小話2
白一色の空間。その一角に光る画面がいくつも広げられている。それらをすべて操作できる位置に立ち、実際にすべて操作しているのは、一人の女?男?本人は女だと言い張ってはいるが、顔つきといい体格といい、肯定できる要素が見つからないがそれはあしからず。
「ああもう、忙しいわね~」
そう愚痴を言いながら何やら操作しているのは、興昌を《ガイディア・ローゼ》に送り込んだ神である。愚痴をこぼしつつもせわしなく行う作業に滞りは一切見られない。
「まったく、エネルギーを横領し続けた挙句に雲隠れとか、ふざけないでほしいわね、まったく~。キーウスに命じて連れてこさせて自ら手打ちにしてくれる。っとと、いけないいけない。元に戻るとこだったわ~」
不意にプルルと、電話のような音が聞こえる。神は新たに光る画面を開くと、操作をしたのちその画面に話し始めた。
「はい、こちら東世界第1139地区総合監督でございます。ご用件をどうぞ」
いつも通りの事務トークで応じる。
「このクソ神があ~!!」
興昌からの大声で耳をふさいだりはしなかったが、額を一筋の汗が伝う。
「あら久野金興昌さんじゃないの、元気~」
「黙れこの手抜き神が!」
「なんでそんなに怒ってるの~?」
「とぼけるな!森の中スタートはまだしも、知識を与えるって言って本を投げつけるとはどういうことだ!挙句の果てに兵士に追いかけられて川に落ちて、滝から放り投げられるとか意味わかんねえ!!右も左も分からない最初ぐらい気をつかえや!!」
「最後の方は自業自得のような…」
「うるさい!ていうか、見てたんなら助けろよ!」
「忙しかったからチュートリアルを外注にまわしちゃったのよ。気になって様子を見たら気絶して川に流されてるんだもの。慌てて助かるように調整はしたから、今生きてるでしょ?」
「そうなる前に助けてほしかったぜ…」
「興昌の声が気の抜けたようなものになる。ふと、神は思い出したように、
「ところで何か用なの~?八つ当たりのためだけじゃないでしょ?」
「そうだった。この世界に来てはや3か月だ。結構な量の未来の知識を流したと思うんだが、それって問題なかったのか?」
「ええ。というか、もっとやっちゃって頂戴な。そのためにあなたを送り込んだんだから」
「へえ、初耳だな」
「エネルギーを与えただけじゃ世界は発展しないのよ。きっかけがないと」
「分かった。遠慮なく知識を活用していくぜ」
「よろしくね~」
そう言って会話は途絶える。神は再び作業に戻ったが、ある考えにいたりその手が止まる。
「…彼の知識はすごいのよね~。…変なことにならなきゃいいけど」
神の額から、先ほどとは違った汗が滴るのであった。