賢者になったドワーフ娘(仮)

村の職人

22.聖女見習（中編）

見習研修2日目。

今日は城下町から近いところにある集落で実地研修をする。

馬に騎乗した護衛の騎士2人と馬車に御者、聖女、ドワコ、メイド2人が乗っている。

「今日は、今から行く集落で回復業務をしていただきます。聖女としての振舞い方や国民への接し方などを学んでもらいます。」

「わかりました」

しばらくして一行は目的地の集落へ到着する。ドワコはフードをかぶり準備する。

事前に連絡がしてあった為に集落の人々が出迎えに来ていた。

護衛の騎士が馬車のドアを開けメイドが2人、ドワコ、エリオーネの順番で降りてくる。

聖女に小さな見習いが付いている事に住民が驚いている。

「皆様お出迎えありがとうございます。本日は皆様の健康を願いまして参りました。病気や怪我でお悩みの方は是非わたくしたちのもとへお越しください。」

そう言ってから護衛の2人を残し、事前用意してあった大型のテントにエリオーネ、ドワコ、メイド2人は入った。

「こんな感じで診察する前に出迎えた人に挨拶するようにね。特に文言は決まっていないからそのまま言っても良いけど自分なりの言葉に変えても大丈夫だよ。」

「わかりました」

「今回はテントだけど、集落によっては集会場みたいなものがある時はそこで診察する時もあるよ。村や町だと神殿を使う事になると思う。」

その様な会話をしている間にメイド2人が準備を進めていく。机と椅子と診察用のベットの配置が終わる。

「準備できました」

メイドの一人が言うと、

「それじゃ始めましょう」

エリオーネがそう言って集落での診療が始まった。

「はじめは私がやるから見ていてね」

「わかりました」

メイドが最初の患者を案内する。

「今日はどうされましたが？」

「先日、転んだ時に足を痛めまして・・・」

年配の男性が症状を伝える。

「そうですか。それはお辛かったでしょう。今すぐ回復しますね。」

「癒しを来たれ。ヒール。」

患部に手を当て反対の手には魔法書を持ち、回復魔法を詠唱すると淡い光とともに腫れが引いていく。

「はい。これで大丈夫です。」

「痛みが引きました。聖女様ありがとうございます。」

治療を終えテントから出て入れ替わりに次の患者が入ってくる。

若い男性のようだ。片足を引きずっているように見える。

「それじゃ次から頑張ってみて」

「はい」

エリオーネからドワコに交代する。

「今日はどうされました？」

「今日の朝、山に登った時に足を毒蛇にかまれまして・・・。」

「それは災難でしたね。回復させますので噛まれた足を見せてください。」

毒が回っているようで噛まれた足の色が紫色に変色して腫れている。すごく痛そうだ。

「それでは回ふ・・・・。」

「ちょっと待って」

エリオーネに止められた。

「な、何か問題でもありましたか？」

ドワコが恐る恐る聞く。

「これはおそらく毒によるもの。ヒールでは回復できない。光属性魔法だと上級魔法の『キュア』か水属性魔法の『水の癒し』でないと治せない。わたくしは光属性魔法は中級までしか使えないし水属性魔法は持っていない。」

「そっ・・・そうなんですか？」

「ごめんなさい私たちの力ではお役に立てないようです・・・」

「そこを何とか助けてください」

患者が何とか懇願する。

「ちょっと待ってくださいね・・・」

ドワコは魔法書をペラペラとめくる。

「聖女様、中級魔法の使い方教えてもらえませんか？」

「どういう事？」

ドワコの質問に状況がつかめていないエリオーネ。

一応、聞かれたので答える。

「それじゃ一番簡単な方法を教えるね。詠唱する魔法が書いてあるページを開いて、そこに書いてある魔法陣のどこかに目印の三角印がしてあるから、そこを始点に指でなぞっていって途中に印がしてあるからその印までに上の段を詠唱、そのまま魔法陣をなぞって次の印があるまでに中段を詠唱、最後に下の段をなぞり終わるまでに詠唱で発動。これが一番簡単なやり方だけどどうするの？」

「少し試してみますね」

ドワコは魔法書を左手で持ち、先ほど開いたページを右手の指でなぞっていく・・・。

「・・・・・。・・・・・。・・・水の癒し。」

どこからともなく少量の水が現れ患者の患部を流していく。水の癒しは水属性の中級魔法である。効力としては毒や、麻痺などの状態異常からの回復と合わせて怪我の治療が行える。魔法の効果があったようで紫だった場所も無くなり腫れも引いていく。

「これで大丈夫ですか？」

エリオーネに確認を取る。

「はい。大丈夫です完治しています。」

「もう大丈夫みたいですよ。良かったですね。」

「準聖女様ありがとうございます。ありがとうございます。」

凄くお礼を言われて退出していった。お礼を言われると良いことをしたなと満足する。

「それにしても驚いた。まさか水属性のしかも中級魔法が使えるなんて。これは絶対に囲い込まないと・・・。」

聖女様がブツブツと何か言っている。

「次の方どうぞ」

次の患者が入ってくる。

「刃物で手を切ってしまいまして・・・」

「昨日からお腹の調子が・・・」

「熱っぽくて・・・」

同系列魔法の再使用可能時間を計算しながら、次々と入ってくる患者を治療していく。

「休憩入れなくて大丈夫？かなりの魔力使ってると思うんだけど？」

エリオーネが心配して聞いてくる。

「今の所何ともない気がしますけど？」

「魔力回復のポーション持ってきているから必要があったら飲んでね」

「ありがとうございます」

結局、ドワコはポーションを飲むことなく全員の診察を終えた。

「お疲れ様。今日の診療はこれでおしまいね。片付けが済んだら城に戻るよ」

メイド2人がいそいそと片づけを始める。診察で使用したテントは後で回収に来るので、そのまま馬車に乗り込もうとテントを出た。するとテントの前には集落の人が見送りに来ていた。

「聖女様、準聖女様、今日は本当にありがとうございました。集落を代表してお礼申し上げます」

集落の代表と思われる人がお礼を述べる。

「僅かながらでも皆様のお役にたてたようで良かったと思います。皆様お元気でお過ごしください。」

エリオーネが挨拶をして馬車に乗り込む。軽く礼をしてドワコも馬車に乗り込んだ。続いてメイド2人も乗り込みドアが閉められた。護衛騎士2人の先導で馬車が動き出した。その様子を集落の人々は感謝しながら見送った。

城に戻り、聖女の執務室にエリオーネとドワコの2人がいる。他の者は人払いをしている。

「今日はほんと驚いたよ。まさか水属性の中級魔法が使えるなんて・・・。あと、あれだけ治療魔法使ったのに魔力が枯渇して無いようだったし。」

「中級魔法は魔法書には書いてあるんだけど発動方法がわからなくて、詠唱のいらない下級だけしか使えなかったんです。」

「ちょっと魔力検査させてもらっていいい？」

「魔力検査って？」

「今どれくらいの魔力が体内にあるかを量っておおよその魔力量を出すの。これで使用できる回数とかの目安が付くよ。」

「いいですよ」

ドワコも自分にどれくらいの魔力があるか気になった。ちなみにゲームではドワーフには魔法属性が無かったので魔力は1桁台だったと思う。魔法系の職業なら最大は無課金で255だったと記憶している。

「それじゃ黒い水晶に手を当ててみて」

黒い球形の推奨に触れるようにエリオーネが言った。

「魔力が多いと白くなっていって光出すよ」

ドワコが水晶に触れる・・・。

「光りませんね」

「あれだけの魔法が使えて光らないってありえない」

エリオーネはこの不思議な現象を目のあたりにして頭を抱える。

「わたくしだけでは解決できないと思うので先送りにしましょう。魔法は発動していたので間違いなく使えるようですし・・・。」

「本当は明日は別の事をしようと思ってましたけど、予定変更で魔法の講習をすることにします。」