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#5 魔法は一日にして成すべし!(ただし初歩に限る)

 


 ギルドの入口の左側に、談話スペース……って言うのかな?ボロボロのソファーと、手作り感満載な、背の低い木の机が申し訳程度においてある空間。

 そこで、先にギルドの建物に戻っていたセリエと待っていると、いかにも商人そうな男が出て来る。特に毛皮の上着と運動をサボってそうなお腹がそれっぽい。



「誰かと思えばリリエルカ君か。生命の合成が二人と……彼氏君かね?」


「ちっ違います!そのー……パーティーメンバーです」


「ホゥ!君、名前は?」


「戸部優人です。戸部が姓で優人が名前です」


「ホゥ?トブ君はユシュティの出。かね?」


 でたよ、謎民族ユシュティ。

 セリエによるとこの辺りで唯一、姓名の順に名乗る民族で、髪と目が黒い人が多いらしい。

 和風の人種かな?と思って詳しく聞いてみたけど、どうも日本っぽくはない感じがする。いくらなんでも肉食万歳で石造りの建物に住む和風ファンタジーはミスマッチ感が半端ない。



「一応、アレイン出身です」

 ギルドの登録内容通りに答える。日本出身ですって言っても『何言ってんだね君は』ってなるだけだからね。あとトベですと修正。


「ホホゥ。訳アリという事だね。だがリリエルカ君が居るのだから問題なかろう。二人ともいつも通りの三割増し、12クロネでどうかね?」


 僕は判断できないのでセリエの方を見てみる。セリエの方は慣れてそうだし、下手に非常識なことして地雷を踏み抜きたくないからね。


「ありがとうございます。では明日、ギルド前広場で?」


「ウム。待っておるぞ」


 無事、丸く収まったみたいで……調子に乗らない、これ大事。


 にしても明日?一日で魔法を習得しなきゃいけないと……大丈夫?ここから突然「気合で乗り越えろ~!」的な熱血モノになったりしないよね?僕、帰宅部だよ?








「……」


「……♪~」


「おわ、まだやってる……あたしらからしちゃ、んな『お勉強会』より依頼をこなしてくれ~!ってとこなんだけどなぁ」


 依頼の束を持ったカロラさんに愚痴られながら『お勉強会』をする僕達。


 もちろん目標は志望校合格……果たしてこの世界に大学受験はあるのか、という疑問はそっちによけておいて、流石に関係ないと信じたい。


 ギルドの談話スペースにあった、一番丈夫そうな机と椅子を占拠して、この世界ですることと言えば……魔術を使う下準備、通称『お勉強会』らしい……セリエ談。


 机の上には、七色それぞれのビーダマ……みたいな魔力石と、不揃いの小さな羊皮紙、それと少し縮れた羽ペン。これが、セリエが出してくれた魔術スターターキット一式だ。


「はい。羽ペン持って!」


「えっ、これ?」


 どうやって持てば良いの?これ。羽が細くて持ちにくいんですケド……とりあえず鉛筆と同じに持ってみる。これで合ってるのかなぁ?


「そしたらペンに魔力をつける!」


「はい……はい?」


 ペンに魔力をつける……ってどうやるんだ?


「魔力石よ、魔力石。ペンでつついて魔力をつけるの!」


「え、こう……?」


 ペンにインクをつける感じ(の勝手なイメージ)みたいに、ペン先をそっと、青色の魔力石につける。


 するとペン先に、青色の光るインクのようなものがついた。


「そしたら羊皮紙の真ん中におおきく、三角形を()く」


「真ん中に……ってこれ、ペンの持ち方合ってる?すごく持ちにくいんだけど……」


「ごちゃごちゃ言わないの、はい、はやく描く!」


 セリエに急かされて、羽ペンを動かしていく。


 すると、まず驚いたのが、線の描きやすさ。羽ペンって『カリカリ』描くイメージだったんだけど、ほとんど引っ掛からずに、するする描けていく。

 そしてその後には、綺麗な青色のラインがきらめいていく。これが魔術か……


「そしたら次は地の魔力石につけて、三角形を三つ。地の魔力が水のに重なるように描いて」


 水は何となく青色なのはわかるけど、地は……


「これ、茶色の魔力石よ。まぁ、少し珍しいかもしれないわね」


「あ、はい。こう……?」


 セリエに指さされた魔力石を使って、さっきと同じように茶色の三角形を描いていく。茶色の三角形三つ、たぶん大丈夫。


「そしたら、最後に秩序の……えーと白の魔力石につけて、全部をマルで囲む!」


 はい……っと。綺麗に丸を描くの、かなり難しいよね。うーん、ちょっと縦長かな……


「これで『魔式』としては完成よ。あとは使う時に動かせば、”生命”の『(かなめ)』ができるわ。」


「待って待って。動かすってどうやって?あと、『カナメ』って?」


「そうね、まず『(かなめ)』っていうのは、こうやって作れる魔力のことよ。で、こういう『魔式』を動かすには、ね……」


 ビーダマのような魔力石たちを指差しながら、セリエが探し出したのは黄色の魔力石。


「例えばこれ、光」


 セリエが黄色の魔力石を手に取って続ける。


「羊皮紙に描いてある『魔式』を使うときには、光とかの『力になる魔力』で丸く囲んであげるの。そうすると囲った中の魔式が動くのよ」


「へー」


 ……


「なに待ってるのよ」


「?」


「いや、囲むのよ!それで!」


「え、今すぐ?」


「だってまだ”生命”の合成をしてないじゃない!」


 なるほど、それもそうだね。と、光の魔力石を羽ペンでトンと、つついてから、『魔式』の一番外側を黄色い線で囲む。


「どぉ?できた?」


「たぶん……お、光った」



 この『魔式』を”光”の線で囲むと、羊皮紙に描かれた図形がぐにゃっと動き出した。



「よーくみてなさい……まず"水"の素と"地"の素が混ざって……」


 青く光る線と茶色く光る線が、羊皮紙の上で液体のように、"光"の円の中で溶けあって……淡い桃色っぽい色になる。

 手を治した時と同じ、不思議な色の変化を見ていると、理科の実験でもやってる気がしてくる。



「そのあと"秩序"にまとめられて完成。紙の上だとゆっくりでわかりやすいでしょ?」


 セリエが理科の先生みたいに説明する。やってる事は科学とはかけ離れてるけど。


「まぁ、そ(・)ら(・)で描けるならその方が良いのだけど……」

 羊皮紙も使わないし『力になる魔力』を与える必要も無いしで安上りなのよ、とセリエが続ける。


「え、じゃあこれ要らなかったのでは?」


 桃色の光るインクが染みた……魔式が描いてあった……羊皮紙を指さして聞き返す。


「ユウトねぇ、それならそ(・)ら(・)で描いて見なさいよ。ぜぇったい綺麗に描けないから。だから普通は羊皮紙を使って描くのよ」


 そういうことだったのか……え、でもそうすると?


「実はセリエ、魔術とか結構できるの?」


「……良い勘してるわね……けど私のは相当練習したからよ。それに、そ(・)ら(・)で描けるのは”生命”の合成だけよ」


 勘の良いガキは……だと思って一瞬焦った。そういうことだったのか。


「じゃあこれで"生命"の合成もできるようになったから、依頼も大丈夫よね」


「まぁ……たぶん出来る、かな?」

 一回見ただけで覚えられる気はしない……けどまぁ、なんとかなる、のかな?


「思ったより早く『お勉強』も終わったし、パパッとできそうな依頼探して市場行くわよ。その剣も売らなきゃだし」


「あ、やっぱり僕の武器はこのバッグなんだね」


 そんなわけ……と言おうと思ったけど、教科書ノートetc.で四角く太ったバッグこと、通学カバンを見てると……うーん……行けそう……か、な?


 ……返事がない。ただの通学カバンのようだ……


「下手にボロ短剣を振り回すより確実に強いでしょ?それ。それに同じ武器使いが二人より、別々の武器使いが居た方が、融通も利いて何かと安心できそうでしょ?」


 セリエがMMOゲームのチームビルド論みたいな事を言ってる……それってここでも通用するものなのか……


 そういえば、セリエが使ってるのは片手持ちの短剣。僕の使う武器のジャンルが被らない、っていうのは、ゲーム的には良い事だ。


「それに、見たことないけど、ドラゴンとかには剣は効かない、っていうらしいからね。ソレで殴った方が、そういうのにはダメージ通るかも……っていうのもあるし」


 ドラゴン相手にメイン武器通学カバンで立ち向かう……?なんか、かなり……シュールっていうか……


「……せめて弓が欲しいとこだね」


 布と合成繊維だけじゃ、さすがに無理があるんじゃないかな。


「なら、なおさら売らなきゃよ。武器を何個も持ってても、使えるのは一つなんだし、小さいのじゃないと持ち運びが大変よ?」


 あ、そっか。ゲームなんかだと、武器を複数手持ちにストックして、ポーションを百個単位で持ち歩いたりしてたけど……現実じゃそんなにたくさん持てないからね。当たり前か。



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