88.王女様とお出かけ
翌日、昨日と同じようにドワコとリオベルクは城に向かった。
この国に来て4日目となる。滞在は1週間程度の予定なので、ちょうど折り返し地点になる。
城に到着しリオベルクは公王の元に、ドワコは中庭を目指し移動した。
「おはようございます。イザベラ様。」
「おはようドワコ。今日はよろしくお願いしますね。」
そう言うとイザベラはドワコの手を引き裏門へ向かった。すでにイザベラは冒険者用の服に着替えている。ドワコはまだ貴族用の服を着たままだ。
「ドワコも冒険者用の服に着替えた方が良いわね。服屋かどこかに寄って調達かな?」
「いえ、自前のは持ってきていますので。少しお待ちください。」
そう言ってドワコは物陰に隠れ、アイテムボックスより冒険者用の服を取り出し着替え、貴族用の服はアイテムボックスに収納した。
「驚いた。ドワコってアイテムボックス持ちだったのね。これはパーティーでは重宝されるわ。」
着替える様子を見ていたイザベラは感心したように見ていた。
「お待たせしました」
「それじゃ、仲間のいる所に向かうわ。あと、私はただの冒険者だから様は付けないでね。」
「わかりました」
ドワコはイザベラに冒険者ギルドへ連れてこられた。
さすがに城下町でマルティ王国より栄えているだけあってギルド内は広く多くの人で賑わっていた。
そこには先日、武器屋で見かけたイザベラとパーティーを組んでいる男3人が待っていて合流した。
「それじゃ紹介するね。このごっついのがイアン。前衛の盾役ね。そしてひょろっとしたのがミルト。こう見えても魔導士ね。最後にこの少年がアルフ。冒険者としては珍しい回復師。・・・そしてこっちがドワコ。昨日知り合った銀ランクの冒険者ね。」
「ほう。こんなに小さいのに銀ランクとはすごいな。よろしく。」
「よろしく頼む」
「よっ、よろしく。」
イアン、ミルト、アルフの順番で挨拶をしてきた。
「私はドワコ。基本ソロでやってます。」
「ドワコ、ソロだったの?」
イザベラが驚く。ソロで銀ランクになるのはパーティーで銀になるのとは全くの難易度が異なる。ドワコには認識が無かったが、それが冒険者の中では常識だったようだ。
「まあ、たまにパーティーに混ぜてもらう事もありましたけどね。それで、今日はどのような依頼を受けるんですか?」
ドワコが聞いた。
「実はね、私たちはみんな銅ランクなんだけど、受けたい依頼が銀ランク以上でないと受けられない依頼なの。そこでドワコに臨時にパーティーに入ってもらって依頼を受けてきてほしいの。」
「受ける事は出来ると思うけど、大丈夫なの?」
「こう見えても依頼を受けている数が少ないだけで銅ランクだけど、私たちの実力は銀ランク並みにあるよ。安心して。」
本人たちがそう言うので信じて依頼を受ける事にした。そして銀ランク用の灰色の紙に依頼の書かれたものが掲示してある場所に行った。
「それでどれを受ければいいの?」
ドワコが尋ねた。
「これこれ」
そう言ってイザベラは依頼の書かれた灰色の紙を指さす。
「えっと・・・郊外に居付いているデュラハン退治・・・報酬は・・・」
名前からして強そうである。未知数なのでドワコはどれくらいの強さか見当がつかない。だが、言われたので依頼書をはぐり受付カウンターまで持って行った。
「すみません。これをお願いします。」
「はい。すみませんギルドカードの提示をお願いします。」
受付嬢に依頼の書かれた紙とドワコのギルドカードを渡す。
「このギルドカード更新が必要みたいですね。少々お待ちください。」
少ししてから受付嬢が戻って来た。
「おめでとうございます。ランクアップです。それでは依頼の方も受け付けました。ギルドカードはお返ししますね。」
「金ランクのギルドカードなんて初めて見たぞ」
横にいたイザベラをはじめ3人の仲間も驚いている。
「最近依頼を受けた記憶は無いんだけどなぁ・・・」
ドワコは少し納得がいかない感じだったが、この先の事を考える事にした。
「それでは時間も勿体ないので、依頼書に書かれている場所に向かいましょう。」
イザベラが言ってドワコたちは準備を整え出発した。
「それでドワコは魔物と戦うときは前衛で良いんだよね?」
道中イザベラが聞いてきた。
「基本そうかな。でも、後衛も出来るよ?」
「それは頼もしい。デュラハン退治は腕試しの意味を含めているので、基本的に我々だけで行うので、危なくなったら手伝って貰うでいいかな?」
「了解」
少し歩いたところで会話も途切れ、今はイザベラが先頭を歩き、その後にドワコと3人の仲間が付いて歩いている。
ドワコは一番話しやすそうに見えた回復職のアルフに声をかけた。
「回復職の冒険者は珍しいね」
「そうですね。基本的に戦闘能力は無いのでソロは出来ないし、戦闘になると真っ先に狙われますから大変です。」
ドワコは回復職も出来るが基本的に前衛職なので1人で行けるのだが、普通の回復職は攻撃する手段を持っていないので、通常は誰かに護って貰わなければいけない。しかも回復職をはじめに狙うのは戦いの基本だ。そうしないと、いくらでも回復され戦いが不利になるからだ。それでなくても回復職は数が少なく貴重な存在なのだが、デメリットが多すぎて冒険者になる者が少ない。村や町で治癒士として生計を立てた方がお金が稼げるそうだ。・・・と聞いたことがある。
「でもパーティーのみんなが良くしてくれますから。最初はイアンとミルトの3人で行動していたけど、イザベラが加わってから特に雰囲気が良くなったよ。でもあの二人、イザベラの事が好きみたいで、たまに変な雰囲気になる時もあるんだよね・・・。」
「アルフは?」
「僕?何というか、たまに見せる高貴なオーラ・・・と言うのかな。それが肌に合わない感じがしてね。好意はあるけど恋愛とは話は別になるかな。」
意外とアルフは勘が鋭いのかもしれない。残りの2人は身分の違いをどう乗り越えるか少し楽しみではある。イアンとミルトはいつの間にかイザベラの横に行って何かを話しているようだ。3角関係みたいな感じで青春してるなと、ドワコは思った。
「この先のようだな」
前方には遺跡のような物があり、中央には馬に乗った鎧を着た人影が見える。手には丸いボールのような物を抱えている。少し離れているのだが、ただならぬオーラがドワコにも伝わってくる。
(これ、かなり強そうだけど大丈夫なのかな?)
ドワコは今まで色々な魔物を相手にしてきたが、これだけ離れた場所でもオーラが伝わるほどの魔物を相手にしたことは記憶がない。少し不安になって来た。
ドワコの不安をよそに4人は戦闘準備を整えた。
「それじゃドワコは見ていてね。いくよー。」
イザベラの号令で4人はデュラハンに向かっていった。
「ちょまっ・・・」
4人の軽率な行動にドワコが止めようとしたが間に合わなかった。この場所にはデュラハン以外にも取り巻きと思われる魔物も多数いる可能性がある。気がついていない状態で突撃したらとんでもない返り討ちに合う。イザベラたちの行く先の土が盛り上がり多数のスケルトンが現れた。驚いた4人だが、スケルトンが襲い掛かり戦闘が始まる。
前衛のイザベラとイアンが前に出て、その後ろにミントとアルフが付きミントが魔法攻撃、アルフが弓を取り出し攻撃をする。アルフの弓の腕は申し訳ない程度で余り上手くないようだ。
「アルフ。スケルトンには回復魔法が効くよ。」
ドワコがアドバイスを送った。それを聞いたアルフは弓を背負い、魔法書を取り出し「ヒール」をスケルトンにかけた。魔法を受けたスケルトンはバラバラと崩れ落ちた。
「すごい」
アルフが驚いているが、敵は待ってくれない。即座に弓に持ち替え再詠唱が出来る時間を稼ぐ。再詠唱可能になると魔法書に持ち替え「ヒール」でスケルトンを倒すという事を繰り返した。
その隣ではミントが「ファイア」を唱えて攻撃している。どうやらミントは火属性しか使えないようだ。彼は再詠唱時間を稼ぐのに苦労しているようだ。アルフのような武器は持っておらず、極力、前衛が守ってくれる範囲で時間を稼いでいるようだ。イアンは前衛でも壁役のようで襲ってくるスケルトンを盾で受け弾き飛ばしている。その内の何体かは弾き飛ばされてバラバラと崩れたが、ほとんどのスケルトンは態勢をなおして再度襲い掛かってくる。イザベラはスケルトンを剣でバサバサと切りつけ倒している。自信があると言うだけあってかなりの腕前のように見える。
ドワコは少し離れている所で様子を見ている。稀にドワコに気がつき襲い掛かって来たスケルトンもいたが、鉄のハンマーで粉砕した。
なんとか4人は現れたスケルトンの群れを倒した。かなり息が上がっているようだが大丈夫だろうか。そのままの勢いでデュラハンに向かっていった。
4人+1人に気がついたデュラハンはこちらの方を向き馬から降り剣を構えた。近くに行って分かったが、片手に持っているボールのような物は自分の頭だった。まず、デュラハンが振り下ろされた剣は盾役のイアンが受け止める。相当な威力があるようでイアンは苦しそうな顔をしている。その間にミントが「ファイア」を詠唱し攻撃を仕掛ける。怯んだ隙を狙ってイザベラが一撃を加えようとしたが、デュラハンは剣で受け止めた。アルフも弓で攻撃を試みるが硬い鎧で覆われたデュラハンには効果がないようだ。
デュラハンの2撃目をイアンが受け止めたが、受け止めきれず吹っ飛ばされた。かなりのダメージを受けたようだ。ミントが「ファイア」で牽制し、イザベラが間に入り時間を稼ぐ。その間にアルフがイアンに「ヒール」をかけて回復させる。デュラハンはイザベラを跳ね除けミントに駆け寄り襲い掛かった。
再詠唱可能時間になっていないミントはなす術もなく、デュラハンの攻撃を受けて崩れ落ちた。
「「「ミントーぉ」」」
3人が叫ぶ。アルフは即座に駆け寄り「ヒール」唱えようとしたが、先ほど使用してしまったために再詠唱可能時間になっていない。続いてデュラハンはアルフを攻撃しようとしたが、イアンが間に入り防いだ。イアンとイザベラが時間を稼いだお陰で再詠唱が可能となり、アルフはミントに「ヒール」を唱えた。だが傷が深いようであまり効果が見られなかった。
「だめだ。傷が深すぎる。」
そして、デュラハンは隙を見てアルフに襲い掛かる。対処に遅れた為にそのまま攻撃を受け倒れて気を失ってしまった。その後イアンも攻撃を受け止めきれず吹き飛ばされ、打ち所が悪かったようで気を失った。残るのはイザベラだけになってしまった。
イザベラとデュラハンは剣の打ち合いをしている。技量ではイザベラの方が上のようだが、パワーで圧倒的に負けているためかなりおされている。
(そろそろかな・・・)
デュラハンの攻撃でバランスを崩したイザベラは尻餅をついてしまった。それを見逃すはずもなくデュラハンはトドメをさすために剣を振り上げた。もう駄目だと悟り諦めた様子のイザベラの前にドワコが入り。デュラハンの攻撃を受け止めた。
「ドワコ」
イザベラが戦いに集中し過ぎていたために、存在すら忘れていたドワコが現れた事で少し安心したようだ。今ドワコが装備しているのは、この世界に来た時から愛用している鉄のハンマーだ。今まで多くの闘いを行ったが今でも現役の武器だ。
ドワコはかなりの重量があるその武器を軽々と振り回しデュラハンの剣と撃ち合っている。質量的には鉄のハンマー上回る為、ハンマーと剣が当たるたびにデュラハンがぐらりと体勢を崩す。そのままドワコが押すかと思ったが思わぬ邪魔が入る。デュラハンが乗っていた黒い大きな馬だ。隙を見て騎乗し身長の低いドワコにとっては不利な条件で戦いを進める事になった。
「馬さんには申し訳ないけど・・・」
ドワコは黒い馬の腹に向かって思いっきり鉄のハンマーをブチ当てた。馬が側面からの攻撃に耐えきれず倒れ、デュラハンが落馬した。その時、手から頭が落ち転がっていった。ドワコはそれを見逃さすスイカ割をするような体制で鉄のハンマーでデュラハンの頭を叩き割った。そうすると体の部分も崩れ落ち、魔石と何かの宝石と巻物がその場に残った。黒い馬も一体だったようで同様に魔石に変わっていた。
そしてドワコは4人に回復魔法をかけた。
「さすが金ランクだけあって私たちとは格が違いますね。自分たちの力を過信していたようで恥ずかしいです。」
イザベラが申し訳なさそうに言った。
「それで、報酬ですけど、私はこの巻物以外はいりませんので、ギルドの報酬も含めそちらで分けてもらっていいですよ。」
「この報酬って結構な金額ですよ?本当にこの巻物だけでいいんですか?」
「構いませんよ」
イアンの問いかけにドワコははっきりと答えた。どうやら巻物の価値に誰も気が付いていないようでドワコはホッとした。この巻物はクリエイトブック用の設計図だ。中身を確認していないが相当レアなものだと思う。
「それでは私はこの宝石をもらいますね」
「「え?」」
突然のイザベラの宣言にイアンとミントが驚いた声を出した。
「どうしてそんなに驚いているの?」
そっとアルフに聞いてみた。
「この宝石はこの国では求婚の印として使うものなんだ。これを求めていると言う事は誰かいい人がいると言っているようなものなんだ。」
「なるほど」
ドワコは意味を理解して納得した。
失恋した2人はガックシと肩を落としている。がんばれ青年。ドワコはそっと応援した。




