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#4 予想外の刺客が教える食べ物の重み

「お昼ごはん食べてなかったの、すっかり忘れちゃってたわよ。ありがとね、言ってくれて」


「お腹鳴ってたのに忘れてたんだ」


「ちょっとぉ!あれ聞こえてたの?」


「てっきり聞こえたこと前提で、紹介料の使い道について話してたものだと」


 顔を真っ赤にしながら、パンを頬張るセリエ。このまま気まずい空気で昼食を……というのは避けたいから、適当に気になってたことを聞く。



「でもルギスはこれでも大きい町なんでしょ?僕じゃなくてもパーティーを組める相手もいるんじゃないの?」


「んぅ?冒険者って一匹狼が多いのよ。もちろん全員じゃないけど、パーティーに入るとパーティーで行動しなくちゃいけなくなる、それが嫌ってとこね。ましてや凄腕の冒険者は、自分でおいしい依頼を探すために王都まで出かけちゃったりするから、余計パーティーに入りたがらないのよ。パーティーを組むとパーティー全員で行くことになっちゃうからね」


「でもパーティーじゃないとだめっていう依頼もあるんでしょ?」


「そうね、でもそういう依頼ってだいたいいつも残ってるわね。どうしてもこなさなきゃならない依頼が出てきた時とかには、ギルドが一時的なパーティーの結成を呼び掛けてこなすぐらいよ」


 結構ギルドも大変なんだな……僕は食費についても不安でたまらないけど……



 昼食をとる事にしたお店は、ギルド裏の自然公園のカフェみたいな雰囲気の店で、小川あり、芝生ありのお食事処としては文句なし。なんだけど、このお店の……僕の異世界生活において、今のところ唯一にして致命的な問題が発覚した。


 セリエが報酬で貰ったお金は、三日間の採掘任務で30クロネとギルドへの新人紹介に対する報酬金30クロネ。僕はまだ盗賊の短剣を売ってないから、所持金0で合計60クロネ。


 それに対して今食べている食事は、握りこぶし大の黒パン一つに、小さい円盤状チーズとサラダ(中サイズ)の一セットでなんとお値段6クロネ!が二つで12クロネ……嘘だろ……



 しかもこれが、セリエによるとギルド直営ってことも相まって「良心的」な金額なんだってさ。



 セリエ一人だった時でも、鉱山採掘は一日10クロネ。毎食黒パンだけで、やっと三食食べられるという極限状態。日本では精々四分の一程度だったエンゲル係数が、三桁の大台を超えていくとんでもない世界。

 ラノベとか、どこ見ても日々の食費に困ってる作品なんてなかったぞ!どうすんの?これ。

 このままだと、ダンジョンとか冒険とかする前に自分達の身が危ない。誰かに狙われてるワケでもないのに生命の危機。

 取り敢えず、当面の目標はこの極限生活から抜け出す事。それが僕の異世界生涯のテーマにならない事を祈って。


 二度と食事を残したりできないね、こんな現実突きつけられたら……






 半日分の労働の報酬を胃に入れ終えたセリエが、読み方を教えながらいくつかの依頼を見せて来る。


「私が最近まで受けてたのがこれね、『採掘任務。一日当たり10クロネ、二食配給あり、詠唱魔法”幸運”持ちは報酬増、要相談』結構ぶっきらぼうだけど、これもルギスギルドの鉱山だから環境はいいのよね。知り合いも多いし……」


「ギルド自身も依頼を出すことがあるんだ」


「たまに雄公様からも来るわよ?魔軍との戦いから、道路整備までなんでも」


 なんか年度末に増えそうな感じの響きだね、その依頼。予算消化とかの関係で。



「その、ちょいちょい出て来る『マグン』ってとりあえず悪いやつらって認識で合ってる?」


「街にでてきては荒らしまわって根城に帰ってく世界の敵だから……だいたいそんなものよ」

 大問題っぽいことを言ってる割には、軽い口調で答えるセリエ。まだそんなに大変な状況でもないのかな?


「そうすると冒険者の目的って、その魔軍の王を倒すこと?」


「そのへんを目標にしている人も居ないわけじゃないけども、どっちかっていうとそれは雄公様たちの目標ね。だからこんなのもあるわよ……」


 そう言って、セリエが自分のバッグから依頼の紙を取り出し、呆れたような口調で読み上げる。


「求む!アレインの勇士!アレンヌ砦への駐屯に対し相応の報酬、一週間につき100クロネ、戦果次第で騎士叙任!……騎士ってまだいたのね」


 そう言いながら、また新しい依頼を取り出すセリエ。



「それよりもこれよ!『森林伐採。薪の切り出しのための人員募集!依頼者がルギスギルド商工会のモリバさんで、"生命"の合成が出来る人、報酬増、要相談!』……この人、随分儲けてるから報酬がいいのよ、伐採なのに素で一日9クロネ!ユウトと私の二人で"生命"の合成できますって言えば確実に採掘より上よ!」


 はじめからこれを受ける気だったんだろうなぁ……でも一つ流しちゃいけないことが、


「あのーセリエさん?僕、魔法わからないんですけど……”生命”の合成……とか?」


「まーそんな気はしてたけど大丈夫よ。合成ぐらいまでなら私でも教えられるし、この街の知り合いに魔法のエキスパートが居るのよ。……ちょっと難はあるけどね。ユウト、計算わかる?」


 計算?そりゃ中学数学と先生が暴走して終わらせちゃってた数一+αぐらいまでなら……


「まぁ一応?」


「それなら合成まではすぐできるようになるわ。じゃあこの依頼を受けるって事でオッケー?」


オッケー?って言われてもね……色々無茶が過ぎる気がするけど、これ選択肢一つしか出てないやつだよね。そうするのが良いんじゃないかな?たぶん。



「おっけー。先輩冒険者のセリエが良いって言うんだから、きっと大丈夫なんでしょ?」


「ちょっ!先輩って……確かに入りたての見習いじゃあないけども……」


「おぉ、照れてる照れてる」っと、そこで照れるのは予想外だったからつい本音が……



「とっ!とにかくっ!ギルドに戻って直接会いに行くわよ!着いてきなさい!」


 ギルドの建物の方へ、スタスタ歩き去るセリエを慌てて後ろから追いかける。



 ……食べ終わった食器の返却も忘れずに。なんか店員さんは驚いてたけど、べつに迷惑そうじゃなかったから大丈夫でしょ。


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