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54.隊長退任

ダンジョン捜索も終わり平和な日が戻った。


あれから数日が経過していて、援軍に来た王妃様を始め第一、第二、第三騎士団と王子様は城へ帰還していった。残された避難民と元ムリン国の兵士は今後の方針が決まるまでは砦で暮らすことになった。そしてそれに合わせて必要な物資も送られて来るようになった。


そして、更に日は過ぎドワコの隊長としての任期が切れる日となった。復興の業務もあり、このままの状態なら任期延長かなと覚悟をしていたドワコだったが、城からも延長に関しての連絡もなかった。


「みなさん、3カ月という短い期間でしたがお世話になりました。任期が終わり、やり残した仕事がある状態での退任には心苦しいですが、後任の隊長の指揮の下でしっかりと業務をこなしてくれると信じています。皆様、お体には気をつけて元気でお過ごしください。ありがとうございました。」


ドワコが集められた部下たちの前で退任のあいさつをした。


「ドワコ様には大変お世話になりました。ありがとうございます。」


代表で副隊長のデマリーゼが挨拶をした。

兵士たちの中には別れを惜しんで涙ぐんでいる者もいる。

貴族組も別れを悲しんでいるようだ。


既に荷物はまとめてあり、あとは出発するだけだ。

砦の外に出てドワコとエリーはワイバーンを召喚した。大きなワイバーンが2体並ぶと何とも言えない迫力ああった。


「皆様お元気で」


「またね」


「それでは」


ドワコとエリーとメルディスがワイバーンに乗り飛び立った。メルディスはエリーのワイバーンに一緒に乗っている。飛び立ってしまえば城下町まではそんなに時間はかからない。騒ぎにならないように城下町から少し離れた森に降りて徒歩で城下町を目指した。


「そう言えばエリーは伝令で城に行った時、どこに降りたの?」


「時間も惜しかったから城に直接降りましたよ?少し騒ぎにはなりましたけど。」


本当に少しか?とは思ったが怖いので聞かないことにした。

ドワコとエリーとメルディスは城下町のドワコの家に戻ってきた。約3カ月ぶりの帰宅になる。


「おかえりなさいませ。お嬢様。」


「「お帰りなさいませ」」


執事のセバスチャンとメイド姉妹のジェーンとジェシーが出迎える。

ドワコはここよりも砦での生活が長くなってしまったが、家に戻ってきたという安心感があった。


「今日は一日ゆっくり過ごします」


「かしこまりました」


セバスチャンに今日の予定を告げた。

城への報告は馬車で移動した日数で計算されているので明後日行くことになっている。それまでは自由に過ごせる。工房の方も気になるので、明日はアリーナ村へ行こうと思う。


メルディスはメイド服に着替えている。メイド姉妹のデザインに合わせて作られた物と思うが、若干デザインが異なっている。エルフとメイド服・・・この組み合わせはなかなか良いかもしれない。などと考えていたら視線を感じた。エリーが不機嫌そうな顔でドワコを見ていた。



翌日、ドワコとエリーはアリーナ村に来ていた。


「工房、3カ月以上休業状態だったので仕事溜まってそうだなぁ。」


「全然ないと思いますよ?注文は武器屋経由でアリーナ銘品館に行くように流通ルートを変えておきました。なのでドワコさんが直接作業しなくてもドワーフの集落から出荷されていると思いますから。」


「いつの間に?」


「長期間空ける事がわかった時点で手配しておきました。すでに、工房の存在意義が無くなってますので、閉めてしまってもいいと思います。」


「そっか。役目が終わった・・・か。」


この世界に来て初めて作った生活基盤なので愛着もあるが、役目を終えたとなると仕方ない。家はそのままで工房は閉鎖する事にした。工房に入り、工房を閉鎖して『工房権利書』の状態に戻しアイテムボックスに収納した。残った素材はまとめて箱に入れて、これもアイテムボックスに収納した。家の中は工房があった部屋は何もない空き部屋となり、他の部屋は家具などそのままの状態にしておいた。



「それでは村長の所に工房を閉鎖した事を伝えに行かないといけませんね」


エリーが言った。


「そうだね。少し揉めそうな気もするけど。」


村長(領主様)の家に行き執事のワゴナーに話を通して、ドワコとエリーは村長の部屋に通された。


「久しいな。ドワコよ。王妃様に連れて行かれたと聞いて心配していたぞ。元気そうで何よりだ。」


「ご無沙汰しております。その件に関してはご心配をおかけしました。」


「それで、今日はどの様な要件だ?」


「はい。今日は工房を閉鎖する事になりましたのでそのご挨拶に。」


「なんと!どうしてだ?」


「はい。私はここの所ほかの要件が重なり工房を長期間閉めておりました。これからの注文については武器屋を通してアリーナ銘品館より別ルートでの仕入れが出来るようにしてあります。」


「領主の命令として工房を残すようにと言ったらどうする?」


「え?」


今まで領主権限と口にしたことが無い村長が、そんな事を言ったためにドワコは困惑する。簡単には納得してくれないようだ。


「温泉施設も順調に経営が出来ている。拠点が無くなりドワコが居なくなるのは困る。これからも村のために協力してもらえると助かる。」


「残念ながらドワコさんには領主権限が適用できません」


エリーが助け舟を出した。


「なぜだ?」


「ドワコさん、いえ、ドワコ様は平民ではなく上級貴族です。王妃様に拘束されたのにも関わらず解放されたのはそのためです。また、詳しくは申し上げられませんが、立場的にも領主様より同等いえ、上の立場になります。」


(聖女って領主より立場が上だったんだ・・・知らなかった)


「なんと。そうであったか。惜しい気はするが上級貴族と言うなら仕方ないな。」


拘束されたのにもかかわらず解放された理由を聞き、疑う事もせず村長は納得したようだ。


「村への支援は今後もアリーナ銘品館を通じておこないますのでご安心ください」


「そう言ってもらえると村としても助かる」


「それでは、用件は済みましたので、これで失礼します。」


ドワコとエリーは村長の家を後にした。



翌日、ドワコはエリーとメルディスを連れて城に向かった。

ドワコはエリーはいつもの服装だが、メルディスはメイド服を着ている。エルフはこの国では珍しいようですれ違う人たちがジロジロ見ている。


「なんか、見られています。ハァハァ。」


顔を赤くして興奮したような雰囲気のメルディスを見ていると、他人の振りをしたくなるドワコだった。


城の貴族用の入口まで行くと顔馴染みの衛兵さんがいた。


「おや、久しぶりだね。元気してた?」


「ご無沙汰してます。元気にしてましたよ。」


「おや、エルフのお連れさんかい?長年ここで務めているけどエルフさんは初めてじゃないかな?」


「そうなんですか?それでは城に用事があるので行かせてもらいますね。」


「はいどうぞ」


顔パスですんなりと城に入る。


「御主人様って辺境の砦の隊長さんだと思ってましたけど、顔パスで入れるくらい偉い人だったりします?」


「ここの衛兵さんは一度通行証を提示した人の顔を覚えているだけですので、偉くなくても通してもらえるんです。」


エリーがメルディスに説明した。


「ほっ」


メルディスが安心した顔をした。それを見たエリーが小悪魔的な顔になって言った。


「でも、ドワコさんはこの国では上から数えた方が早いくらいの偉い人ですよ?」


「え?」


今度は顔が青くなっている。見ているとちょっと楽しいかも。


今日はドワコとしての用事なのでそのまま謁見の間に向かう。入り口で待たされた後、入り口の者に案内されて中に入った。


「上級貴族、ドワコ様お着きになられました。」


謁見の間を進み3人は王様の前で跪いた。


「ドワコよよくぞ来た。3カ月に渡る任務ご苦労であった。そしてそれを上回る功績を残したことを感謝する。一歩間違えば我が国に甚大な損害が出る事案だっただけに本当に助かった。その功績を認め褒美を授ける事にした。」


「有難き存じます」


「そして、エリーよ。そなたの活躍のお陰で迅速な行動を起こすことが出来た。感謝する。」


「ありがとうございます」


「メルディスよ、ドワコの支えとなり、戦いに参加し功績を残してくれた。感謝する。」


「勿体ない言葉でございます」


「今回の褒美の件だが、協議した結果、そなたには元ムリン国の領土を所領として分け与える。領主として領地の運営について全権を委ねる。こちらからは関与しないので存分に手腕を振るってもらおう。」


「えっとお言葉を返すようですが・・・それは褒美になるのでしょうか?」


「復興込になるので新しい任務だと思ってあきらめてくれ。当面はこちらからも支援をするので安心してくれ。それと、境界を若干変更し東の砦までをそなたの所領とする。砦にいる者もそなたの指揮下に入る。そこを拠点にし、復興を行ってもらいたい。」


「かしこまりました」


拒否権は無いようだ。


「あと、聖女の件だが、そのまま休養中と言う訳には行かないので、公式行事などには極力出なくてもよい良いように配慮するが、合間を見て活動を行ってくれ。」


(なんか前いた会社を思い出すくらいブラック企業化してませんか?)


「はい」


「お前たち2人もしっかりとドワコを支えるように」


「「かしこまりました」」


「一つ忘れておった。ドワコとエリーよ。そなたたち緊急時はワイバーンでの城への入城を許可する。前回、突然城に降りてきて大混乱になったからな。」


「すみません。緊急を要していたと言え、ご迷惑をおかけしました。」


ドワコが詫びを入れた所で話が終わり、ドワコ達は謁見の間を後にした。そして聖女の執務室へ移動した。


「ここも久しぶりですね。お茶を用意してきますね。」


エリーが奥の部屋に入りお茶の支度を始めた。


「立派な執務室ですね。そう言えば王様が聖女の仕事と言っていましたが・・・」


メルディスがドワコに聞いてきた。


「ここは聖女様の執務室で、ドワコさんはこの国の聖女様ですよ?領主だと実質降格になっちゃいまね。」


エリーがお茶を持ってきて代わりに答えた。


「すごく偉い人だったんですね・・・そんな方の奴隷ができるなんて・・・ハァハァ」


メルディスが危ない人になってる。


「でも困ったね。急に仕事が増えてしまったよ。」


「ドワコさんならきっと他の人をアッと驚かすような、すごい事をやりそうな気がします。大丈夫ですよ。みんなが付いています。」


「そう言ってもらえると助かるよ」


「まずは、拠点の移動をしないといけないので引っ越しですね。今の家はおねえちゃんに管理してもらいましょう。」


エリーが言うお姉ちゃんは下の階でお店を経営しているシアの事だ。頼めば引き受けてくれそうな気がする。


「あと、ドワーフの集落のみんなに来てもらわないと。いるといないでは復興の速度が全く異なるし。」


「そうだね。親方の所に話しにいかないと。」


執務室で今後の方針について大まかな道筋を立てていった。

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