61.伝説の勇者
「ご主人様、何か大きな音がしましたけど?失礼します」
たまたまドワコの部屋の前にいたメルディスが、ドワコの部屋から大きな音がしたのを聞いて中にいるドワコに語り掛けた。
返事が無く不安に思ったので返事を聞かず部屋の中に入った。
「失礼しま・・・キャー!!!ご主人様が・・・」
メルディスの大きな声にデマリーゼ、ケイト、カーレッタが駆け付けた。
「どうしました・・・キャー。ドワコ様。」
「何が?・・・ドワコ様ー。」
「メルディスさん、大きな声を・・・なんとこれは!」
それぞれが驚きの声を上げた。頭から血を流して倒れている。お人形さんのような服を着たドワコがいた。
その姿があまりにも可愛く、頭から血を流して倒れているのも忘れデマリーゼとメルディスは顔を赤くして息を荒くしている。
「お二人ともそれ所ではありません、早くドワコ様の安否を確認しないと」
ケイトが普段出さないような大きな声で言った。その声を聴き2人は我に戻った。
「そうでした。しっかりしてくださいドワコ様。」
「ご主人様。大丈夫ですか?」
「とりあえず脈があるか確認しないと・・・」
カーレッタがドワコの脈を測ろうと近づいたときに背後から声がした。
「これは密室殺人ですね・・・犯人は第一発見者かな」
「「「なんだって」」」
エリーの一声で皆がメルディスを見る。
「えっ?私じゃないですよ・・・?」
「と言うのは冗談で・・・そこの机で後頭部を打っちゃったようですね」
そう言いながら机を指さしながらドワコの後頭部の出血した部分を綺麗にふき取っている。
「ドワコさん身長の割に意外と重いので、皆さん手伝ってベッドの上にのせてもらえませんか?」
エリーの指示に従って皆でドワコを持ち上げベッドに寝かした。
「それにしてもドワコ様の服・・・色合いは聖女様の服ですよね?」
「私もそのように見えるのですけど・・・」
デマリーゼとカーレッタがドワコの服装を見て言った。
「エリーさんは何かご存知ですか?」
ケイトがエリーに尋ねた。
「私の予想ですけど・・・暇つぶしに趣味で服を作ってみたら、思いのほか可愛い服が出来てしまって、試着した姿を見て思わず後ずさって転んで頭を打った・・・って感じでしょうか?」
見ていないはずなのに、詳細に語ってしまうエリーを皆が何とも言えない表情で見ている。この砦の者は領地の影の支配者と言われているエリーの凄さがわかっているので、その言葉を聞き納得してしまった。
「まあ3日経てば目が覚めると思うので大丈夫ですよ。私はそれまで看病してますので、皆さん気になさらず各々の役目を果たしてください。」
エリーの言葉を受け皆は解散した。
「ドワコさん、お帰りをお待ちしていますね。」
エリーはそっと横たわっているドワコの頭を撫でた。
ドワコは夢の中にいた。何か心地よい感触が手や体を通して伝わってくる。自分は寝ているのだと。そして同じベッドにはいつも一緒に寝ているエリーがいる事に安心している事に・・・。抱きしめるとエリーの香りが伝わってくる。そのまま手を動かすと程よい大きさの胸の感触が・・・???
エリーはドワコと同じ成長過程のぺったんこの胸だったはずだ・・・これは普通に手の中に納まる程よい大きさの物だ。
「おまえ。いつの間に私のベッドに入って来た。」
声は似ているが口調の違う声でドワコは目を覚ました。手は一緒に寝ている相手の胸を揉んでいる状態だった。段々意識が覚醒していき周りの状況が見えてくる。自分の部屋のような気がするが家具の配置が異なっている。そして横で一緒に寝ている・・・目つきの悪い少し胸があるエリー?がいた。
「エリー?」
「誰がエリーだ。私はエリカだ。そしてそなたは誰だ。」
ドワコはびっくりして飛び起きた。いつの間にか知らない人のベッドに潜り込んでいたようだ。
「すみません。いつの間にか潜り込んでしまっていたようで・・・。」
「変わった服を着ているが、どこの隊の者じゃ?」
そう言われてドワコは自分の服装を見た。青と白のワンピース調のローブを着ている。・・・えっとこれって先ほど自分で作って試着した服だよね???何かおかしい。ドワコはそう思った。
「今は戦闘中じゃ。仮眠のつもりが少し寝すぎてしまったようじゃ。そなたも早く持ち場に付け。」
エリカのいう事がいまいち理解できないドワコだった。
「戦闘中って?」
「そなたは寝ぼけているのか?そなたは、この砦の隊長である私の私室に潜り込み、あろうことか寝ている私を襲った訳だぞ。本来なら処刑されても文句は言えないぞ。」
「これは大変失礼しました。なんとお詫びをして良いのやら・・・。」
ドワコは訳が分からずとりあえず謝罪しておく。
「そんな話は後回しじゃ。今は戦闘中だ。仮眠は終わりじゃ。行くぞ。」
エリカはドワコを連れて部屋を出た。
「何だこれは?」
ドワコは驚いた。ドワコたちが寝ていた区域は見覚えがある場所だったが、外に出ると砦がかなり小さくなっていた。そして城壁の中の広場には数百と言う重傷者も含めた負傷兵が横たわっており、少ない兵士が看病に回っていた。まさに戦場の野戦病院状態だ。
「今のところ変わりないか?」
エリカが近くにいた兵士に声をかける。
「はっ、今の所、砦には攻撃がありませんが前線で負傷した兵たちが多数運び込まれています。戦える人数も減り前線は苦戦しているようです。」
「報告ご苦労。任務に戻れ。」
「はっ」
エリカが兵士に近況を確認した。聞いていた感じではかなり危険なような気がする。
ドワコは状況の把握は出来ていないが、負傷者の回復が最優先だと判断して野戦病院と化している広場へ向かった。そしてアイテムボックスから魔法書を取り出した。
「そなた魔術師であったか」
なぜか一緒に付いて来たエリカが言った。いままで聖女と呼ばれた事はあっても、魔術師と呼ばれたことが無かったのでドワコは変な気分になった。
「みなさん。今から回復させますね。回復しきれなかった方は言ってくださいね。」
そう大声で宣言した。何事かと思って、そこにいた人たちはドワコの方を見た。
「・・・。・・・。・・エリアヒール。」
広場全体が強く光り負傷者の傷が癒された。
「治癒士様だ。ありがたやー。」
広場にいた誰かが言った。そしてそれに応じて歓声が上がった。
「「「治癒士様が来られた。これで勝てるぞ!!」」」
一気に士気が上がったようだ。
「そなた治癒士であったか。助かった。感謝する。」
「皆の者武器を持て!!王様に加勢に行くぞ!!!」
「「「「「おーーーーー!!!」」」」」
エリカの号令で兵士が声を張り上げた。
「いまからどちらへ?」
ドワコがエリカに尋ねた。
「決まっておろう。これからこの兵を率いて前線で戦っている王様の増援に行くのだ。当然そなたも付いてまいれ。」
半ば強制的に決められてしまった。行くしか無さそうだ。そしてドワコは兵士たちの装備を見て驚いた。指揮官クラスは剣や防具を装備しているが、一般兵は木で作られた槍や棍棒を武器として持っている。どこへ戦いに行くかわからないがこの装備では心もとない。
「すみません。良ければこの武器と防具を使ってください。」
アイテムボックスからコンテナを出した。中にはアリーナ銘品館に納品する予定だった武器や防具が大量に入っている。ここにいる兵士が全員装備しても十分足りるくらいの数がある。
「アイテムボックス持ちか。そして武器の支援もしてくれるのか。これは助かる。」
それぞれの兵士が思い思いの装備を整え出陣準備を整える。
そして馬に騎乗する者、徒歩で進軍する者が整列し出発する。
そしてエリカはワイバーンを召喚した。
「そなたも一緒に乗りなさい」
「いえ、私は自分のに乗りますので」
エリカの誘いを断りワイバーンを召喚した。
「なんと。光だけではなく闇属性も使えるのか。これは頼もしい。」
エリカとドワコはそれぞれワイバーンに乗り進軍していった。
「この先が前線になる。気を付けろよ。」
エリカがドワコに対して言う。前方を見ると確かに戦闘が行われているように見える。
「皆の者、本体に合流し王様を援護しろ!」
「「「おーーー!!」」」
エリカが兵士に指示を出し、戦いの中に入って行く。装備が良くなったためか敵をなぎ倒し本体に合流していく。ここに来て敵の正体がわかった。魔物だ。
一方、本隊はかなり苦戦をしているようだ。エリカはワイバーンに乗ったまま魔法を詠唱する。
「・・・・・。・・・・・。・・・・・。・・・・・。・・アイスジャベリン。」
無数の氷の矢が魔物に向かって降り注ぐ。
ドワコは上位魔法の発動を初めてこの目で見ることが出来た。
「上級魔法・・・」
魔法書には記載されているので魔法名はわかる。発動方法がわからなかっただけだ。ただ、距離が少し離れていたためにどのように詠唱したかまでは見ることが出来なかった。
アイスジャベリンの発動によって敵の一部にぽっかりと穴が開いた。エリカの方を見るとかなり苦しそうだ。魔力を相当消費したのがわかる。本人は空中でしばらく休憩するようだ。
ドワコは前線の真ん中に降り立ちエリアヒールで負傷兵をまとめて回復させる。急に回復させたれた負傷兵は治癒士が援軍で来たと察したようで、前線に復帰していった。
ドワコは鉄のハンマーに持ち替え、魔物をバタバタとなぎ倒していった。その姿を見た兵士たちは口をそろえて言った。
「「「勇者様だ。勇者様がこの戦に参戦してくれたぞ!!」」」
勇者参戦の声を聴いた兵たちが一気に士気を上げた。
ドワコは手当たり次第に魔物を倒していった。そして空いた時間があると魔法書に持ち替え負傷兵の治療を行った。ドワコにとっては少し前にやったことがあるので慣れたものである。そしてドワコの参戦により劣勢だった戦況が優勢に好転していく。
「勇者殿。参戦に感謝する。私は前線部隊の指揮を行っているアリナと言う。あとは雑魚どもと敵の指揮官だ。」
そう言って指揮官と名乗る女騎士は前線に切り込んでいった。ドワコは付近の魔物を片付けていく。
そして敵の指揮官と思われる魔物が姿を現す。・・・・以前お会いした記憶のあるサイクロプス先輩でした。
(簡単なことですよ?叩くからダメなんですよぉ。切っちゃえばいいんです。)
以前エリーに言われた事を思い出した。ドワコはカタナに持ち替えた。
サイクロプスと対峙している兵士たちは次々に倒されていく。周りには勇敢にも立ち向かった負傷した者や戦死したものがゴロゴロ転がっている。一足先に斬りかかったアリナも吹っ飛ばされた。全身血まみれ状態で転がっている。ドワコはカタナを振りかざしサイクロプスを真っ二つにした。そしてサイクロプスは崩れ落ちた。
指揮官が倒され勝利したことを確信した兵たちは一気に歓声を上げた。
「「「我々の勝利だ!!」」」
ドワコは即座に魔法書に持ち替え「エリアヒール」を唱えた。負傷した者は回復したが、すでに息絶えた者は回復することが出来なかった。ヒール系統はあくまでも生きている者に対して有効で死者には効果が無い。わかっているがドワコは助けられなかったことを悔いた。
「「「王様!!」」」
皆が叫ぶ声がしてドワコもその方向へ行った。
1人の立派な防具を着た者が息絶えていた。
「王様。目を開けてください。」
アリナが亡骸を抱え泣いている。そして側にはエリカも来て王様をじっと見ながら涙をこらえているようだ。そしてドワコに言った。
「治癒士殿。王様を生き返らせれは貰えぬだろうか?」
「すみません。私、上位魔法の使い方がわからないんです。」
エリカの問いかけにドワコは答えた。
「使い方がわかれば何とかなるのか?」
「自信は持てませんが何とかなるかもしれません」
「ちょっと来てくれ」
そう言われドワコはエリカに少し離れた所まで連れていかれた。
「中級魔法までは使えるようだな?」
「はい」
エリカの問いにドワコは答えた。
「それなら簡単じゃ。魔法書に載っておるなら、魔法陣の形成を指一本ではなく、指二本で行う。3章ある詠唱を5章で行う。それだけだ。」
上級魔法の詠唱方法は予想以上に簡単な方法だった。ドワコとエリカは王様の亡骸の所に戻りドワコは光属性の上級魔法である蘇生魔法「リザレクション」の詠唱に入った。
「・・・・・。・・・・・。・・・・・。・・・・・。・・・リザレクション。」
詠唱が終わると王様の亡骸が強く光り、傷が癒されていく。そして王様が目を覚ました。
それを見た兵士たちの歓声が上がった。
「「「王様ーーーー!!!」」」
「そなたがワシを助けてくれたのか?」
王様がドワコに話しかけた。
「はい。どこか痛い所とかありませんか?」
ドワコは尋ねてみた。
「不思議と何ともない。そなたのおかげだ。礼を言う。」
「人を助けるのが聖女としての役目ですから」
「聖女とな?初めて聞く言葉じゃ」
「へ?」
ドワコはいつもの調子で言ってしまった言葉にどうしたものか考えた。
「それでは他の兵士の蘇生に行かなければなりませんので失礼します」
ドワコは理由を付けてその場から離れた。そしてドワコは可能な限り蘇生魔法を使い兵士たちを蘇生して回った。だが蘇生できるのには時間に制限があるようで、死亡してから一定時間を過ぎると蘇生魔法が効かなくなってしまうようだ。仕方なくドワコは作業を中断した。
そして翌々日、砦で王様による戦勝記念式典が開かれた。兵士たちが整列している中で王様が前に立つ。
「この度の闘い、皆ご苦労であった。苦戦はしたものの我が軍は見事勝利を収めることが出来た。知っての通り一人の勇者の参戦で戦況が大きく好転した。勇者殿前に。」
ドワコが案内されて王様の隣に立った。
「この者が我が軍を勝利に導いてくれた勇者だ!!」
「「「「「おーーー!!」」」」」
王様の号令で兵士たちが大きな歓声を上げる。
「この者が兵士たちを癒し、大量の武器や防具を提供し、敵陣に単身切り込み多数の魔物を倒した上に指揮官をも倒した。さらにワシも含め戦闘で亡くなった物を多数蘇生させた。」
「ワシはこの者に感謝し聖女の称号を与える事にする」
「「「「「聖女様万歳!!!」」」」」
兵士たちが王様の宣言に応じる。
そんな感じで戦勝記念式典が終わった。
ドワコは城壁で外を眺めていた。同じように見えて違う砦の環境に馴染めず、エリーや砦の皆の事を思い出していた。そこへエリカがやって来た。
「聖女様?どうされました?」
「一体なぜ自分はここにいるんだろうって考えてしまいまして」
「おそらく聖女様はこことは違う所から来られたのではないでしょうか?私にはなんとなくわかります。魔力の波動と言いましょうか流れと言いましょうか、違う流れを感じます。天才魔導士と呼ばれる私くらいでないとわからないと思いますけどね。」
「元の場所に戻る事が出来るのでしょうか?」
「それは私にもわかりません。ですが、この国を救っていただいたことに関しては、なんとお礼を言って良いかわからないぐらい感謝しています。私はこの恩返しを必ずしたいと思います。初めは変な方と思いましたが今ではお慕いしていますわ。」
そう言ってエリカはドワコに口づけをした。
「あら・・・お別れの時間が来てしまったようですね。時や場所が変わっても私の気持ちは変わりません。・・・あなた様の助けとなるように・・・協力させていただきますわ。」
ドワコは口づけされた後の会話がよく聞き取れないまま意識を失った。
ドワコは目を覚ました。ベッドの上に寝かされているようだ。そして見慣れた天井だ。隣にはエリーが椅子に腰かけドワコの様子をうかがっていた。
「ドワコさんお帰りなさい」
「ただいま・・・というかおはよう?長く寝ていたような気がします」
「まあ3日寝てましたからね。お腹すいたでしょう?ご飯の用意が出来てますよ。それにしてもその服よくお似合いですよ?みんな喜んで見てました。私なんか写真撮りたくなったくらいですよ?・・・あれ?写真って何でしたっけ?」
ドワコは自作の聖女服を着ている事に気が付いて顔を赤くした。




