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墜ちた傭兵  作者: 戦夢
11/13

忘れ去られた願い

超科学を目前にして。

唐突に意識が回復したエグザム、周囲を見渡すが何も見えない。闇の中で視界を確保しようとヘルメットの光学調整をいじる。

「倒れていたのか。」

表示された時刻と身体機能を確認し立ち上がる。

(熟睡した気分だ。)

区画の生命維持機能が停止しているのを確認し、脱出する為に必要な情報を思い出す。

「驚いた。以前とは雲泥の差だ。」

彼らしく無く素直な感想を述べる程、施設の全体構造が詳細に知覚出来る。以前の想像補正機能とは規模の違う能力差に驚いた。

(情報源は本情報記録欄です。表示情報は該当施設情報です。)

情報元は装備の探査装置類かと思うと、擬似人格から信号が送られてくる。改めて装備を確認し全機能の停止を確認した。

(稼動状態正常。移植に問題無し。)

エグザムは別の存在と一体感を感じた。更に情報を引き出す。

(現在時刻、西暦5,712年...入植暦2,743年...誤差を含む可能性あり。位置情報は最終記録より、221星系第3惑星...移植先情報との統合は現時点で不可能。エグザムは情報不足です。)

やがて謎の感動から覚め、新たな地理情報を頼りに脱出を図った。


新装備を回収し、空を見上げる。衛星と星々が輝いていた。半砂漠地帯の夜は寒い、吐く息に混じった若干の水分が凍りつく。

「現時刻をもって作戦を終了する、録音終わり。」

最後の報告義務を果たし帰路に着くが、帰りは空輸される手筈になっていた。発信信号を出し回収部隊が到着するのを待つ。

(私は次世代型記録思考装置です。名称不明の秘匿目的により開発されました。計画についての情報は有りません。試作試験段階の為、固有番号は有りません。了解、機能情報を説明します。)

待機中のエグザムは擬似人格と同化した思考体の情報を漁る。幾つかの機能を確認し、身体に及ぼす影響を思案する。

(やはり負荷が高い。今の内に最適化する。)

思考体に掛かっていた複数の制限を外す。元の擬似人格と同様の形態へと変化させた。

(固有名称を受けました。以降WDと呼ばれます。)

内在する別の存在に敬意を示し古い名前を与えた。以後エグザムはWDと行動を共にする。


アナトリアに帰還した頃に夜が明けた。エグザムは簡単な報告と装備を返し、自室で休息を取った。昼頃に活動を再開したエグザム。博士に呼び出され、保管庫に向かった。

「来たか、待っていたぞ。」

促されエグザムの専用機を見ると、機体が一新されていた。

「本来の汎用性を強化し、より生存性を向上させた設計になっとる。」

乗り込むエグザム、操作系統は前のままだが操縦席は若干広くなっていた。すぐさま動作試験に移る。

以前より流線型状に傾倒した外観は、より簡単な構造をしていた。強度を維持したまま体積を減らし、搭載積載量を増やす設計が成されていた。


(エグザムに通達。時間経過により開示設定された情報記録が有ります。)

保管庫で休憩中のエグザムは、WD内の膨大な情報を漁っていた。

(了解。構築開始します。)

WDに命じ開示されるのを待つ、最適化しても負荷を感じた。

(完了。開示します。)

幾つかの画像と共に多くの情報が再生される。集中する為に目を閉じ五感の感知能力を下げた。


広大な銀河が回っている。瞬く粒たちは時に明滅し、誕生と消滅を繰り返す。星々で構成されたスープは常にかき混ぜられ、色とりどりの表情を見せる。映像が遅く再生される。どうやら文明が誕生した様だ。至る所から勢力範囲を示す輪が誕生し広がる。やがて一つの輪が他の文明を飲み込んで行く、地球勢力と表示された文明は銀河の隅々に広がった。

(地球文明の歴史を示しているのだろう。似たような物を見た事がある。)

エグザムが体験した歴史の光景が時事情報と共に銀河図に表示されるが、ある時を境に異変が起きた。

(銀河大異変、これは以前聞いた厄災の事か。星群と暗黒空間が移動している。)

表示される文明圏が縮小し分離を始める。やがて一つを除き映像ごと止まる。

(閉ざされたのか、混乱の最中多くの文明と技術が失われたようだ。)

残った文明圏は暫らく活動し、幾つかの恒星系に散って行った。

(俺が墜ちたのは、異変が起こる前だったらしい。)

映像が切り替わり文章と複数の画像が表示された。エグザムは惑星の歴史とある計画を読み進めた。

(これはアナトリア、随分姿が違う。)

宇宙空間にある円錐形をした建造物の画像を見つける。計画に含まれる資料の中にあった。

(宇宙文明圏の再興と管理者達の創造。この星で随分足掻いた様だ。)

計画の大部分は成功したのだが、人類は計画の凍結を決めた。後の世代に託すと締め括られていた。

(WDは計画を遂行する為の重要な存在らしい、管理者の詳しい情報が省かれている。これは怪しいな。)

思案していると体が揺さぶられる。慌てて情報網を閉じ、思考を元に戻した。

「邪魔してすまないが、亜種の襲撃だ。出撃してくれ。」

整備士の一人に起こされる。礼を言い機体に乗り込んだ。


都市は要塞化された環状構造物に囲まれている。外部に有る水路や交通網の一角でエグザムは防衛戦を展開していた。

「聞こえるか、外殻に飛び道具は効きづらい。弱点を狙うか、衝撃を与えろ。」

陸上型から水棲型、飛行する種族まで多くの亜種集団を迎い打つ防衛部隊。今地上は混沌としていた。機体性能を屈指し閉所と広所を往復するエグザム、眼前にはヤドカリ型の大型亜種が居た。

「心配するな、食材の塊に遅れを執る事は無い。」

様々な残骸を押し退け、弾幕の中を高速で進むヤドカリ。全高10メートル以上あるそいつは大胆に正面突破を試みる。

エグザムは世話しなく動く脚部をかわし、胴体真下に滑り込んだ。装甲の薄い足の根元関節に左肩の高射砲を叩き込む。簡単な造形の砲身から超音速で放たれた砲弾が、薄い装甲を貫通し内部で爆発する。

(効力射。被害規模から即死の模様。)

射撃と同時に安全圏に退避したエグザム、足元に肉片が飛び散る。

「OS1より司令所へ、突破された区画はないか。」

戦域情報を聞き出すが、何処も問題は無い様だ。博士から現在地が激戦区と知らさる。彼は付近の部隊へ合流した。

「聞こえているか、あの猿の群を掃討してくれ。」

展開している歩兵部隊から通信が入った。要請を実行する為に、右腕の大口径擲弾砲の狙いを定める。

「衝撃範囲から退避しろ。」

外部拡声器で歩兵に注意を促し十分引き付け射撃する。集団の一部から肉片が飛び散り、仲間の惨状を見た固体が逃げ出す。後ろから歓声が上がるが、無視して追撃する。

(同期端末から機体情報を更新。右腕部の過負荷に注意して下さい。)

ヘルメットに接続した機体情報端末より分析した情報を知らせるWD。十分に本領を発揮していた。

(機体制御を委譲。WD、敵を迎撃しろ。)

人工知能の戦術思考を加速させるには経験を積ませるのが一番だ。彼の頭部から有線接続された機体を操るWD、エグザムは装甲隔壁を開け中から大口径汎用自動銃で応戦する。

(エグザムに提案。当方の優勢火力で前身、敵を撤退させる。)

エグザムはWDの提案に条件付で了承する。その時まで押し寄せる亜種達を処理し続けた。


(敵勢力に変化有り。我軍戦力の優勢が確定しました。)

報告を受けたエグザムは前身を指示する。訂正された提案を実行するWD。脚部駆動輪が地面に固定され回り始める、自身を操縦席に固定した彼に加速負荷が伝わった。

(俺が操縦する、引き続き周辺の監視と雑魚の排除を頼む。)

頭部機銃を使い小物を優先的に駆除するWD。エグザムは右腕の予備機関砲を使い、中型の飛行種を駆除していく。距離を開け様子を見ていた亜種達は、危険を感じ慌てて逃げ出す。

「こちらOS1、掃討戦に移る。」

指揮を執る博士に報告しついでに新武装の感触を伝える。

「想定したほど挙動に影響は無い、総合的に良い仕上がりだ。」

通信を切り単独で掃討を続ける、幸運にも生き残った亜種達はこの日の出来事を忘れないだろう。


それから一週間暇な時間を彼は過ごした。襲撃や依頼は無く、WDの情報を漁る毎日が続いた。エグザムと違い博士は色々忙しい時間を過ごしたが、一週間目にその成果が出た。

「諸君に報告する。私を筆頭に遺跡研究班はアナトリア基底部地下に何らかの施設があることを確認した。そうだ諸君、都市伝説は本当だったのだ。」

拳を握り締め力説する博士と、どよめく重兵器班を尻目にエグザムは無言で話の続きを待つ。

「音響探査と透過探査装置を使い複数の進入口を発見した。我々陸戦重兵器班はその一つの探索を行う事になった。既に準備も終わらせてある。」

エグザムの周囲から歓声が上がる。興奮した作業員と司令部要員が想像を膨らませていた。

「只一つ問題がある。我々が担当するのは基底湖の底にある構造物だが、調べた結果大変崩れ易い事が判明した。」

そう危険なのだと付け加える博士。静まり返る班員は一人また一人とエグザムに視線を移す。

「残念ながら我々の中で現地へ行けるのは一人だけだ。大変遺憾である。」

話の流れで担当するのはたった一人の危機対応要員に決まった。


翌日エグザムは耐圧服に包まれ作業船の昇降装置に吊り下げられていた。対象の構造物は水深120メートルの深い場所に在り降り積もった堆積物に埋もれている。

「通信機のテスト、テスト。」

聞こえていると反すエグザム。彼は先行して沈められる複数の装備類を眺めていた。

「沈めるぞ準備はいいか。」

返事を確認した博士は部下に降下を指示する。固定具が解除され勢いよく湖面に叩き付けられる。

(重りのせいで降下速度が速い。)

酷使されるエグザムは成果主義の運用を呪う。彼の命綱はその権化が監視していた。

湖底に近づくと速度は緩やかになり、やがて着底する。砂を巻き上げ装備の回収へ向かう。

「OS1より作業船へ。これより作業を始める。」

工作器具と撮影機材、頭上から伸びたケーブルを回収して泳ぐように進む。

「目標を肉眼で視認。」

円柱状の物体に近づき、侵入口を確保する。作業中に博士から通信が入る。

「今入った情報だが、別の探索班が入り口から内部に侵入したらしい。」

我々も急いで侵入しようと畳み掛ける博士。適度に相槌を打ちやり過ごすエグザムだった。


隔壁をこじ開け縦坑を降りる。扉から気泡が出てこなかった為、既に水没しているのを確認出来た。

「博士、推測したとおりの構造だった。」

内部偵察から戻り引き上げられるエグザム。行きより遅い帰りに暇を持て余す。

(情報によると都市アナトリアの地下には、居住区画と統合型指令区画が埋没しています。)

対象が巨大すぎて個人的に探査する事が出来なかった。代わりにWDの情報を参照する。浮かび上がる完成予想図から元の大部分が埋まっていると推測する。

(全長四キロの戦術司令艦を元に複雑に増改築された模様です。恒星間移民船として運用を目的に建造されましたが、計画「最誕」の凍結と共に中止されたのでしょう。以降の情報は有りません。)

WDは何処まで完成したのか分からないと伝える。エグザムはそれ以上調べられなかった。


日が暮れた頃、エグザムの変わりに専用昇降機が吊るされる。照明が辺りを照らし作業船は地下帝国への前哨基地へ変わり果てていた。日の出の星の本懐をこの目で見ようと岸辺や上層には多くの見物客で賑わう。

「エリーゼよ此方も突入準備が整った。いささか出遅れたが我々が先に成果を上げてやるぞ。」

通信機で組織のトップと会話している博士。内容から自分の出番を察知する。

「他の班は複雑な内部構造に手を焼いてる様だ。お前の働きに期待しているぞ。」

何時もの野戦装備に酸素マスクを装着し昇降機に乗る。見送る博士たちの視線が痛かった。


水を抜いた縦坑を降り、解除された隔壁を開く。減圧室に置いてある非常用装備を調達し、気密扉を手動で開ける。

「OS1より作業船、内部に水は侵入していない。保存状態は完璧だ、問題なく進める。」

全走査系を使い内部構造の把握に努める。空気中の成分から有害毒素は検出されず、作業用の非常通路を進むエグザム。通信で状況を報告しつつやがて扉に行き着いた。

(WD、現在地を予想しろ。)

報告される情報から居住区画へ近づいていると判断する。上下の区別が無い通路を経て、内部構造物にでる。

「博士、内側の管理施設に出たようだ。」

中継の通信機を設置し、作業船に報告した。沸き立つ歓声が聞こえる。分厚い外壁を抜けた知らせは、博士を調子付ける。

「なぁエグザム、闇を怪しい目で見ると化け物が出て来る話を聞いた事があるか?」

脅かしに掛かる博士にエグザムは、似たような話を知っていると伝える。直ぐに通信機から伝わる騒がしい音が消えた。


(設計図上ではここが居住空間になります。)

闇に包まれた断崖を見下ろす、断崖には無数の突起物が生えていた。

「OS1より作業船、巨大な空間に出た。何らかの建築物が無数に確認できる。僅かだが光源が見える、一部は生きているぞ。」

予備の中継機は無い。通信範囲外に近いせいで雑音が混じった博士の笑い声が聞こえる。代わりに目印の帯を扉の取っ手に巻く。

(戻る事を推奨します。)

短く肯定したエグザムの声は大空洞の中へ吸い込まれた。


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