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#3 異世界の会話は要点も異世界

 ファンタジー世界、つまり現代ほど発展してない世界の『近い』感覚だから、今日中には着くって意味になるのを覚悟してた。

 けど、良い方向に期待を裏切られた。

 道なりに歩いて三十分。森を抜けた先の、小高い丘の頂上からルギスの町が一望できた。


 遠くに見える真っ白な雪原。右手側には大きな山脈。そして手前に広がる平原。その中の丘の上にある大きな教会を中心に、茶色い屋根の町が広がっていた。

 第一印象は、北ヨーロッパの世界遺産になった木造教会と、雪国の風光明媚な小さな町。なんとなくだけど……


 あと、どの屋根も傾斜がかなりある。ってことは、雪の積もる量が凄い事になってそうなのが分かる、ということ。社会科の知識って本当に役立つもんなんだね。



「まずはギルドにいくわよ。実は私も、今はそんなにお金を持ってないのよ……だから、新人さんの案内ついでに報酬も受け取りたいの」


「りょーかい。昼食はその後で?」


「そうね。もっとも、ちゃんと食べ物が届いていれば、の話だけど……」


 軽く辺りを見回して、何かを確認するセリエ。


「この雰囲気なら大丈夫そうね」


 特に何も無かったみたいだ。



「食べ物が届かないって、そんなこと起こるの?」


「最近は少ないけど、ルギスだと魔軍が出てくるとたまに届かないのよ。週に二回、公都のアレインから届くはず……なんだけど、来ないときは大抵略奪されてるの」


 魔軍、いわゆる「魔王軍」的なやつですね。たぶん。悪そう……


「で、四日以上、次の隊商が来ないと、ギルドで捜索依頼が出されるんだけどね。これの報酬が結構良いのよねー、ほらそこの建物よ」


 セリエが指さした広場の先に、二階建ての駅舎のような建物が見える。

 他の建物と違って大きめで、土台が石でしっかりと組まれている上に、中央の尖塔には濃い緑地に山吹色の何かの紋章の旗が掲げられてる。たぶん、このルギスギルドの紋章なのかな?




 「おっ、セリエちゃん。おかえりー。なぁに?その子。鉱山行ってただけに掘り出し物?」


 ルギスギルドの中に入ると、ギルドの受付係らしき人にさっそく声をかけられるセリエ。




「鉱山は関係ないけど、そんなとこよ。冒険者やりたいって。その前に私の報酬!相手なら後でしてあげるから」


「そりゃ嬉しいねぇ……紹介料は山分けに……」


「させないわよ?お昼ぐらいなら誘ってあげない事もないけど」


「それ出来ない事知ってて言ってるなー?」


「あんたみたいな不良嬢なら、どーせまた一人で抜け出して怒られてんでしょ?」


「それ、あんまりここで言わないでよー」


「へーきよ。どうせ周知の事実なんだし、それよりも報酬と新規登録の準備は?」


「へーい」


 セリエに催促されて、カウンターの奥へ向かう不良受付嬢。受付係が不良なのは大問題なんじゃないんですか?というか紹介料?


「今のはカロラ、ルギスギルド一の不良嬢ね。あの子の言ってることは依頼以外、真に受けちゃだめだからね?」


 依頼はいいんだ。腐っても受付係ってことか。


「セリエちゃーん。準備できたよー」


 カウンター越しに呼ぶカロラさんの所に向かうと「ボーイフレンドさんはそっち」と、隣の受付の所へ案内された。

 確かに、筆ペンや紙があるとか、カロラさんのとことは置いてあるものがちょっと違ってて、役割が分けられてるみたいだ。



 そこで、至って普通の事務員みたいな……カロラさんとは対照的な……受付係さんのいくつかの質問に答えて、書類に書いてもらい提出。

 出身地については少し困ったけど、ここルギスも属している"アレイン公領"ということにしてもらった。実際、この世界に来た時、初めて居た場所はこの近くの森の中だから、一応ウソじゃない。……と思う。はずだ。たぶん。


 それから少しだけ、依頼関連の注意を受けて登録完了。依頼完了証明を発行してもらわないと、直ぐには報酬が出せない場合があるとか、正式な依頼は掲示板上のものか、受付で直接受けとれるものしか無いとか……思ってた以上にいろんな制約があって驚いた。


「どう?終わった?」


「うん。出身地だけ、ここになってるけど」


「訳ありってことね。で、実際はどこなのよ」


「絶対に戻れない場所、これで勘弁して下さい」


「なに?悪い事でもして帰れなくなった人を匿うつもりはないわよ?」


「なんていうか……物理的に帰れなくなったといいますか?」


 正確には帰れるけど、帰る場所はなくなったというか……そういってると悲しいので、前世に縛られなくなったって言い換えとこう。



 グゥ~



 今度は僕じゃない。


「……私もお腹空いちゃったから、ご飯買いに行くわよ。報酬に紹介料まで出たから、ちょっとぐらい贅沢してもいいわよね?」


 え、僕に判断求めないでよ。


「セリエのお金なんだから、セリエが決めればいいんじゃないの?」


「そうは言っても貰った60クロネのうち、半分はユウトの紹介料で貰った分なのよ。なんか勝手に使っちゃうのが悪いというか……」


 あー、だから僕がギルドに参加するって言ったときに喜んでたのか……ある日突然、貰える報酬が倍になるっていったら、そりゃ誰だって喜ぶよね。



「それなら、持ち運ぶ用の保存食とか買えばいいんじゃないかな?僕のバッグは……武器になっちゃってるから、新しいのを買う必要があるかもだけど……その分は僕が持つからさ」


「いいの?それって、これから私と一緒に行動するってことでしょ?ユウトも自分のやりたいこと、とかあるんじゃないの?」



 何気ない提案、だったがセリエには驚きだったみたいだ。でもそんなこと言われても、


「行く当てもないし。それに実は、さっき受付の書類の文字とかわからなかったから自分一人じゃ依頼も選べないから……そういう意味でも一緒の方が良いかなーって……」


「え?」


「っ!」


 言ってから気づく。これ告白っぽくなってるぞ!


 変質者扱いされるのも嫌だから、あわてて付け足す。


「あ、いや、その、文字が読めないやつなんて、邪魔だってことなら別に……」


「ううん!そんなことないわ!むしろ"二人以上で"とか、そういう任務も受けられるようになるから大歓迎よ!ほかにも、ユウトと初めて会った時みたいに、盗賊と出くわしても逃げなくて済むようになるから、良いことずくめよ!……凄いわ、パーティーなんてルギスギルドにはほとんどいないから依頼が選び放題よ!ねっ、どれにする?」


「いや、だから読めないって……」



 正直、ここまで喜ばれるとは思ってなかったよ。しかも、異世界に召喚されて「助けて下さい勇者様」とかなら喜ばれるのはわかるんだけど、こっちは「字が読み書きできなくて依頼を一人で受けるのが心細いよぉ(´;ω;`)(意訳)」って言ったら喜ばれるってね。


 会話イベントを、初見で当たりの選択肢を引いてる感じに近いかな?僕、そんなに幸運って感じじゃなかったと思ったんだけどね……?

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