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阿修羅ちゃんの弁当屋  作者: スタイリッシュ土下座
3/9

快談で怪談です!

 私がほのぼの屋で務めて1ヶ月が経ちました。

 店長が駄目駄目でついサポートに走ってしまうお人好しな私は多分他のバイトよりも数倍苦労していると思うし、働いて得た給料も最低時給スレスレだけど、何とか元気でやってます。


「なんて、のんきな事言えればいいんですけどね」


「ん?稲葉ちゃんどったの?」


 フロアの掃除中にため息を吐いた私に気づいたのか、阿修羅ちゃんは声をかける。


「いや……やっぱり私ここのバイト辞めようかなと思って」


「えっ!?嘘、折角大切な奴れ……仕事仲間が出来たと思ったのにあんまりだよ!」


「今さっき奴隷って言おうとしましたよね」


 完全にサボり慣れしている自称店長には流石の私も嫌気が差してきた。


「大体ですね、何で腕が6本あるのにちゃんと活かさないんですか!大体お弁当屋さんやるにしても普通の人と比べてかなり大きなアドバンテージだと思うんですけど!」


「あどばんてーじ?」


「"優位性"のことです!とにかく、今日という今日は働いてもらいますよ!ダメ店長!」


「拙者、働きたくないでござるぅ~」


 泣いて悲鳴を上げる彼女にまた一つため息を吐いてしまった。

 本格的にこれは辞め時かもしれない。と思った次の瞬間、急にドアが開いた。


「すみません!"奴隷アルバイト"の募集と聞いてやってきました、尾崎須佐野おざきすさのです!宜しくお願いします!」


 突然現れたのは、大学生くらいの絵に書いたような美男子であり、少し私もときめいてしまう程の眩い後光を放っていた。


「ねぇ、店長」


 私の呼びかけに答える暇もなく阿修羅ちゃんはその須佐野という男に一目惚れしていて動かない。いやビジュアルに単純すぎかお前。


「えっ、本当に私の職場で大丈夫なんですか?てかどこ住み?LINEやってる?」


「出会い厨か!」


 恋心剥き出しの彼女に物怖じすることもなく、彼は話しかける。


「貴方が店長さんですか?お会いできて光栄です」


「いえいえ、こちらこそほんと!」


「良かったら仕事仲間からでも、いえ、お友達からでも、バイトさせてください」


「即・採用ッッッ!」


「いや、何見せられてるんだ私」


 あまりにも単純すぎる店長を差し置き、私が横槍を入れる。


「あの、流石にこの場で即採用はマズイので、よろしければ私の方で正式な面接を行いたいと……」


「いや、稲葉ちゃんまだこの弁当屋で働き始めたペーペーバイトじゃないですか!私の須佐野くんを取ろうったってそうは行かないですよ!」


「どの口が言うんですか」


「ぐぬぬ」


 私が眼力で弾圧した所で彼の面接を行った。尾崎須佐野。年齢の欄を見ると何か凄い数字が書かれている。多分1300歳くらいって……。


「いきなりなんですけど、この1300歳って何なんですか」


「あぁ、それですか。ジョークですよ!ジョーク」


「ジョークにしても度が過ぎてる!」


 他にも職業は天の神、来歴はヤマタノオロチ討伐だの、全くジョークとは程遠い内容が書かれている。一応聞いてみることにはする。


「もしかして、貴方様」


「なんでしょう?店員さん」


「スサノオノミコト様ですよね、これ」


「おぉ!それを知っているとはお目が高い!確かに僕はスサノオの生まれ変わりです」


「マジで言ってるんですか!?」


 流石の私も腰が引けて椅子から落ちてしまった。

 流石にそれは信じられない。こんな辺鄙な弁当屋まで尊大な方が訪れる訳が無い。


「冗談ですよ、冗談。半分くらい」


「どっちなんですか!というかもうおかしいですよね!色々と!」


 やはり駄目だ、こんな変人をこのバイトに入れてしまえばただでさえ阿修羅ちゃんの面倒を見るのが辛いのにこの人まで面倒を見なきゃいけなくなる。流石にそれだけは避けたい。


「あの……すみません、今日の所は……」


「でも、もう店長に採用通知頂いたんで」


「えっ」


 彼が手に持っているのをまじまじと眺めるとそこには如何にも手書きで書いたかのような採用通知が。

 判子まで手書きなのが地味に凝ってて腹が立ったのでそれをおもむろにビリビリと破いた。


「こんなん認めるかぁ!」


「私の採用通知がぁぁぁ!」


 こうして残念系イケメンと実質無職系美女の2人に挟まれてバイトする事になってしまった私は何だか凄くやるせない気分になった。


「この制服素敵ですね」


「似合ってますよ、須佐野さん!」


「私の事は須佐野って呼んでください」


「呼び捨てOK、貰っちゃいましたぁぁぁ!!!」


「2人ともさっさと支度してください!何故か今日お客さん多いんですから!」


「「ごめんなさい!」」


 一番仕事歴としては未熟な私が一番しっかりしているのも考えものである。


 仕事が一段落し、彼は私に問いかける。


「そう言えば稲葉さん」


「どうしました?須佐野くん」


「貴女とは以前、何処かでお会いしたような……」


「いえ、覚えてませんけど」


 イケメンに見覚えがあると話しかけられ思わず赤面してしまった。

 履歴書にあんな風に書いてしまう天然ポンコツでも、こんな風に言われると少し緊張する。


「須佐野さん!稲葉ちゃん!怪談しましょ!」


「「最悪のタイミング」」


 私達が声を揃えて言ったが、彼女は小首を傾げた。


「もしかして、稲葉ちゃん、怖がりなんですかぁ~ホレホレ」


「べ、別にそんな怖がりという訳でもないです、というかまだ仕事中ですし」


「もう今日の就業時間はおしまーい!店長命令!」


「そんなんでいいのかよ店長!」


「店長、凄く大胆に仕事切り上げますね……」


「ああゆう奴なんですよ、ほんとに」


 阿修羅ちゃんにも聞こえるぐらいの声で耳打ちしたが、どうやらそれに聞く耳も持たないらしく。


「それじゃあ今から怪談するので、今から私の家に来てもらいまーす!」


「唐突だなおい!」


 こうして半強制的に彼女に連れられ、バスで30分ほど揺られ、着いた所が……。


「はい、ここ!私の家!」


「はいここって……ここ洋館じゃん!しかも滅茶苦茶古い!こんな所住んでんの?お前!」


「何よ、人の住まいに文句あんの?喧嘩上等!」


「いや、別に……」


 腕6本で怒りを体現する彼女にはどうやら常識という言葉は無いらしい。それだけである意味そこら辺の怖い話よりかは寒気がした。


「しかし、中は案外住みやすそうではありますよね、手入れも行き届いてますし……」


「ヒェアッ!?」


 戦慄した。私の後ろ肩をポンポンと叩く謎の手が。


「どうしました!稲葉ちゃん!」


「いや……後ろから……誰かにポンポンって……!」


「何だと!?早く私がこの"天叢雲剣あめのむらくものつるぎ"で除霊致す!」


「やめて!多分それしたら私まで斬れちゃうから!」


 冷や汗と涙で怯えてしまった私は不気味さを覚えていた。


「ギェアアアア!!!」


 また後ろから触られ、私は悲鳴を上げる他無かった。でも須佐野くんも阿修羅ちゃんも驚いた様子はない。


「いや、阿修羅ちゃんの腕見えたぞ」


「え」


「いやー、稲葉ちゃんが驚くの面白くて……」


「阿ー修ー羅ー?」


 明るくなっていた阿修羅ちゃんの笑顔も段々と暗くなっていく。私の顔が段々と鬼の能面のように怒りに満ちていたからだ。


「もうしません」


「よろしい」


 シュッと顔色を戻し、須佐野くんの方を見ると怯えた様子でこちらを見ていた。


「女の子同士の友情って、恐ろしいものですね……」


「何を今更」


 ようやく怪談をする(と思わしき)場所にたどり着いた。


「まず私からー!」


「随分と乗り気ですね、阿修羅ちゃん」


「ふふん、何せ私自体お化けみたいなものですから」


「唐突な自虐やめろ、後さっさと怪談話始めろ」


「わかりました」


 すると部屋は少しずつ暗くなり、ろうそくの明かりが三つだけになった。


「海外では切り裂きジャックという謎の怪人がいまして……」


 あれ、急にそこから話入るんだ。もっと前置きとかしなくていいの?


「その切り裂きジャック君はバッタバッタと人を切り殺す事で有名でした」


 君とか付け始めたし、バッタバッタってそれ主に時代劇で使われる擬音じゃないかな、うん。


「ある日、夫人が歩いていると、切り裂きジャックは近づきこう言います『お前のパンスト食わせろ』と」


 いやいやいやいや。絶対言ってない、多分本家に失礼だと思うんですけど。


「こうして彼はえぇ、まぁなんか色々と殺して回ったそうです」


 まとめ方雑かよ。


「終わりです、ろうそく消さなきゃ」


「怖い話下手すぎでしょ!もっと話法勉強して!」


「いやー、それほどでも」


「褒めてない!」


「ハハ、気付けば笑い話になってましたね、私、このバイトに決めてよかったです」


 どうやら変わり者の須佐野君は満足してくれたらしいので良しとする。


「じゃあ、次!どっち行く?」


「私、やります」


「おぉー!稲葉ちゃん!一体どんな怖い話を聞かせてくれるのですか?」


「後悔するんじゃないですよ」


「え?」


「怪談とはこうやって話すものです」


 数分後、そこには恐怖で悶絶する二人の姿が。


「何でそんな怖い話知ってるの!?夜中トイレ行けなくなる!」


「知りませんよ、今までの仕事しなかった報いです」


「本当に恐ろしかったですよ……。とは言え、一体どこでそんな話術を……?」


「いえ、そんな……今まで怖いと思った事を思い返して、自分を追い詰めながらも特徴を捉えただけですので」


「「闇が深い!」」


 未だに恐怖が解けない阿修羅ちゃんに代わって最後に須佐野君が声を上げた。


「ゴホン、次は私……」


 何故かそこでろうそくの炎が消えた。風が全く吹いてないその状況ではむしろそっちの方が恐ろしく、阿修羅ちゃんは私達そっちのけで部屋から抜け出し、逃げてしまった。


「ちょっと、阿修羅ちゃん!須佐野くん、追いましょう!」


「え、私の話は……」


「後でいいですから!とにかく今は!」


 恐怖に耐えられなくなり、腕を四方八方に振り回しながら走り回る阿修羅ちゃんは正直言って異形以外の何者でも無かった。

 とにかく彼女を呼び戻さないと始まらないので何とか捕まえ、話を聞くことにした。


「びぇぇああああぁぁ!!!」


「落ち着いて、何が怖かったのよ!」


「い……い……」


「一体何があったの?大丈夫なの?」


「稲葉ちゃんの後ろの窓に……切り裂きジャックの物陰が……」


「ぎゃああああああ!!!???」


「2人とも落ち着いて!冷静に!」


 精神的動揺が止まらないまま、私達は全速力で走って洋館を後にした。

 バイトをしている今現在も、命に別状はないものの、正直不安である。


「どうしよう……私、殺される……!」


「大丈夫ですよ、あの人はそんなことしません」


「えっ!あの時の影の主知ってるんですか!?」


 須佐野くんは躊躇わずに答える。


「えぇ、山田大蛇やまだおろちっていう酒好きの厄介者です。いつも私を偵察しようとやって来るんですよ」


「なにそれ!?逆に怖くないですか!?」


 彼の謎事情を含んだ人脈に困惑しながらも今回の肝試しは本当に肝が冷えっぱなしで幕を下ろした。多分もう二度とやらないと信じたい。

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