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#7 異世界も、まずは形から

「練習がてら行ってきなさいよ!」


「え、待って」


 まだ慣れてない!様子見したい!という心の叫びは届かず、セリエに背中から押し出されて、受付でセリエの走り書きメモと依頼紙を渡す。


 受付にいたのは、僕の登録もしてくれた、窓口スマイル溢れる、中性的な、つまりイメージ通りの……ごめん、それ以外の特徴がわからなかったや……とにかく普通な受付係の人。


「依頼完了お疲れ様です。トベユウトさんと、セリエ・リリエルカさんのパーティですね」


「あ、はい。そうです……えーと」


 何をすれば良いかわからず、どもっていると、その受付係さんが教えてくれた。


「ルギスギルドでは、依頼の達成時に依頼者本人の証明となる『しるし』の入った依頼紙の提出をお願いしています」


「依頼紙のしるし……?」


「今回の依頼の場合は、私たち受付嬢がここで確認をするので問題ありません。依頼紙をそのまま、お渡し下さい」


 言われるままに、依頼紙を受付係さんに渡す。

 すると受付係さんは、白のビー玉を羽ペンでつついてから、依頼紙に何かを書いた。


「今回は私の署名で、しるしの代わりとさせて頂きます。依頼者がギルド以外の場合は、その依頼者の署名を貰うようにして下さい」



 『しるし』って何かと思ったら、サインの事か。

 受付係さんのサインは、魔術でも出てきた”秩序”の白いインクで書かれたみたいだ。『しるし』は、魔術的な意味も持っているのかもしれないね。


「そして、こちらが今回の報酬、50エレです。少なめですが、どうぞ」


 ありがとうございます、と深々お辞儀をして、受付係さんから報酬を受け取り、セリエの所に戻って、セリエに手渡す。


 戻るや否や、セリエに謎の質問を投げかけられる。


「なぁに?騎士様のまね?」


「え、何が?」

 何について突っ込まれたのか、わからず聞き返す。


「さっき頭を下げてたでしょ?騎士が貴族とかの、えらい人によくやるやつ」


「……お辞儀のこと?」


 自然な流れでやってた。けどここ、異世界だった。

 お辞儀って、この世界だとへんなことなんだ。


 そんな失敗を気にする僕とはお構いなしに、セリエが言う。


「そんなことより、ご飯食べに行きましょ。早くしないと、席なくなっちゃうわよ」


 あれ?さっき食べたばっかりな気がするし、まだ外は明るいけど……?


「あれ?もうそんな時間?」


 そう思って腕時計を見てみる。時刻は四時半……午前の。


 って何時だ?ここだと。


「それ時計でしょ?時間わかんないの?」


「えーと……」


 日本時間が今、午前四時半で、セリエと昼を食べたのが、八時頃……だっけ?


 こっちの世界の時計は……まだ見たことないから、今何時なのかわかんない。

 けど、仮に昼を食べたのを十二時としたら、今は八時半。もうとっくに日は沈んでてもおかしくないと思う……んだけどな?


「どしたの?」


「……」


 セリエに声をかけられて黙ってるのも悪いので、無理やり僕の感じてる違和感を言葉にする。


「夜ご飯って、こんなに明るいうちから食べるっけ?って思ってね……」


「夜?これから夏だから、もうほとんどないわよ?逆に冬は全くって言っていいほど、昼がないけどね」


「え?」


「えっ?」


 ……



 常識って、難しいね。



 ……なわけあるか。



 いくら異世界だからって、夜がない世界ってことは無いでしょ。


 何か、僕が知ってる常識と違うみたいなので、セリエに聞いてみる。


「えーと……僕は夜の長さって季節によって、そんなに変わんないと思ってたんだけど……違った?」


「そんなはずないわよ!冬はちょっとしかお日さまが出ないけど、夏になると『太陽が沈まない日』もあるってぐらい、夏と冬じゃ全然別物よ!」


「え……マジで?」


 さすが異世界。現実……だとここもか。えーと……地球にはなかったことを普通にやってくる。

 とネタっぽいことを考えて、いや?あったな?と地学の授業を思い出す。


 これ、あれだ。白夜だ。北極圏とか、そういうとこで起こるやつ。


 なるほど、夏に向かっている今でこそ、涼しいなーくらいで済んでるけど、本当ならもっと極寒の北国なのか、ここは。


「本当よ!冬なんか寒いのはまだいいとしても、ずぅっと暗くて参っちゃうのよ……。だから、冬だけ別の町に行く人も多いわね。私も、それでユシュティとか行った事あるのよ。本当はもっと南のミュインの方があったかいんだけどね」


「へぇー」

 地名とか全くわかんない。ユシュティは、また出たなって感じだけど。

 ついでに、いわゆる陰キャと呼ばれた人種だったから、会話の返し方もわかんない。人と対面で話すことなんて、今までほとんどなかったし……。


 けど幸い、セリエは気にせず話を続けてくれた。


「それでね、さっき言った『太陽の沈まない日』には、どこの町もお祭りなのよ。なんせ冬があれだからね……」


 なにその異世界っぽいお祭り。いや確かに異世界、のはずなんだけども……


 もっと、異世界って『俺にわからないことはない!俺無双!』って感じじゃないの?なんか、事前に読んでた話とずいぶん違う気が……



「で、何で時計持ってるのに時間がわからないのよ」


「この時計、ちょっと時間がずれててね……今の時間が分かれば直せるんだけど……」


 あぁぁ……時間一つ答えられない僕の異世界トリップ生活。


「それなら聞けばいいじゃない……リィナ。今何時?」


 むしろセリエに助けられっぱなしだよ。これじゃラノベタイトル『現代高校生の異世界無双!』じゃなくて『セリエさんの異世界無双!』の方が合ってるよ。現実に起こってるんだけども。


「はい、今見てきますね」


 セリエに呼ばれて、さっきの受付係さんが反応する。リィナさんっていうのか、あの人。


「リィナさんも呼び捨てなんだ」


「別に、知らない間柄ってわけでもないからね」


 受付のカウンターに寄りかかりながら、セリエが言う。

 昼には居たはずのギルドの人たちは居なくなっていて、カウンターの向こう側は静まり返っている。

 その様子を見て、セリエが続ける。


「受付嬢、いつもはもっといるんだけど、なんか少ないわね……まさか皆、もう席取っちゃってたりして……。ユウト!時間だけ聞いたら、急いで行くわよ!」


 急にそわそわし出すセリエ。なんか場所取り合戦みたいな感じがするけど、何が起こるんです?


 そこへ小走りでリィナさんが戻ってくる。


「遅くなってすみません。今の時間は午後九時半です」


 午後九時半、もう真っ暗でもおかしくない時間じゃないか。夕焼けさえ、まだ時間がかかりそうなのに……

 思ってたより大きい時差だったけど、とりあえず時間を合わせよう。今の時間が午前四時半だから七時間戻してっと。


「ありがとリィナ。ユウト、時計直すのは時間かかるだろうし、後にして早くいくわよ。昼を食べた所だし、ちょっとの間なら時間くらい覚えてられるでしょ?」


 と急かすセリエ。といっても、少しネジを回すだけなので、もう時間は合わせ終わっている。


「いや、もう終わったから行けるよ」


「もう終わったの?魔法具とかだと、もっと時間かかると思うんだけど……魔法具じゃないの?それ」


 ここで、セリエが驚く。いや時間を合わせただけなんだけどね?この世界の時計は『魔法具』だから、もっと合わせるのにも時間がかかるのかな?


 それ以前に、別に魔法で動いているわけじゃない、ただの腕時計なんだけど……行き過ぎた科学は魔法にも見えるって言うしなぁ……


 ここにも常識のズレか。


「まあそう……かな?それより早く行かないと大変なんじゃない? 」


「あ!そうよ!もう良いとこなくなっちゃてるかもだけど……走るわよ!」


 そう言って突然走り出すセリエ。を、追いかけて、ギルド奥からのびる渡り廊下へ、僕も駆け出す。


 なんか、こっち来てからセリエの後を追っかけてばっかりな気がする。あんまり格好良くはないな。

 全く知らない世界だったら、そんなもんなのかなぁ……?

 でもそうするしかないからなぁ……暫くはセリエ先輩の下で見習い冒険者、頑張ろっか……。


 そう考えて、頭を()ぎる疑問。


 異世界転移モノって、こんなにしょぼかったっけ?


 ……


 いや、まだまだこれから!と気合いを入れなおして、また、走り出した。



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