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#6 夢見た世界とリアルな世界

 ギルドから徒歩五分。石畳すらないただの広場に、ルギスの西市場がある。

 この広場に所狭し……という程ではないが、露天商がテントを広げて商品を売っている。そんな小さな市場だ。

 ギルドで拾ってきた価格調査の依頼ついでに、盗賊の短剣を売るあてがあるのだとセリエはいうので、ここにやってきた。


 夕暮れ刻の市場は閑散としていて、手押し車に残った商品を載せている人もいる。もう蛍の光が流れる時間みたいだ。


 西市場は、日中だけ人が集まって露天に商品を並べる、いわゆる露店市場で、その日によって露店の位置はかわることもあるらしい。


「だいたいいつもはこの辺にいるはずなんだけど……」


 セリエの贔屓にしている露天商の店を探しながら、他の店の売れ残っている商品を眺める。


 麻布や籠、木製の食器や、薬草らしき植物の束、それに……石?砥石かな?

 などと、慣れないウィンドウショッピングをしていると、不意にセリエが声を掛けられた。


 ・・


「おっ!セリエの嬢ちゃん!鉱山の方で足りねぇモンは無かったか?」


 声のした方を向いてみると道具や小物を並べた、いかつい露天商の男が野太い声で話しかけてきていた。


「強いて言うなら人手が足りなかったわね。ゴーレムとか高く売れるかもよ?」


「それこそお前さんの儲け所じゃねぇか!なんだっけか……羽でなんか書くやつ、使えんだからよォ!」


 威勢のいい筋肉隆々のおっちゃん。体もデカけりゃ声もデカい。そんな大声だすとご近所様に迷惑ですよと言うべきかどうか……


「生命ぶつけてケガ治しましたーってだけのえせヒーラーよ?今日なんか、えせ武器商やりに来たんだし」


 セリエの言葉に、おっちゃんは太い首を傾げて聞き返す。


「武器かぁ?そんなら俺よりもアレンヌまで売りに行ったらもっと儲かるだろ?」


 不思議がるようなおっちゃんの問いに、セリエはあきれたような口調で答える。


「なーんであんな騎士だらけの、寒いくせにむさ苦しい所に、わざわざ何日もかけて剣一本売りに行かなきゃならないのよ。それで見て欲しいやつなんだけど……ユウト、剣出して」


「ん?あ、はい。これです」

 ちょっと気が抜けてて不意打ちくらったけど言われた通り、盗賊戦で唯一の戦利品である短剣を、商品が乗っていない机の上に乗せる。


 すると、おっちゃんは短剣をひょいっと持ち上げ、剣先や柄の部分を覗き込んでいく。


「ほーう、悪くねぇな。いかにも盗賊どもが使いそうな簡単なつくりの短剣だが……180クロネってとこだな。研ぎゃもっと高値で買ってやれるがいいのか?」


 180クロネ。一人一食6クロネだから、30食分……30食分!?盗賊の短剣を売りに行ったらいきなり二人で一週間分のお金が……剣って意外に高いんだね。

 セリエがやってた鉱山任務の報酬、1日10クロネで言い換えると、18日分である。


 まともに18日働いて貰える金額と盗品の短剣が同じ値段……そりゃ盗賊をする人も出てくるわけか。


「いいわよ別に、研師の所に行ってもぼったくられるのは目に見えてるし、それにその儲けでイェルハルドさんのとこで羊皮紙とか入れてくれれば買いにも来るわよ?」


「あいよ。いつもの羊皮紙と……あと()のインク一式、次来る時までに揃えちゃる!他なんかあるか?」


「そうねぇ……あとはユウト、なんか欲しいものある?弓は無いけど」



 イェルハルドさんと呼ばれた露天商の男とセリエのやり取りを見てるだけの空気になってた僕のターンが来た。実はさっきから気になってたものがあるので試しに言ってみる。


「えーと、バッグ……というか荷物とか入れる巾着袋みたいなのが欲しいかな、こういうのとか」

 露天の上に乗せられた、リュックサック大の茶色い巾着袋、みたいな袋を指さしながら言う。


「そいつか、そいつぁ牛革から作ったやつだな。いつもなら100クロネってとこだが、セリエの彼氏さんに免じてまけてやる!70クロネでどうだ!」


「70!?」



 70クロネ=7日分の報酬。思っていたより高かった金額にビビって長考する。食べ物にも困るような状況で買う蛮勇はなかなか湧かない数字だ。



「ちょっ!!だから彼氏なんかじゃないって!!ユウトはパーティーメンバーなだけで……」

 その隣で間髪入れずに、慌てながら否定するセリエ。二度あることは三度ある。


「なんだ違ったんか?あのセリエが、ギルドの受付嬢以外の、しかも男と居るとこなんざ初めて見たからな。てっきりどっかで捕まえてきたもんだと思ったんだが……」


「違うわよ!もぅ……。でそれ、70クロネよね。買うわ」


「まいどっ!したら、残り110クロネ、はいよ!」


「え!?いいの?」


 7日分の報酬という大金を使う巾着袋に、悩む事なくぱっとGOサインを出すセリエ。予想外のGOサインに思わず聞き返す。


「そもそも、ユウトが盗賊を倒してとってきた剣でしょ?ユウトが使いたいものに使いなさいよ」


「え、でも食費とかは……?」


「また働けば良いのよ。依頼はそう簡単には無くならないわよ」


 案外、セリエの方は気にしていなかったみたいだ。

 もしかしたら7日分って言っても、そんなに珍しい金額でもないのかもしれないな、と思いながら、受け取ったお釣りの110クロネを数えるセリエを、ぼんやりと眺める。


「……大丈夫そうね、ありがと。あとギルドの方での、依頼の品目調査なんだけど……やっぱりいつも通り食べ物だけ不足気味って感じかしら?」



 セリエがギルドで拾ってきた価格調査の依頼。

 依頼主がルギスギルド商工会で、幾つかの商品品目のうち、足りてないものに印をつけて、その他の品目の金額をメモする、という簡単な依頼……を片付ける。


 僕にはとても簡単とは思えないけど……なにせ文字が読めないからね。依頼紙の上には蛇みたいな線がにょろにょろと踊っているようにしか見えない。


「そんなとこだな、いやどれも足りちゃいないんだが、食べ物は特にだな。夕暮れ時に届けられた魚が残らねぇってんだから、儲かるにゃ儲かるでありがてぇが……気をつけねぇと品物どころかメシさえねぇってんだからたまったもんじゃねぇな!」


「そうよねーほんと、黒パンぐらいしか足りてるものなんてないものね……おっけー。それじゃあね、また買いに来るから」


 あいよっ!!と威勢の良い声に送られながら、来た道を戻るセリエ。僕も袋を受け取り軽く礼をしてセリエを追いかける。


 それにしてもなんだろう……

 言葉にすると、異世界に来て、それなりの大金が入って、仲間も出来て、それなりにチート無双も出来て……って筋書き通りの転移モノのはずなのに、びっくりするぐらい……普通。

 商品の値段にも一喜一憂するのってリアル過ぎない?普通は異世界って綺麗な魔法とか、浮遊島とかで感動するものじゃなかったっけ?


 大丈夫かなぁ……?ここの異世界生活。




 セリエとギルドに帰る道の途中、無言なのもなんとなく気まずいから、さっきの話について突っ込みを入れてみる。コミュニケーションは大事。


「もしかしてカロラさん以外友達居なかったの?」


 ほとんど勘だけど、セリエ……実質ぼっちなんじゃないかな?知り合いはいるとは言ってたけど……



「んなわけないでしょ?冒険者は普通、一人で行動してるからそうなるのよ。だからって恋人扱いしなくても……」


 冒険者は一匹オオカミって方が強かったのか。

 確かにそういう性格でもないと、わざわざこんなに生活がギリギリの冒険者にはなろうとは思わないかもだけど。


「でもみんなに言われてるよね、それ」


「ほんと、困ってるわよそれ。カロラとかイェルハルドさんならまだしも、モリバさんにまで言われるとね……」


 疲れきったように言うセリエ。ギルドに着くまで、そんな他愛もない話をしながらのんびりと歩いていた。


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