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墜ちた傭兵  作者: 戦夢
8/13

彼とその星は

歴史を漕ぎ始めたエグザム。彼が起こすうねりは自身を包む。

高層建築の外壁を昇降機で昇るエグザム。風景から都市の一角や遠方の山脈まで見渡す事が出来る。やがて無機質な案内が響き、目的地に到着した

「ご案内致します。」

専属の係員に案内され広い最上階を進む。窓から都市内の同じ高さの構造物と青い地平線が見える。右手に持つ荷物の届け先に到着した様だ。

「日の出の星本部へようこそ。」

執務机の右手にある扉から出てきた中年の女性は、エグザムに声を掛けた。

「支部だと聞いたが。」

女性から指示を受けた係員が、荷物を持って奥の部屋へ消える。見届けた女性は口を開く。

「私はエリーゼ。ここの最高責任者をしてるの。」

エリーゼ曰く一般的に本部とされる場所は後援企業組織の出張所でしかなく、日の出の星の統帥権があるアナトリアが組織の本部になる。

「最初に貴方の話を聞いた時、興味が沸いたから試させてもらったわ。」

エグザムは燻っていた疑問に合点がつく。最初から謀られていた様だ。ある若い少年の話をするエグザムにエリーゼは種明かしをする。

「そう、彼から話が挙がって来たの。面白そうな人材が登録したってね。お陰で長話になったわ。」

色々と試させて貰ったと語る彼女は終始満足気味だった。

「これから貴方には貴方しか出来ない事をやって貰います。」

彼女はこの都市の現状を話す。迫りくる亜種等の脅威と現状、周辺の地政学的な問題と対応策。話から彼女の焦りが伺えた。

「日の出の星の前身は、この都市と周辺に散らばる遺跡の調査機関だったの。彼らにはお金と設備、何より戦える人材が不足していたの。」

調査の為に必要な経費を賄う為、支援する企業たちは民間軍事分野を設立する。それが今エグザムが所属する日の出の星だった。


アナトリアには北に在る日の出の星本部を含め三つの高層建築物が在る。西に行政府と東の産業複合施設だ。北の本部棟は都市基部に直結している大きな建造物で、エグザムは基部にある組織所有の重兵器保管庫に居た。


「どうだエグザム、問題は無いか。」

操縦席から指示系統の調整と動作確認を行なう。

「順調だ博士。」

名前を聞いていない老人は、考古学者にして物理学の権威だった。自身を博士と呼んでくれと言った彼は、エグザムに機体の最終点検を指示する。複数の機構から成る全長約4メートルのそれを人は陸上戦闘用ロボットと呼ぶ。

右腕に小口径機関砲を左腕には盾と専用高周波ブレードを装備し、有人式操縦席を胴体に持つ足の太い人型機械だ。

「歩行動作を始めるぞ。」

密閉された空間から博士に呼び掛ける。左手の挙動指示器から前身を命令、自立型車手プログラムが機体を動かす。

「その状態から射撃挙動を始めてくれ。」

今度は右手の火器管制を操作。胴体が旋回しながら機関砲が回る。

「十分だ降りて来ていいぞ。」

マグカップを持ち一息ついた博士。エグザムは機体を固定具に設置し、機体から降りる。

「飲み込みが早いな、初めてじゃないな。」

エグザムは戦闘機動兵器に乗っていた昔話をする。

「そうか、適任者が来ると聞いたがその通りじゃな。」

エグザムは新設されたばかりの部署に配属された。配属先の陸戦重兵器班は、遺跡の調査をしていた博士と少数の整備人員等で構成されていた。戦闘要員はエグザムだけのこの部署は、陸上で主体的な活動を目的に設立された。

「衝撃吸収機構が無いようだが。」

疑問を聞くエグザム、博士から強化人間用の特別製だと説明される。組織からどう思われているか察する彼、ごく自然に部署の運用目的を想像する。

「これからお互い忙しくなるの。」

整備員が機体の確認を行なう光景を眺める。彼はパイロットとして地上で戦う事になった。


翌日彼は警備部隊の陸上戦闘用ロボットと共に脅威と対峙している。場所は都市周辺の森林地帯。緩衝地帯になっている戦域で、凶暴な鉱物生命体の亜種達と戦闘中だ。

「OS1。そっちの親玉を何とかしてくれ。」

僚機から催促される。エグザムは眼前の大型固体の排除に取り掛かる。

(猫科派生型。厄介だが味方に余裕は無い。)

対処されること前提で、右腕から弾幕を張る。化け猫は身をひるがえし回避、木々を弾が削る。

(よし距離を稼いだ。)

脚部の車輪を加速させ、追撃する。狙い通り味方と引き離した。

(分かり易い、牽制のつもりか。)

獲物の背中から青い光が放たれる。目立つ軌道を読むエグザムは、反撃に機関砲を撃つ。

「命中、続ける。」

対象の移動先を空間ごと掃射する。効力射に悶える猫、エグザムは更に損害を与える。

(おしまいだ。)

挙動が低下し動く的になった猫に射撃を集中する。武装の破壊を確認すると接近しブレードで止めを刺す。

「こちらOS1、目標を撃破。そちらは?」

返ってきた通信から戦闘が終了した事を確認したエグザムは、予定通り偵察任務に戻る。

「博士。任務の続きを教えてくれ。」

亜種の出現で一旦切った通信を復活させる。

「そから百四十度方向に二十五キロ程進むと、墜落した構造物の遺跡がある。」

最初から説明する博士。重兵器庫の直上にある司令所から通信していた。

「任務了解。遺跡の定期巡回を開始する。」

起伏のある森林地帯を移動している。頭部の監視機器から周囲の生態系が映し出される。

「赤外線に映る情報量が多い、判別が難しい。」

博士に通信装置で助言を請う。臨機応変に対応しろと返って来る。釈然とせず進むと目的の構造物が見えた。

「博士、送った画像を見てくれ。間違いないか。」

肯定された返答が返ってくる。エグザムは巨大な宇宙船の残骸を確認した。

(恒星間戦闘母艦の類だ。)

艦首から中程まで大地に突き刺さり、地上ある部分は一部崩れ艦尾は崩壊している。点在する残骸、大部分は持ち去られていた。

「これより保存状態と周辺の調査を行なう。博士、本当に中に入っても大丈夫なのか?」

自分も入った事が有るから大丈夫だと言い、先を急がせる博士。エグザムは機体に乗ったまま周辺情報を収集する。

(俺が寝ている間に建造された物だろう、この規格を見た事は無い。)

時々通信から博士の注文が入った。言われるがまま行動するエグザムはやがて単身船内に入る。

「中継器を搭載してるが万が一の為に、そちらの通信出力を上げておけ。」

博士からの助言どおりに無線出力を上げる。ロボットの中継器から送られて来る信号を確認し、開いている隔壁から中へ入る。

(予想より保存状態が良い。誰かが定期的に掃除している様だ。)

指示された通りに進むエグザムは、上方に設置された監視塔を登る。

「監視塔に異常は無い、設備は通常に機能している。」

報告を済ませると今度は地下に降りる指示が来る。監視等から供給されたエネルギーで一部の機能が生きていた。

(道は長い。事故が起こらない事を願う。)

歩くための通路を伝い降り側壁を歩く。垂直に傾いた船内を指示通り進むと倉庫に出る。

「辿り着いたな、探し物に付き合ってくれ。」 

墜落してから何度も手が入ったと伺える室内は、簡単に整理されていた。目的の物がある場所を漁り記録装置を見つけた。

「それに間違いない。持ち帰ってくれ。」

内心予想した通りエグザムの気を引く物は無かった。物品を背嚢に保管し、そそくさと降りた経路を登った。


保管庫で機体を固定し昇降機で司令所まで移動したエグザムは、博士に約束の物を見せる。

「持って来たな、それが欲しかったんだよ。」

何が記録されているか予想できるエグザムは藪をつつく。

「何か記録されている様だが。」

装置を見せびらかすエグザム。

「こ、個人的な趣味だ。さっさと渡せ。」

エグザムの手からひったくって、そそくさと自室に入る博士。司令所就きの若い女性たちが小声で噂している。強化された聴覚から博士の生態の一部が伺えた。


エリーゼから受けた指令は一つだけ、博士の手足となり行動せよ。日の出の星の設立目的を達成する為に、行動を開始したエグザムだった。


三日後の夕方、自室で負荷訓練を行っていると襲撃警報が鳴り響く。近年増え続ける亜種達が群を成し襲って来た。エグザムが都市に来る前からこの現象は存在していた。

アナトリアは肥沃な大地に恵まれた平野にある。豊かな環境は山間部を越えた先まで広がり動植物の王国を築き上げていた。その恩恵を受けるのは文明だけで無い。そう、亜種達の様な上位生物だ。本来北大陸に在る南方地帯は多くの資源に恵まれた土地だが、現在は危険地帯に様変わりしていた。


携行野戦装備を確認し機体に搭乗する。機体を操り保管庫から格納庫へ移動し武装を装備する。何時もの武装は点検と部品交換のため使えず、予備の機関砲を両手に装備した。

「OS1準備完了、開けてくれ。」

隔壁が開く、外は既に戦場だった。オペレーターから戦況と敵の情報を聞き、都市防衛戦に参加する。


「伏せろ。」

外部発声装置から警告を発し、避難民の列を飛び越える。迫り来る蜥蜴共に弾幕を掃射する。

(中型が群を成している、聞いたと通りの現象だ。)

高い火力と十分な弾薬量で亜種を減らす。エグザムは後の困難な掃除状況を思い浮かべていた。

(多くの種類に数、これだけの生物を維持するのに人類文明は理想の餌場だろう。)

美味しそうに人間などを咀嚼している大型の猿型亜種、がら空きの頭部に高速焼夷徹甲弾を食らわす。

(外に居る動物より人間のほうを好むのか、当然だな。)

亜種達は文明が美味しい食事を提供する環境だと知っていた。同層にある大型娯楽施設のビュッへで食い散らかす亜種達を発見したエグザムは、ただ食い犯を処刑するため急行する。

(群の方が合理的に狩が出来るようだ。)

退路を断ち敷地内に群がる中型多足類を血祭りに上げる。数が減ったのを確認し、上層への経路を探す。陸戦用でも亜種達のように器用に壁をよじ登ることは出来ない。


「エグザム応答しろ。」

亜種の死体で構築されたトーチカで中型鉱物生命体の亜種と銃撃戦を展開しているエグザムに通信が入る。

「どうした博士。」

施設内に小型の亜種が入り込んだらしい。通信から戦闘音がした。舌打ちをし最短経路を割り出す。

(傷付くが強行突破する。)

肩部から閃光弾と拡散煙幕弾を発射し突撃する。二挺から放たれる弾幕に中型亜種達が次々と倒れた。若干シールドに被弾しつつ機体を走らせる。燃盛る運搬機械をどかし道を作った。

「戻ってきたぞ博士。」

携行装備の通信機から呼び掛ける。悲鳴と慌てふためく声が聞こえたので急ぎ施設上部に向かう。扉を開け内部を走査する。

(司令所に立て篭もったか。妥当な判断だ。)

最短経路の非常階段を登り、目的の階へ移動した。電子機器が複数の亜種を認識する。急いでいたエグザムは重機関銃の変速を上げ、安全装置を解除する。

(登って来た奴等から排除する。)

蜘蛛か蟻か曖昧な小型亜種に硬芯弾を複数プレゼントしたエグザム。開放空間を制圧し窓から司令所へ壊さず入った。

「真打は遅れてやって来た。」

臭い台詞を吐き司令所防衛戦に参加する。背中に苦情を浴びつつ、エグザムは持ち前の戦闘能力で亜種の群へ突撃した。


三時間ほど続いた生存闘争は文明側の勝利で終わった。エグザムを含め動ける者は残敵の掃除と負傷者の対応に回る。多くの者が一晩中働き施設の復旧に尽力した。

「今回も生き残る事が出来た。昨日の自分に感謝しよう。」

全員無事に生き残った陸戦重兵器班。喜ばしいと格納庫で作業員を前に演説する博士。尻目に主兵装の整備をするエグザムは葬った亜種達を回想していた。

(群れる者もそうでない者も個体能力は低かった。種を存続する過程で不必要な機能を減らしたのだろう。)

今日に至るまでに収集した情報から推測する。彼が記憶する遺伝子改造された種は大きく変容していた。

(連中の生態系も自然界のそれと同じだろう。)

エグザムは襲撃が発生する根本的な問題に目星を付ける。

「今の装備では勝てまい。」

誰の耳にも聞こえない声で呟く、その表情は玩具を与えられた子供のように輝いていた。


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