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13.聖女が来た

今日はなんだか村が騒がしい。


エリーに聞くと聖女がこの村に来るらしいとの事。


「それで聖女って言うのは?」


休憩のために工房での作業を中断し、お茶の時間を楽しんでいるドワコとエリー。ふとその様な話題が上がった。


「この国の王族の遠い親戚で、回復魔法を得意とする魔法が使える慈悲深い女性だそうです。」


「聖女と言うと美人のお姉さんと言うイメージがあるけどどうなのかな?」


「私は見たことはないですけど、かなり綺麗な人らしいですよ。なんか最近ドワコさんオジサンみたいな口調になる時がありますね」


グサッ。慣れてきた事もあって元の性格が出てきたか・・・自重せねば・・・。中身がおっさんなドワコは心に誓った。


まあ、王族の親戚と言うくらいだから遠い存在で遠くから見ることがあっても知り合うことはないんだろうなと思うドワコであった。


作業に戻ってしばらくすると外が騒がしくなった。そろそろ聖女様がくるようだ。ちょうど工房の前も通るらしい。工房は村の中心より少し外れたところにあるが、メイン通りに面している。作業を中断してエリーと一緒に外へ出る。道沿いには聖女の姿を一目見ようとほとんどの村民が出てきている。


しばらくすると馬に乗った鎧を着た騎士が護衛した豪華な馬車が通って行った。誰か乗っているようには見えたが顔まではわからなかった。見に来ていた村人の一部は手を合わせ聖者様に祈りを捧げている人もいた。聖者様は村のはずれにある神殿というところで滞在するそうだ。明日は病気や怪我で苦しんでいる人を無料で診察をするようだ。神殿には長い行列ができるかもしれない。


「聞いた話だと、聖者様は中級の回復魔法で病気や怪我を治療するんだって。この国でも回復魔法が使える人はごく僅かなんだよ。」


「そうなの?」


思わず聞き返してしまった。

魔法って誰でも使える物はないんだね。でも、中級魔法が使えるという事は中級、上級魔法で発動させるための難しい詠唱や魔方陣に関しての知識があるということだ。今後のためにも是非ご教授いただきたいところだが、面識も無いので厳しいかもしれない。


翌日、ドワコとエリーは武器屋に納品する武器の準備をしていた。受注した武器の種類と数が合っているかを確認する。


「あいたっ!」


ドワコは悲痛な声をあげた。剣が鞘から外れていて刃先で手を切ったようだ。


「ドワコさん大丈夫?」


「大丈夫、大丈夫。」


と言ったものの血が思いのほか出てくる。

応急処置でエリーに止血処置をしてもらったが、作業の支障になるので回復魔法で手早く治そうなどと考えていた。


「そうだ聖女様に治してもらおう」


と、エリーが提案してきた。魔法の勉強になるかもという結論に至り、エリーにお留守番をお願いして聖女様のいる神殿へ行くことにした。


神殿の前には長い列ができていた。無料ということもあり比較的軽症な人が多いような気がする。これは自分の番が来るまで時間が掛かりそうだ。自分の並んだ付近にいた人と雑談をしながら時間を潰す。


「お嬢ちゃんが来てから村がすごく賑やかになったよ」


「この前買った武器、すごく使い勝手が良くて助かっているよ。」


「ドワコさんの作ってくれた農機具のお陰で仕事がすごく楽になったよ」


村の人にすごく感謝されている。ドワコの工房で作られた物が流通し、村が活性化している事は村の人には周知の事らしい。工房でこんな物も作れますよ。と教えると周りの人は興味深くそれを聞いていた。そんな感じで営業しつつ列が神殿の中に入り、聖堂と呼ばれる広い部屋へと進んでいく。奥には青と白のローブをまとった聖女と思われる人物が怪我や病気を回復魔法で治療している。残念ながら視界に入る範囲の人は軽症の人ばかりで下級魔法で対処できるため中級回復魔法を見ることができない。魔法を使用する時は両手があいた状態で魔法書を手で持ち、一度魔法を使うと同属性の魔法はしばらく使えなくなる。どうもその法則は聖女様にも通用するようで従者が砂時計で再使用できる時間を計っているようだ。砂時計の砂が全部落ちると次の人が呼ばれる。何人か回復魔法を使用したら聖女様はポーションのような瓶の液体を飲んでいる。魔力回復のアイテムかもしれない。


いよいよドワコに順番が回ってきた。


「次の方どうぞ」


と呼ばれたので前の人がしていたように奥に進もうとする。


「まて。貴様ドワーフだな。ドワーフごときが聖女様の癒しを請おうなどと身の程をわきまえろ!」


と護衛と思わしき騎士に止められる。そして周りにいた村人が一斉に不快な視線を騎士に送る。

この時初めてこの世界には種族による差別が存在している事を知った。この村に来てから村人には良くしてもらっていた。基本ドワーフは製造の技術に秀でているで恩恵を受けることが多い。その為、村や町などでは特に差別されことは無い。逆に歓迎されるぐらいだ。ところが一部の貴族階級の者は自分とは違う種族を忌み嫌うそこで差別が生まれる。


「お待ちなさい。護衛の者が失礼しました。下がりなさい。」


と護衛の騎士を下がらせる。そこで聖女様の顔を拝見することができた。15歳くらいの青髪の均整の取れた顔の少女だ。見るからに聖女様だ。


聖女様はドワコの前に来てしゃがみ込み目線の高さを合わせてきた。子供と話す時に親がするような感じだ。


「大変不快な思いをさせてしまいましたね。ごめんなさいね。」


うはぁ聖女様やー。眩しくて直視できない。とドワコは思った。


「手を怪我したんですね。今、治療しますので見せてくださいね。」


応急手当てしてある布を外し聖女に傷口を見せる。


左手に魔法書を持ち、右手を傷口付近にかざす。


「癒しを来たれ。ヒール。」


淡い光とともに傷口が塞がってくる。でも聖女様の顔を見ると微妙な顔をしている。


「・・・光属性の魔法耐性・・・まさか」


ドワコには聞き取れない声で聖女がつぶやく。そして傷口を見ると微妙に傷が残っている。


「ごめんなさいね。少し込める魔力の量を間違えたみたい。魔法をかけ直すので少し待ってくださいね。」


と聖女は言って従者が砂時計をひっくり返す。砂が全部落ちてから聖女がヒールをかけ直し傷が完治した。


「治療していただいてありがとうございました」


とお礼を言った。帰ろうとすると聖女がささやいた。


「あなたとは、また会えそうな気がします。」


と思わせぶりなことを言った。次の人が呼ばれドワコは神殿を後にした。


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