水着で入院です!
「着いたー!海ですよ!」
阿修羅ちゃんは駅に着くや否や服を脱ぎ始め、水着で駅のホームへ駆け出した。
「ちょっと、阿修羅ちゃんはしゃぎ過ぎです!」
「フフ、後先考えず突き進む女の子とそれを追う女の子。最高じゃないか?」
「お前だけだ、須佐野」
冷静なツッコミを入れる大蛇に須佐野は若干威圧した。
何はともあれ私達は遂に到着したのだ。サンサンと輝く太陽に導かれた砂と海水の王国に!
「こっちだよ!稲葉ちゃん!」
「いや、まだ着替えてないから浅瀬は無理ですって!」
「いいから」
「嘘でしょ!?」
無理矢理彼女の6本の内の2本に引き寄せられ私は衣服のまま海に落っこちる。冷たい水しぶきが辺り一面を覆った。
「阿修羅ちゃん!」
「えへへ、濡れ透けっていうのも海の特権じゃない?」
「ちゃんと下に水着着てますから!」
ぐへへとカメラを撮る動作をする彼女に呆れつつ男性陣の方も水着に着替えてやってきた。
須佐野君もそれなりに筋肉が付いており、少しドキッとした。
「いいね!須佐野君!体絞ってる?」
「えぇ、貴女のようなお弁当食べすぎたお腹じゃないですから」
「うぅ……一番痛いとこ突かれた……」
「よしよし」
私が自滅してヘコんだ阿修羅を慰めていると、後ろからサーファーのような影が私達の方へ向かってやってくる。
波打ち際と共に舞い上がった彼に黄色い声援が飛ぶ。
「誰だ?あの人」
「知らない、私達には関係ない人でしょ」
「必殺!海板の・一撃!」
唐突にこちらの方に飛んできて急降下してきた彼は須佐野をの脳天を直撃。
「がっ……!山田てめぇ……!」
「悪い、少し足が滑ったわ。須佐野」
「「大蛇君ーーーー!!??」」
一流選手並みの捌き方で須佐野を攻撃した彼は鼻で笑った。
あれだけの衝撃があって悶絶しているだけで済んでいる方もある意味凄いが。
「いや、人に向かってサーフボード当てたら駄目でしょ!?」
「まぁこいつ人外みたいなもんだし?痛みなんかそう感じてないだろ。正直お前ら2人ナンパしてるぐらいならいけ好かねー」
「ナンパじゃないんですよ!?とにかく救急車呼ばないと!」
「いや、いいんです……私は死に際に貴女達2人の水着が見れたから……ぐふっ」
須佐野が吐血し、バタッと倒れた。この状況色々とヤバい。
「須佐野君ーーーー!!??」
「アイツはほっといてもすぐ復活する。それより海をもっと満喫するか」
「大丈夫じゃないでしょ!?とりあえず通報はしといたから」
「おい、俺が悪いみたいになってんじゃねーか!ヤツを倒す気サラサラ無かったんだが」
「いえ、普通に倒そうとしてましたよね。電車の時から」
私が冷静なツッコミを入れたところで救急車が到着。
ひとまず揉め事に巻き込まれた私達は解散し後日、彼のお見舞いへと向かった。
「クソッ……何で俺がこいつのお見舞いなんかに……」
「普通は行くでしょ?いくら悪友でも加害者は加害者なんだから」
「お見舞いって既に俺は奴の脳天にお見舞いしてやっただろうが」
「お見舞いの意味が違うよそれ!」
珍しく阿修羅ちゃんがツッコミを入れる。滅茶苦茶な事をやった彼を先頭にして病室に入れる。
「なぁ……ノックしないとダメか?」
「ノックするのが常識でしょ?」
彼をいい押さえ、仕様が無くなった彼は2回ほどノックをして病室に入った。
手に持った花束を見て須佐野の方は爆笑していたが。
「いや……山田?どういう風の吹き回しだよお前」
「怪我人はは怪我人らしく安静にしてろ」
「山田君も誠意を持って来たんだから有難く受け止めなさい?」
私が言い諭すと彼はしょぼくれた顔を浮かべた。
なかなか言い出せない大蛇に須佐野から声を挙げた。
「言わなくても伝わってる。無理って言ったけど来させられたんだろ?」
「五月蝿え」
「それぐらいわかる。俺とお前は日本神話以来の永久の宿敵なんだからな」
「須佐野……」
彼は少し照れ隠ししているのか若干顔を押さえていた。
その横で阿修羅ちゃんはノリノリで須佐野のイケメンぶりを手帳に書き起こしていたが私はそれを見てすぐさま破り去った。
「お前が見舞いに来る必要は無ぇよ。気持ちぐらいちゃんとわかってる。阿修羅ちゃんと稲葉ちゃんの2人も巻き込んでしまって悪かった」
「いやいや、本当にお大事にね!?須佐野君!」
「須佐野……ほんとごめん……」
「謝らなくていいんだ、むしろ俺からも電車の時やり過ぎたと後悔してる」
「いや……そうじゃなくて……」
大蛇の言っている事に須佐野は首を傾げた。どうやら別件で何か言いたいらしい。
「お前のサーフボード……無断で借りてたよな?」
「あぁ、お前の乗ってたアレか。それがどうかしたのか?」
「あの時の衝撃で壊しちゃったわ」
「うんうん……は!?」
須佐野は驚愕し、バキバキに折れまくった骨をガン無視して立ち上がった。
「どうすんだよ!あれ兄貴から借りてた……!」
「須佐野君!そんなに暴れたら……
あーーーっっっっ!!」
阿修羅ちゃんが食い止めるもどうやら時既に遅かったらしい。
心拍数が急激に増加しナースコールを余儀なくされた。
「大蛇君……アンタほんと馬鹿じゃないの?」
「昔からこうなんだよ……俺が関わると最終的に須佐野が苦しむ」
私達は彼の言い分をある意味不遇に感じながらも彼の生存を祈る。
幸い、入院期間が半月から半年に伸びただけだったが、私達の今年の夏は病室という何とも哀れな最後で幕を閉じた。