暴走の兆しを見せる厄災神
2回の夜を越し、領地に入った5人。
「カムラ、また呼ぶのでしばらくは屋敷の方で休んでください」
双子の母親がカムラに言うとそのまま慣れた足取りで消えていくカムラ。
『それで、早速話をかせてもらおう』
執事の運んできた水を飲み干すとネメシスはキメ顔をしながら放った。
「はい、実は巨大な盗賊組織ウコウヨーツがこの領地付近の廃城に住み込んでしまったのです」
『変な名前だな、少なくとも私の知る範囲ではそんな言語聞いた事がないぞ』
「実はヨーツ鋼なる鉱石の利権争いに負けた一派が資金集めから始めた組織で元は良かったのですが……最近は趣旨離れしまして。特に私達の領地はヨーツ鋼の最大出産地ともあり目を付けられまして」
『ヨーツ鋼?まぁそこは置いておこう。それでその一派が巨大な組織として犯罪をし、領地を脅かすと』
「はい、村6つからなる領地ゆえ安易な侵攻はありませんが。隣国に行く道に彼等が蔓延り、他の場所は追われた盗賊達の縄張りとなって。籠城に近くなってしまいました」
『依頼内容にあった盗賊の討伐に指定はなかったけど、つまり全部殲滅してくれという話かい?あ、いや別に揚げ足とかじゃなくて私の名を上げる機会が増えると喜ばしいのでね』
「えぇ」
一通り、ノウラの指示を受けながら依頼の進め方を学び現地調査へ行く事に。
『とりあえず相手方の人数を知りたいね。向こうで把握してるのは強い人や元の別れた一派の人達くらいだしね』
「そうだな。一応見たが母親は白だった」
『すまないねぇ、私は身内の裏切りを何度も見てきたから疑心暗鬼を通り越して鬼だよ鬼!』
ふざけて頭に人差し指を2本立てるネメシス
「だが、父親はいなかったから見れていない。ネメシスの推理が合っていれば結末は悲劇しか無いぞ」
『あくまで可能性さ(モルペウスが暴走してしまったなんて言えないね!)』
廃城に向かうのは危ないと見て、隣国に繋がる道を歩いていた。
「6と3、統率が取れすぎている。まるで軍だ」
『お姉さん的には両方行けるけどノウラはどっちに行くんだい』
「近接の方が得意でな、奥は任せるぞ」
ネメシスが近くの岩を持ち上げ投擲した。
弓を構えていた盗賊達は回避しようと3方向に別れた。
それを好機と飛び出るネメシスに襲いかかる6人。
「お前らの相手は私だ!」
ノウラが腰に下げていた剣を地面に突き立てると、6人は引き寄せられるようにノウラの方に向き直った。
「さぁ、こい!」
掛かってくる盗賊相手にノウラは一線も引かずに交戦に応じた。
「審判者であれ、女1人だ!一斉にかかればすぐ倒せる」
鋭い針を投げ、斬りかかる。
盗賊は針を避け掛かってくるノウラに剣を向けるが体が動かなくなる。
「な、なんだこれは?!毒か!お前ら一旦下がれ」
「無理です、体が動かないんです」
「それもそうだ。私を知っているだろ?絶対守護を持っている。針それぞれに付ければ守護範囲という名の壁が作れる。避けるだけでは意味が無いぞ!」
見えない障壁に阻まれる盗賊一味たち。
ノウラはかなりの力を込め、剣を屠った。
「しまった、情報が欲しかったのだがな。いやまだ5人生きている、情報を吐いてもらおうか」
近付くと5人は一斉に自身の持つ爆弾に火をつけた。
「お前にやる情報なんてねーよ!」
ノウラは即後ろに下がる、それと同時に爆発音が轟く。
「危なかった、守護範囲内じゃなかったら私は死んでいた……はっ?!ネメシスは大丈夫か?」
ノウラが後ろの6人を引き付けたのを確認すると駆け出した
『んじゃ、お姉さんはこっちと!』
まずは1人と、手前の盗賊に飛び掛るネメシス。
「甘いな、喰らえ閃光弾!」
眩しい光に包まれる
『おっと、何も見えない!どうすればいいんだい!』
ブンブンと大剣を振り回すネメシス、そこに3方向から矢が穿たれる。
服を裂き肉に突き刺さる鈍い音が響く
「短剣に切り替え、いっきに腱を落とすぞ」
首と胸、それと太腿に矢が刺さり動きの止まるネメシスに3方向から牙のような鋭い刃が襲い掛かる。
『なーんてね、見てるさ。別に避けるまでも無いってよく言うじゃないか!』
軽くジャンプし身を翻しながら着地する
「馬鹿な!なんだコイツは」
「落ち着け、こんな時こそ冷静判断だ」
「トライアングルを崩すなよ、行くぞ!」
統率の取れた3人の連携を軽くいなしながら、ちまちまと削っていくネメシス。
『ぺっ!不味いったら不味い。何を食べて育ったんだい』
1人が首を抑えながら倒れる。痙攣を起こしながら血溜まりを作る様に2人は戦意を奪われた
『なんだい?もう降伏するのかい、情けない情けない』
倒れた1人の上に立つネメシス。
『まだ助かるけど、助けたいと思わないのかい?油断している私なら倒されてもおかしくはないけど』
倒れた盗賊の足に剣を突き刺すネメシス
「くそ!無理だ……逃げるぞ」
「ダメだ!あいつを見捨てるなんて出来るか!」
『うんうん、ようやく美味しそうになってきたじゃないか。やはりスパイスだね!』
「こいつ、なんなんだ……なんだよ」
盗賊の心は支配されていく。嫌悪・恐怖・憎しみ・恨み・怨み・恐怖、そして全ての感情は恐怖に塗り替えられる。
涙を流し神に祈るかのように這い蹲る2人。
『人は何故こうも、奪う側から一変すれば』
恐怖が黒い渦のような何かが2人から出始める。
『ふぅー、やはり心地いいな。何億年ぶりにここまで良質な恐怖を食べた事か』
だが、そのネメシスが急にひっくり返った。
『ぬわっ?!』
「お前ら!逃げろ、俺のことはいいから!」
地面に頭を打ってフラフラしているネメシス。
そこに覆いかぶさるような形で抑え込まれるネメシス
「あ、兄貴!」
「いいからいけ、お前達は生きろ!」
2人は生気を取り戻し逃げるように走り始めた
『いったいなー!もう、私だって乙女だよ』
「お前みたいな怪物が居てたまるか!」
盗賊が、腰につけていた爆弾を爆発させた。
黒煙が立ち上り、嫌な臭いが周囲を包む。
『うげ、くさ!うわー、服も汚くなったし。あの二人には罪償いしてもらお』
爆心地に真顔で立ち尽くすネメシス
一歩一歩、ゆっくりと2人へ近付いていく
走って逃げる2人にゆったりまったり迫る黒い大きな影
『死は人の終わりと言うが果たしてそうかい?本当の終わりは擦り減り魂が消える時では無いのかい?』
ネメシスが地面に手を当てる。
『揺るがす大地・降り注ぐ石・荒れる水面・燃える大地・それ等が恐怖の信仰となりて・私は存続を臨まれたもう・神の怒りは慈悲ある魂の救済を与える【ルヴァ・ヘンヴェ・テヴィルハ・地獄を見ろベンデ】』
地響きが起き、天から降り注ぐ隕石が走って逃げる2人の行く手を阻んだ。
「何がどうなって!兄貴があいつを殺したんだろ?」
「そのはずだろ!だってあの爆弾は人3人なら欠片すら残らない程の火力だぞ」
地面から火が噴き出し始める。
「どうなってやがるんだ!」
『私が死ぬとでも思うたか?一度で二度おいしいとはまさにこれ。さぁ死んでもらおうか』
ネメシスの剣が盗賊2人の首を跳ねようとした時、ノウラがやってきた。
「ネメシス、すまない。6人とも殺してしまったから情報が取れなかったんだが」
『とっ、危ない危ない。今ちょうど殺すところだったよ』
「2人は拘束術を施して拷問だな。前回と違って今回は情報が命取りになる」
1時間後、領地に戻った。
『本格的な作戦は明日でいい感じかね?それとどうするかな、領主は兵を貸すと言っているが』
「いや、それには及ばないだろう。戦闘力に数えるのは100名程だ、それに奴らは今まで襲撃隊が敗れたことは無いらしい。今回それが起きたって事は総力戦を覚悟するだろう」
『敵が多いなら一撃で潰すのが早いから雑魚兵何ぞ要らないってことだね』
「あ、あぁ……ネメシス大丈夫か?」
『なんだ?大丈夫も何も気を引き締めないとね。人の罪だ、我々がきっちりとケリを付けなければならない』
夜ご飯の際、食卓に通されたノウラとネメシス。
その場に、双子の父親は居た。
その威厳は間合いの如く展開されていて、ノウラは目が会った瞬間に構えた程だった。
だが、中身は娘愛の腑抜けたおっさんであった。
「はっはは!まさか審判者殿が出向くまでとは!いやーうちの娘達の為とはいえ」
娘と妻にドン引きされていることに気付かないまま、デレ続ける領主
「いえ、私こそ初見で貴方の認識を違え攻撃体勢を取ってしまいました」
「気にする事はない、いやーでもほんとにうちの娘は可愛いでしょ!だからこそ盗賊を根絶やしにしてもらいたい、私の好きな領土と大好きな家族の為に」
話好きな双子の父こと、ユーヌリィ・ユーヌルスのおかげで食卓は花が咲いていた。
ノウラも普段見せないほど笑顔を見せていた。
ネメシスだけは、空笑いをして一言も発さなかった。
「ふぅ、笑い疲れたな。私もまだああして笑えるのだな」
顔をむにゅむにゅとほぐしながらノウラがつぶやく。
『そうかい、それはよかったよ』
怒るような、投げ捨てるような言葉にノウラは困惑する
「どうしたネメシス」
『いや、なんでもない。気にするな……今は1人で居させてくれ』
「すまなかった、本当なら堪える物だからな殺しなんて」
ネメシスは用意された部屋に入るやいなベットに倒れ込んだ
『どうなっている、私が私に侵食されているのか?それとも元に戻るだけか?』
いくら待てど出ない結論にネメシスは魘されそのまま深い眠りに落ちた。