無くなった日
「 ────という訳じゃ。どちらにしろヘリアは死ぬ」
「な、なら!どうしてヘリヤに」
「それはあの二人が異質じゃからだ。元より1つ神の分離。あの二人がいがみ合うのは互いを寄せようとせぬからじゃ。寄せ合えば互いが昂り殺し、片方を喰らう……じゃが今はもうそうしてでも戦力を上げねば勝てない戦じゃ。ラグナロクとは時に味方にも非情な決断を下さねばならぬ。ヘリヤを素体にする理由は簡単じゃ……神託にて先が長い、それだけじゃ」
「どうしてなの……なら最初から事情を話せばよかったじゃない!どうしてあなた達はいつも重要な時に出てこず、事が起きてから解決に動く訳?そんなんだからラグナロクなんて起きるし!神々が勝ち行く未来が無いのよ!!」
ブチギレるスカルモルドに恐怖すら覚えるオーディン。
その気になればスカルモルドは過去から未来まで全ての剣を使い闘えるからだ。
「落ち着け……今争う意味は無い」
「私は行く……それが負の道と有ろうが」
「じゃから待たんかスカルモルド。今お前が行けば大変な結末を迎えるやもしれんぞ」
「別にいいじゃない……た、たかが私達の未来よ」
震えながらもその声は意志を保っていた。スカルモルドは剣を構えた。
「時超え集いし幾億の剣よ・我が名はスカルモルド・名を後世に伝えれなかった者共よ・今私の名においてその力を顕現せよ」
「えぇい厄介じゃな!霧散のルーン」
オーディンのルーンはスカルモルドに触れる前に効果を失った。スカルモルドの斬撃は主神の部屋を容易く砕いた
「まさか、鎧に呼ばれるとは……はぁ、こうなったらワシには無理じゃな」
オーディンはこうなることは知ってたと言わんばかりの落ち着きで壊れた外壁を見た。
スカルモルドはヘリヤを見た。そのヘリヤは知っているようで知らない
「ヘリヤ?何してるの」
ここで踏み込めば取り返しが付かなくなるかもしれない。それを理解していたのに踏み出してしまうスカルモルド
「スル……ごめんな、短い間だけど。それとさようならだ」
ヘリヤの背中からは止めても意味が無いと伝わる程の怒りと悲しみとが溢れていた
「ヘリヤ!これは運命なのっ!だから私は貴方を責めない、それに約束したよね……死ぬなら一緒にって」
「同族殺しは重罪だ。ましてや過去から働いていた……まてよ、スカルモルド、スヴァに眠らされた後にオーディン・・・・・ と会わなかったか?」
「あったけど?どうしたの、ヘリヤ怖いよ」
「くっそ、最初っからこうなるように作られてたってか!おかしいと思った。私とヘリアの性質が似過ぎてた。私もアイツもそれが気に入らなくってでも何か惹かれあっていた……」
ヘリヤが怒りで鎧を叩き付けた。
「はっは……やはりここで滅ぼすか。少しは少しはこのやりようのない気持ちを抑えれたのに……【破壊】」
一面が焦土と化す。スカルモルドとヘリヤの場所を除き
「ヘリヤ、何かおかしいよ。正気に戻っ───」
ヘリヤを止めようと近付いたスカルモルドに鎧がまとわりつく。
「た、助けて!へり──」
「最高だ!!消し飛べ!!いっそ無かったことにしてやる!私がこの世界の神だ」
スカルモルドの性質が変化していく。
「はぁ……はぁ……ダメっ、私じゃ制御出来ないッ!【終焉の剣!!!】」
その一撃はまだ神々すら観れぬ多くの星々を堕とした。
「うぁぁぁぁ!!!!!」
片手で剣を抑えようとするが止まらない。無理やり天空へ向けて打つが終わらない。スカルモルドの限界である9発を超えてなお威力は増し剣先から終わりの一撃が飛び出る。
「くっ、こ、これがオーディンの言ってた結末。でもっ!私は死なない、何か策は……」
『ふふ、スカルモルドったら本当にヘリヤが好きなのね。こんな所にまで出てきて』
スカルモルドの深層意識の中にヘリアが居た。
『私なら止めれるわよ。2人とも』
「どうやって?た、たぶん貴女には出来ないよ」
『随分な言われようね……しょうがないか。現に暴れてるあそこの暴君に負けた訳だし』
「それはその……違うの、貴女が終わってしまう気がするの。だって融合したけどまだ自我があるんでしょ?戻ってこれるよ」
『なんだ、そんなことか。気にする事はないよ?私は死ぬわけじゃない、元ありし姿へ帰還するだけよ』
「私は、ヘリヤとヘリアが楽しくいがみ合うのが好きだった、平和な中に少しの刺激、そんな毎日をどうして終わりの道に進めたの」
『ヘリヤはああ見えてしっかりしてるし、ラグナロクでは無駄死にして欲しくなかったのもあるかな。それにこの事知ってたのスヴァとオーディンと私くらいよ?』
「私が聞きたいのはそれじゃない、なんで!なんで幸せの道を閉ざすの?」
『幸せはね?犠牲の元でしか成り立てないのよ?その犠牲が今回私だってこと。ふふ、分かるよ?私がいないと幸せじゃないって言いたいんでしょ?でもね、そうじゃないのよ。真の幸せはアナタとヘリヤ、その2人の行く道にあるのよ』
「そんなのヤダ!私は!私は!」
ヘリアはヘラヘラと語ったあと真面目な顔でスカルモルドの両肩を掴む。
『私は鎧とヘリヤ、両方に居る。だけどあいにく鎧の私はもう薄い、手間にはなるけどヘリヤに戻って、ヘリヤから鎧に干渉するしか策はないわ』
「も、もしかして、でもそれしたら」
『ヘリヤは死なない。私が言うのよ?しんじられない?』
「そ、そうじゃない!ヘリアが……わかった、わかった……」
優しさと涙を浮かべるヘリアになんとも言えない思いを抱えたスカルモルドは納得するしか無かった。
『でも私が離れると貴方は理性を失うわ……その間に悲しみを背負うかもしれない。それだけは』
「分かってる。でも、こんな思いは今回で終わりよ」
スカルモルドが荒ぶる自身を抑えてヘリヤの方をむく。
「終わったらどんなバツも受け入れる……だから私の愛した人は、愛している人達だけは死なない未来を!その為に私は撃つ!─────【終焉の剣】」
その斬撃は何も破壊しない優しい一撃だった。
ヘリヤに直撃するとヘリヤの動きは止まった。それを待たずしてスカルモルドが暴走し出す。
「ガァ!!!!」
鈍い烏を思わせる声に街中が揺れを感じる。
ヘリヤが口から吐血し一瞬フリーズした。
「ちょっ、え?何が怒ってるの?!」
能力に呑まれていたヘリヤが正気に戻る。
「スカルモルドの逆鱗……なわけないよね」
『ヘリヤ、ふざけてる時間なんてないわよ』
ヘリヤは自身に語られる声を知っていた。その声に自然と振り向く。
「お、お前は……そうかい。そういう事か」
ヘリアの顔を見たヘリヤは全てを察した。
『元といえば私のせいよ、あと1回分は鎧のカース残ってたみたい……だから壊すのよ』
「壊すって……どうすんだ?」
『ヘリヤ、貴方はスカルモルドに近接してくれればいいよ。そうしたら私という存在を犠牲にスカルモルドを助けれる』
「それは願っても無かった提案だが、ヘリア……それをして後悔はないのか?私ごときに」
『全く、あんたら2人似たも同士ね。なーに2人の大事に私の事なんて心配してんのさ、元いい私の巻いた種な訳だし』
「それは、私が人間だからさ……神なんて成れない。結局は私という人間が友の死を拒むのさ……」
『なら、あなたの弱さを私が持ち去るよ。ほら、スカルモルドを止めないと手遅れになるわよ』
「くっそ……何をするんだ、具体的に」
『カースを壊す。装備者の死を持ってそれは終わりを告げる……過去数億回に渡りこの呪いは行使されてきたみたいだけど壊した形跡はなかった。いや、正確には壊された形跡は無かった。誰もがこの鎧の運命を受け入れた。だけど悲しみは残っていた。鎧をつけた者達の』
「つまり……」
『物は試し用、詳しく説明してたら5年は掛かるから省くわよ……それと身体借りるわ』
ヘリヤがスカルモルドへ近付く。それに気付いたスカルモルドが斬撃を放つ。空気をも壊す一撃を避けながら懐へ……
『ヘリヤ、最後って言ったけど。また会えたことに感謝するわ。あなた達ふたりが私の死ぬ前、強烈に覚えていたから私はここに居れた。でもそれは後を納めるための段階みたいなものだった見たいね』
「おいおい、まるで最後みたいな言い方だな。ジョークだろ?」
『かもね、1000年後くらいにひょっこり現れるかもよ。その時は全力で名前を呼んで欲しいわね、薄れた私を戻す為に』
「今も、そしてこれからも忘れねぇーよ!ヘリア!」
鎧に手が突き刺さる。
『破壊と崩壊の名において・その悲しみと共に解き放たれよ・代価は───────』
この事は無かった。そう定義された。街は以前賑わっており、相変わらず神々は訓練と宴を繰り返す。
星が降る空を眺めながらヘリヤは遥か高く聳え立つ塔の上に居た。
「なぁ、スカルモルド。これで良かったんだよな」
「私はぽっかり胸の中に穴が空いてる気分だ」
「元々居なかった事になるとこうもみんな普通に過ごすんだな……ラグナロクも欠片すら見えない……」
「うっ……私は何を」
鎧に包まれ倒れ伏してたスカルモルドが起きた。
「ヘリヤ、何か言った?」
「いーや、何も。それよりさ……もし願いが叶うなら何がいい?」
伸ばした指の間から星星を眺むヘリヤ。スカルモルドもそれにつられ天を仰ぐ。
「私は前々から言ってるでしょ?ヘリヤと共に死ねるならそれでいいって。約束したじゃん、一緒に地獄の門番諸共吹き飛ばそうって」
「だったな、私はヘイルヘツリヤなんて幻想を抱いてたが。今は違う……失くしたものを手に入れる事かな」
「そう、ならそれでいいと思うよ、私はそれに着いてくだけ」
「なら祈ろう。神なんざじゃねぇ、私らが届く筈のない願いすら届かなねぇほどのはるか遠くに居る奴らに」
「それならラグナロクが終わってからにしてよ?私だって死ぬ予定は無いし」
「スル、いやスカルモルド。ラグナロクも共に切り抜けよう」
「えぇ、私は今回の事で1つ成長した。二度とこんな悲しみを背負う事はしたくない。その為にも全力を尽くす……」
「最後にひとついいか?スルはもう居ないのか?」
「何を。居るよ、私はスルでスカルモルド。カースを代価に人としてを失ったのは同じでしょ」
「いやー、あんたあんま変わらないってか鎧のせいでなんも分からないからねー」
「ふっ、なら久々に名前で呼び合うか?先に照れた方が負けだぞ。ヘリヤ」
スカルモルドが斬り掛かる
「くっ、成長どころか最早別人ね!いいわ!受けて立つ!スル─────」
ヘリヤもそれに答えるように近くの枝を拾い構える。
「破壊!よーし、私が勝って愛でまくってやるんだから♪この可愛ヤツめ」
その愛に似た死闘はラグナロクの笛がなるまで続いた。