29.使用人探し
翌日、アリーナ村にある工房で受けた注文を処理するために、ドワコとエリーはアリーナ村に向かった。
「久しぶりの工房での作業ですね」
「今日もよろしくね」
ドワコは城下町で仕入れてきた材料を工房にある棚に整理して並べていく。その間にエリーは注文リストを整理する。
工房は長期休業していたので注文がかなり溜まっている。
製作に必要な材料の配分がわかっている物はエリーが事前に準備してくれて、製作用の箱に入れるだけの状態にしてくれている。ドワコはそれを箱に入れ注文を受けたものを製作していく。
数日かかる物だと思っていたドワコだったが、エリーが的確にサポートしてくれたおかげで1日と半日で作業が終わった。優秀すぎる・・・。各所に納品を行い2日で作業を終えることが出来た。
「エリーお疲れ様。作業も終わったし、明日からしばらく城下町の方に行くからエリーはお留守番お願いね。」
「わかりました」
エリーを家に帰し、ドワコは工房に一泊して城下町へ戻った。
城下町の家に戻り早速問題が発生した。
ここ数日、エリーがいてくれたおかげで家の掃除や食事の用意など生活に不自由することなく過ごすことが出来た。エリーがいないと家を掃除したり、食事の用意をしてくれる人がいなくなってしまう。今は城からも十分な俸禄も貰っているので使用人を雇えるだけの余裕も出来ている。
とりあえず、当面としては執事1名、メイド2名程度いれば良いかな?とおおよその道筋をたてる。そこで、城下町にある使用人を紹介して貰えるという派遣会社へ行ってみる事にする。
「いらっしゃい。今日はどのような御用で?」
「使用人を探しているんです。執事とメイド2人くらいですけど・・・」
「働き先になる場所はどのような所ですか?」
「えっと、先日オープンしたアリーナ銘品館と言うお店があるんですけど、そこの上になります。」
「最近開店したお店ですね。」
「わかりました。執事はあいにく紹介することが出来ませんが、メイド2名は何人か候補がいますので、条件に近い人を手配できると思いますよ。」
「わかりました。それではその様にお願いします。」
メイドの条件を派遣会社の受付の人に伝え、諸条件など話を詰めていく。そして翌日手配して派遣するという事で話が付いた。この会社は紹介するだけでメイドとの契約は個人契約になるそうだ。指定された紹介手数料を支払う。(このお金はメイドの支度金も含まれているが請求額は思っていたよりかなり安かった)
「それではよろしくお願いします」
ドワコは用事が済んだので店を後にする。
執事は無理だったが、メイドの手配はすることが出来た。とりあえず身の回りの事は何とかなりそうだ。
実はこの時、派遣会社の方は大きなミスをしていた。その事に気が付くのは数日後になる。
今日はこのあと特に用事も無いので城下町を散策している。
「どこか優秀な執事でも落ちてないかなぁ・・・おっ?」
城下町にある広場のベンチに1人の男性が座っていた。リストラされた定年が近いサラリーマンのような雰囲気だ。かなり汚れている感じだが着ている服が広場に合わない服装をしている。そこだけ浮いているのが気になったドワコは話しかけてみる事にした。(人助けは聖女の大事な仕事だからね)
「おじさんどうしたんですか?」
「え?」
突然話しかけられてベンチに座っていた男性は驚く。
「何か困っている感じがしたので声を掛けさせていただきました」
素直に思った事を男性に伝える。
「お恥ずかしいことに・・・ここ何日もまともに食事をしていませんで・・・」
「そうなんですか。良かったらこれを食べてください。」
アイテムボックスから食料の入った袋を出し、簡単に食べられる物を選び、残りはアイテムボックスに収納した。取り出した食べ物は男性に手渡した。
「どこのどなたか存じませんか感謝します。あなた様は聖女様のように見えます。」
「え?」
突然言われたのでドワコは焦った。よくよく考えたら例えで言っただけだよね???
渡したものを食べ終え男性が語り出した。
「私はとある中級貴族様の下で執事をしておりました。先代の頃から長くお仕えさせていただいていたのですが・・・。先代が亡くなられ、そのご子息が今のご主人様となってから状況が変わりまして、わたくしが進言したことがお気に召さなかったようで、先日お屋敷を追い出されてしまいました。その時にお屋敷で与えられていた部屋に置いてあった財産なども没収され、そのまま町へ放り出されてしまいました。」
「働き先を見つけたいのですが、この年齢ではどこも雇ってくれる所がありませんでした。持っていたお金も底をつき、それから数日食べる物も無くこの広場で過ごしておりました。」
「そのまま屋敷から放り出されたから執事のような服装をしていた訳ですね」
彼は汚れてはいたが執事が着るような黒い服を着ていた。そのために広場で浮いていた存在となっていた。
「それじゃ私の所で働きませんか?ちょうど執事を探していたんです。」
「見た感じですと貴方様はドワーフのように見えますけど、工房とかのお手伝い・・・でしょうか?」
「いえ、工房のお手伝いもしてもらうかもしれませんが、基本的にあなたの思われている執事の仕事で間違いないと思います。どうでしょうか?」
「行く当てもありませんし、先ほど見ず知らずの者に食べ物を分けていただいた恩もありますので、わたくしで良ければよろしくお願いします。」
「このような身なりで申し訳ありません。わたくし、セバスチャンと申します。これからどうぞよろしくお願いします。お嬢様。」
(セバスチャンって言ったよこの人。名前からして執事だな・・・。これは昔見たアニメの影響なんだけどね)
「こちらこそよろしくお願いします。私はドワコと言います。」
こうしてドワコは今日の目標であった執事とメイドの確保に成功した。
とりあえずセバスチャンには身なりを整えてもらうために住所を教え、支度金を渡して明日改めて来てもらう事となった。
(少し多めにお金を渡したけれど明日来ないようなら、それまでの人だったと思うしかないかな)
翌朝、シアと朝食を食べ終えたころにお店の方へセバスチャンがやって来た。身なりも整えられ、まさに執事と言う感じだ。
「おはようございますお嬢様。本日からよろしくお願いします。わたくしの事はセバスチャンとお呼びください。」
「この人がドワコさんが雇ったって言う人?私、このお店の店長をしていますシアといいます。よろしくお願いしますね。セバスチャンさん。」
「こちらこそよろしくお願いします。シア様。」
「ドワコさん、セバスチャンさんって執事さんみたいだね。」
「みたいじゃなくて、執事だよ?」
「なんかドワコさん、どこかのお嬢さんみたい。」
「まあね。この後メイドさんも来るはずだから、お店の方に来てしまったら教えてね。」
「本当にお嬢様だ・・・。わかったよ。」
ドワコはセバスチャンを連れて上の階に上がった。
「ここが私の家になります。1階はシアの店舗兼住宅、2階3階が私の居住スペースで4階が使用人の個室になってるよ。セバスチャンは執事だから4階の奥にある少し広い部屋を使うといいよ。」
「個室まで用意していただきありがとうございます。お嬢様のお役に立てるよう努力させていただきます。」
「セバスチャンの仕事は、この家の総合的な管理をお願いします。それと私は非常勤ですけど・・・城での仕事がありますので必要に応じて補佐をお願いするかもしれません。あと、アリーナ村に私の工房があって、そちらに行っている時は基本休みになると思います。もう少しするとメイドが2人派遣されてくると思うので、3人で分担して仕事をお願いします。」
「かしこまりました。お城での執務というのは、どのような役職をされているのかわかりませんので必要な時にお声掛けください。」
「ドワコさん派遣会社から来ましたって子が2人来てるよ」
シアが知らせに来た。
「こっちに来てもらうように言ってー」
「それじゃこっちがドワコさんの家だよ。」
二人の少女が入ってきた。見た感じ12~15歳くらいで、服装はちょっと小汚い感じだ。2人とも似ているけど姉妹かな?
「はじめまして。派遣会社の紹介で参りましたジェーンと申します。どうぞよろしくお願いします。」
「同じく、ジェシーと申します。よろしくお願いします。」
「ジェーンさんとジェシーさんですね。私はこの家の主、ドワコと言います。よろしくお願いしますね。それとこちらにいるのが執事のセバスチャンです。」
「執事のセバスチャンです。よろしくお願いします。」
「それでは仕事内容に関する説明をしますね。まず2人にはの家の掃除、洗濯、食事の用意、その他雑用をお願いします。あと、城での仕事がある時はどちらかが手伝いとして同行してもらいます。よろしいですか?」
「「わかりました(下のお店に御用達の看板出ていたからその関係かな?)」」
「あと、城での仕事については守秘義務が生じますので他言無用でお願いします。」
「かしこまりました。お嬢様。」
「「わかりました(取引内容が他のお店に知られると信用にかかわるのかな?)」」
「最初にジェーンとジェシーの仕事着を用意しないといけませんね。正式なものは後から用意しますけど、今は既製品を下のお店から調達してきてください。あとで正式な服を用意しますので寸法を測らせてくださいね。」
ドワコとジェーンとジェシーは下の階にあるアリーナ銘品館に入った。
「シアさん忙しい所ごめんね。この2人に仕事用の服を用意したいんけど、お願いしていい?代金は後でこちらに請求してね。」
「わかったよ。それじゃ2人ともこちらへどうぞ。」
シアに案内され2人は衣服を扱っている場所へと案内していった。アリーナ村で生産された服をこの店では取り扱っている。シンプルな物が多いが、衣服の制作に使っている機械や道具はドワコが作った物だ。職人の腕も合わさり製品の質はかなり良いものになっている。専門店ではないのでメイド服などは置いていないが、正式な服が用意できれば、この服は普段着として使用できるだろうとドワコは判断した。
ドワコは先に家に戻りセバスチャンとお金の管理について話し合っていた。工房などで自分が稼いだお金は自分で管理し、国からの報奨金はこの家の維持管理用の資金に充て、使用人の給金などはここから出すことになった。このお金はセバスチャンに管理してもらう事になった。




