27.開店準備
ドワーフの集落との今後の方針について親方と話し合ったあと、正式な集落の管理に関する手続きを行った。・・・あと、紹介する商人で思い出した。
「そう言えば何日も家を空けていたからシアが心配しているかも」
家に帰らないといけないので城から出る事にした。入る時は厳重なチェックが行われるが出る時は特にそういう物はない。ドワーフの5人はドワコの家を目指した。
「ドワコの家はこの先?」
「もう少し行った所にあるよ」
「なんかすごく高級そうなお店が立ち並んでる・・・」
親方、ドワミ、あと2人のドワーフは物珍しそうに街並みを見ている。
「着いたよ。ここだよ。」
人の気配に気が付いたシアが慌てて出てきた。
「ドワコさんどうしちゃったの?何日も帰ってこないから心配したよ?」
「シアさんごめんね。色々とあって帰ることが出来なくなったの?」
まさか(捕まってました)なんて言うことできないし。曖昧に理由を濁す。
「こちらの方は?」
「ドワーフの集落に住む方々です。ちょっとシアさんに相談があって。」
「わかったわ。それじゃ皆さんこちらへどうぞ。」
シアが店内へ案内する。お店の準備は出来ているようだが相変わらず商品があまり置いていない状態だ。
店内の応接スペースに案内され4人は椅子に腰掛けた。
「お茶の用意をしないとね。ドワコさんも手伝ってくれる?」
「はーい。お茶を取りにシアとドワコは奥に入って行った。」
「ここの店主さんかな?ドワコをあんな風に手伝わせているけど大丈夫なのかな?」
不安に思ったドワミがつぶやく。
「ドワコも特に気にした様子がないから大丈夫ではないかのう」
親方が言う。しばらくするとお茶を2人は運んできてテーブルに並べた。
「シアさんはいつからお店を開く感じ?」
まだ開店していないように見える店内を見てドワコが言う。
「開店させたいんだけど商品がなくてね・・・。肝心な仕入れ先のドワコさんもいなかったし。」
「家を空けていたことはごめんね・・・。それで今日は提案があってこの方たちを連れて来たよ。」
「提案って?」
「実はね。この城下町から少し離れた所にドワーフの集落があるんだ。」
「その話は初めて聞いたよ。この国にいるドワーフってドワコさんだけかと思ってた。」
「ドワーフって売れる、売れないは別として日常的に物を作ってしまうんだって。それで集落で作られたものが沢山余ってる訳。それを買い取ってこのお店で売るって言うのはどうかなって。」
「それはいい案だと思うけど、他の商人とか来ないの?」
「その点は大丈夫。集落とは私の工房とこのお店でしか取引をしないという事になったから。相手側も了承しているよ。」
「そうなんだ。同じドワーフ同士だからとかそういう感じ?」
「まあそんな感じ。私は商売に関して多少なりとも知識があるけど、集落の人はそう言うのがないから間に立つ商人が必要になる訳。お願いできるかな?あと、高級品とか作れる専門の職人さん達だから商売の幅も広がると思うよ。」
「それじゃお願いしようかな。私はこの店の店長シアです。皆さんこれからよろしくお願いします。」
シアのお店とドワーフの集落との打ち合わせも終わり、みんなで近くの食堂で夕食を取り、ドワコの家で泊まる事になった。
「ドワコの家って広いね。一人で住んでるんだよね?」
ドワミが聞いてくる。
「そうだね。今のところは・・・かな。家の管理とか、仕事の補佐とかで何人かは使用人が欲しいとは思ってるんだけどね。あっ工房の方には一人手伝ってくれてるくれる人がいるよ。」
何日も休業状態だし、工房にも顔を出さないとなぁ・・・。
「あしたはシアさんが馬車の手配をしてるから、明日は集落に向かって出発できると思うよ。」
夜までの空いた時間で旅に必要な物は用意したから、あとは明日出発するだけだ。集落の人へのお土産としてお酒もたくさん買い込んでおいた。
翌日、戸締りを確認してドワコ、シア、ドワーフ4人は馬車に乗り込みドワーフの集落を目指し出発した。
途中コンテナハウスを取り出し一泊することにした。たまたまだったが備え付けてあるベット(男三人は同じ部屋)の数も足りて改造をする必要もなく再利用できた。そして、翌日ドワーフの集落に到着した。
「「「親方ーーーーっ」」」
一行の到着を知った集落の人たちは出迎えに出てきた。
「ここにいるドワコのおかげで、なんとか全員無事に戻って来ることが出来た。心配かけたな。」
「「ありがとうドワコ」」
集落の人から感謝される。ちょっとドワコはむず痒い。
「それでだ、わしらの作った物はここにいるドワコと商人のシアが買い取ることになった。これで現金収入が入り皆の生活が良くなるだろう。」
「紹介していただいたシアです。よろしくお願いします。」
シアは一人だけ身長が高いのでかなり目立っている。
「それでは早速品物の方を見せていただきますね」
ドワミに案内されてドワコとシアは各家の工房をまわっていく。
「どれも良い品物ばかり・・・これも全部買い取りますね。ごめんなさい。これはちょっと買い取れないかも・・・。」
やはり商人である。注文も無く適当に作った物なので売り物にならないものも存在する。武器、防具、日用品、工具、農機具などなど色々な物を買い付けて回った。
「結構な量になったね。でもこれだけあればお店としては十分すぎる品揃えになると思う。ドワコさん紹介してくれてありがとう。」
中央の広場に買い付けた品物が山積みに慣れている。これをドワコはコンテナハウスの帰りには使用しない部屋に突っ込み収納する。大きな馬車を用意しなくても大量の荷物が運べるのは便利だ。
「それじゃ次からは正式な注文と言う形になると思うからよろしくお願いします。」
「あっそうそう。これを皆さんで分けて飲んでくださいね。」
ドワコは大量のお酒を広場に並べた。
「こりゃありがてぇ」
「今日は宴会だ」
集落のみんながお酒を前に盛り上がっている。
「それでは、また来ますね。」
挨拶をしてドワコとシアはドワーフの集落を後にした。
翌日、城下町に戻りシアは仕入れてきた商品を店に並べていく。ドワコもお手伝いをしている。
「シアさんこの規模のお店だと一人でやるのは厳しいよね?どうするの?」
「人を雇いたかったんだけど・・・仕入れでほぼ全額使っちゃったしなぁ」
「それじゃ手伝いにエリーを呼んでくる?」
「エリーなら計算もできるし戦力になるけど、呼ぶって言っても数日かかるよ?」
「たぶん大丈夫だと思う。ちょっと出て来るね。」
ドワコは店を飛び出し城下町を出て人気のいない森まで行きワイバーンを召喚する。
これならすぐにアリーナ村に行けると思う。
1時間程度でアリーナ村のそばにある森まで戻って来た。さすがにこんな大きな魔物を村の側に下ろしたら大騒ぎになるからね。少し離れた人気のいない森で降り、徒歩でアリーナ村を目指した。
アリーナ村に到着したドワコはエリーの家に向かった。ところが、エリーは家にいなかった。エリーママによると、工房にいるようだと教えてくれた。
工房の鍵が開いていて中ではエリーが掃除をしていた。合鍵を持たせているのでエリーは出入り自由になっている。
「ただいま。エリー掃除してくれてありがとうね。」
「ドワコさんやっと戻って来たんですね。待ちくたびれました。」
「ごめんね」
エリーの頭をそっと撫でる・・・と言っても身長があまり変わらないので子供同士でじゃれあっているようにしか見えない。
「早速で悪いんだけど、城下町にあるシアのお店を数日手伝ってほしいんだけど・・・。私も手伝う予定だけど大丈夫かな?」
「お母さんに聞いてくる」
エリーが家に戻っていった。少し経つとエリーが戻って来た。
「ドワコさんがいるなら行って良いって」
毎回即答でエリーママはOK出すけど、どれだけ信頼しているんだろう・・・こちらとしては助かるけど、ちょっと心配になってきた。
「とりあえず数日分のお出かけセット持ってきたよ。いつでも出発できるよ。」
「あ・・・その前にドワコさんがいない間に受けた注文ね」
ドサッと紙の束を渡された。これ全部注文書ですか・・・これは大変そうだ。時間を見てこれも納品してしまわないとね。
「それじゃ戸締りして出発するよ」
「今回は徒歩で移動ですか?」
馬車がないことを疑問に思ったエリーが聞いてくる。
「もっと早い乗り物があるから大丈夫」
エリーと一緒に人気のいない森の中へ入っていった。手ごろな広さの場所を見つけワイバーンを召喚する。
「ど・・・ドラゴン???」
エリーが固まっている。
「大丈夫。ワイバーンって言って危害は加えないから。背中に乗る所があるでしょ?城下町までこれに乗って移動するよ。」
「空を飛んで移動なんてお話の世界みたいです」
ドワコとエリーはワイバーンに乗るドワコが前で手綱を握り、エリーがドワコの後ろからしがみ付く。
「それじゃ行くよー」
「飛んでる飛んでる。うわぁ村が小さく見える」
ワイバーンは飛び立ちマルティ城下町を目指す。1時間程度で城下町から少し離れた森の中へ降りる。
「馬車で3日かかるのに、こんなに早く着いちゃうんだ。」
エリーが驚いている。そして二人はドワコの別宅へ向かう。
「ただいまー」
店の中ではシアが一人で開店準備に追われている。
「おかえりドワコさん。馬車の手配できた?」
「こんにちは、おねえちゃん。」
「あれ?エリーいつの間に来たの?」
ドワコは馬車の手配に行ったのだろうと思っていたシアがエリーを見てびっくりする。
「そんなに時間たってないよね?エリーこの町に来てたの?」
「ドワコさんが村まで迎えに来て、ここまで連れてきてくれたよ。」
「そうなんだ・・・」
ここは深く聞いちゃいけないことだとシアは判断してそれ以上聞いてこなかった。
3人は開店準備に追われ瞬く間に数日が経過し、開店前日となった。「アリーナ銘品館」と名付けられたお店は、ドワーフの制作した数々の品を販売し、城下町の一等地に出店することを聞いた村長(領主)が後ろ盾になり、アリーナ村で作られた特産品なども扱うお店となった。当初の予定だった「武器と防具の店」からかけ離れた形になってしまったが、元々は店舗面積が広すぎてそれを埋める感じで色々手を伸ばした結果このような形になってしまった。ただ、この店で扱う武器、防具は専門のドワーフ職人が作った一級品であり、他のお店とは比べ物にならない品質を誇っている。
準備も終わり3人で休憩していると城からの使いの者がやってきた。
「これは王様からの開店祝いと言う事で預かり、届けに来ました。入り口にこれを掛けておくようにとの事です。」
品物を渡し、使い物者が帰っていく。
「王様からですか・・・」
シアが何だろうとその包みを開く・・・中には小さな看板が入っているようだ。それを見たシアが驚きの表情を浮かべる。
「これって御用達を示す看板だよね?」
「御用達って城とかに品物を収めることが許される商人を示すものだよね?」
「たぶんそう。貰ったからには看板付けないといけないよね・・・」
シアが入り口の見えやすい位置に『マルティ王国 御用達』と書かれた看板を掲げる。
その看板を見た近くの店舗の人たちが驚いている。年端も行かない3人の女性しかいない店にどうしてその看板が掲げられるのか理解できないようだ。
この看板のおかげで話題づくりも出来たし、明日の開店は忙しくなりそうだ。




