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盗賊と応報それと領主

朝、微かに夜を残した暗さの中でネメシスは目覚めた。


『人の身にある、これは苦痛だ……睡眠を行わなければ情報整理すら出来ないとは』


音を立てないように扉を開け、部屋の外に出た。

廊下はまだ明かりが差し込まずにいた。


『しかし、完全な神格では無い()()が出るのはリスキーだな。さてさて、何処かに放出しないとな』


領地から抜けると点々と生体反応があった。


『恐怖も無く、恐れもなく。我を知る間も与えない……ダーインスレイヴ、全てを呑み込め(斬り殺せ )


黒く輝く殺しの剣は血を求めてか、または死を求めてかネメシスを引っ張るように人を屠り始めた。


ある物は戦利品に浮かれ、ある物は寝ていた。

ある物は硬貨を数え、ある物は朝ご飯を作っていた。


『ふはははは!愚かしい、箱庭に閉じ込められた土塊よ!』


音に振り向く男達が最後に見たのは真っ黒の剣であった。全てを殺し尽くし、今まで殺してきた物の血で染め上げられたような赤黒い剣先


『だが、私は慈悲深い。一瞬の苦痛も無く消してやろう。誇りに思え』


逃げる隙すらない、盗賊が磨き上げた危機回避能力も。矢避けとして授けられたギフトも、全てが無意味。

ただ、ただ赤い液を体内に蓄積し、生きようとする物を狩る。


『ダーインスレイヴ……北欧に逸らしたとはいえここまで持続可能とはな、この世界の人は信仰をしないからこそ、一人一人の恐怖がでかく信仰力になると。ならば降臨はまだ先でいい……私の周りに仲間を増やし彼らの恐怖を糧にして降臨すればいい』


付近の盗賊を狩り尽くすと剣は輝きを失い、ネメシスの手から消えてしまった。


『はぁ、はぁ。ふぅー』


顔を抑え全身から湧き出る冷や汗に震える。

体を這うように蠢いていた何かは消え普通のネメシスに戻っていた


『っと、お姉さんに戻れた戻れたー。危なかった、あと一人居たらこっちが死んでたよ。しっかしまぁ私本人がネメシス(応報 )である事を望んでるんだからネメシス(義憤 )としての降臨は避けて通りたい物だけどねぇ』


付近の川に潜りサッパリすると、その足で領地に戻った。

食卓にはみんな揃っていて、ネメシスを待っていたようだ


『すまないね、みんな!朝餉に赴く前に朝風呂っていう……いや、なんでもない。ご飯にしよう』


緊張した空気に耐えれずネメシスも席に座る


「助かるよネメシス。本当は私から切り出さなければいけなかったが、恥ずかしい話で空気に圧倒されてね」


領主が先にご飯をと。

少し崩れた緊張の中、食器と皿が触れ合う音のみが場を制する。


(幸福な終わり(ハッピーエンド )を迎えるのは不可能か、この一戦の前にルシファーに報告すべきかな?いや、いいか!ここに居るのは信仰名高きネメシスだぞ、敵がそれを用意するなら壊すまでさ)


静寂な食事は終わり、2人は席を立った。


『くれぐれも出ないようにね、お姉さんは力加減が苦手なんだ』


「私達二人が帰ってこなければそのまま無視して、ギルドに要請をしろ。死人を増やすだけになる」


ネメシスの部屋に2人で向かった。

ノウラはカバンからマントと武器を取り出し、マントに入れ始めた。


「すまない、事前準備は必須だがこの工程だけは向かう前にしたくてな」


『物騒な道具だね、全部新品なのがまたおっかない』


熟練度の高い物ではなく、煌びやかなものばかりを取り出すノウラにネメシスは首を傾げる


『愛着とか無いのかい?まぁ人に難癖つけるのは引けるが私はお気に入りとかあるぞ』


「仕立ててくれる奴が変わりモンでな、使う度に返せ!新しいのをやるからと言ってな。何度新品にしても心地は変わらないしいいかと」


『なるほど、相手が職人的すぎるのかな』


「唯一の生き甲斐だそうだ。帰ってきた自分の作品を溶かしてまた作る、それだけの日々だ。だが私はそんな生き方も好きだ、だってしたい事を仕事にして生きて楽しく余生を過ごせるんだ」


『お、珍しく感情だねえ』


「そう見えたか?彼はみんなのおじいちゃん的な人だ。憧れるくらいは誰も咎めない」


『その職人に会ってみたいものだね、とんな光り方をしているのか』


「ならこの依頼が終わったらいくか。今回使った道具を新調したいしな」


出る前に双子と少し話したネメシス達。

ネメシスは終始双子に結末を知った人のような目を向けていた。


「ネメシス、では行くか」


『あぁ、そうだね~』


本拠地前に着いた2人の先には廃城が聳えていた。

古く腐った木の橋が妙に音を鳴らす。


『これ落ちたりしない?大丈夫だよね?!』


「ああ、安心しろ。私の力というか特異体質はそういうのを見抜ける」


門は開けっ放しで、放たれる殺気がダダ漏れ状態であった


『私が道をひらく、ノウラ!君は残党を頼むよ』


門を走り抜けると間髪入れず、矢の雨が降り注ぐ


『【応報・この名において受けた物に相応する報いを与えよう!】』


矢がネメシスに刺さるが、ネメシスは無傷のまま突き進む。


「後ろから不意打ちは卑怯だぞ」


ノウラがネメシスの後ろを取らんと隠れていた男二人に針を投げつける


『このまま行くよ、と言いたいが。うん、敵が多すぎる』


100人ほどと襲撃隊は騙った。だが表に出てるだけで優に100は超える、中庭は城の入口まで覆うほど盗賊が蔓延っていた


「私が引き受けよう。ネメシス、君は先に行ってくれ」


『いいよ、それが最善だ。日国の残虐たる王が振るいし妖剣よ、我が腕に!─────この剣に名前などない、ただ自身を脅かす、自身の邪魔をするものを只管跳ね続けた呪われし剣だ』


ただその剣は喰らうのみ・ただその剣は屠るのみ


『道を開けろ愚物共』


城の入口まで一直線に抉られたような死体が転がる。

誰もそこに近寄らない。ただ歩くネメシスに畏怖し、吐き出し、泣き出し、恐れ、跪き、頽れる哀れな人々に成り下がる


『くそっ、また悪い癖だ……開け放たれた道は我が作りし肉塊の元にあれ』


ピチャピチャと滴る血。ポキッ、ぐちゃと踏みつけられる音


城の中に居る伏兵はネメシスを前に武器を落とすしか無かった。


「お、俺には家族が居るんだ……助けてくれ」


「私に慈悲を!息子が家で待っているんです」


先程まで奪う側だった物は命を乞い始める。


『ほぅ、許してもらいたいと?お姉さんには分からないねー、そのなんだい?家族共々死ねば会えるさ』


白いタイル張りの壁が赤く染る


『地下か、そうだよね。立派な建物なんて壊されておしまい。表面で飾った人はその奥に何かを隠す』


気味の悪い笑みを浮かべながらネメシスは地下への入口へ向かう。


『落ち着け、落ち着く。私は誰だ?私は私だ。今を生きる応報だ』


フラフラと地下へ至る階段を降りていく。剣の重みは段々と消えていく。


地下は広く、何故か双子が縛られ檻に入れられていた。

3人の男がその檻を囲い、領主は筋肉質の男と何か話していた。


「────という事で領主権を明け渡す。私と娘達は奴隷として隣国に売られた。これでいいな?」


「あぁ、いいぞ。だが設定ではなく本当になるんだがな」


男が地面をバン!と叩くと檻が上に上がっていく。

リーダー風の男が3人の男と一緒に領主を槍で刺し始めた。

ネメシスはまだ動かない。


「な、なぜ……話がちが」


「あたりめぇーだろ。元はお前らのせいで俺らが追われたんだ」


「違う!俺は領主として!親としてみんなをしあわっ……」


剣で両手を刺され、槍と共に地面に貼り付けられた領主は声が掠れていく


「ボス!この女たちはどうしますか?味見いいっすか?」


「あー、いいけど喰うなよ?」


「そんなー、少しだけっすよ」


「なら耳はやめとけ。柔らかい太ももの内側とかバレにくい場所でも食べとけ」


3人の男が檻へ飛び上がる。

見た目は獣人へと変わっていた。


先程から声を殺して耐えていた双子が声を出す


「あぁ、やめて!私が犠牲になるから妹は助けて」


「ダメよ、お姉ちゃんに手を出しては」


ネメシスは剣を肩に乗せて傍観していた。

その時、死にかけた領主が口をパクパクさせながらこちらを見ているのに気付いた。


「(私はもう死んでしまう。恐れてみている冒険者よ、どうか壁にしかけた爆弾を起動させてくれ。娘達に辛い思いをさせたくは無い)」


途中からはもう口は動いていなかったがネメシスは意図を理解する


「(どうか、娘たちのために……)」


『はぁ、誰かの為とか。辞めてくれよ全く』


檻がいっそう揺れ悲鳴がまた聞こえる。


『誰かの為って結局1番自分勝手じゃないか。【時間犠牲・零一秒】』


ネメシス以外の時間が停滞する。


『ふふ、頼もしき姉妹愛。だけど自己犠牲は良くないなぁ』


2人に覆い被さるように迫る男2人を蹴飛ばすネメシス


『さぁ、私の時間は停滞するよ』


2人の男が檻の端に体をぶつけ、1人掴まってるだけの男が驚愕する


「お前、どこから来た!」


光の消えたネメシスの目が輝き始める


『ふぅ、そうだね普通に入口から来た』


「馬鹿な、あの人数を無傷で乗り切ったのか?!」


『あの人数?国にも満たない』


ネメシスは2人を抱き抱えると軽々と檻から抜け出し、地面におりた


『2人共大丈夫かい?あぁ、そうかい……』


ネメシスは2人をそっと下ろすと体制を建て直した黒幕の方に向き直る


『領主が何か企むのは知っていたさ、でもこのような結末を迎えるのは想定外。君達はもしかして完璧な悪人かい?あぁ、気にする事はないよ……私は人間の思考に理解が向かない』


ヤッケになり1人が襲いかかってくる


「うぉおおお!!!」


『弱々しいな、雑魚。あぁ、すまないね死んじゃったか』


情緒が安定しないネメシスはその死体に話しかける


『安心するといい、怖がることはない。私は優しいからね』


「な、なんだアイツ!化物かよ」


「ボスどうしますか」


「お前ら2人、獣化して対抗しろ。俺は今から術式を構築する」


「わかった」


二人の男が唸り始め、形のない獣へ変わる


「【醜き我らが崇拝せし────】」


ボスと呼ばれた男は何かしら細工を始める


『私が投擲武器持ってたら失格な指揮だね』


片方の獣を真っ二つに切り、片方に左手を噛ませるネメシス


『くっ……』


噛まれた途端、力が抜けたようにふらつくネメシス


『これは毒かい?しかも返す相手は在らずとは……』


ネメシスの腕を噛み付いて居たはずの獣はいつの間にか地面に倒れていた


「【────呼ばれよ悪の化身シェケラ】」


暗黒の魔法陣が男の立つ地面から現れる


『この2匹を触媒に、火の壁よ』


ネメシスが2体の獣を前に投げ捨て壁をつくりあげた


「さぁ、俺を食らえ!そして我が宿業を背負って行け」


シェケラと命名されたモヤは男飲み込むように囲うと、骨の軋む音と共に実態を表した。


『醜いねぇ、ってコイツ私より強くないですか』


ネメシスは空を飛びながら回る。

自分の目で追えないほどの速度で接近され殴り飛ばされた事に理解は出来るが追いつかない


『でも。そう、最後に死ぬほど振り絞った想い()を受け取ったんだ。それが幻想(偽り )の愛だとしても真相(悲劇)を知るものとして成し遂げるまでさ』


()堕ちて(昇って)行く


『ベンフェランド・イジュクラウ・デヘェルオンナ・キルュオデナ……名前すら消えていった同胞達を今更思い出すとは』


ただ自身の腕だけを信じ目を瞑る。

何かおぞましい物が指先に触れる、コンマ単位の人では観測不能な速度。

ネメシスはもう一度だけ原初に戻る。


『成れ果てた王よ、その目を閉じて再び眠りなさい』


ネメシスに触れたそれは自らの意思で消滅を選んだ。


『ふっ、感謝は無しか……』



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