かればいずれ払うよ、私は金に誠実な男だ」


(……嘘ばっかり、初手で人の財布盗んだくせに)


 ライルズさんは袋の中から大柄な黒い二丁拳銃を取り出して見せた。黒筒を開けると、中からは白銀の細剣が現れる。すかさずローライトが確認する。


「ほお、やはりお前の仕事だな、保存状態がいい」

「部屋で撃たないでくれ、そして剣を振らないこと、ここは1200年後の現代だよ、気をつけて」

「了解♪」


 ローライトはご満悦のようで、すぐに特注のロングコートをはおり、中に武器をしまい込んで、取り出し、しまい込んで、取り出しして、戦闘に入るときのシミュレーションをした。


「体になじむな、このロングコートは、えぇ?」

「見た目にもしっくりくるね、かつての君を見ているようで、僕はうれしいよ」

「あとはトップハットでも頭にかぶって、葉巻でもくわえれば完璧だな」


 私が「どこかのギャングみたい」というと、二人はガハハと大笑いした。物騒な世の中だから、一人くらいそういう輩が味方にいても悪くないかな、と思った。


 ――私たちはその後、工房を後にして、ビルの五階へ上がった。廊下を渡り、扉を開け、誰もいない部屋に入っていく。窓からの薄明かりが差し込んで、ぼんやりした明るさで中が見渡せた。


そこにはかつて何かのオフィスだった形跡がそのまま残されており、灰色の事務机や赤茶けたソファがそのままにされていた。


「僕がこのビルの管理人なんだけど、ここの会社の人たち、みんな逃げちゃって、あとで借金取りが押し寄せて大変だったんだよ。もぬけの殻じゃねぇか、どうしてくれんだってね。僕に言われてもどうしようもないよ」

「ハッハッハ、災難だったな。しかし好都合だ。物がそのままになっているではないか、せっかくだから使わせてもらおう」


 話が勝手に進んでいた。私が尋ねる。


「ローライト、ここを借りるの?」

「新しい仕事場だ。従業員はのちのち雇わねばならん」


 ここで何か新しい仕事を始めるつもりらしい。庶民に成り下がった没落貴族出身の女とその従者でどんなビジネスができるか知らないが、ともかくやるしかなさそうだ。なにせ無一文なのだから。


「部屋を貸してもらえるのはありがたいけれど、ちょっとほこりっぽいわね、掃除しないと」


 どこから掃除したらいいかと私が考えていると、男二人がまた勝手な話をつけている。


「ロー。君はここで何をするつもりだい」

「闇の万屋だ。仕事を引っ張ってほしい。できるか?」

「無論。僕とて裏の業界の人間さ。悪い奴らの悩み相談はよぅく受ける。君のところに回せばいいだけのこと」

「OK、話が早い」


 ……なにやら危なっかしい世界に首を突っ込まれようとしているみたいだったけれど、私はできるだけ聞かないようにして、ひとまず用具入れからほうきを取り出し、床を掃き出した。


 いまごろ家ではどうなっているだろうか。私の失踪は発覚しただろうか? だとすると、きっと私は家から除名されて、存在ごと無かったことにされているだろう。ゴルド叔父様はそういう人だ。これからは一般市民レイラとして、頑張らないといけない。


「おい、レイラ」


 ローライトが背後から話しかけてくる。


「なによ」

「たったいま会社の名前が決定した。ワールド・バトラー・クリエイト・サービスだ」

「……なによそれ」

「世界水準の執事を創出する団体、という表向きの名前だ。いかにも執事サービス会社らしいありきたりな名称だと思わないか」

「それ、儲かるのかしら」

「私にかかれば造作も無い。事務を頼むぞ」


 部屋を掃除した後、ライルズさんが大量の書類を運んできて、机の上に置いた。


「ローは人使いが荒いねぇ」


 他人事みたいに言っているが、これを全部目を通そうとすると、気が遠くなる。手伝ってくれないのだろうか。


「でも僕、自分の仕事があるからさ」

「……そうですよね」


 するとソファに寝転がっていたローライトが言った。


「おいライルズ、貴様もこの会社に入れ」

「えぇ!? そんな無茶苦茶な!」

「私たちの仲じゃないか、女手一つではいろいろ困る」

「……本気で言ってるのかい」

「今のうち、レイラに恩を売っておくのが上策だぞ、ライルズよ。私はいずれその女を玉座に着かせる。レイラは女帝になる。私がそうする。血の契約は絶対だ」


 ライルズさんの顔が急に疲れの色を濃くした。あの暴君には何を言っても無駄だと悟ったのだろう。私と一緒になって書類を手分けし、ちょうど良さそうな案件がないか調べることにした。


「私は仮眠をとる。二時間後に起こせ」

「何言ってるのよ! こら、ローライト! あなたも手伝いなさいよ!」

「私は社長だ。社長は働かないと相場が決まっている……zzz」


 社長は一瞬で眠りに落ちた。


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