綻びの始まりと紡ぐ糸
「何してるの?」
ルズに声をかける者がいた。
「あぁ、雨呑寂ね?ノコノコと戻ってきて」
「悪かったよ……」
弱々しくなってしまったその神は、いや悪鬼か?元の威勢すら影を見ない物になっていた。
「まぁいいよ、でもさー。あっちには手を出すなって言ったじゃん。なんで?」
「それは……その、確かめたくって」
「今ね、計画の進行が68パー遂行されてたけど、君の失態で60パーまで下がったんだよ」
ルズはメガネを外して足をカチャと折りそっと閉じた本の上に置いた。
「わ、悪かった!だから落ち着こうぜ、挽回のチャンスを」
「そうね、でも君は出なくていいよ。今から少し神の陣営を壊してくるから」
「へ?」
「私の予定ではジャンヌダルクとやらのスキルが鍵となるはずだったのだけどね」
「だからその件は謝ってるだろ?」
「ほら、ちょっと経つとすぐ概念が戻って荒れてくる」
「なわけないじゃんか、反省はしてるぞ」
「まぁいいわ。少しお留守番よ『朽ちろ幼骸』」
雨呑寂はそのまま地面に倒れた。
「さて、何人ほど処理するか。ヴォルガンド行くよ」
「わっで、まだはべてる」
食事を楽しんでいたヴォルガンドが食べるのを辞めた。
「なに?」
あからさまにブチギレるヴォルガンド。
「ルズ、私が邪魔されるの嫌いって知っててやってる?」
「んー?知らないよ、怒るのもいいけどさ。たまには動けよ屑」
のろ~とした声からは想像の付かないドスの効いた声に、ブチギレていたヴォルガンドは萎縮した
「分かればいいの、久々だから上手くいくか知らないけどやるよ」
「それなら早く言ってくれれば良かったのに……」
少し涙目になりながらも目を輝かせるヴォルガンド
「話聞かないで切れたのはヴォルガンドでしょ?」
「むぅー、ルズの意地悪」
「さーて、行くよヴォルガンド」
「うん、ルズに合わせる」
『アラヴェオ』
2人が手を合わせる。
『アスベルドーツ』
『我らは全てを決める者』
強烈な閃光が2人に落ちる。
「さぁ、行こう。我らの計画の為に」
龍を纏ったルズと言うべきか、その体は人でありながら龍を模した。
人類への、神への最終宿敵を顕すそれであった。
天より彼方、高速で移動するヴォルガンドルズ。
天使達が襲い掛かるがゴミと言わんばかりに突っ込んでいく
「ば、馬鹿な?!熾天使様が」
「怯まな!行けー!!」
大群が襲ってくる。
「鬱陶しいな『頽れろ権限1』」
「へ?!うわぁぁ」
「だ、誰かァァ」
天使達は突然力が抜けた様に墜落していく。
「我ながら質より量のセキュリティには賛同ね。本丸に近付きにくい」
「なんと嘆かわしい……たかが人風情が我々天使に歯向かうとは」
「これはこれは、最高位天使の。そのたかが人風情が苦しむ姿に嘆き悲しむイスラフィールさんじゃないですか」
「【悲しみの雨】」
ヴォルガンドルズに大量の雨が降り注ぐ
「戦闘向けじゃないのに来るってことは遅延目的かな」
「いいえ、【終曲を演ずる者】」
「不快音検知『ヴォルガンド』」
龍の姿に変わりイスラフィールを斬り裂いた
「な、ぜ、やはり、私はあぁ……」
溶けていくイスラフィールとは裏腹に勢いを増す不快音
「胡散臭い芝居はやめろ。『生成』」
ヴォルガンドルズが大振りに剣を振る
「あららぁ~届きませんよ」
「雨による認識阻害と音による精神状態悪化。これにより相手を簡単に錯乱させれると」
「詳しいじゃない!人の癖に」
「人?創造主と言ってくれないかな。まぁ今の格好だとヴォルガンドルズってより竜人かな?」
「イルガネフを知っているのですか?!」
「言ったじゃん創造主って。でもそれを知ってるってのはどんな事態になるか分かるよね?」
「ぐっ、まだやですよ」
「八門権限創には必要な情報であり、その材料に君も必要だもんね」
「やですよ!私はまだ天使としての顕現を得てます」
「ドベツルエが偉そうに」
「よくもその名を口にしましたね!」
「おろ?逃げないのかい?さっきまで逃げ腰だったのに」
「いいえ、あなたの計画を無下にしてあげます」
「ほぅ、どうするのだい?」
「こうするまでよ!【マフクトゥーム・ァエナ】」
イスラフィールが結晶に変わる。
「うーん、確かにこれじゃ戻せない。でも貰ってくよ」
空から落ちる結晶をヴォルガンドルズが呑み込んだ。
「あぁ、実に美味な結晶だ」
そのまま高速で天を上り神殿へ辿り着くヴォルガンドルズ
「見つけた!がら空きの大将さん♪」
「ッ?!まさかとは思っていましたが」
大人びた口調、凛とした態度。しかしそこに隠せない焦り。
「だーれだ。ヴォルガンドルズでーす」
驚愕を浮かべるミカエルの後ろに立ち、胸を貫く
「あ、あが……」
「まぁ殺しゃしないさ」
「なにを……」
「この世界の修復が終わるまで邪魔なんぞさせんぞ」
カッと目が紅く光る。
セレーネとヘリオスは臆していた。神殿の柱の影から我が主の死を眺めていた
「みかみか、嘘でしょ?!」
「しっ、バレるよせーれ」
「で?そこの2人はやるのかい?」
「ぼ、僕達子供とやって楽しいか?」
「そ、そうだよ」
「の、割にその手に持つナイフは輝いてるけど?」
カランとナイフを落とす2人
「うん、いいよ。いい子だ」
「さぁ、次は彼らかな。君達二人は何も気にしなくていいよ『気震え権限1』」
2人が青ざめ狂ったように寒がる
「ガキ相手だ、滅多な事はしねぇし安心しな?まぁこのまましばらくは耐え難いだろうがな」
その2人を置いて地に向かって降下しだした。
胸を穿かれたミカエルは光の泡となり消えていった。
超高速降下しそのまま地面に刺さったヴォルガンドルズ
「いってぇー、首折れたかな」
パキッパキと首を鳴らして辺りを見渡す
「おー、いたいた」
ウォールとマモンが下級天使達を処理していた
「どうやら困ってるみたい?『頽れろ権限2』」
天使達が溶けるように地面へ項垂れる
「誰だ?!」
「ほぅ、非常に興味深い。神か?いや、それよりも」
「ステータス!なっ?!見れねぇ」
「やぁお二人さん。そこのマモン君は少し席を外してくれるかな」
「何故だ」
「まぁいいか、話しても分からないだろうし」
いつの間にかマモンの前に出てたヴォルガンドルズがマモンの胸に指を置いた。
「いかん!ウォール!逃げ──────」
「『飛べ権限6』」
マモンが目に見えないほどの速度で吹き飛び視界から消え去る
「な、何者だ」
「ヴォルガンドルズだよ。ヴォルガンドの方とは確か前にあってるよね」
「ああ、つまり姉か?」
「惜しい!私らは2人で1人」
「ほ、ほぅ」
「で、今回は君ら数人かにこの世界を離れてもらうよ」
「ん?どういうことだ」
「簡単に言うとこの世界は1回に動き過ぎた。だから他の世界まで影響を受けているって事さ」
「つまり一旦この世界を治すと?」
「そうだよ」
「お前が治せるなら態々俺がこの世界に呼ばれた意味が無くないか?」
「んー、そうだね君が来たのは辻褄合わせのような物だよ。といっても私的にも上手い説明が出来ないから割愛するけど、私達の計画を隠す為の君だって訳」
「んだと?!」
ウォールがヴォルガンドルズの胸倉を掴むが「やれやれー」と払われる
「まぁいいよ、この体だとやっぱ思考が回らんから。こうするよ」
ゴスっとウォールの胸を貫く
「な……何が起きた」
「よーしとりあえず主犯二人と『逝け権限10』」
ウォールが光の泡となり消えていく。
「次は誰を」
「待ちなさい。何故ウォールを殺した?俺を殺さずに」
「もう起き上がるとは、そうでしたね。この世界で、あなたを権限では縛れない」
「分からないのだ、君は神側ではない。だがまた我々側でもない。ではなぜウォールを?」
「殺してはないよ。ちょっと別の世界の修正を頼んだのさ」
「成程、神々が暴れすぎたのと我々の登場で天秤が歪んだと」
「流石、飲み込みが早い」
「しかし俺はマモンだ。俺の物を取られると無性にムカつく」
「言いたいことは分かるよ。まぁ気が済むかは知らないけど全力で瀕死にしてあげるよ」
「望む所だ、小娘風情が」
マモンが踏み込んだ、それと同時かヴォルガンドルズが飛び上がる
「【アビス】」
虚無の空間がヴォルガンドルズの足を喰らう。
「おっと、危ない」
喰われたはずの足が生えてくる
「貴様らの正体を聞こうじゃないか」
戦闘を繰り広げながら質問を投げるマモン
「そうだね、ウォールの遠い知り合いかな」
「そうか、遠い……」
「君だって知ってるはずさ。ソロモンの指輪」
「知ってるとも」
「全ては繋がっている」
「それでは話が繋がってないぞ」
「指輪を源に世界を元あるべき姿へ還元する!それが目的さ。君らのようなしょうもない天界堕としとは違う」
「ほぅ、全ての欲が開放される真のラグナロクとオーディンが謳っていたがそれは偽と?」
「もちろんそれはそれで確立しているよ」
「なら、貴様の認める物と何が違う」
「私の望む世界は全てが創設される前」
「紀元前ならぬ起源前と?」
「いいねぇ、物分りがいいよ」
「そうしたら今いる我々はどうなる」
「そうだね、望むならその世界に辿れるように道は遺すよ。だけど、今の形は無くなるよ」
「それは困るな」
「でしょ?ちなみにさ、私がこの計画を進めない理由分かる?」
「なんとなくだが天界堕としをした後しか意味が無いからか?」
「正解、では何故私が参加しないか」
「この世界を保つ為のバランサーと言ったところか」
「その私が出向く事態。まぁやっぱこう説明は嫌いだな」
「まぁいい。真意はともあれ【喰らえ・アビス】」
距離を取り大技を溜めるマモン
「その威力は困るよ『塞げ権限13』」
困ると言いつつ楽しそうな笑顔を浮かべるヴォルガンドルズ
「はい、そこまで2人とも。【顕現・地獄】」
パンっと手を叩く音で2人の技が霧散した。
「ルシファー、邪魔をしないで貰いたい」
「マモン、コイツは敵じゃねぇ。今回は悪いが乗ってくれ」
「ふぅ……危うく修復不可能になる所だったよ」
「お前もお前だ。ヴォルガンドルズだっけか」
「やれやれ、力の差とか分からないのかな?と言いたいけど今回ばかりは助かったから素直に謝るよ」
「とりあえず、転送させるなら俺でも出来るから何かあれば言えと言った筈だが」
「うーん、今回はねウチの馬鹿がやらかした事だから借りを作りたく無かったのさ」
「結局作ってるだろ」
「で?ルシファーよ。どんな巡り合わせでこいつと出会ったんだ」
「まぁそもそも天界堕としを提案したのはコイツだ」
「まぁルシファーが言うならしゃーねぇからやめとくよ。ヴォルガンドルズ、今回は痛み分けだ」
「あぁ、稜角なコホン。とても良き性格だ。二度とやり合いたくないね」
マモンとヴォルガンドルズは握手を交わした。
「さぁ、ルシファー。緊急作戦アリアドネを試行しよう」
「あぁ、だがどうなっても知らんぞ」
「わかってるよ」
2人は魔的笑みを浮かべた。
マモンはここに用はないと颯爽に帰って行った。