血
私は、血管を流れている、何かだ。何かはまだ分からないが、役割が来た時に分かるんだと思う。出たくても、出られない。いつのまにかここで流れていた。でも大人は皆流されることを受け入れているし、私にもそうするように言う。周りの人間も、サラサラと流れている。だから私も流されていた。
ほとんどの者は淡々と流されている。流れに身を任す上手い方法を知り、自分で進んでいるのではないかと思えるくらい速い者や、程よい速さで流れている者がいる。
私ももともとは、程よい速さで上手く流されていた。ところが突然、今までどう流されていたか分からなくなってしまった。どうしたらいいのか分からず、とりあえず端の方で止まってみると、次々に重荷が増えていって、固まってしまったのだ。さらに流れにくくなってしまった。この重荷を落とすには、他の者の何倍の速さで流れればいいんだろうか。そう考えている間にも、どんどん増えていった。気が遠くなるほど、重荷は増えてしまっている。固まるためにわざと自分が止まっているのではないかとも、思えてきた。私は気がおかしくなってきた。
血管の端に居ると、血管の外側がぼやけて見えてくる。外側に居る者が幸せなのか不幸なのかは分からないが、この中よりは自由だろう。
やっぱり出たくなった。どうして昔の私は流される方を選んだのだろう。昔はそれのほうが楽だと思ってた。昔の私は馬鹿だ。
重荷が増え、さらに凝り固まってきた。この重荷は、もしかしたら自分に必要なものなのかもしれないとさえ感じられてくる。他の者はきちんとまだ、流されているが、正直そっちのほうも馬鹿みたいだ。
あの人の流される体制。やめてくれ、笑える。こう止まっていると、他の者がよく見える。必死な顔。上手く流されるのに必死で、自分の容姿は気にしない主義なのか?私は他の者から、一番素敵に見える角度で止まっている。
私はわざと止まっているのだ。この重荷は必要なものだ。むしろ何も持たず流されている者は、なんなのだろう。可哀想に思えてくる。流される速さが速すぎて壁に激突し、死ぬ者も居るらしい。私は思わず笑った。死んだら本末転倒だ。止まっている方が安全だ。よかった。とりあえずやり過ごそう。
たまに私の状況を心配してくれる者も居る。親だ。唯一止まってしまった私を見て、辛そうな顔をしている。私はそれを見て、悲しくなってきた。自分がやはり馬鹿に思えてきた。ああ、なんて恥ずかしいんだろう。私も他の者のように流れられたら。
でも無理だ。もう以前のように流れられる気がしない。それに怖い。今のまま流れに乗れたとしても重荷が邪魔で他の者に迷惑をかけてしまう。迷惑はかけたくない。私はそういう人間なのだ。人に迷惑をかけてまで流されたいわけではない。それにそうまでして流されたのにまた止まってしまったら面子が立たない。そしたらもう二度と許してもらえないに決まっている。
私はもう死にたくなった。今の若者は弱いと言われているが、弱いのは私くらいだ。皆上手く流れに乗っているじゃないか。弱い者はどうすればいいんだ。誰も教えてくれない。
こうしている間にも、どんどん重荷は増える。その重荷で私は体を隠した。恥ずかしくてたまらなくなったからだ。
私はその重荷によって私の全てを覆い隠し、他の者と私を完全に遮断した。親さえも、もう私に会える事は無い。私が唯一持つ物はこの重荷達だけ。そうなると、これらがとても大切な物に思えてくる。私の重荷は大きさを増していった。どうやら、私のせいで他の者達が流れにくくなっているようだ。非難の声が聞こえてくるような気がするが、もうほとんど私の耳には届かない。
私はもうここにずっと居る事にした。無理して流される事も外に出る事ももうどうでもよくなった。誰にも見られない事で今までで味わった事のない程の安心を感じている。私はそっと目を閉じ、静寂の中に身を任せた。




