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墜ちた傭兵  作者: 戦夢
4/13

亜種

人の姿をした兵器は、己の存在意義を問う。

都市の名は「オアシス4」、豊かな水源に支えられた共栄圏。東西の山脈から流れる河川が大きな湖を形成、一帯は安定した植生を保つ。オアシス4は広域に点在する産業都市集団の総称である。


(昨日までの光景とは違うな。ようやく文明圏に入ったか。)

商隊と別れる際に賃金を貰う。

「合金の様だ、分解して素材を調べる訳にはいかないな。」

隊に同行中、肉体労働や貨幣と交換できる素材を調達していた。


車窓から見た光景は壮大だった。最低限の境界線の中にはかつて宇宙船だったであろう建造物、旧文明の名残が点在する街並み。道は車道と歩道に別けられ、交通整理されている。


彼は情報収集を兼ね、都市を観光していた

(露天と娯楽と商業施設が並んでいる。面白い噂話が聞けるかもしれない)

その界隈に一歩踏み入れる。修理屋とおぼしき場所で逞しい男たちが作業している。さらに進むと、馴染の戦う為の装備が視界に入る。

(近接白兵戦用の類が多い。簡単な造形の飛び道具や火器もある。)

その区画を中心に徘徊と物色を繰り返す。用途や使用されている技術と規格、店の規模と品揃え等から考察を始める。

(量販店では無いな、系列か出張形態でも無い。個人か直営が妥当だろう。)

新品より再生品が多いとつぶやくエグザム。彼は乱雑に積まれた固定具や収納道具を発見する。

「天然素材か、補修した形跡は無い。無料で持って行っても良いのか?」


店主とおぼしき中年の女性から骨董商の場所を聞き出したエグザム、店から出て足早に向かう。

(持っている装備と同系統の商品は無かった。取り扱ってないのだろう。)

歩き続けると、同じ生業の者を見かける様になる。つぶさに観察するエグザム、彼程では無いが皆最低の防具と何らかの武装を所持している。旅人は重装備だが彼らは軽装だ。

(明らかに対人戦を意識した装備、所属証等を装着して無いのなら傭兵か?)

旅人、商人、武装した集団が多数行き交う。自身が交易が盛んな区画に居ると気付く。やがてエグザムは目的地に到着する。


情報と同じ外観、古美術から掘り出し物の遺産や遺構を扱う二階建ての店。裏には大きく頑丈そうな倉庫がある。

鐘が鳴り店に入るエグザム。消毒液の類だろう、外部呼吸器が微量の成分を検出する。

(天然由来の成分か、興味深い。)

歴史的な価値が有るだろう遺物が陳列されている棚、隣に絵画等が重ねて置いてある隔離区画。ガラスではない素材で仕切られた店内は、入り口付近から全体が見渡せる構造に成っていた。


幾つかの展示品を見た後目的の区画に入る。無機質な火器類や付属品が、装飾された台や拘束具に納まっている。汚れを落とし見栄えを保ったそれらは、全て壊れていた。炸薬式、量子式、加速射出機、銃剣や鈍器等大小様々な種類の武器が陳列されている。彼が持つ反応圧縮式の軽機関銃と同じ機構の銃もある。

「壊れた物だけか、あの倉庫が怪しいな。」

見飽きたエグザムは隣の区画にある装備類を物色する。

「ここも同じか。」

こちらは展示するより販売を戦略としている。人形に装着されたそれらには補修を施した痕跡がある。継ぎ接ぎで構成された物もある。機能を紹介した値札には消耗品としては不適切な値段が書いてあった。

(能力に吊り合う値段かどうかは不明。情報が少ない。)


恐らく稼動するであろう電子機器を見ていると、動体を検知。視野を切り替えると従業員と思しき人物が接近、明らかに此方を目指している。

「ようこそ当店へ。品揃えの中に興味深い物はありますか。」

若い男性だった。彼は並ぶ品々を自慢していた。エグザムは探りを入れる。

「この中の物は?」

従業員は解説した。旧時代の遺跡から発掘した物、所有者が代わり売られた物、修理屋に素材から再生させた物等詳細を話した。彼は後ろの武器棚についても同様だと言う。

「武器類は壊れた物しか置いてない様だが、使用可能な物は取り扱っているのか?」

核心を突く質問に、従業員の表情が変わる。

「私よりも詳しいのならお解かりかと。社内規則により倉庫で厳重に保管してあります。」


その区画は武器庫だった。かつて見知ったそれらが違和感無く並べられている。山積みの防郭コンテナ、露出した単品も含め防衛戦か篭城戦が可能な量がある。幾つかを手に取る。

専門の者を呼ぶと言い去った彼、変わりに大柄な中年のスキンヘッドが現れる。照明の光を薄っすらと反射させた彼は、周囲と違和感の無い迷彩服を着ていた。


対軽装甲量子兵器を手に取るエグザム。充填されて無い撃鉄を確認、見た事のある名称番号と製造元の刻印を確認する。この手の分野で知らぬ者は居ないと謳われた企業の名を口ずさむ。

「そうだ、懐かしいだろ。一時期俺はそこで働いていたからこうして番人紛いの仕事をしているんだ。」

発言を理解したエグザムは、大男を強制走査する。スキンヘッドは暫らく硬直した後に両手を頭の後ろへ。

「俺はエックス。大丈夫だ、敵対の意思は無い。」

強制走査とは、頭部から指向性の素粒子からなる微細電磁波を出し解析する。出力が足りない為死には至らないが、神経レベルで硬直させる事も出来る。

エックスは力量差を知り適切で手順通りの行動を示した。エグザムは兜を外し、手ごろな場所に置く。

「名はエグザム。有機サイボーグエックス、楽にしろ。」

手を下ろし緩やかな作業で緊張を解いたエックス。彼は口ずさむ。

「強化生体兵器か、懐かしい傭兵流の挨拶をするという事は、あんた眠ってたのかそれとも。」

襟を正すエックス。質問の真意を理解したエグザムは手短に答えた。

「その体は冷凍保存に適しているからな、元傭兵なら過ぎたこと気にすんな。」


倉庫内で装備していた軽機関銃と付属追加装備を売り、今後に必要な標準機だけ待ち出す。関連する弾薬爆薬など危険物も売って当面の資金を確保。主兵装と同系列の回転弾層銃を軽量型汎用拳銃に交換し弾薬を大量に買う。装甲服から防護材を抜き取りより軽量な素材に替え、備蓄にあった有機式追加エネルギー槽を買う。

装備を整え重量を軽減したエグザムは、運動能力が増し装備外に重い物を持てる様になった。エックスからサービス代わりに都市と属している経済圏の情報を貰う。

オアシス4は企業団行政府が統治する経済圏の最南端に位置。西には文明の適さない通称捨てられた大陸が広がる。南は火山がある造山地帯と海洋諸島群。東には山脈を越えた先に大森林と砂漠が広がっている。文化圏の境目にあり南の要衝、周辺では絶えず何らかの小競り合いが発生している。宇宙が主戦場だった昔とは違い、多くの装備が地表部での戦闘に特化している。


エックスは最後に興味深い話をする。エグザムの様に戦う為に一から再構成された者たちは、文明の衰退により数を減らした。環境の変化に適応するため姿や生態を変え生き延びた者達は、この星のどこかで息衝いている。生殖機能を持った個体は増え子孫を繁栄させ、持たない個体は多種を寄生か捕食して取り込む。彼らは時に文明圏を脅かし度々衝突している。既に知っていた亜種と呼ばれる生物がこれに該当する。


有機サイボーグは半永久的な不老不死が可能。この固体は重要器官の複製と交換が容易なのだ。専用の設備と技術によって生き続けている。旧文明を体験した者と出会え、新たに得た情報がエグザムの今後を左右する。


(荒野の町で聞いた時から、可能性はあった。活動出来る限り、強者を討ちたい。)

休息施設と思われる広場で横になるエグザム。赤道付近の空は濃淡のある青色だ。

(俺が眠っていた間に活躍した目覚めし者たち。死亡記録が明確な者とあやふやな者。)

かつての同類に会ってみようと決心するまで、大して時間は掛からなかった。


エックスと視覚による情報から、都市の全景を想像する。未だに本調子で無い脳内回路では、機械的な精度を再現できない。

(情報を探しつつ環境に馴染ませる。一週間もあれば完全復帰する。)

安全地帯を確保する為、付近の宿泊施設がある区画まで移動する。基本睡眠を必要としないので、安く頑丈な建物を選ぶ。結果、寂れた区画に在る雑居施設に泊まる。

(賑やかな場所だ。)

一階は喫茶店で二階に小部屋が三つ有るだけ。一週間分の金を支払い、最低限の掃除と荷物の整理を終わらせたエグザム。日は沈み室内電灯は点けていない。窓から差し込むのは星では無く街灯や蛍光灯だけ。

(対人センサーは仕掛けた。明日に備えよう。)


翌日の早朝。時間通り目覚めた彼は身支度を済ませる。喫茶店は開店しておらず、周囲も閑散としている。初めから目星を付けていた市場へ進撃する彼は、只の旅人に見えました。

労働者の朝は早い。放射冷却により冷えた空気は、吐く息を細かいに氷に変える。生身のエグザムの活動可能温度は、水の沸点より高く、凝固点より低い。常に高い熱量を保持しているからだ。戦術上不利となるその特徴は、各種防護服と超機密構造の兜で隠さなければならない。


早い時間にも関わらず市場は人で溢れてる。鐘が鳴り数量限定の食材に群がる人々。既に多くの商品が並び、近辺から次々と運び込まれる。

(物資の循環が早い。エックスが言ったとうり、本当に移民船の生産体制を移植したのか。)

市場の隣には食事処が併設してある。原材料を隣から仕入れ、素早く調理される。エグザムの様な調理する暇も能力も無い者にはうってつけだった。


素早く栄養補給を済ませた彼はバスで都市群の中央へ向かう。目指すは行政区の安全保障局。五階建てと二階建ての建物を物理的に統合した施設は、すべて保障局の保有施設だった。

(情報と同じ外観。位置は誤差の許容範囲か。)

エックスとの会話中亜種について話をしていたら、保障局の名前が上がる。

(都市の治安維持を統括する一部門。警察組織より軍隊に近いらしい。)

躊躇せず入り口を突破。予想していた荷物の検査や武器の押収も無い。閑散とした中を進むエグザム。

(中は自立型の警備機構が監視しているようだ。監視カメラや無人機が徘徊している。騒ぎを起すのは避けるか)

視界内に全館の見取り図が映る。エグザムは情報を読み取る。


(散々探して見つからなかったのは、こう言う事か。)

捜し求めていた物は地味で小さかった。見取り図に目的の名称は無かった。警備科や管理科と広報科等を回った後、通りかかった環境科の広告掲示板に張ってあった。

「脅威亜種に対する有志協力の募集。」


(今回は聞いた方が早かったな。)

長いすに座り疲労を癒すエグザムだった。






 





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