42.辺境の砦
その日は城に呼び出しを受けていた。
聖女としてではなくドワコとしての呼び出しだ。なぜ呼び出されたか心当たりが無い訳でもないが不安を覚える。エリーをお供に城に向かった。順番ならジェーンだったがエリーがどうしても自分がやると言い張ったからだ。今日は聖女としてではないので控室や聖女の執務室には寄らずに指定された場所にそのまま向かう事にした。
入り口に立っている騎士に名前を告げると少し待つように指示され、少し経ってから中へ案内された。
「上級貴族、ドワコ様がお着きになられました。」
部屋の中には円卓が置かれ中央には王様が座っており、囲むように他の貴族と思われる人たちが座っている。
「呼び出しにより参りました。ドワコです。」
ドワコが挨拶をする。
「よくぞ参られた。座ってくれたまえ。」
王様の隣に座っている老人が座るように言った。ドワコが開いている席に座ろうとすると、エリーが椅子を引いた。
「どうぞ」
エリーが小さな声で言い、椅子を戻しドワコが座った。少し椅子が高かったので、ぴょこんと乗った感じになってしまったのは仕方ない。
「この度呼び出したのは、理由があってだ。ドワコの活躍はわしは色々と聞いておるから知っておるが、他の貴族からは、なぜ何も仕事をしない者が上級貴族などをやっているのか?との疑問の声が上がっている。それに、一部の貴族より不当な扱いを受けたとの話も出ておる。ドワーフが貴族をやっていることに不満を持つ者もいる。そこでだ、国のために仕事をしていると言う事を見せ、他の貴族を納得させなければならない。」
王様が呼び出した理由を述べている。話の内容からして聖女の仕事は含めていないように感じた。上級貴族のドワコとして国のために何か仕事をしろと言う事なんだろう。一部の貴族って逆恨みのような気もするけど・・・。
「そこでだ、ドワコには西の砦の隊長を3カ月ほど命ずる。見事、国の為に働いて皆に忠義を示せ。以上だ。あとでドワコは私の部屋に来るように。」
と言い残し王様は退出した。
それに合わせ、他の貴族たちも退出していく。退出するときに貴族たちはドワコを値踏みするような眼で見ていた。会議と思われる席にいた貴族がすべて退席し、ドワコも移動することにした。エリーもそのまま付いてきている。王様の部屋の前まで来て、入り口にいる近衛の者に来たことを告げると中に案内された。
「いろいろ無理な事を言ってすまんな」
王様が詫びてくる。
「いえ、お気になさらないでください。」
ドワコが王様に言う。
「ドワコが聖女として国のために働いてくれている事は十分承知しておる。だが、正体を隠している以上ドワコとしては国の為に何もしていない・・・と言う事になってしまう。3カ月間休養だと思って西の砦へ行ってくれんかのう?聖女は体調不良で休養しておると言う事にしておくから、そっちの仕事は気にせんで良いからな。」
「わかりました。ご命令と言う事なので3カ月間、西の砦の方へ行ってまいります。」
「すまんな。西の砦は西に位置する諸国連合・・・小さな国の集まりなのだが、その国境に位置する砦だ。諸国連合とは良好な関係なので危険な場所ではない。そのために少々訳ありなのだが・・・。」
王様の言葉の後半が歯切れが悪くなっている。
「安全な場所と言う事で似たような理由で、箔付けの為に訳ありな貴族が何人か放り込まれておる。それらの取りまとめも仕事になる。よろしく頼むぞ。あと、砦は軍事施設になるので連れて行ける従者は一人のみとなる。不自由をかけるとは思うが頑張ってきてくれ。」
「かしこまりました」
と言ったタイミングで後ろから誰かに抱き付かれた。
「ドワコぉ久しぶり~」
王妃様だった。
「3カ月もいなくなるなんて寂しくなるよ。でもお仕事だから仕方ないよね。頑張ってきてね。」
「はい。頑張って任務を遂行してきます。」
「おい。まだ公務中だぞ。」
王様が王妃様を注意する。
「ドワコがいたからついつい・・・」
王妃様がそう言い残し部屋を出て行った。
「それでは私どもも失礼します」
ドワコとエリーは王様の部屋から退出した。
城を出て、家に帰る途中エリーがドワコに言った。
「従者は私が行きますからね」
「ですよね・・・」
家に戻り、使用人たちに西の砦に行く事になったのを告げる。
「3カ月いなくなるけど、留守はお願いしますね。」
「「「かしこまりました」」」
下の階に行きシアにも長期間不在になる事を告げた。
そのあと、アリーナ村に向かい工房を3カ月休業しますと張り紙を出してエリーの家に寄った。
「頑張ってきてね」
とエリーママにも激励され城下町に戻り出発の準備を行った。
数日後、ドワコとエリーは西の砦に向かった。荷物はアイテムボックスに入れ、移動はワイバーンを使用している。今回はドワコのワイバーンに2人が乗っている。
「もう少しで西の砦に着きますね」
「それじゃ少し離れた所に降りて、そこからは徒歩だね。」
少し歩いたところに砦はあった。
貴族が放り込まれていると言う事もあり、それなりに綺麗な作りになっている。
門を守っている2人の兵士は徒歩で来た訪問者に警戒した。エリーが門にいる兵士に話しかける。
「お仕事中すみません。王様の命によりここに赴任することになりました。ドワコ様が到着されたとお伝えください。」
「少々お待ちください」
確認のために兵士が1人が砦に入った。少し経ち兵士が戻って来た。
「お待ちしておりました。ドワコ様。どうぞ中へ。」
ドワコとエリーは砦の中に案内された。中には一人の女性が待っていた。
「はじめましてドワコ様。私はカーレッタと申します。この砦で魔術師として任務に就いております。」
ドワコより少し身長が高いくらいだが、胸が大きくたわわと実っている。
「これはけしから・・・コホン。よろしくね。カーレッタさん。」
横でエリーがドワコをジト目で見ている。怖いからやめてください・・・。
「それではここから先は私が案内しますね」
カーレッタに案内されて隊長の執務室へ入った。そこには4人の女性が待っていた。
「わたくし、デマリーゼといいますわ。ここの副隊長をさせていただいておりますわ。」
副隊長と名乗ったデマリーゼは縦ロールが特徴のお嬢様っぽい感じだ。
「あとこちらから、カレン、ベラ、ケイトですわ。」
残りの3人を紹介していく。ここにいるのは全員女性のようだ。
「ここにいる5人が貴族で、他は平民の兵になります。平民の兵は10人が所属して交代で勤務していますわ。」
「ここで3カ月隊長としてお世話になります。ドワコです。こちらが従者のエリーです。」
「よろしくお願いします」
エリーが皆の前であいさつした。
「従者を連れてきていると言う事は、ドワコ様ってもしかして、上級貴族様ですか?新しい隊長が来るとしか連絡を受けていなかったので・・・。」
カーレッタが質問してきた。中級貴族、下級貴族は従者の同行を認められていないらしい。
「一応、上級貴族ですが皆さんは?」
「デマリーゼ様が中級貴族で、その他は下級貴族になります。」
「私はあまり階級は気にしませんので仲良くしてくださいね」
「「「はい」」」
「それではお部屋の方に案内しますね。えっと荷物をお運びしますので・・・???」
そこまで言ってカーレッタが考え込んだ。
「どうしましたの?カーレッタ」
不思議に思ったデマリーゼがカーレッタに尋ねた。
「ドワコ様、手ぶらでしかも砦には歩いて来られたので・・・従者の方も手に何も持っていませんし・・・。」
「あとで送って来るのではなくて?」
確かにドワコとエリーは近所に行くような軽装備だ。どう見ても何日もかけてここに来たようには見えなかった。ドワコたちは空路で来ているので移動時間はそんなにかかっていない。荷物はアイテムボックスに入っている。そのために軽装備となっている。
「荷物はすべて持ってきていますので大丈夫ですよ。ご安心ください。」
エリーが助け舟を出した。
納得できていない様子のカーレッタは気持ちを切り替え、ドワコとエリーを隊長の私室へと案内した。
「それではこちらがドワコ様の部屋となります。従者の方は隣の部屋を使ってくださいね。」
「「ありがとうございます」」
「それじゃ荷物出しますね」
「はい。それじゃこの辺りにお願いします。」
突然大きな箱が現れた。それを見ていたカーレッタが興奮している。
「これはアイテムボックス・・・話には聞いたことがありましたが見たのは初めてです」
「結構便利ですよ?」
「ですよね・・・うらやましいです」
そんな会話をしている間、エリーは荷物を整理して作業を終わらせている。残ったのは空になった箱だけだ。
「私、魔術師の方って初めてお会いしました。色々と聞いてみたい事もあるのでお話聞かせてくださいね。」
魔法が使える知っている人と言えば、光属性が使える王子様、それと闇と水属性が使えるエリーくらいしかいない。2人共、魔術師ではないので専門職の話が聞けるのではないかと期待しているドワコだった。




