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審判者ノウラの過去

ノウラは必死だった。


生まれ故郷は平穏の1文字さえ探せない程に貧困、飢え。

常に誰かが誰かの何かを奪い続ける街であった。


街の掟は簡単だった。

子供は親の為に奪え。盗んだ物は共有資産。食事は死なない程度に食べろ。水は飲み放題。事を起こしたら理由を付けろ。弱い奴は見捨てろ。


悪化する戦争に巻き込まれ、非戦闘区域に指定されたが流れ者や逃亡者で溢れ返り資材は困窮。

元の住民の8割は死んだ。


今日も見張る、犯罪組織ルーヴェンダルクの一員として街に来る者達を襲う。それをしなければ生きていけない。

華麗なドレスを纏った姫を殺した時、オシャレなアクセサリーを着けた令嬢を殺した時、ノウラは自身の女としての感情が消えて行くのを感じた。


「仕方ない、仕方ない……アイツらを養うにはこれしかない」


たまに来る恐怖、朝起きたら逆に自分が殺されているかもしれない。


そんなある日、自分が何故この世界に生を受けたか理解をした。故に苦しんだ


「善悪が見抜ける、全てを護れる、そんな私が何故こんなことを」


ノウラは苦しんだ。やっている事は悪だ。しかししなければ生きていけない、組織のボスは悪いヤツだが同時に家族愛に似た拠り所を感じてもいた。


ノウラは2人の幼馴染に戦利品の1部を渡す。勿論2人は出処を知っているから1度祈る。

そして、毎度の様に悲願する。ノウラに辞めるように


「ワタシはこの生き方しか無理なのかもね、辞めれるならもうとっくの昔にやめてるよ」


毎回口にするその言葉。幼馴染2人は溜息を着く。辞める気がないのは理解している、それでも辞めて欲しいと、だが私の生きがいである2人が死ねば私はどうなる


特段迷う日は海辺に出る。錆びた鉄柵を押しのけ崖淵に座り空を眺める。その空を見ると全てリセットされる


「よし、あと4回」


いつもならならず者や没落貴族、亡命者が街に流れてくるのに今日は違った。

金属の鎧で身を護り、ここ数年間。それこそつい昨日まで矢を撃ち合っていた赤の旗ルーフェンドルブ国と青の旗ジャンルペーラズ国の両軍が、足並みを揃え街に来ていた。


見張りを辞め、ボスに告げる。

普段小競り合いをしていたもの達は手を止め、武器を取り出す


ふたつの国は和解した。その為に戦争で出来た膿を取り除きに来たのだ。


「あぁ、そうか……」


圧倒的戦力を前に血の華は咲いていく。

鉄の鎧は新銀の色を真紅に染め、燃え上がる火はその紅さを綺麗に輝かせる


かつての仲間を捨てて幼馴染の元へ駆ける。翔ける

そして─────賭ける


「2人とも、無事か────」


そこは遅かった。不可能であった。

いくら守護能力があっても不可能だ。


「よォおめーさんのダチか?」


見て取れる品格の悪い男。


「おっと、声は荒らげるなよ?」


両目から光を亡くし音を遮られた2人はソコに無きものとして転がっていた。


「何をしたんだ」


ノウラは叫ぶでも無く絶望でも無く、その男に疑問と殺意をぶつける。


「なにって選定さ。オレは審判者なんだよ、分かるか?いくら教養がなってねぇーからってそれくらいは分かれよな」


男は音もなく忍び寄る。いや、正確にはその男が動いた事を知らない。

何故か前にいる。


「んじゃ、死ね」


だが、ノウラには効かなかった。そういう星の廻りだろうか。


「許さない……よくも、よくも殺してくれたな!」


少女の箍は外れた。


「ちっ!稀にいる才能の後発者か!めんどいな。摘むか」


また効かない。審判者を名乗る男は焦りを浮べる。


「はー、黒の癖に強いとか面倒臭いとかそういうの越えてるんだけどね」


ノウラは男を睨み続ける。


「その目辞めろよ。マジで殺すよ?」


「殺せるならな、お前に私は殺せないだろ」


「はて、それはどうかな」


ノウラの後ろから兵士の剣が降りる。


「で?」


兵士の剣はノウラを斬る事無く弾かれた。

ナイフを片手にノウラが兵士を斬り殺した。


「はぁ、はぁ……」


審判者の男は逃げを取る。肩で息をするノウラを背に兵士たちの方へ駆ける


「おーい、お前らソコの女自由にしていいぞ。俺は疲れた」


兵士達はノウラの方を見る。迫る

審判者が逃げて来たとは知らずに、肩で息をする女はひ弱だと勘違いをし


そして死ぬ。


「おいおい、マジかよ!あの人数相手にか?!」


次々と事を終えた兵士たちが交流し、その度ノウラに殺されていく。


その姿を見て男は笑う。


「次はお前だ!」


ボロボロのナイフを男に向ける。

走って喉元に突き付けるがナイフは砕けて宙に舞う


「悪かったって!な?ほら、俺はお前を殺せないしお前も俺を殺せない。なら俺を見過ごすべきだ」


「強いから弱いものを嬲り、強いものには媚びる。そんな偉そうな暮らしをしている人々に急に終わらされた私たち相手によく言えるわね」


「やっけになるなよ。あぁそうだそれが生きる秘訣だ。誰だって死ぬのは怖い、だから殺すんだよ」


「う、うぉぉ!!」


半ばヤケであった。自分は大丈夫、攻撃は受けないと確信はあった。

だから駆け出した、剣を手に取り


「いいか?死なない事が全てなんだよ。そんなに暴れると毒が回るぜ?」


ノウラは剣の重み、足のぐらつきを覚える


「私に何をしたんだ……」


「毒だよ、別に攻撃の方法なんていくらでもあるさ。それにお前のそれは意識下でしか機能しないだろ?分かるぜそんくれぇ」


動かない、動けない。地面に転がる自分は哀れだろう。

涙が出てくる。奪われた、全て無くなった。

自分やボスは悪い、死ぬのは当たり前だ。だけど何もしていないあの二人は


「って、おいまだ立つのか。バケモンじゃねえーか」


口の中に鉄っぽい味を感じる。目はかすみ、目の前の男が3人、4人。

耳は若干遠い、鼻は効かず声も出ない。

だが、手足は動いた。どうせ剣は砕かれる、奴には届かない

それでも、何か一撃を。そんな一心が無理に身体を駆動させる。


「───────!!」


その細い腕からは想定不可能な威力で剣を振るう。

腕が悲鳴を立てる。


「そんなフラフラじゃ当たらねぇーぞ!」


腕がダラーと下がる。剣も音を立て地面に落ちる。


「じゃぁな。ここで殺せないのは惜しいが、死んでる事を祈るぜ」


だが天命はそれを良しとしなかった。


「審判者タロイア。多数の違法行為により処罰する」


審判者は突如現れた黒い鎧の兵士3人に串刺にされた。


「ぐぁっ、なぜ監視者達が動くの……だ」


「簡単な話だ、俺が出向く事態ってことに気付け」


黒い鎧のひとりが兜を外す。


「はっ、ツケが回ったか……ふぅ、嫌だねぇなんだってお前が」


「国王2名を殺処分した。これで分かるだろ」


「許せないねぇ……他人が苦労して辿り着いた、手に入れた地位と管轄領地を勝手に監査しやがるな───」


黒い鎧の1人が喉を槍で突き立てた。


「あ、すいません。あまりにもつまらないので」


「構わん。どの道聞く気など無かったからな。それよりソコのガキを手当してやれ」


その日のノウラはそこまでしか記憶していなかった。




「孤児を集めて何をする気ですか?」


話し声がする。


「タロイアの席が空席だ。そこを埋めるのに俺が育てる」


「もしも彼女が選ばれなければどうするつもりですか」


「はぁ、言ったろ?俺もお前ら同様孤児だった。今の地位があるからって軽蔑することもない、それになんの為の監視者だ?審判者に至る迄に沢山の仕込みをするんだ、選ばれなければお前の後輩ができる、それだけだ」


ここは安全なのだ、そう信じ目を開く


「目覚めたみたいだな。お前の住んでいた場所は残念ながら滅茶苦茶だ、幸い救い出せたのは3人だけ」


横を見るとルーヴェンダルクの最下層構成員の2人が寝ていた。


「シュエラ、ミッドロー」


「それが2人の名前か?コイツらは運が良かった、俺が駆けつけた時は煙で意識を失っていたがそれが幸をなした」


「私はノウラだ。お前は何ものだ」


「俺は審判者、遺忘(いほう )を司る。名前は……この国ではねぇーな。なんかいいのねぇか?ノウラ」


「は?何言ってるんだ」


「何ってなぁ……ほら、国ごとに意味変わるからなぁ下手に名乗れんのだわ」


「ならルーウィズデ(法律 )ブルゥガゥ(違反者 )とか?」


くふふと横の黒鎧2人が笑う。


「な、な。いや、驚かねぇが。しかし審判者相手に法律違反者とか付けるかねぇ?」


「私にはそこまで理解できない。何が悪いのか?」


「まぁルールは良く破るけどねぇ。んじゃルーガゥでいっかな、ルーガゥ(無人 )ってか」


「で、ルーガゥここは何処だ?」


「呼び捨てかよ、まぁいっか。女は可愛げがねぇ方が可愛いからな」


ノウラの頭に手を載せようとするルーガゥ。

だが、瞬に回転する世界を見る


「は?」


黒鎧の2人も鎧の中で唖然としていた。


「これは、たはー。厄介だな」


首を擦りながらルーガゥが起き上がる。へらへらとしながらノウラに向き直る。


「子供扱いするなよ」


「わかったよ。お前らの道は1つしかない、俺の配下になれ」


「ルーヴェンダルクはもう無くなったんだろ?ならいいさ、何処に着くも変わらない」


「ならいいな、しかし子供扱いするなと。確実にそう聞いたが俺スパルタだぞ?」


それからは厳しい修行の日々だった。


ルーガゥを師匠とし、毎日の稽古を多く受けた。

殴り蹴り、肘打ち。全てがノウラに刺さり毎度寝転げる


「はぁ、はぁ、まだまだ!」


朝、日が登らないうちに暗転した空を見るまでつづく。


「飯の時間だ。今日はやめ」


「まだだ、一指も触れれない私に飯を食う資格などない」


「いいから、毎日このやり取り大変じゃねぇか」


「ダメだ、私はいち早く強く成らなければ。アイツらを」


「なら訓練は付けないぞ。俺はいいがお前は一生その身を牢獄に捧げる事になるぞ」


「仕方ない」


昔では考えられない程の飯を食べ、同じ審判者を目指すもの達と会話をし……そして寝る


ノウラは特異体質であった。寝ても寝なくてもしばらく動かなければ疲れが無くなる。

実際は疲れなぞ蓄積されていないのかもしれない


「またか、寝たはずなのに」


寝て少しすると目が覚めてしまう。薄暗い廊下を抜け庭へと出る。誰も居ない中、訓練用の丸太にひたすら技を繰り出す

鳥の鳴き声が聞こえるまでそれをこなす。


そんな日々が何年か続くとルーガゥが皆を集めた。

ノウラと同じ時期に拾われた3人、それから監視者として訓練を受けていたシュエラとミッドロー


「重大発表をする。お前らは晴れて俺の元を立てる、各国に家を持ち家族だって持てる。過去の経歴は無かった事になるがそれは胸の内に伏せておけ」


それぞれに配られた白い紙には契約書と契約内容、それから役職の記載があった


「本当に私で良いのか?私だけだ、師匠に触れすらできなかったのは」


もとより同期4人のうち審判者1名監視者3名と教えられ、みな審判者の訓練を受けていた。

その中で攻撃能力が低過ぎるノウラは疑問しか無かった


「僕はいいよ、それにノウラほど優しい人こそ審判者として被害者の肩をもてる存在になれるよ」


「そうね!それにノウラって後半の方の訓練では師匠からの攻撃を全て避けてたしね」


「うんうん、だから俺ら3人で師匠に頼み込んだんだ」


「みんな……」


「ノウラねぇならやってけるって!それに俺とシュエラも監視者として支えてやるよ!」


「ミッドローったら大口叩いて、私達はあと2年訓練残ってるのよ?」


「って訳だ。血汚れた空席に座りたくないならそれも良しだ、前々から話してきたように審判者達はそれぞれ弟子みたいなのを作ってたりするからな」


「いや、私は成る。そして審判者としてあの日救えなかった子供達への後悔を胸に生きていく」


「ほら、みんなサインサイン。国王に投げつける書類だからしっかり書けよ」


それからみんなでお別れ会をし、ノウラは審判者として初めての国へ向かった。


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