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透明な黒

12/8


SIDE  ニコ

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

階段で声にならない叫びを上げる。僕は何てことをしてしまったんだ。会長にぶつかるだなんて。明日からどうなっちゃうんだろう。旧音楽室からの帰り道はいつも楽しいものだったのに今だけは憂鬱な気分だった。


教室に着くとすぐに授業が始まる。

前の席にいるリムの背中が遠い。こんな時リムなら助けてくれるのに。もう僕の味方はこの学校に一人もいないんだ。

「はぁ~・・・」

頭の中で考える。大丈夫と言ってたけどあの氷の微笑は何を考えているのかわからない。九条院の力を持ってすれば僕の存在をこの世から抹消するぐらい造作もないだろう。

僕は独りぼっち。抵抗する術もない。せめて誰か話を聞いてくれれば・・・

「あ、そうだ」

「ん、水島。何がそうだなんだ?」

今は数学の時間。豊島先生が僕の方を見て注意している。しまった。心の声が漏れていたみたい。

「すみませんなんでもありません」

平謝りする。

「そうか。ちゃんと集中しろよー。それと今からテスト配るぞ。赤点は補習あるから頑張れよー」

先生はそう言って大して気にもせずに授業を再開した。突然の抜き打ちテストに教室がざわついていたけど僕には気にする余裕なんてなかった。


そうだよ!僕は一人じゃない。シロがいるんだ。放課後僕はあの場所へ急いだ。僕の味方は彼女だけだ。誰でもいいから頼りたかった。話を聞いてくれるだけでもいいんだ。


突然ごめん。今俺はピンチなんだ。会長に目を付けられちゃって。シロも知ってるだろ?うちの会長めっちゃ怖いんだ。俺はこれから消されるかもしれない。シロ、俺どうしたらいいかな?


ほんとうに情けないけど背に腹は代えられない。藁にも縋る思いで僕はメッセージを残して学校を後にした。


SIDE シロ

彼はニコだったんだろうか。小さくて可愛かったな。あの日チューリップを弾いていた生徒の背中に似ていたような気がする。あの時間にあの方向から校舎に向かっていたことも気になる。

昼食を終えた私は図書室で暇を潰していた。持ってきたガルダインを読みながら妄想する。ちなみに文庫本のカバーで偽装してあるから誰に咎められることもない。彼がニコならどんなに嬉しいか。一緒にガルダインについて語りあかしたい。デパートのショーにも付き合ってくれるかもしれない。あの可愛らしい頭を撫でてみたい。人もまばらな図書室でしばらく私の妄想が止まることはなかった。


「あぁ、ダメだニコ君。ガルダイン様と違って君のエクスカリバーンはそんなに大きく・・」

キーンコーンカーンコーン。

放課後を告げるチャイムが私を現実に引き戻した。妄想の内容からして私はどうしようもなくだらしない顔をしていたかもしれない。誰にも見られなくてよかった。

すぐに図書室を出る気にもならなかった。もう少しゆっくりしてからあの場所へ向かおう。


図書室を出ていつものように下駄箱で靴を履き替える。今度はどんな返事がきているだろうかと私が胸を躍らせていると、私の下駄箱、つまり3年生の下駄箱と真逆の方向から女生徒の怒鳴り声が聞こえた。

「黒崎!あんたニコに何か言ったんでしょ?!」

「あ?なんもねーよ」

「うそ!じゃなかったらニコがあんな酷いこと言うわけないもの」

「あん?言ったら何だっていうんだよ?」

男子生徒と女生徒が言い争いをしている。嫌な予感がして行ってみたが、やっぱりあの二人組だった。それにしても今、ニコって言わなかったか?

「ひどいよ。あたしが何をしたっていうの?」

「浮気だろ?教室で、あの雑魚とつまり俺以外の男と会話したんだろ?まぁ、んなことだろうから先にあいつには注意くれてやったけどな。それよりリム?」

「何よ?」

パチンっ!

「ペナ1だわ。二度と俺に逆らうなよ」

信じられない。男子生徒が女生徒の頬を張った。女の子に暴力をふるってはいけないは小さいころ習う当たり前の常識のはずだ。

「っつ!」

女生徒は頬を抑えてうずくまっている。辛そうだ。見ていられない。

「コラ君っ!何をしているんだ?」

面倒だから関わりたくなかったが体が勝手に動いた。

「っち。また会長かよ、あんた俺らをつけてんのか?」

男子生徒は悪びれもせずに襟足をいじっている。

「そんなわけないだろう。それよりも君。そこの彼女に謝れ。何があろうとも暴力はダメだ」

「関係ねーだろ?こいつは俺の女なんだからどうしようと俺の勝手だろ?」

私相手に凄んでくる生徒は初めて見た。正直少し怖かったけど引いてはいられない。

「ふざけるなっ!いいから彼女に謝れ!」

こんなに感情を荒げたのはもしかしたら生まれて初めてかもしれない。

「あぁ?大人しく聞いてればいい気になりやがって」

男子生徒が拳を振りかぶった。まずい。やられるっ。

「もうやめて。いいんです会長」

女生徒が男子生徒の腕を掴んで止めていた。

「っち。行くぞ」

諦めたのか乱暴に女生徒の手を掴んで男子生徒は昇降口を出て行った。女生徒は振り向いてペコリとお辞儀をしていた。

「なんだったんだ・・・」

理解できない。何故あの女生徒は我慢できるんだろう。

私はもやもやした気持ちを抱えたままあの場所へ向かった。


なん・・なん・・だこれは・・・。

黒板を確認して絶苦する。やっぱりあの生徒がニコだったんだ。それがわかったのは良しとしよう。でも

「私が目を付けただと?馬鹿な」

消されるってそんな大げさな。私は笑顔で許したはずだ、何をどう曲解したらこんなことになるんだ。

どうしよう誤解を早く解かなければ。慌てて文章を考える。


大丈夫だよニコ。会長はそんな人じゃないよ。きっと許してくれる。心配いらない。何かあってもニコには私がついているよ


完璧だ。会長をフォローしつつも自分の株を上げる。これ以上ないと言っていい。

やることを終えたので私は音楽室をあとにした。そういえば最近ピアノを弾かなくても平気になったなんて思ったりしながら。


SIDE  リム

ニコが言った言葉が頭から離れずリピート再生され続けていた。人生であんなショックは後にも先にもないと思う。どうしてあんな酷いこと言うんだろう。あたし何かしちゃったのかな。授業にもまるで身が入らない。後ろの席でニコがどんな顔しているのか気になってしょうがなかったけど振り向く勇気がなかった。


キーンコーンカーンコーン。

慌ただしく教室から出ていくニコの背中を見つめる。当然こちらを向いてはくれない。声をかけることも許されない。

「・・・ニコ」

こうして呟く事しかできなかった。


「おい、リム?どうしたよ?」

俯いた私の頭上から聞きたくもない声。タバコで喉がやられているのか不快でしょうがない。

「なんでもないわよ。何か用事?」

ぶっきらぼうに答える。

「おいおいそりゃーねーだろ。世のカップルは一緒に帰るんだよ。常識だぜ?」

お前が常識を語るのかっ?って言いたかったけど我慢した。抵抗してもロクなことにはならない。下手したらニコがもっとひどい目にあう。

「わかった。準備するから少し待って」

「おう、早くしろよ」

気遣いがまるでできない。どうしてこんな男がモテるのか理解できない。


「お前元気ねーけどどうしたよ?」

昇降口へ向かう廊下で黒崎の中途半端な優しさが炸裂した。

「べつに」

顔を背ける。なるべく相手したくない。

「べつに、じゃねーよ。俺は心配してやってんのに」

やってる?偉そうに。

「ニコが・・・」

無意識に出た言葉を黒崎は聞き逃さなかった。

「あのザコがどうかしたよ?冷たくでもされたか?」

黒崎は馬鹿にしたような笑みを浮かべた。鼻で笑うってやつ。

その瞬間あたしの感情は爆発した。

「黒崎!あんたニコに何か言ったんでしょ?!」

気づくと食って掛かっていた。

「あ?なんもねーよ」

「うそ!じゃなかったらニコがあんな酷いこと言うわけないもの」

感情に任せて捲し立てる。

「あん?言ったら何だっていうんだよ?」

悪びれもしない。当たり前みたいに。

「ひどいよ。あたしが何したっていうのよ」

パチンっ!

それからの事はよく覚えていない。頬を殴られたのは初めての事で。大好きな人をイジメる人に自分は媚びることしかできなくて。ショックで記憶が飛ぶってこういうことなのかな。気づいたらベッドの上で泣いていた。お姉ちゃんが心配してくれたけど何も言えなかった。


12/9


SIDE  シロ

朝黒板を確認すると返事はまだ来ていなかった。こんなことは初めてで何かあったのか少し気になったけど生徒会に遅れるわけにもいかない。名残惜しいけど私は旧音楽室を後にした。


「会長!聞いてください!」

開口一番副会長に詰め寄られた。なんだっていうんだ。

「落ち着いて副会長。何かあったの?」

とりあえず宥める。厄介ごとの嫌な予感がする。

「妹がっ。私の可愛い妹が頬を腫らして帰ってきたんです。何があったか聞いても答えてくれないし。私心配で!」

「わかった。わかったからとりあえず落ち着いて」

そういえば陸上をやっている妹がいると言ってたな。妹ということは1,2年か、ん?昨日?頬を?まさか

「はい。すみません。私どうしたらいいかわからなくて。あの子に何かあったら私」

取り乱すのはやめてくれたが今度は落ち込む副会長。

「妹さんは何年生?それと名前も教えて。私も微力ながら何か力になれることがあるかもしれない」

どさくさに紛れての情報収集。抜かりはない。

「はい、ありがとうございます。1-3の東雲理夢りむです」

やっぱり。昨日もリムと呼ばれていた。あの女生徒が妹だ。

それにあの子はニコと口にしていた。確実とは言えないが私の思うニコと一致するかもしれない。あとで1-3に行ってみよう。

「副会長も落ち着いたことだし会議を始めようか」

私の一声で生徒会室は静寂を取り戻した。


お昼休み。私は1-3の様子を見に来ていた。

下級生のフロアに来るのは少し気が引けた。1年生達が私をチラ見しては目を背けていく。

もしかして私って怖いのか?少し心配になってきた。

そーっと1-3を覗き込むとやはり昨日の男子生徒と女生徒がいた。例のニコ疑惑のある生徒は・・・いなかった。がっかり。

気を取り直して、目的を果たそう。

「ちょっと君少しいいかな?」

扉のすぐ近くでおしゃべりしている女生徒に声をかけた。

「え?なに?って会長っ!なにか御用ですか?」

私の姿を見た途端態度を急変させる。やっぱ怖いのかな?ショック。

「リムという生徒を呼んできてくれるか?」

「はいっただいまっ!」

そんなに畏まらないで欲しいのだが。変な汗が出てくる。

女生徒はすぐにリムを呼びに行ってくれた。

少しして暗い表情を浮かべた女生徒が来た。

「何か用ですか?」

全力で警戒している。当然か。

「あっちで話そう」

階段の踊り場を指さす。

「・・・わかりました」


「頬は大丈夫かい?」

いきなり核心には迫らない。まずは軽めの話題から。

「はい。心配してくれてありがとうございます。用はそれだけですか?」

どこを見ているかわからない視線。病んでいるのが見て取れる。

「いや、実は君のお姉さんから相談を受けてね。彼と上手くいってないのかい?」

時間もないし引き留めるのも心苦しい。本丸に切り込んだ。

「いやべつに、会長には関係ないことなんで気にしないでください」

あいかわらず目の焦点があっていない。しかし、はいそうですかと引き下がるわけにもいかない。

「そういうわけにもいかない。君の元気がないことを心配していたよ。暴力を振るうなんてよほどのことだ」

「だから関係ないです。ほっておいてください」

抑揚のまったくない感情の感じられない口調ですぐにでもこの場を去りたそうにしている。

これ以上は無理か。最後にダメもとで一番気になっていることを聞いてみた。

「何かあったらいつでも相談してほしい。最後に、君はニコという生徒を」

「ニコっ!今ニコって言いましたねっ?あなた彼のなんなんですか?」

かなり食い気味に来られた。悪魔でも取り付いたように取り乱す。

「なにというわけではないが気になってね。彼について教えてくれるかい?」

「嫌ですっ!ニコに関わらないでっ!」

そう言って彼女は教室に戻ってしまった。怖かった。鬼気迫るっていうやつだ。

私は面食らってしまってその場にしばらく立ち尽くしていた。


「すまない副会長。偉そうに言っておきながら力になれず」

お昼過ぎ。生徒会室で作業していた副会長に詫びる。私が頭を下げるのがよほど珍しいのか副会長はテンパっていた。

「いいんです会長。頭を上げてくださいっ」

「いや、しかし」

「いいんです。会いに行ってくれただけでも嬉しいんです。あとは私がなんとかします」

副会長は微笑みを浮かべた。なんだか申し訳ない気持ちなる。そういえば

「そうそう。関係あるかわからないが、ニコという言葉に聞き覚えはないかい?」

副会長はすぐに答えた。

「あぁ、ニコ君ですね。本名は水島笑ショウ君。リムの幼馴染です。昔は仲良かったんですが最近は話を聞きませんね。これはたぶんなんですが、リムの初恋はきっとニコくんだったと思います。可愛らしい小さな男の子ですよ。でもそれが何か?」

そうか。ニコはショウというのか。いいことを聞いた。

「その名前を出した途端表情が変わったんだ。副会長からも何か聞いてみるといいかもしれない」

「はい、わかりました。でも会長はどうしてニコ君を知っているので?」

無垢な瞳で見つめてくる。まずい。藪蛇だこれは。

私は壁時計を見て慌ているふりをして

「すまない。もうこんな時間か。話はまた後日に」

誤魔化して私はこの場を離脱した。


シロ俺はもうダメかもしれない。会長に俺の居所がバレた。昼休みにわざわざ俺の学年のフロアに潰しにきたみたいだ。名前までバレてる。もうどうしたらいいのか


どうしてこうなった・・・。図書館でいつも通り時間を潰したのち黒板を確認しに行くとこんな状況。何かがおかしい。誰が潰しに行ったというんだ。潰したのは時間だけだ。私の印象ってどうなっているんだ?特大のクエスチョンマークが頭の上に浮かぶ。とにかく修正だ。


大丈夫だよニコ。会長にそんな力ないから。本当は優しい人なんだよ?誤解されやすい人なの。これ言っちゃうけど、私3年だからよく知ってるんだ。だからニコは大丈夫なの。私を信じて


少し大げさだけどこれぐらいしてやっと丁度いいのかもしれない。

なんだか疲れたな。ピアノでも弾こう。

久しぶりに鍵盤に触れる。少し弾かないだけでこんなに訛るのか。それとも私の気持ちの問題か。運指は思うように動いてはくれなかった。時計を見るとかなりの時間が立っていた。

運転手を待たせてしまっている。私は足早に旧音楽室を後にした。



SIDE  リム


「東雲~あんたにお客さんだよ~」

クラスで少し話す程度の大して仲良くもないコに声をかけられた。

今はそんな余裕ないってのに。

「パスで」

冷たくあしらう。一人にしてほしかった。

「いや、パスじゃねーから!早く行きな!VIPだよっ」

食い下がられる。なんだっていうんだ。怠い体を机から起こして教室の扉を見ると、生徒会長がたっていた。昨日のことかな?行きたくないな。でも、ここであまり目立つのも嫌だな。

仕方なくあたしは会長のもとへと向かった。

「何か用ですか?」

「あっちで話そう」

会長が近くの階段を指さした。


わかってはいたけど昨日の下駄箱での事を聞かれた。どうすることもできないのに力になるだとか何様のつもりだよ。あたしがてきとうに答えていると会長は無理と判断したのか話を切り上げようとした。よかった。これで帰れると思ったのもつかの間

「最後に」

まだ何かあるの?早めに終わらせてほしい。

「ニコという男子生徒を」

ニコっ?なんで会長の口からニコの名前が出るの?何か関係があるのっ?

あたしの頭の中はもうぐちゃぐちゃだった。何でもいいからとにかく何か伝えないと。

「ニコに関わらないでっ!」

話を長引かせるのは嫌だった。あたしは一番伝えたいことだけ伝えて教室に戻った。


教室に戻ってからもあたしの頭はグルグルしっぱなしだった。あたし以外の女からニコという名前が出たのが気に入らない。そういえば最近ニコの様子がおかしかった。

「まさかっ」

無意識に零れ出た独り言は誰にも聞かれなかった。

そんな。そんなの絶対に嫌だ。でも状況がそう説明している。ニコがいつも休み時間のたびに消えてどこへ向かっているのか。きっと会長に会ってるんだ。そんなの絶対許せない。あたし以外の女がニコの隣にいていいはずがないんだから。

確かめないと。あたしが会長に呼び出されたのを見ていた黒崎は諦めて男友達と学食に行ってくれたみたいだった。今ならニコと話せる。あたしはニコが黒崎より先に返ってくることを祈った。


少ししてニコが返ってきた、心なしか表情が暗く見えた。黒崎がもどるまで時間がそんなにあるとは思えない。あたしは強引にニコに詰め寄った。

「どこに行ってたの?」

あたしの態度に一瞬驚いたニコだったけどすぐに平静を取り戻した。

「関係ないだろ?それにもう話しかけるなって」

「会長とはどういう関係なの?」

ニコの言葉をさえぎって矢継ぎ早に問い詰める。ニコにこれ以上ひどいことを言われるのは嫌だった。

「っ!なんリムが知ってるんだよ?」

ニコが慌てている。やっぱり何かあったんだ。

「昼休みに教室に来たのよ。知らなかった?」

ニコは顔を真っ青にしていた。どう考えてもおかしい。

「・・・うそだろ?何が何でも早すぎる」

それっきりニコは喋らなくなった。

「ニコ、いいから説明して」

あたしの声も聴いていない。らちが明かないからあたしがもう一歩詰め寄ろうとしたその時

ガラガラっ。

乱暴にドアを開けて黒崎が入ってきた。ここままでか。

あたしは仕方なく自分の机に戻った。あたしの姿を見た黒崎がすぐにこっちに来た。

「リム、お前昼休み会長と」

キーンコンカンコーン。

「授業始まるよ?」

黒崎の追求からチャイムが助けてくれた。


授業中もあたしの頭の中はニコと会長のことで頭がいっぱいだった。どうにかして真実を確かめなくちゃ。あたしは放課後ニコをこっそり尾行する計画を立てていた。

でも、放課後は黒崎の目もある。どうせまた一緒に帰りたいと言い出すに決まっている。どうしよう。今は数学の授業。豊島先生の教え方は丁寧であたしはわりと好きだったけどそんあ余裕はない。どうにかしないと。

「昨日のテスト返すぞー。赤点は言った通り補習だからなー。順番に取りに来い」

先生が順番に生徒の名前を呼ぶ。あたしは数学得意だから何の心配もないけど。

ぼんやりとテスト返しの光景を見ていると

「黒崎ー。お前またかぁ。やればできるんだから頑張れよ。放課後補習やるから逃げんなよー」

「っち。わーったよ」

先生が黒崎と話している。放課後・・・補習・・・あ!

チャンスだ。あたしは黒崎に用事があるから先に帰ることをRINEで伝えた。

これでニコの尾行ができる。放課後が待ち遠しい。


キーンコンカンコーン。

放課後になった。黒崎からのRINEには、おう、と一言だけ返事が来ていた。

教室から出ていくニコを気づかれないように追いかける。周りから見たらすごくあたしは怪しかったかもだけどそんな事関係なかった。


校舎を出てグラウンドの方へ向かうニコ。こんな方向に何かあったかしら。

グラウンドのさらに奥の森を抜ける。すると、大きな建物が見えてきた。

噂には聞いていたけど

「これが旧校舎ね」

老朽化でずいぶん前に使われなくなったって聞いていた。

ニコは迷うことなく校舎の中に入っていく。階段を上って2階の端の教室へ。

「音楽室?こんなところに何の用事があるんだろう?」

気になったけれど今は見つからないことが大事。あたしは少し離れた階段の陰に隠れてニコが出てくるのを待った。


少ししてニコが出てきた。来た方と逆の階段で降りていく。今がチャンスとばかりにあたしは旧音楽室に飛び込んだ。


「特に変わったものはないわね」

見渡してもニコが何をしていたかすぐにはわからなかった。

ピアノがあるだけ。ほかに変わったことは・・・

「何よこれ・・・?」

あたしの視線は教室前の黒板に吸い込まれた。


ニコの事はわかる。問題はシロよ。誰この女?

黒板にはニコとシロの甘酸っぱいやり取りが書いてあった。

にしても

「ニコったらこんな強がって」

文章からニコが強がって自分を大きく見せているのが見て取れた。なんだか可笑しくて可愛くて少し癒された。

読み進めていくうちに最新の文章に目が留まった。

ニコが会長に目を付けられてる?そんな。だから休み時間にわざわざ1年のフロアに来たんだ。きっとあたしのことはお姉ちゃんに頼まれたついでで・・・。

「あたしがニコを守らないとっ」


一通り黒板のメッセージを読んでニコへの心配と同時に産まれたのは、シロへの怒りだった。あたしのニコとこんな青春して許せない。隠れて正体を突き止めてやる。あたしは一つ隣の教室で息を潜めてシロが現れるのを待った。


ガラガラ。隣の教室のドアが開いた。来た!

あたしは逸る気持ちを抑えて隣の教室を静かに出るとこっそり音楽室の中を覗いた。

「え?」

会長がいる。黒板の前に会長が立ち尽くしてる。何がどうなっているのか意味がわからなかった。しばらくして黒板に何かメッセージを残すと、突然ピアノを弾き始めた。

クラシックにまるで興味がないあたしからしても会長のピアノの音は不快だった。演奏している本人の気持ちが見て取れるようで。曲名は知らないけどなんだか悲しい曲。

ひとしきり弾いて満足したのか会長は教室を出ていった。慌てて隣の教室に隠れるあたし。


完全に会長が出ていくのを確認したのちあたしは黒板を確認に行く。

そんなはずない。だってそれじゃ本当に意味がわからないもの。

でも。あたしの予想は残念だけど的中した。


黒板にはニコを励ますシロからの新しいメッセージが。会長が出てからすぐにあたしは音楽室に入った。つまり

「会長はシロだ」

でも、ニコは会長を怖がってそれをシロが励まして。でもシロは会長で。

今日一日あたしの頭は混乱しっぱなしだった。

「いったいどうなっているの」

ガラガラっ!

その時突然入り口のドアが開いた。

「シロっ!!」




SIDE  ニコ


今日は黒板を見に行く元気がなかった。寝不足で頭が働かない。

一日中ぼーっとしていたい気分だ。旧校舎に行く元気もなかった。

お昼時、僕は朝食べた卵が痛んでいたせいかトイレの住人になっていた。

黒崎君は食堂の方に友達と向かったみたいだしきっとバケツチャレンジの心配はないだろうとすぐそばのトイレを利用した。

嫌なことには嫌なことが重なるなぁなんてうんざりした気持ちで教室に戻ると、突然リムが詰め寄ってきた。

「どこにいってたの?」

話しかけるなって言ったのにいい加減にしてほしい。

僕はなるべく冷たい声で関係ないだろ?と言った。これでいなくなってくれるはずだと思ったが、リムは食い下がってきた。そしてその口から信じられない単語を口にした。

「会長とはどういう関係なの?」

なんで?なんでリムの口から会長の名前が出てくるんだ。冷汗が止まらない。

リムが言うには昼休みこのフロアに来たらしい。どうして僕の居場所がこんな簡単にバレたんだ。どうしようシロ・・・俺挫けそうだよ。

思考を高速で回転させる。どうしたらいいのか。

キーンコーンカーンコーン。

結局答えは出なかった。とにかくシロに話そう。放課後は旧音楽室に行くことにした。


大丈夫だよニコ。会長はそんな人じゃないよ。きっと許してくれる。心配いらない。何かあってもニコには私がついているよ


黒板の前に着くとシロからの優しいメッセージが残されていた。

涙が出そうになる。でも、シロに何がわかるというんだ。相手はあの冷血無比な会長様だぞ?何かあってからじゃ遅いんだ。早くメッセージを残さないと。

僕は全力のSOSを残して旧校舎を出た。


帰り道やっぱり会長のことがどうしても頭から離れない。誰かに相談したい。直接伝えたい。メールじゃ伝わらない気持ちってあるけどその通りだと思う。でも家族にも事情があって離せない。リムにもダメだ。僕は独りぼっちだ。あぁ、助けてよシロ。


僕の足は自然と学校へ引き返していた。ない頭で考えたって答えなんて出ないんだ。

「シロに会いに行こう」

いつもメッセージの順番からするとシロは僕がいなくなった後にあの場所に来ているはずだ。今ならまだ間に合うかもしれない。僕は学校に急いだ。


思った通り。教室からピアノの音が漏れ出ている。あの陰鬱な響きは

「シロだっ」

僕は一呼吸置いて旧校舎に足を踏み入れた。だってそうだろ?素性も知れない文通相手に会うんだ。期待もあれば恐れもある。そうこうしているうちにピアノの音が止まった。まずい急がないと帰ってしまう。僕は階段を駆け上がった。


「シロっ!!」

旧音楽室に飛び込むとまさかの人物がいた。

「なんでお前がいるんだよリムっ?!まさかお前だったのか?お前まで僕をバカにしてイジメてこんなことしていたのか?どこに行ってたなんてわざとらしく聞いちゃってさ。これも黒崎君の指示なんだろ?最低だよ・・・お前」

僕が問い詰めるとリムは即座に否定した。

「違うのニコっ!聞いて。これは」

「言い訳するな!もう誰も信用できないよ」

そう言って僕は黒板にあったメッセージを全部乱暴に消した。

「ニコ。お願い話を聞いて!」

「うるさい。今度こそもう二度と僕に話しかけるな!」

僕は教室を飛び出した。

「待って」

リムが追いかけてくる。

「来るなっ!!」

涙が横に流れるほど僕は全力で学校を飛び出した。



{3人の黒い糸が徐々に絡まっていく}


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