11.村の食糧事情
ダンジョンでの一件から数日が経過した。
最近、村を訪れる冒険者が増えているらしい。
冒険者ギルドへ行っても、この村に来た頃は他の冒険者を見ることも無かったが、ここ数日辺りから狭いギルド内は活気で満ちている。おばちゃん一人では対応できなくなったらしく中年の男性職員が2人増え、3人体制で業務を行っている。依頼の書かれた掲示板には茶色の紙で書かれたもの(これはドワコと同じ銅ランクの冒険者用)、灰色の紙に書かれた依頼(これは一つ上の銀ランク用)が沢山張り出されている。字が読めないドワコはどんな依頼か理解することができない。この世界で生活する以上、読み書きは出来るようになった方が良さそうだ。
村に一軒しかない食堂も連日大賑わい、宿屋も満室に近い状態が続き繁盛しているようだ。
この国の城下町や未だに内戦が続いている隣国から来た冒険者たちだ。幸いダンジョンも村の近くにあり冒険者の拠点とするのには好条件らしい。冒険者はギルドカードを提示することで国境を超えることができるようだ。例外としてはギルドの支部が無い国には入れないらしい。
元々人口が少ない小規模な村なので食糧の生産量は高くない。肉類や山菜類はギルドへ狩りや採取の依頼することで一定量が確保できているようだが、畑なので作る野菜類か不足しているらしい。
ある日、工房で武器屋へ納品する武器を箱に詰めている時にエリーが訪ねてきた。
「こんにちは。ドワコさん」
「久しぶりだね。エリー。今日はどうしたの?」
「えっとね。村長からドワコさんを呼んで来てって頼まれたんだ。行けそう?」
「この武器を箱に詰めたら大丈夫だよ」
「ありがとう。それじゃ少し待ってるね。」
ドワコは箱詰め作業を再開する。最近、武器屋からの注文を受ける数が増えてきている。村を訪れる冒険者が増えたから需要が増えてきているのかな?などと考えながら作業を終わらせる。
「終わったよ。それでどこへ行くの?」
「村長のお屋敷だよ」
村長のお屋敷ってドワコは少々違和感を感じたがエリーに付いていくことにした。
少し歩いて目的の場所へついた。
「ここが村長のお屋敷だよ」
この村には不釣り合いなぐらい豪邸である。門にいた衛兵にエリーが話をしてから2人で門をくぐる。少し庭を進んだところに玄関がある。庭も手入れが行き届いて専属の庭師でもいるような感じだ。
玄関まで行くと黒い燕尾服のような服装の老人が待っていた。
「ようこそドワコ様。わたくし執事のワゴナーと申します。どうぞお見知りおきを。旦那様がお待ちです。どうぞごちらへ。」
ワゴナーは近くにいるメイドに目配せをすると、承知したと言う表情でエリーに話しかけた。
「エリー様、旦那様とのお話が終わるまでこちらでお待ちください。」
と別室へ案内されていく。
1階の奥の部屋が村長の執務室のようだ。
「旦那様。ドワコ様をお連れいたしました。」
「入ってくれたまえ」
ワゴナーがドアを開け部屋に通される。
部屋の中にはかなり良い服を着た40代くらいの男性が立っていた。
「よく来てくれたドワコ。私はこの村の村長をしているジムと言う。よろしく頼む。」
「はじめまして村長、少し前からこの村で生活させていただいています。今日はどのような要件でしょうか?」
「実はな、最近になって村を訪れる冒険者が増えてきている。農業に力を入れた政策を取っているので村民が食べる分に関しては問題ないようにやってきたが、増えた冒険者の食糧を確保することが負担になってきているのが現状だ。そのためにも早い段階で増産体制を取ることが必要になる。そこでじゃ。一つの方法として農機具の改良を行って生産効率を上げたいと思う。協力してくれんかね?」
「改良とはどのようにすれば良いですか?」
「いまこの村で使用している農機具は木製がほとんどだ、鍛冶屋が無いので鉄製農具の入手が困難でな。鉄製農具を使用すれば生産効率が飛躍的に向上する。先日、この村の衛兵の剣を更新することができた。聞くとドワコの工房で製作された物らしいな。鉄を加工する技術を農業にも役立てたい。引き受けてくれんか?」
「この村にはお世話になっているので、できるだけ協力させていただきます。」
ドワコは即答する。
「引き受けてくれるか?感謝する。報酬については相応に出すので安心してほしい。」
「製作依頼のリストはこれじゃ。よろしく頼む。」
と、リストの書かれた紙を渡されたがドワコは字が読めない。
「すみません。私、字が読めないんです。」
「なんと、そうであったか。それではエリーを補佐として付けることにする。まだ幼いのにもかかわらず優秀だからな。字の読み書きはもちろん色々と補佐してくれるだろう。」
そして机の上に置いてあるベルをチリンと鳴らす。
「失礼します。旦那様。お呼びでしょうか?」
ワゴナーが部屋に入ってきた。
「すまんがエリーを呼んで来てくれんか?」
「かしこまりました」
ワゴナーが退室し、しばらくするとエリーを連れて戻って来た。
「ジム様、何か御用でしょうか?」
かなり畏まった感じでエリーが口を開く。
「すまんが、これからしばらくの間ドワコの補佐を頼まれてくれないか?」
「承知しました。謹んでお受けします。」
即答でエリーは引き受ける。村長ってすごく権限があるのかな?とドワコは思っていた。
後で聞いた話だが村長と言う肩書だが、他の国で言えば領主に相当し貴族らしい。それは畏まってしまうのに納得である。
村長の屋敷を後にしてエリーと一緒に工房に戻る。
「それじゃエリー。これからよろしくね。」
「こちらこそ。よろしくお願いします。」
「最初に必要な農機具を確認しないとね」
エリーに村長からもらったリストを読んでもらう。それを木札に書き写し壁にかけていく。完成すると取り外す。これで納品ミスを少なくするようにしている。
「見慣れない文字ですね。ドワコさんの国の文字ですか?」
とエリーが聞いてきた。
「そうだね。私の住んでいた所で使われている文字。ここの文字も覚えたいから今度教えてね。」
「はい。役に立てるかはわからないけど頑張る。」
材料の在庫を確認して作業に取り掛かる。エリーは製作の様子を見て驚いていたが、すぐに手伝いを始めてくれた。完成した農機具の整理、整頓、武器屋からの受注管理、工房の掃除から食事の準備と・・・大助かりである。
それから数日の間、鉄製の鍬や鎌など多種多様の鉄製農機具を製作していった。
「終わったー」
「終わりましたね」
大量受注した農機具の生産がやっとで終わった。箱に放り込むだけで完成する簡単な作業なのだが引き受けた数が多すぎた。あとは納品を済ませれば作業完了である。
「それじゃ納品の為の荷馬車の手配をしてきますね」
と言ってエリーが出ていった。少し時間が経過しエリーを乗せた馬車が工房前に止まる。馬車と一緒に付いてきた若い男衆が完成した農機具を荷馬車に積み込んでいく。そして積み込んだ馬車を見送るとどっと疲れが押し寄せた。
「エリー今まで手伝ってくれてありがとう。助かったよ。」
「今までじゃなくてこれからもですよ?」
「へ?」
ドワコは聞き返す。
「村長からは、しばらくの間って言われているのでまだ終わってませんよ?」
優秀な助手はこれからも工房を手伝ってくれるらしい。




