16.聖女様の秘密
昨晩、エリオーネとの会話の後、ドワコは自分のテントへ、エリオーネはコンテナハウスの中に入って行った。
早朝、ドワコは金縛りにあって目が覚めた。
「身動きが取れない・・・」
金縛りにしては何かおかしい。ドワコは自分が置かれている状況を確認する。
自分は横を向いて寝ていた。向いている方向とは反対方向から「スー、スー」と寝息が聞こえる。抱き枕にされているような感じで後ろから腕と足が回され抱きしめられている格好だ。しかもピッタリと密着している。これでは身動きが取れない。しかもお尻には何かが当たっている感触がある。
「どわー!!」
思わず声を上げて飛び起きた。
「おはよう」
と隣で寝ていたものが目を覚ます。
「それでこれはどういう事でしょう?」
テント内で抱き枕にしていた主がドワコの前に正座させられている。エリオーネだ。
「ちっちゃくて可愛かったのでつい・・・」
「なんか昨晩は立派な事を言っていたような気がしましたけど???」
「あれは聖女としての建前と申しますか・・・思っていることは本当の事ですよ?」
「それと密着されてわかったけど貴方、男の人ですよね?」
「ばれちゃいましたか(汗)」
ドワコも以前の世界では見覚えのあるものなので確信を持っていた。起きた時にはお互い服を着ていたので、それ以上のことは無かったはずだ・・・と思いたい。
「抱き着いたまま寝ちゃっただけなので大丈夫ですよ」
ドワコの心を察してかエリオーネが言った。
「どうして男の人が聖女をやってるんですか?」
疑問に思った事をぶつけてみる。聖女と言えば国では重要な役職のはずだ。何かありそうな気がする。
「そうですね・・・今から7年前の事ですが、先代の聖女様が亡くなられました。長年その役目を務めて頂いたのですが、かなりのご高齢で無理をなされまして・・・。聖女の条件としては国内にいる女性で回復魔法の威力が一番高い人物・・・この条件は昨晩話しましたね。がその職に就くと言う習わしがあります。先代の聖女様を除くと国内で回復魔法を使える女性が確認できませんでした。そこで、白羽の矢が立ったのがわたくしです。年齢が若いこともあり、たまたま光属性の回復魔法が使え、このような身なりをすれば女性のように見えますので適任者が見つかるまでの代わりと言う事で任を授かりました。およそ7年この聖女と言う役目を果たしてきましたが、成長とともに体型なども変わってきたので、この先何年も続けることが困難になりました。並行して後任者の捜索も行っていました。そして先日、回復魔法が使える女性。あなたを見つけた訳です。」
趣味か何かで聖女をやっているのかと思えばそうでは無かったらしい。
「まあ、見た目こんなのですけど中身は男ですので女の人にも興味はありますよ?好みなら種族なんて気にしないし。」
さらっと何か言った気が・・・。
「一応、国の威信にもかかわることですのでご内密にしていただければ・・・。」
「納得できない所もありますけど、わかりました。他の人には黙っておきます。戻っていいですよ」
と言ってエリオーネをコンテナハウスに戻らせた。もう少ししたら日が昇り、寝てる人たちが起きてくる頃かな?
日も昇り、みんなが起きてきた。エリーもシアも良く寝られようだ。朝食を取っている時にスミスがぼそりと耳打ちをしてきた。
「ゆうべは おたのしみでしたね」
「ぶはーーーーーーっ」
ドワコはちょうど飲んでいた飲み物を吹き出す。
どこの宿屋のおやじだ。
朝食も終えコンテナハウスも収納して馬車に乗り込む。ジャックとポールが外で護衛し、シアが御者をしてエリー、エリオーネ、ドワコが馬車に乗り込む。スミスは夜の見張りをしていたので馬車の中で休憩することになった。予定通りに行けば今日の夕方には目的地である城下町に到着するようだ。
馬車の中ではエリオーネがドワコの横に座り抱き着いたり、手を絡めてきたりする。中身を知ってしまった後なので正直うざい。
「エリオーネ様とドワコさんいつの間に仲良くなったんですか?」
「キマシタワー」
エリーとシアが言ってくる。シアさんその言葉どこで覚えたんですか???
相手は本当かどうか怪しくなってきたが一応王族の方らしいので拒絶することも出来ず、半ばあきらめムードになった。
馬車は順調に進み、予定通りの時間で城下町前まで来た。城壁におおわれた巨大な街で、奥には高くそびえる建物がある。おそらく城だろうと思う。
「一緒に入ろうとすると色々問題になると思うから、わたくしはこれで失礼しますね」
とエリオーネが別れを切り出してきた。確かに聖女様と一緒に門を通ろうとすれば門番をしている警備兵とトラブルになるかもしれない。
「エリオーネ様ご一緒出来て光栄でした」
「エリオーネ様またね~」
シアとエリーとも挨拶を交わし聖者様は貴族用の門へと向かっていった。
貴族用の門は貴族階級の者ならすぐに通れるようだが平民はそうはいかない。門の前には荷物チェックや聞き取りを行うための長い待機列ができていた。その最後尾に並び順番を待つことにした。
それなりの時間が経過してドワコたちの順番が回ってきた。警備兵から町に入る目的、人数、持ち物や積み荷の検査など行い通行の許可をもらった。
馬車は滞在する間お世話になる宿屋を目指す。街並みを眺めるとアリーナ村とは比べ物にならない位の建物と人である。さすがこの国で一番大きな都市と言うだけはある。宿屋に到着して荷物を降ろし馬車を宿に預ける。宿屋によってはこのように馬車などを滞在中預かってくれるところもあるようだ。
「道中の護衛、ありがとうございました。帰りもよろしくお願いします。」
シアが護衛をしてくれた冒険者にお礼と行きの分の謝礼を支払う。出発するまでは自由時間なので謝礼を受け取り護衛の冒険者たちは街の中に消えていった。
「さて、私たちもチェックインを済ませないとね。」
3人は宿屋の中に入って行った。
「ごめんなさいね。手紙で予約をもらった時点で部屋が1部屋しか用意できなくて・・・。」
宿屋のカウンターにいたおじさんが言った。
「そうですか。返事をもらうほど時間が無くて直接来てしまいましたので、こちらこそ無理を言ってすみません。」
この宿屋とシアのお父さんは知り合いだそうだ。この街に来るときは毎回お世話になっているらしい。
と言う訳で3人で同じ部屋に泊まることになった。




