第13話
まあ、過去の双子がどんな奴だったのかはともかく。
葵から受けた生々しいの質問に生々しく答えるのもどうだろうか、と困っていると、もう1人の神様が、まさに救いの神として現れました――セーラー服を着た神様です。
もちろん、学生服を着ている生徒と同じ顔をしています。
「なんで茜様は葵様の服を勝手に着ているのだ?」
「たまには学生服のほうをちょっと着てみたい気分になった、とか?」
「ちょっととか、気分で、わざわざ体育の時間に男子の更衣室に忍び込んで、学生服に着替えて、かわりにセーラー服を置いていったわけだ」
「葵様のかわりに瑠奈を口説くのに必要だったし」
「で、口説けたのか?」
「うん、今夜はお持ち帰りOKだってさ」
「ちょっと待った! 勝手に話を捏造しない」
慌てて私は口を挟みましたが、双子は耳を傾けるそぶりすら見せません。
「ピクピクって感度良好らしいから、スゴく楽しい夜になると思うよ」
「捏造話を発展させないで頂戴」
しかたないので話題を変えます。
「そんなことより、ひょっとして葵と茜が入れ替わっていた?」
「見ての通りだよ」
葵が肩をすくめますが、私からすると2人を並べて比較したところで入れ替わっているかどうかわかりません。性別が違っているのだから二卵性なのでしょう。
だけど、2人とも中性的というか、葵が女顔ともいえるし、茜がボーイッシュな雰囲気でもあります。身長も170にちょっと届かないくらいで、葵が男性にしてはやや低め、茜が女性にしてはやや高め。髪型も葵は長髪ということになるし、茜はショートになるのでしょうが、やっぱりそっくりでした。
まるで同じ金型で成型されたフィギュアが二つ並んでいるようなもので、こんなのを見分けろといわれても無理。
「で、葵はしかたなくセーラー服を着ている?」
「まさか瑠奈は葵様にパンツ1枚で午後の授業をうけろと? どんだけ変態脳なんだよ」
「そんなこと言ってないでしょ! 体操服のままで着替えなければよかったじゃない」
「うん?」
葵は眉を寄せて考え込み、それからポンと手を叩きました。
「その発想はなかった、さすが瑠奈だ」
「いやいや、授業を受けるのに体操服とセーラー服と、どっちが恥ずかしくないか、わざわざ考える必要もないほど明確な問題だと思うけど」
「まあ、似合ってるからいいじゃないか」
「まあ、似合っているからいいことにしておこう」
2人で勝手に納得します。
そこに学武と月乃がやってきました。バケツをさげて釣竿を持っているところをみると、遅れてきたわけではなく、私と茜が馬鹿トークをしている間に部活をはじめていたらしい。
環境保全部だからといって、別に河原のゴミ拾いだけをやっているわけではないというか、いちおうゴミ拾いもやってはいますが、実際のところは特定外来魚の駆除という名目で魚釣りをやっていることが多いのです――ゴミ拾いはつまらないから!
バケツの中を覗いてみると5、60センチほどのアメリカナマズがぬめぬめと身をくねらせていました。1メートルをオーバーする個体も珍しくないアメリカナマズですから、それでも小さ目サイズですが、これぐらいが食べるにはちょうどいい。
部員全員の目が部室の隅に設置された水槽のほうに向けられました。釣り上げた直後だと泥臭く感じられることがあるので、しばらく奇麗な真水を張った水槽で飼うことになっているのですが、すでに2日前に釣り上げたアメリカナマズが3匹入っています。
これは入れ替えでしょう。
その3匹を双子が網でさっさと掬い、包丁でバサバサと頭を落としていきます。魚とはいえ生き物なのだから、打ち首にすれば結構な血が流れるのですが、どうやらまったく気にならないらしい。
私は魚とはいえ、それも特定外来生物に指定されている厄介者であったとして、生き物の首を包丁で切り落としたり、腹を裂いて内臓を抜くとか、絶対に無理。スライムとかゴブリンだったら軽く1万匹くらい殺してるはずだし、もう1万匹殺したとしてしもまったく平気なのですが。
呪術師というのは魔法使いの一種だから刃物は苦手、ということで。
もっとも、同じような魔法師の月乃は平気というか、アメリカナマズの生首を持って遊んでるのですが。
「まーぁ」
生首の顎のあたりを持ち、まるで腹話術の人形絵でも操っているかのように口をパクパクさせて、月乃は叫びます。極度のコミュ障でホワイトボードで会話するという設定、どこへいったのでしょうか?
まあ、教室と違って部室では割と普通に喋るというか、それでも相手は基本的に学武だけで、私や双子に話しかけてくることはほとんどないのですが。
で、ゲーム内嫁が両手を血まみれにして発した渾身のギャグなのに、亭主は苦笑いして首を傾げるだけ。
「意味わからない」
「まーぁって叫びそう」
やっぱり学武は首を傾げます。
私も同じです。だって「まーぁ」とか言われても。うーん、どうなんでしょうか? アメリカナマズが「まーぁ」と叫ぶでしょうか……叫ばない気がします。
だったら、どういう言葉なら納得するかということになりますけど、そもそも魚が声を上げるとは思えません。
あいつら、水の中に住んでるんですし。
あっ、でも、イルカは喋るか……正確には魚ではなくて哺乳類らしいけど、生態的には魚とかわらない生活をしている生物が喋るのであるのなら、他に喋る魚がいてもおかしくない理屈ですが……やっぱり「まーぁ」はないな。
だけど、月乃は諦めきれないようで、前のほうにアクセントを置いてみたり、反対に後ろを強く発音したり、声のトーンを上げたり、下げたりしてみるものの、やっぱりアメリカナマズが叫んでいるのようには聞こえませんでした。
だいたいアメリカナマズが喋れるとしても、首を落とされて「まーぁ」はないでしょう。首の切断に対して普通に「痛いな」とか言われても困りますけど……ん?
そういえばアメリカナマズが日本語を使うのは変かも?
英語か?
アメリカナマズは英語を喋るのか?
アイムデッドとか……いやいやいや、やっぱりありえません。
葵が手早く3枚におろして、中骨を取り除けると、一口サイズにカットしました。それを受けとった茜が生卵に潜らせでパン粉をつけます。鍋の中の油が熱くなってきたのを見計らって投入。しばらくすると、香ばしい香りが狭い部室の中に充満して、痛いほど胃袋が刺激されてきます。双子は料理が上手いのです。単純に味がいいという意味ではなく、そこも含めて手際がいい。
私が環境保全部に所属して、ちゃんと部活に参加するのは、全寮制で3食ついてるのだけれど、その寮飯があまりおいしくなく、ところが双子が料理する白身魚のフライは絶品だからなのでした。
嫌な学園生活にも、少しはいいことがあるってことね。




