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鉄箱で夢を見た

作者: RAMネコ

ずっと昔に読んだSF小説だったら、世界の滅亡というのは、ある日突然にやってくる事件だった。核戦争とか、ゾンビとか、マシーンの反乱とかだ。だからかな。今は、昔考えていた未来の破滅が『今』になったら、ちょっと違うかな。


世界は緩やかに死へと向かっている。いろんな原因があるのだろうが、たぶん原因は環境の悪化があるだろう。食糧不足、大規模な災害、森林破壊、海面の上昇……何十年も前から繰り返されてきた、しかし結局はどの国の誰も決定的な決断を先延ばしてきた問題が、少し表面化しただけだ。


ただーーその少しは大きかったんだ。


世界中で、生存圏の確保とか保証とかを目的にしたテロリストの引き起こす大規模紛争が多発した。これも、新しい事実ではないな。対テロの戦争も、何十年も昔から続いていた。ただ一つ違うのは、本物の戦争の時代になったというだけだ。


大国が片手間に後進国のテロを掃除できる時代ではなくなった。それだけだ。


ただ希望もある。憧れたSFは形になっている。少しだけだが、公表された。気候工学で温暖化が回避されつつあるし、精子への遺伝子操作で不妊治療の精度が格段に向上した。ホウ素を使う核融合炉は放射能をださないし、燃料問題は微生物が解決した。しかも地球外への移民計画が大詰めでもあった。


希望はあった。憧れの未来が、憧れだけで終わらなかった今になった。


世界は希望に満ちているのだ。


希望は……あるのだ。


ーーハワイ新興国、真珠湾。


『サクラ2、サクラ2!早く起き上がれ!オアフの要塞砲にやられるぞ!』


海水に洗われながら愛機は、海を振り落としながら再起動をはたした。高層ビルと並んでも見劣りしない巨重人型兵器だ。直立した戦艦は、地上最高クラスの主砲に火を噴かせ、分厚い強化ベトンで防護された沿岸陣地を一撃で吹き飛ばした。昔は、巨大人型兵器なんて無駄の極みだった。これも、未来の今になってしまった。


ハワイ奪還作戦は、ハワイ新政府のアメリカ独立表明から僅か三日後のことだった。ハワイには太平洋最大規模の人工島とその上に建造された宇宙港がある。軌道エレベータにぶら下げられた高空基地までを往復する大型飛行機の発着場だ。テロリストに奪取された。だからテロリストを叩き潰して、これを奪い返すんだ。


『サクラ2、無事か』

『機体に異常なし、至近弾に煽られただけです。いけます』

『よし、ならばついてこい』


ラジオ越しの上官の言葉は神の言葉だ。叛逆なんて微塵も考えられなかった。フットバーを蹴る。オゾン化した大気が磁気で押し出され、巨人を立ちあがらせた。手足から突き出された、可動式の大盾が動いて、海岸防護線の火器から身を守った。情けない軌跡の対戦車ミサイルが大盾の外で弾けた。


「ーーッ!マキ、小物を頼む」


AIにミサイルの迎撃を任せた。機械に命を預けることに不安がないのかって、それはつまり隣の戦友に命を預けられるのかという質問と同じだ。自分以外の誰かにゆだねる、戦争なんだ、どこにでもそんな関係があるし、相手が機械になっただけで何も変わらない。信用があった。


マキは淡々としたものだ。自動システムが、テロリストが一斉に撃ち出した対戦車ミサイル群を正確にリストアップ、危険度が高い順に薙ぎ払った。40mmエアバースト弾が破片の嵐で対戦車ミサイルを切り裂いたのだ。40mmは対戦車ミサイルの迎撃にとどまらず、屋内に篭っていた射手とそのチームを壁越しに酷い姿へと変えた。レーザー兵器のほうが使い勝手が良いのだが、どうしても乱戦状態でレンズが破損しやすい欠点を克服できていなかった。


山間部から重砲が直射で撃ち下ろしてきた。155mmクラスだ。直射で、しかも至近距離では砲弾の迎撃が間に合わなかった。機体に衝撃が襲った。主砲を振り向け、山の一部諸共にこの155mmクラス重砲陣地を吹き飛ばした。


埠頭へと足をかけ、巨体が陸の上へと引き揚げられた。パールハーバーの要塞化陣地はいたるところから火をあげていた。黒煙がパールハーバー全体を包み込んでいた。


『母艦からの第五次支援砲撃だ。オアフ要塞砲陣地は沈黙。この地点を確保するぞ。サクラ2、機体に異常はあるか』


幾らかの直撃を喰っていたが、システムに異常はなかった。頑丈に作られていた。人命を何よりも重視しているのもあった。人命は地球よりも重いというヤツだ。だからこそ、過剰な人命重視が生みだした怪物そのものだ。


上陸地点をたった二人で確保した。テロリスト相手とはいえ、それなりの重火器を持ち合わせていた敵陣地に対してだ。昔ならありえなかった。今は、ありえなければ文明を保てない局面にまで来てしまった。


一〇〇年くらい前には、パールハーバーは旧大戦最初の戦場だったそうだ。航空機の奇襲で、パールハーバーに駐泊していた艦隊は壊滅した。当時世界最強の機動艦隊がやった。一〇〇年くだって、こんな形で戦場になるとは、旧大戦の兵士も考えてはいなかった筈だ。


ーーテロリスト国家が林立する時代なんて。


夢の汚点だ。テロリストは今や、あるいは前からそうだったのかもしれないが、国家に政治的要求をする立場から、国家へと挑戦する為に、国家を打ち倒して国家になる連中が台頭していた。嫌な時代だ。テロ国家の時代だ。


山影から覗く回転翼機をセンサーが捉えた。AH-64Gガーディアンとデータベースが自動的にデータをピックアップした。無人機と有人機の混成した戦闘単位における、有人機の司令塔だ。


生かしておけば、ドローンが防御力の低い非装甲歩兵や民間人を虐殺するのは目に見えていた。背面の制圧用コンテナパックから、古式ゆかしいプッシャー式プロペラの徘徊UAVが垂直射出された。データリンクが繋がれていて、UAVは目だ。200km/hもだせない回転翼機のサガに囚われたAH-64Gガーディアンに振り切ることは不可能だ。AH-64Gガーディアンがサイドウィングに吊るしたレーザーポットを輝かせていたが、数秒とかからずに炎上した。徘徊UAVはその後、上空へと高度をとり、ハゲワシのようにゆったりと旋回を続け、索敵を続けた。


『データリンクチェック。撤退するテロリストの大規模車列を確認した』

「砲撃しますか?射程内です」

『サクラ2、冗談はよせ。主砲は旧大戦の戦艦並みだ。捕虜がいれば纏めて殺してしまう』

「ですね。車列の足を吹き飛ばします」

『おれが新人だからって試してるな?』

「いえ。知能化地雷散布の許可願います」

『許可する。後のことも考えて散布は限定的にしろ』

「了」


大型ミサイルは多数の地雷が格納されたクラスター式だ。主に歩兵の津波を止めたりだが、軽車両相手にでも足回りに破壊を限定することができた。地雷原で立ち往生して、逃げられないのだ。


『連続した爆発を確認。車列は止まった』


後の仕事は別部隊だ。無力化したのならば充分だ。捕虜を先頭に地雷原を抜けようとするなら、次はスウォームーー小型自爆ドローンーーを散布して、直接にテロリストの四肢を吹き飛ばして無力化するだけだ。それをやれば高確率で治療前にテロリストは死んだ。


「隊長、SFて好きですか?」

『お前は好きそうだな。戦場で無駄口のネタにするくらい』

「おれは好きです。夢がありますから。将来を夢見たのがSFてジャンルなんです」


SFは好きだ。漫画もアニメも小説も、ジャンルは問わなかった。SFという、作り手が考えた未来の形を触れられる、知れることが楽しかった。こういう考えがあるのか!そんな技術があるのか!うむありえるかもしれない!そんな風に感じされてくれたからだ。


宇宙人。巨大ロボット。新人類。機械知性体。軌道エレベータ。宇宙船。ワープ。超能力。テラフォーミング。ジオテクノロジー。古代文明。ダイソン球。エグゾスーツ。レーザー推進。核融合炉。……戦争。


どんな未来が良かったかなんて幾らでも思いついてしまうが、少なくともいくつかは想像以上だった。だったのだが、想像以下もあった。どれほどの年月が経っても、経済的に資本主義怪獣に虐められ続ける社会とかだ。便利なのに不便になり続けていた。人間が科学に追いつけなかった。いやちょっと遅れていた。ただそれは、いつの時代も同じだ。


最新の兵器をテロリストは理解できないだろうし、民間人は一部のマニア以外には、アニメの世界から飛び出してきた得体の知れないものだ。


「最新の科学技術てのは、人間そのものなんですよ」

『どういうことだ、サクラ2』

「地球上ではもう、遺伝子操作以外での進化は望めません。科学があるからです。人類は進化の過程で、肉体を変えることから、科学に頼る形へと適応しました」

『そうだな』

「つまり人類の進化とは資源を消費して科学にすることなのです」

『SFというわけか』


SFは……人類の進化の模索なのだ。パールハーバーの惨状を見た。SFの形の、その一つの結果だ。巨大ロボットが相手にするのが、同じ巨大ロボットではなく、貧弱なテロリストであることが残念だ。テロリストにも巨大ロボットがいないわけではないが、世を忍ばなければならない連中が末永く扱うには、地球はずっと狭いのだ。


環境変化が、大量のテロリストを発生させて、世界を掻き乱すとは多くの人達にはわからなかった。寧ろ、生きる為に必死になるから、テロ活動は縮小するはずだという根拠のない主張が根強かった。実際には、地獄が新しい地獄を量産するのが現実の世界だった。


誰が、砂漠に飲み込まれた都市がテロリストの要塞になると予想した。誰が、海面上昇で沈んだ島の住民が海賊として活動することを予想した。誰が、この地球という揺り籠からの巣立ちを同胞から邪魔されると予想できた。誰もだ、誰もが考えていたかもしれないが、誰もが予想外と驚いた。


「明日は、どっちになるのでしょうか。SFだと、救いと破滅、半々といったところです」

『さぁな。……っと、サクラ2、明日はわからないが、今日はまだ続くぞ』


レーダーコンタクト。頭を包み込むヘルメットマウントディスプレイから投影されたレーダースクリーンに、新手が近づいていることを教えられた。速い、航空機だ。


「防御スクリーン展開ーーといきますが、おれたちの業務はこれまでです。交代の時間ですね。お疲れ様です」


アラートが鳴った。警告、ではあるがそれほど危険な知らせではなかった。勤務時間終了の知らせだ。データのカットアウト。全てが消されて、ヘルメットマウントディスプレイを外した。久しぶりの肉眼が見た現実は、生まれ育った家の、自室だ。


一息ついた。メガコープ・テクノミカドは少し規模の大きい企業の一つだ。他のメガコープと同じく、国家運営の一部を委託されている。兵隊もただの社員だ。そして兵隊はメガコープの資本で鍛えられ、同資本で準備された戦力として戦うのだ。肉入りの中身、ただし全地球規模で中身の肉はいつでも交換できる。戦力を長期間維持するためのネットワークというものだ。人間も機械も規格化された。


腹が鳴った。

さぁ、夕食の準備だ。





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