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墜ちた傭兵  作者: 戦夢
9/13

未来の為に

他者を排除するのは強者の掟、平和を謳うは弱者の定め。

「博士、亜種について知りたい事がある。」

ある日の午後、雨上がりの施設正面入り口にて空を眺める博士を見つける。エグザムはある懸案事項を質問した。

「それは有力亜種の事だな。やつらのお陰で調査が進展しなくてな。」

博士は説明する。亜種の中には広い縄張りを持ち、競合存在を認めぬ輩が居る。複数居るそれらは非常に強力な存在で、なかなか手が出せないらしい。

「食物連鎖の頂点に在りどれも高い知能を持っている。」

狡猾で敵わんと愚痴った博士にエグザムは討伐の意思を伝える。

「正気か、単身で対処出来る相手ではないぞ。」

予想通りの返答にうろたえる事無く、必要な装備と情報を求める。

「人間も奴らも自然界で生きている以上動物だ、必ず対処方法は有る。」

出せる労力は惜しまないと伝えたエグザムは、格納庫に移動する。

「避けて通れぬ道か。」

博士は去り往く彼の後姿を眺めつつ、頭の中で必要な情報を掻き集めた。


二日後エグザムは司令所で作戦会議に参加していた。サソリ軍団解体大作戦と記された作戦資料に目を通す。群の中核に居る大型の甲殻種を撃破し、付近の緊張状態を緩和させる。エグザムは、更に読み進める。

「端数から減らしても埒は明かない。そこでこの一帯を仕切る群を弱体化させ、亜種達の競合関係に一石を投じる。」

声高に宣言する博士は、語り続ける。意気揚々と話す表情は興奮していた。エグザムは後ろから聞こえる豆情報から、この度の戦に博士の個人的な趣味が関わっていると判断した。

「我々の戦力は陸上戦闘用のロボットだけだが、諸君らの技術と経験に期待する。」

そう言い周囲に解散を命じ、各自作業に戻るよう伝える。

「で、何とか成りそうか。」

エグザムに近づき意見を聞く博士。趣味により支えられた士気はよろめきながらエグザムに倒れ掛かる。

「闘争に妥協はしない主義だ。」

エグザムも装備確認のため場所を移動する。頭の中は既に戦場だった。


かつて食用兼燃料用等に必要とされたその種は、高い繁殖力を持つ焦げ茶色の奴や優秀な栄養価を持つ遺伝子と組み合わされ、生産工場で消費されていた。農工業と抜群の適性を持つ個体は惑星改造にも用いられ、多くの派生種を生む。中でも生物兵器として遺伝子改造を受けたその種は、固体でも群でも高い生存能力を持ち必要に応じ大量生産された。

エグザムは敵の情報を整理する。対象は一帯では別格の存在として君臨していた。野生に目覚め頭角を現した種の対応策を確認する。

(外皮は硬い、剥がす手間を考えても正面にある弱点を狙う他無い。)

その固体も頭部が弱点だった。

(武器となる知性が弱点か。)

高い思考能力を持っている為に通常より頭部が大きく狙いやすかった。全長十メートル以上の対象と、取り巻きの雑魚を引き離す方法も考える。

(原始的だが餌でもばら撒くか、いや積載量が足りない。単独作戦で随伴は有り得ない。)

潔く諦めて当初の作業に戻る。予備動作の少ない対高密度装甲用の無反動砲を機体に装着する。高価な装備だが値段に見合う威力を持っていた。


その日の夜、エグザムは日の出の星所属の輸送機で運ばれていた。吊り下げられた機体の中へローターが回転する音が伝わってくる。発生するトルクを打ち消す反転二重羽は、その間に上向きの真空揚力を発生させ重い荷物を持ち上げていた。

やがて目標地点に到着しエグザムを降ろす。軟弱地面が衝撃を吸収し脚部がめり込む。

「こちらOS1、開始地点に到着。」

通信機から博士が答える。作戦時間を確認し輸送機へ離脱を指示した。


車輪を回し前頭姿勢で前進する。頭部観測装置は闇の中に蠢く複数の存在を捕らえた。

「OS1から司令所へ、予測地域に入るも当該固体を確認出来ず。更に奥へ進む。」

警戒している現地生物を無視し先へ進む。草木をかわし地形的有利な場所へ向かう。

(静かだ。こちらの存在には気付いている筈だ。)

通信を中継している輸送機へ指示し出し、崖上から照明弾を打ち上げる。崖を飛び降り疾走する。目くらまし効果が無くなるまでに対象へ急ぐエグザム。機体へ併走する様に複数の動体が接近した。

「こちらOS1。目標集団と遭遇した。作戦通り頼んだ。」

通信の向こうから爆撃機の離陸指示が聞こえる。

(まずは様子見か、退路を断つつもりか。)

索敵機器類が後方から追尾するサソリの群を表示する。月明かりに黒く照らされている体表に光沢は無く表面に艶は無い。

(少し付き合ってやろう。)

進路を逸らしながら他の個体が集まるのを待つ。集音器が連中が発する微細な空間振動を検出した。

「博士聞こえるか。概ね作戦通りだ。」

計画では可能なら本命と雑魚を纏めて爆撃する。左肩に乗せた無反動砲は保険だった。


縄張り意識が高い連中は想定した通り、密集してエグザムを取り囲む。じわりじわり距離を詰める集団の後方に目標の固体を発見した。

「爆撃機へあと何分で到着する。」

返ってきた返事から作戦が順調に推移している事を確認したエグザム。追いかけっこをしている最中何体か跳ね飛ばしたがまだ一発も射撃していない。

(軽く牽制するか。)

胴体を回し、最小半径で旋回する。体液が付着した脚部は大地を削り円を描く。その光景から恐怖を感じたのだろう、大小様々なサソリ達がうろたえ引き下がる。

「爆撃機へ。照明弾で合図を出す、手筈通り指定地点に落とせ。」

時間稼ぎが成功し爆撃機が接近する。エグザムは投下地点を指示し照明弾を打ち上げた。昼間の様に照らされた目標の大きな頭部が弾け飛ぶ。直後周囲に榴散爆弾が直撃し肉片と爆炎が踊り舞う。

「OS1から司令所へ、目的を達成した帰投する。」

戦意の低下していない個体が襲い掛かって来るが、機関砲に蜂の巣にされ沈黙する。燃え上がる一箇所に血路を見出し脱出を図る。

(最悪、輸送機の援護射撃で追っ手を始末すれば問題無い。)

合流地点へ移動しながら胴体を回し追っ手を減らす。自然分解される薬莢が大量に排出され道を作る。

「OS1から輸送機へ。回収手順を変更、直接拾ってくれ。」

走る機体の頭上から腕を伸ばし降下する輸送機。腕の良いパイロットが二つの推進器を使いバランスを保つ。

「体勢よし、上げてくれ。」

機体右腕を懸架枠に架け、上半身が固定される。エグザムは離脱を指示した。


アナトリアへ帰還したエグザムは、陸戦重兵器班の格納庫前で降ろされた。機体を整備人員へ引き渡し博士の下へ向かう。

「よくやった、良い仕事だったぞ。」

満足気な博士に多くの者が同調した。掛かった費用に見合うだけの戦果を上げたエグザム、自身が経験から立案した作戦が上手く行きご満悦だった。


翌日。有力亜種の一つを潰し詳細報告の為留守にしている博士の代わりに指揮を執るエグザム、今彼は他の有力亜種の情報を集めさせている。

「最低でも後三つの縄張りを潰す必要が有る。」

司令所で印刷された地図を机に広げ戦略を練る彼は、深刻な情報不足に陥っていた。

(強行偵察の必要が有る。)

情報収集力に欠く彼の代わりに班総出で調べに出たので、施設には彼だけ残された。暇な彼はこうして強行策を模索していると、博士から連絡が入った。

「次の亜種討伐の指示があった。そっちに行って具体的な内容を話すから、皆を待機させておいてくれ。」

全隊員に配られた通信機に、司令所から緊急通信で召集をかけるエグザムだった。


博士からの説明が終わり持ち場に戻る部隊員、エグザムも自室へ移動した。

(次は屋内戦闘になるな。)

山間部にある旧時代の前哨基地は、後に要塞へと改造された採掘基地だった。過去に何度も再整備され直ぐに廃棄された歴史を持つその施設は、機械亜種の巣窟だった。

(遺産を復活される為に邪魔な住人を排除するのか。)

都市計画局から日の出の星に依頼され、持て余していた案件が陸戦重兵器班へ回って来た。

(博士の態度から何かが眠っている様だ。)

何かの資料をしきりに読み漁っていた博士は、知識欲に駆られていた。エグザムは次の出撃まで英気を養う事にした。


三日後エグザムは輸送機で山間部へやって来た。今回も単独作戦である。

「博士、情報は信頼出来るんだな?」

何処かで見たやり取りをする彼らは、任務の危険性について議論する。

「古い情報だが、数少ない目撃証言だ。文句有るなら直接確かめろ。」

数年前にアナトリアは当該施設に偵察部隊を送った。死傷者を出し帰還した部隊が今回の情報源だった。

その情報によると、山の地下まで伸びた発電用水路の先を機械亜種達が占拠しているらしい。

(確実に自動建設機械が大半を占めるだろう。連中は指示に従うだけの存在の筈だ。何者かが制御しているに違いない。)

古い見取り図から現在の勢力構成と、活動範囲を見い出す。エグザムは司令塔の存在に着目、場所を予測する。

(動力室か配電室が怪しい。地図では途中で機体から降りる事になるが、これは予測不能だ)

敵は内部構造を改造する事が可能だった。


施設の横穴を進むエグザム。横には破壊した戦闘用無人機の残骸が散らばっている。

「偏向力場持ちか。」

熱光線兵装類を装備していた事から、侵入する生物を撃退する為に配置されたと推測する。

(捕らえた、沸くぞ。)

先にある複数の角から向かってくる敵を監視機器が捕らえる。すぐさま右腕の機関砲で処理した。

「OS1交戦する。」

短く宣言し通信を切る。想定する敵戦力を上方修正し、機械牙城の攻略を始めた。


急制動で反転し、加速したブレードで壁に敵を縫い付ける。弱点の電子機器で構成された頭部を弾丸で粉砕する。縦穴上方から発射された小型榴弾を、横穴に入りやり過ごす。追撃しようと接近した飛行型を頭部の機関銃で打ち落とす。

「数が多い、連中も焦っている様だ。」

目星の物に近づいたと判断したエグザム。瞬間火力で圧倒しながら先へ進む。

(結局地図は使えなかったが、大まかな距離を測ったのは正解だった。)


その空間には動力炉と大きな集合装置が設置して在り、彼はその物体を知っていた。

(自動修復装置、何故こんな物が有る。)

疑問に思いつつ装置の息の根を止める為、動力炉へロケット弾を撃ち込んだ。

(機能停止を確認、博士はこれの事を調べていたのか。)

本体から指示が途絶え停止する子機。目的を達成し、通信可能圏まで移動した。

「OS1より司令所へ、作戦成功。施設内を無力化した。」

通信先から歓声が上がる。長時間の戦闘で苦しんだのはエグザムだけではなかった。エグザムは博士に騒動の原因について報告した。

「分かった。詳しい話は帰ってからだ。」


報告を済ませ自室でシャワーを浴びるエグザム。貴重なサービスシーンを晒す彼は疑惑を巡らす。

(博士の事業は組織の主目的だ。だが只の遺跡調査の為に傭兵集団を組織するには大げさ過ぎる。俺なら周辺の開発事業と事業統合するな。日の出の星、一体何を考えている。)

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