第2話 上
「むむ……何じゃここは……」
俺は足を止め、あたりを見まわした。
最初の町を発ってから10日目のことである。
街道沿いに石造りの立派な建物が並んでいるが、人の姿は見えない。
「おかしいな……ひとつ前の町で聞いた話では、殷賑な宿場町だということだったが……」
道を行く者もないし、建物の窓や扉は閉ざされている。一番大きな建物はどうやら駅家らしいが、ここにも人気はない。
「何だか不気味だのう」
唐土という先進国に学んだ身なので、幽霊だとか妖怪だとかは信じていない。孔子も「不語怪力乱神」といっている。それでも空っぽの町というのはあまり気持ちのいいものではなかった。
俺は足早に町をとおりぬけた。
街道は森の中に入っていく。まだ日が高い時間のはずなのに、あたりが薄暗くなってくる。
さっきの町とはまた別種の不気味さを感じながら歩いていると、道端の藪ががさがさと鳴った。
枝葉を分けて現れたのは、額から血を流した男だった。
「あー、やっぱおるじゃねーの、幽霊って」
俺ははじめて見たそれをまじまじと観察した。
男はうつろな目をして、よろめきながら歩いていく。日本の幽霊ならもっと浮和浮和しているところだが、この国のは肉体に存在感がある。
「お国柄だのう。まあとりあえず成仏してくれい」
町へと向かうその背中に経を唱えていると、また別の気配があった。
見れば、森の中から10人ほどの幽霊が青白い顔をしてやってきている。
「うーむ……幽霊はもう一生分見たな」
1体だけなら多少は怖いが、これほど多いと感動も薄れるというものだ。
幽霊たちはみな一様に苦悶の表情を浮かべ、それでも何かに誘われるように浮羅浮羅と歩いていく。
道の端に寄り、彼らのために誦経していると、
「おい、あんた――」
1体の幽霊に呼びかけられた。「いったい何者だ?」
その幽霊は布で腕を吊った別の幽霊に肩を貸して歩いていた。彼自身は無傷のようだ。俺をいぶかしげに、そしてどこか憎々しげに見つめる。
「俺は旅の僧だ。名は平梵扶通」
「お坊様かあ」
彼は表情を緩めた。「お坊様なら人助けが仕事だろ? 俺たちを助けてくれ」
「うむ、だからこうして経を――」
「見てのとおり怪我人だらけだ。町まで連れかえるから、手伝ってくれ」
「あ、そっちね」
この連中はどうやら生きてる人間らしい。まあ、そりゃそうだろう。俺は火の出るような勢いで幽霊いない派に鞍替えした。
さっき俺がとおりすぎた町まで来ると、無傷の男は呼子を吹いた。
沿道の建物の扉が開かれ、人があふれでる。
「あー、やっぱおるじゃねーの、住民が」
俺がいうと、肩を貸してやっていた男が力尽きたのか、その場にへたりこんだ。彼は捻挫でもしたらしく、足首のあたりが倍くらいに膨れあがっている。
町の者たちが怪我人に駆けより、介抱する。老人たちが無傷の男に詰めよる。
「奴はどうなった」
「矢のひとつも浴びせたのか」
無傷の男は頭を振る。
「奴の影も踏めなかったよ」
それを聞いた老人たちが肩を落とす。
「何があったのかね」
俺はとおりすがりらしい野次馬根性でもってたずねてみた。
老人たちは怪訝そうな顔をする。
「あなたは?」
「旅のお坊様だそうだ」
無傷の男がいう。
「お坊様……?」
「ということは、力を貸していただけるかもしれん」
老人たちが顔を見合わせ、何やら話しあう。やがて長いひげの爺さんが進みでてきた。
「実は、森に悪魔が出るのです」
「何……?」
俺は来し方にある森をふりかえった。「そんなもの、いるわけがない」
「それが本当にいるのです。街道を行く旅人を襲うので、宿場であるこの町に人が寄りつかず、たいへん困っています」
「俺はこのあたりの森番をしている」
無傷の男がいう。「今日、町の男衆とともに森へ行き、悪魔を退治しようとしたのだが、返り討ちに遭ってしまった」
「その悪魔を実際に見た者はいるのか?」
「遠くに見えただけだが、獣の姿をしていたという」
「なら獣の見まちがいだろう。悪魔などいない」
「ただの獣じゃない。奴は罠を作って俺たちを傷つけた。毒入りの餌も効かない」
「本当かのう……」
俺は首をひねった。
額を寄せて何やら相談していた老人たちが俺を取りかこむ。
「お坊様、どうか悪魔を退治してください」
「我々をお助けください」
「俺からもお願いする」
森番が頭をさげる。
町の者たちも、怪我人までも寄ってきて、俺に手を合わせる。俺の衣をつかみ、額に押しあてる者もいる。ひれ伏して俺の足に口づける者まで出てくる。
「むむむ……」
悪魔なんかないさ、といってしまったが、それでよかったのだろうか。
救いを求める彼らの真剣なまなざしが俺の中の禅を熱く燃やす。
こうなりゃ体を張るしかない。扶けては断橋の水を通す(橋が壊れて困っている人がいれば助けて川を渡してやる)――俺の法号・扶通の由来となったことばだが、そうやって禅僧は人を助けるものなのだ。
「本当に悪魔はいると思うか?」
俺は善男善女に問いかけた。
「います」
彼らは声をそろえる。
「俺はいないと思うがな」
「しかし――」
「ではその悪魔がいたとしよう――」
俺は諸肌脱ぎ、修行で鍛えあげた肉体を披露した。「それを無に帰すときが来た!」
「ヒューッ」
町中が拍手喝采に包まれる。
「お坊様が悪魔を退治してくださるぞ。みなの者、今宵は宴だ」
「B・O・S・E! B・O・S・E!」
俺は殺到してきた群衆に抱えあげられ、そのまま神輿のように運ばれていった。
「むむむ……ここはいったい……」
目がさめると俺は、ふっかふかの干し草に埋もれていた。
しかもなぜか素っ裸である。
見あげると、梁と屋根の裏側がその木目を薄暗い中にぼんやり見せていた。
「確か、町の者とどんちゃん騒ぎしていたはずだが……」
宴の途中あたりから記憶が定かでなく、何があったのか思いだせない。
狐狸の類に化かされたのか、あるいは宿場町と見たものが変態追い剝ぎ教団だったのか。
服も笠も草鞋もなくなってしまったが、まあ、中途半端に盗られるよりはいい。無一物中無尽蔵ということばもある。何もないところからはじめるというのもいいものだ。
俺は気持ちを切りかえ、思いきり伸びをした。
すると何やら柔らかいものに触れた。柔らかくて丸くて、先っちょに狐狸狐狸したものがついている。
それを撫でたり揉んだり狐狸狐狸している内、となりにもうひとつ同じものをさぐりあてた。
「むむ、これは何ジャイナ」
さらに両手でもってお触りおさすりしていると、
「ねえ、またするの?」
何やら艶っぽい声がした。
はてな、と思い、身を起こすと、そこには裸の女が寝ていた。
「ややや!」
驚きの声をあげる俺の背後でさらに、
「お坊様、ずいぶん早いのね」
と声がするので、ふりかえると、またも裸の女がいる。こちらは金髪で、先のは黒髪だ。どちらもうつくしい肌を干し草にくるみ、しどけなく横たわっている。
う~む、俺の運命や如何に!
「どうしたの、きょとんとして」
「昨日のこと、おぼえてないの?」
2人の女に顔をのぞきこまれる。俺は振珍のまま結跏趺坐し、ポクポクチーンと昨夜のことを思いだそうとした。
「肉を勧められたので食い、麦酒を勧められたので飲んだ。そこまではおぼえているが……」
「そのあと、『スモーを教える』とかいって男の子たちを広場に集めたのよ」
「それで男の子たちを裸にして、自分も裸になって、何だかぶつかりあってたわ」
衝撃の事実! 変態追い剝ぎ野郎は俺だった!
「そんな楽しい思い出が記憶から抜けおちているとは残念無念……」
俺はがっくりうなだれた。
「そのあとで私たちを誘ってきたのよ」
「すごく強引だったんだから」
女たちがその裸身をすりよせてくる。それにしてもこのふたり、かなりの美人だ。やるじゃねーの、昨日の俺。
「ねえお坊様、本当にあの悪魔を倒せるの?」
黒髪美女が俺の肩に触れる。
「昨日はずいぶん自信満々だったけど」
金髪美女が俺の太腿を撫でる。
「なーに、いまから行って軽く退治てやるわい。だがそれより――」
俺は彼女たちの柳腰を抱きよせた。「おぬしたちの退治が先じゃーい!」
というようなことをいって、いろいろと狐狸狐狸やっとる内に、すっかり日が高くなってしまった。
俺が街道に出ると、悪魔討伐に向かう男衆は準備万端で集まっていた。
「やあやあ、遅れてすまん」
「むっ」
森番がにやりと笑う。「お坊様、ずいぶん白粉臭いな」
「フフ……これも作戦の内よ。魔物は陰の気を持つ。そして女性もまた陰。つまり、陰の気に紛れて魔物は俺の気配を察知できぬのだ」
もちろん口から出まかせである。そもそも魔物なんかおらんからね。
なぜか男衆は盛りあがる。
「おおっ、策士だ……」
「さすがお坊様」
どうも彼らに過大評価されている気がしてならない。その内、俺が息をしただけでも絶賛されるようになるのではなかろうか。
町の者から弁当を受けとり、俺たちは出発した。
街道を西へすこし行き、そこから森に分けいる。
日本の森とくらべて何だか暗く感じる。日本のは基本的に山だから、山頂という行きつく先がある。一方、この国の森は平坦なので、どこまで行っても抜けられないような気がして不気味だ。
「お坊様はこういうところを歩いたことがないだろうな。出家といえばずっと籠って本を読んでいるもんだろ?」
となりを歩く森番がいう。
「俺の師匠は若い頃、一所に住まず旅を続けた人でな、その影響で俺もいろいろなところを旅している。森や山はもちろん、砂漠にも行ったぞ」
「ほう?」
「それに俺はもともと山家育ちなのだ。生国では、こうやって森に入ると、熊という恐ろしい獣に襲われることがよくある」
「そいつに出くわしたらどうするんだ」
「そりゃあ逃げるのよ」
「悪魔は退治するのに獣だと逃げるのかい」
「獣にいくら経を唱えても効き目がない。悪魔ならその点、ことばが通じるだろう」
「なるほどな」
森の中は日が差さぬせいか、下生えもなく歩きやすい。
俺はいつの間にか物見遊山気分になっていた。
「どれ、そろそろ弁当でも――」
なんてことを口にしたそのとき、油断からか、何かに足をひっかけ、転倒してしまった。
「あ痛っ」
これは森番に笑われてしまうと思い、顔をあげてふりかえると、さっきまでとなりにいたはずなのに、いない。
「ややっ、あやつどこへ……」
あたりを見まわすが、森番の姿はない。
あの一瞬ではぐれるはずもないが……。
逆転の発想で、俺がはぐれてしまったということもありうる。つまり、牛車に轢かれてこの世界にやってきたのと同じように、転んだ衝撃でまた別の世界に来てしまったのだ。
しかしあの程度の痛みで異世界に放りこまれるというのなら、おちおち女に乳首を責めてもらうこともできんわい、と茫漠たる不安に駆られていると、近くの藪の中から「助けてくれ……」という弱々しい声が聞こえてきた。
またぞろ新しい冒険の幕が開いてしまったか……と思い、その藪の中に飛びこんでみるというと、例の森番が仰向けに倒れていた。
「おぬしもこの世界に……?」
よく見ると、森番の肩に矢が突きたっている。衣に血がにじみ、顔は苦痛にゆがむ。
「どうした。誰にやられた」
「罠だ……」
森番が荒い息の下、答える。
「罠……?」
「お坊様が足をひっかけて……発動させた……」
「あっ……」
俺は自分がコケたところまでもどってみた。何やら怪しい蔦が落ちている。それをたどっていくと、木の叉に据えつけられた弓につながっていた。
やっちまったなあ、俺……。
とりあえず森番には手当てが必要なので、「誰かー!」と助けを呼んだ。
「どうした?」
「だいじょうぶか?」
男衆が集まってくる。
と、1人の男が突然消えうせた。
「ギャーッ! 落とし穴だ!」
そこに駆けよろうとした男を、蔦に吊りさげられたでっかい丸太が、寺の鐘をつく撞木の要領でつきとばした。
「グワーッ!」
別の男がくくり罠にかかり、木のてっぺんから逆さ吊りになる。
「助けてくれぇ!」
男たちがみるみる狩られていく。
「はわわわわ……」
俺はすっかりうろたえてしまっていた。
そこへ、
「誰かー!」
遅れてやってきた男があった。
「気をつけろ!」
俺は彼に向けて怒鳴った。「このあたりは罠だらけだ!」
男は慎重に歩を進め、俺の衣にすがりついた。
「お坊様、たいへんです」
「どうした。どこをやられた」
「弁当を盗られました」
「いや、知らんわ」
あの勢いからして珍宝の1本や2本持っていかれたのかと思ったが、まったくどうでもいい話だった。
「おぬし、元気そうだな。怪我人を連れて町まで帰れ」
罠にかかった者たちに応急手当をしてやり、送りだす。
「お坊様は?」
「俺は残る」
「危険です。悪魔が来る」
「望むところよ」
俺は怪我人たちを見やった。「許さんぞ……悪魔め……」
「おおっ、お坊様が燃えている!」
男は禹気禹気で町へと帰っていく。
まあ悪魔なんていないがね。何度もいうけど。
仕掛けられた罠を見て確信した――これは人間の仕業だ。獣でも悪魔でもない。
結局一番怖いのは人間なのだ。結論出ちゃったね。
俺の中に恐れはない。森に罠を仕掛けるというくだらんことをする人間のところに行き、禅の心をぶちこんで改心させてやる。
罠にかからないよう気をつけながら俺は森の奥へと歩いた。
しばらく行くと、大きな古木があった。
「うむ、ここがいい」
俺はその根元に腰をおろした。
罠を仕掛けた奴は先程の騒ぎでこちらの存在に気づいているだろう。時が来れば向こうから顔を出すはずだ。俺はのんびり坐禅っていればいい。
風が吹く。草が揺れる。木の葉が落ちる。
風が吹くのを俺の心が聞く。草が揺れるのを俺の心が見る。木の葉が落ちるのを俺の心が惜しむ。
俺のまわりにあるものと俺の心との間にはどんなつながりがあるのか。草や木よりももっと遠い太陽や月や星ならどうか。
そのもの自体には触れられなくとも、俺の心がそれを感じるとき、俺の心に変化が生じ、ものの方も変化しているのではないか。
では、揺れるとか落ちるとかいった動きはいったい何なのか。それは本当にあるのか――
そんなことを考えていて、ふと気がつくとあたりは暗くなっていた。
木の枝を拾いあつめて焚火をする。
揺れる炎を見つめながら、さっきまで頭に浮かんでいたことをまた考えてみる。大悟ということにすこし近づいた気がした。悟りには漸悟と頓悟の2種があるが、俺のところにやってくるのはどちらなのだろう。
硬い麵麭と醍醐を食い、ぼんやりしていると、便意に襲われた。
俺は全裸にならないと雲固ができない性質だ。衣も下帯も取り、草鞋も脱ぎすてて藪の中に入る。
雲固を出した瞬間の解放感は悟りをひらいたときのそれと同じなのではないか、などと考えつつ、葉をむしって尻を拭く。
全部済ませて焚火のところまでもどるというと、そこに何やらおかしなものがいた。
大きくて毛むくじゃらなやつが俺の衣に鼻を近づけ、匂いを嗅いでいる。
こいつは熊なのだろうか。実のところ、生きている熊を見たことがない。毛皮なら見たが、こんな金色の毛はしていなかったはずだ。
その熊らしきものは、俺が昼間の怪我人たちから強奪しておいた麵麭を食いはじめた。俺が生国で聞いた話では、熊は2本足で立ち、手を器用に使うそうだが、いまここにいるやつも立ちあがって麵麭を手に持ち、かじっている。
その堂々とした立ち姿が何だか憤ろしかったので、ひとつ脅かしてやろうと俺は熊の背後に忍びよった。
「おい」
前触れなく声をかけてやると、熊はびくりと体を動かし、ふりかえる。
それは熊とも狸ともつかぬ、不思議な顔をしていた。丸顔で目が離れていて、どことなく愛嬌がある。顎はがっしりしていて、嚙みつかれたらただでは済まなそうだ。手にしていた麵麭が地面にころりと落ちた。
「おぬし、いったい何――」
「キャーッ!」
熊は女のような声をあげた。おまけに、内気な娘のように手で顔を覆っている。
「おもしろい声で鳴くのう、おぬし」
俺は近づいて、顔をのぞきこもうとした。すると熊は背を向ける。
「来ないで! 変態!」
「むむっ、熊がしゃべった……?」
うしろに熊使いでもいて、そいつがしゃべっているのかとも思ったが、そのような者の姿はない。
「裸でこっちに来るな! 服を着ろ!」
また熊がしゃべる。
「獣にいわれたくはないわい。おぬしとて裸だろうが」
「裸? この私が?」
熊が笑い声をあげる。「私のどこが裸だって?」
顔を拭うような仕草をすると、熊の顔は消え、人間の顔になった。腕と脚をひろげると、毛むくじゃらの四足が消え、ほっそりとした肢体が現れる。
熊の毛皮の外套を身にまとった女童が俺の前にいた。
外套の下は、袋に穴をあけて頭と腕を出したような粗末な衣で、腰のところを縄で縛ってある。靴は外套と同じ金色の毛皮だ
「どうだ、驚いたか。私は人獣の一族なのだ」
女童が胸を張る。
「は~、驚いた」
どうやら目の前のこいつは人間でないらしい。となると……やっぱおるじゃねーの、悪魔って。
だが、仙人系のアレということもありうる。毛皮をかぶって変身するというのは、唐土でもありそうな話だ。
「その毛皮はどこで手に入れたのだね?」
「お母さんがくれた」
女童は意外と素直に答える。
「母上はどこで修行して変化の術を身につけたのかね?」
「修行とかじゃない。変身するのは生まれつきだ」
「ほう。そこのところを詳しく聞かせてもらえぬか。母上はいまどこに?」
「おまえには関係ない!」
なぜか女童が怒りだす。これが美少年なら「よしよし。お珍宝よしよし」となだめるところだが、女の餓鬼には興味がないので、こちらも素直に腹を立てる。
「あの罠を仕掛けたのはおぬしか?」
「そうだよ」
女童は悪びれもせず答える。俺はいかにも旅の僧らしく彼女の悪事を止めようとした。
「やめなされやめなされ。人を傷つけるようなむごいことはやめなされ」
「あんな奴ら、みんな死ねばいいんだ」
「そんなことをしては地獄に堕ちるぞ」
「うるさい! おまえはあいつらの仲間か?」
女童の目つきが鋭くなる。
「仲間というわけではないが、彼らを助けるため、ここにやってきた」
「ぬうっ……ならばおまえから死ね!」
いきなり戦闘流法である。
こうなるとこちらも黙ってはいられない。内なる禅を急激に燃焼させる。
「喝!」
気合を発すると、女童は耳を塞いだ。
「びっくりしたあ。何だ、いきなり大きな声出して」
「ば、莫迦な……喝が効かないだと……?」
この世界に来て早々に喝を無効化する敵が出現するというのは展開が急すぎるのではないかと思った。