31.メイドの教育
翌日の朝、ドワコは目を覚まし、ダイニングルームへ向かった。
「おはようございます。お嬢様。お目覚めはいかがでしょうか?」
執事らしい言葉で朝の挨拶をしてくるセバスチャン。
(すげー。本物の執事だ。)と内心思いながら挨拶を返す。
「おはようセバスチャン。とても良くってよ。お食事を頂けるかしら?」
なんとなくお嬢様言葉で返してみたドワコだった。
「はい。ご用意の方が出来ております。」
「パンパン」とセバスチャンは手を2回鳴らす。
するとジェーンとジェシーの姉妹が食事を運んでくる。二人とも緊張しているのかなんかぎこちない。
「どうぞ」
震える手で2人は食事を並べていく。並べ終わり後ろに控える。
ドワコはこのような食べ方の経験がないために少し悩んでいる。昨晩は気にせず普通に食べたのだが貴族ならではマナーがあるのかもしれない。あとでセバスチャンに聞いてみる事にする。
「お嬢様。あまり作法等はお気になされずにお召し上がりください。」
ドワコの心境を察してかセバスチャンは優しく語りかけた。
朝食も終わり、使用人たちも食事を済ます。
「えっと。メイド服が完成したので、申し訳ないですけど、こちらの方に着替えてくださいね。」
「「かしこまりました」」
新しく完成したメイド服を受け取り部屋を出て行った。
しばらくしてメイド服に身を包んだ2人が戻って来た。
「良く似合っています。どこかキツイところとかありませんか?」
「大丈夫です」
「問題ありません。お嬢様が直々に服を仕立ててくれるとは嬉しく思います。」
「それなら良かった。今日はみんなでお城に行きます。各自準備をお願いします。」
「かしこまりました」
セバスチャンは即答で返事をしたが、メイド2人は顔が青くなっている。
「お城へ・・・ですか?」
「昨日、城でも仕事があると説明したと思いますけど?」
「お城は初めてなので緊張してしまいまして・・・」
メイド2人は集落から出て来たばかりで、急にお城に行くと言われて完全に固まっていた。
「2人共、これはお嬢様のお供をすると言う大事な仕事です。プロのメイドだと言う事を自覚しなさい。」
セバスチャンが2人を叱責する。
「「・・・わかりました」」
2人が返事をする。
「お嬢様、大きな声を上げてしまい申し訳ありません。」
セバスチャンが謝罪をする。
城へ行く準備も出来て徒歩で向かおうとするとセバスチャンに止められた。
「お嬢様。馬車の手配をしておりますので少々お待ちください。」
しばらくすると1台の馬車が店の前に止まった。
「どうぞこちらへ」
セバスチャンが馬車のドアを開け前後で向かい合わせになっている後ろ側の席に案内する。
「次にメイド2人が入るのですよ。座る場所は前側です。」
セバスチャンがドアを閉め、御者の隣に座る。
「それでは出発します。お願いします。」
御者に出発をお願いし、馬車は城へ向かっていった。あとで聞いた話では、この馬車は貸し馬車と言ってタクシーのような物らしい。
城の貴族用の入り口で馬車が止まる。あらかじめ申請が通してあったようで、セバスチャンと衛兵が少しやり取りをして通行が許可される。馬車用の入り口で止まり、セバスチャンが馬車から降りドアを開ける。手を添えられドワコが下りる。
「お嬢様が下りられてから2人が下りてください。ドアを開ける者がいない時は先に降りてお嬢様のサポートをするのですよ。」
このやり取りを見て、ドワコはセバスチャンがメイドの教育を行っている事に気が付いた。
「これが馬車を使用して城に入る手順です。私がいなくても出来るようにしておいてくださいね。」
「「はい」」
2人はセバスチャンに言われ返事をする。
「申し訳ありません。ここから先は私共は行き先がわからないためご案内が出来ません。お嬢様の後を付いてまいりますので何かあればお声かけください。」
「はい。それじゃ向かいましょう。」
城の中をドワコ達は進んでいく。メイド姉妹は初めて入る城内を珍しそうに見ている。セバスチャンは慣れているのか堂々として歩いている。
「それではここが私の控室になります。この部屋で仕事用の服に着替えます。」
「かしこまりました。2人とも、一緒に入ってお着替えの手伝いをしてください。私はこの扉の前で控えております。終わりましたらお声かけください。」
ドワコとジェーン、ジェシーはドワコの控室に入りドアを閉めた。
「それではお着替えの手伝いをさせていただきますね」
「えーっと何着か服がありますけど、どの服でしょうか?」
「この青と白の服です」
「「かしこまりました」」
本当は1人で着ることが出来るけど、セバスチャンの言いつけ通りメイド姉妹はドワコの服をぎこちない手つきで着替えさせる。
「2人ともありがとね」
着替えの終わったドワコを見て2人は完全に固まっていた。
「この服って・・・」
「聖女様?」
驚く顔が見てみたい気持ちもあって、城での仕事内容を意図的に伝えなかった。思った通りの反応をしてくれて満足したドワコだった。
「実は副業で聖女様やってます。驚いた?」
「驚いたも何も、お嬢様、内緒にしているなんてひどすぎます。」
ジェシーが涙顔で訴える。
「副業で聖女様って出来る物なんですか?」
「契約上そうなっているからね。本業は工房でのモノづくり・・・だよ?」
「セバスチャン。入ってきていいよ。」
ドワコはセバスチャンを呼ぶ。
「失礼します」
セバスチャンが部屋に入ってきた。少し驚いたような顔をしたがすぐいつもの顔に戻った。
「お嬢様が上級貴族だと言う事はわかっていましたが、聖女様だったとは・・・お仕え出来て大変うれしく思います。」
「上級貴族だと知っていたんですか?」
「城からの報奨金が出ると言う時点でただの商人ではないと言う事がわかりました。そして報奨金の額をみて下級、中級貴族ではありえない金額でしたので上級貴族様だろうと思っておりました。」
「セバスチャンは優秀ですね」
「お褒め頂きありがとうございます」
あまり表情を崩さなかったのは残念だが、少ない情報だけで動ける執事ってすごいと感じるドワコだった。
それではこちらが私の執務室になります。使用人3人を連れ部屋に入る。
「私の仕事は、町や村、集落を回って治療行為を行う事、大規模な魔物狩りを行うときに同行する事、各種行事への参加、有事の際の出動が主な仕事になります。あなたたちには必要に応じてそのサポートをお願いします。それと、私がこの仕事をしている事は他言無用でお願いします。」
「かしこまりました」
「「かしこまりました」」
使用人に仕事について大まかな説明をし、今日はここでの仕事は無いので、いつもの服に着替え家に戻ることにした。もちろん、優秀な執事がいつの間にか手配した馬車で帰路に就いた。




