41.魔法書
今日は、2カ月近くお休みしていた工房に来ている。
ドワコが連れ去られ、村の人たちは工房が無くなった時の事を考え、今後どうしようか考えていた。
しかし、先日ドワコを村で見たと言う情報が流れ解放されたんだと村人たちは安堵した。
そして今日、営業再開をした。開いたとたん多くの村人が工房に押しかけて来た。
「無事で安心したよ」
「一時はどうなるかと思ったよ」
心配してくれる村人たちを見てドワコは胸が熱くなった。
「心配かけました。今日から営業再開しますので、ご注文があれば言ってくださいね。」
エリーが注文を受けて内容を木札に書いていく。それを壁にかけ製作を開始する。完成した物は箱に入れ木札を付けて完成だ。エリーが受付と材料の準備と器用にこなしている。ドワコは配置された材料を元に製作を行っていく。作業は順調に進んでいる。さすがに2カ月近くの注文が一度に来たので1日では作業が終わらなかった。2日かけて作業を完了させ納品を終わらせた。
「ドワコさん終わりましたね」
お茶を用意してきたエリーがドワコに話しかけた。
「久しぶりの製作だったから少し感覚鈍ってたかも」
「そうですか?そうは見えませんでしたけど・・・」
2人でお茶を飲みながら話をする。
「たまには注文ではなく自分用に何か作ってみようかな」
クリエイトブックをペラペラとめくってみる。
「私にはこの字が読めないんですよね・・・ドワコさんの国の文字でしたっけ?」
「そうそう」
配合などが書かれたクリエイトブックは日本語で書かれている。そのためにエリー達は読むことが出来ない。魔法書もそうだ。ただし、この国で使う人の魔法書はこちらの文字で書かれているようだ。その辺の仕様の違いがまだ謎になっている。
「魔法書か・・・そう言えば・・・」
ペラペラとめくり目当てのページを出す。
「ドワコさん。これなんですか?」
「これは魔法書のレシピかな」
「私、魔法書欲しいです。ドワコさんみたいにカッコ良く使ってみたいです。」
「適性が無いと使えないんだって」
聖女見習の研修をしている時に言われた言葉を思い出した。
「魔法書の所有権を確定した時に適性があれば、魔法書に使える魔法が浮かび上がってくる・・・だったかな。」
「自分の物にしただけで適性があるかわかっちゃうんですね。面白そう。ドワコさんこれ作ってみようよ。」
エリーが言ってくる。
「えっと・・・必要な材料は・・・思ったより入手が難しい材料は無いね」
「なんとなくこの辺の材料が必要じゃないかなって思って持ってきました」
かばんの中から数点の材料を取り出す。・・・クリエイトブック読めているんじゃないかと疑うくらい過不足なく揃っている。
「ここにある材料を使えば1冊作れるね」
「ちょっと楽しみです」
ドワコは材料を製作用の箱にいれ、クリエイトブックを開き製作の指示を出す。箱が光り蓋が開き、その中には1冊の本があった。
「それじゃエリーどうぞ」
完成した魔法書をエリーに渡した。
「これが魔法書なんですね。しかも私の~♪」
エリーは新しく与えられた玩具を手にするかのように嬉しそうだ。
「所有者は本の上に手を当てて登録してください」
本から声がした。エリーは本の上に手を置いてみる。
「所有者を登録しました」
登録完了の音声が魔法書から聞こえてきた。
「これどうなってるんだろうね?」
ドワコが不思議に思って言った。
「ドワコさんがわからないものは私もわかりません。えっと開いて何か書いてあれば適性があるんですよね???」
「と、聞いたけど」
エリーがペラペラと魔法書をめくっていく。
「あっ何か書いてあります。・・・んーでも読めませんね」
ドワコはエリーの上から魔法書を覗き込んで見る。ここの文字ではなく日本語で書かれていた。
「ウォーターかな。下級の水属性魔法だね。」
「水が出せるんですか?水汲みとか行かなくても良くなるんですね。これは便利かも。」
嬉しそうにして他に書かれていないかエリーが魔法書を見ている。
「ありました。ここにも何か書いてある。」
「どれどれ・・・カモン・ワイバーン。闇属性の中級魔法だよね。ワイバーンを召喚する魔法だね。たしか闇属性が使える人ってこの国にはいないはずだったんじゃ?」
「それってドワコさんがいつも移動に使っているアレですよね?」
「たぶんそれ」
「うわぁ。これで自由に村と城下町移動できますね。」
行動範囲が広がったとエリーが喜んでいる。
「あとは・・・無さそうです」
「使っているうちに増える事もあるらしいよ」
「そっか。頑張らなきゃね。そ・れ・で。試しに使ってみたいです。」
「やっぱりそうなる訳ね」
ドワコとエリーは森の奥に来ている。
魔法の試し撃ちをするためだ。
「ウオーター」
エリーが魔法書をもって唱えてみる。
少量の水が出現し下に落ちた。
「水が出ました。すごーい。」
「これをどのように動かすかをイメージしながら詠唱すると、ある程度制御できるよ。」
「そうなんですか」
少し間をあけ再詠唱可能な状態になるのを待って。
「ウォーター」
今度は水の塊が飛んでいき木にあたり弾ける。
「おー」
「なんか攻撃魔法っぽくなりましたね」
エリーが嬉しそうだ。
「同じ属性の魔法は連続では打てないから気を付けてね」
「それじゃ次はワイバーン召喚してみます」
「最初は魔法書を開いて書かれている魔法陣を指でなぞりながら・・・」
字が読めないエリーに詠唱方法を教える。
「それじゃ試してみます。・・・。・・・。・・カモン・ワイバーン。」
召喚魔法が成功し、ワイバーンが出現した。
「すごいです。すごいです。」
エリーが興奮して喜んでいる。
「あーーでもダメかもぉ・・・」
ぱたんとエリーが尻餅をついた。そしてワイバーンも消えた。
「なんかフラフラ~っと来てしまいました」
「魔力切れかな?」
ドワコは魔力切れと言う物を経験した事が無い。ただ何となくそのような気がした。
「すこし休憩すると回復すると思うから」
ドワコも横に座り、アイテムボックスから飲み物を出した。
「どうぞ」
「ドワコさん。ありがとう。」
コクコクと渡した水筒に口を付け飲んでいく。
「もっと練習してドワコさんの役に立てるように頑張るよ」
「今でも役に立ってるから気にしなくてもいいのに」
ドワコがエリーの頭を撫でる。
エリーは嬉しそうに目を細めた。
ワイバーン召喚はかなり魔力を消費するようだ。エリーが使用する時は注意が必要になると言う事がわかり、休憩が終わると、『ウォーター』の練習を行った。
ついでにドワコもエリーに合わせ『ウォーター』の練習をはじめた。お互いに的に当てあったりして精度の向上を行った。気が付いたら付近は水浸しになっていた。
翌日はエリーとワイバーンの訓練を行った。基本操縦から、攻撃方法や防御方法の確認など使用方法を教えていった。エリーは飲み込みが早く、昼頃にはすべての項目をマスターして自由に扱えるようになっていた。そしてお昼ご飯を工房で食べて一息つく。
「もうワイバーンを自由に乗りこなせるようになったね」
「これでドワコさんに置いて行かれることも無くなりました」
エリーはむっふーんと鼻息を荒くさせ胸を張る。
「危ない事とかしちゃダメだよ?」
「・・・・・」
何故かエリーはこの問いかけには返事をしなかった。
この時ドワコはあまり気にもしていなかったが、後々この意味を知る事になる。




