15話 告白
二日後、アリスは興昌に頼み、人を集めてもらった。
その人とは、ガルラビュー、スティーブン、アンジェラ、トール、ユリーカ、キャロラインの六人である。全員、アリスが女性であることを知らない面々だ。現在六人は、とある一室に集められ、呼び出した人物の登場を待っている。
「クノカネさん?私たちを集めて、どうするおつもりで?」
六人全員が思っているであろうその質問を、代表するかのようにユリーカが興昌に尋ねる。
「なに、簡単な事だ。ある人物に会ってもらうだけだよ」
それに対し、興昌は用意していた答えを返す。
「ある人物とは?」
アンジェラがそう聞く。が、
「会ったことはある。そのうち来るから待っててくれ」
興昌ははぐらかすようにそう言う。言外に、答えるつもりはないという事を言い、理解したアンジェラとユリーカは眉をひそめる。
「いったいどういう事かの?ここに来るのは最低限の従者だけで、その従者も建物の外で待機とは」
「それに、この建物の中にいる人の数もいつもより少ないですよね?」
「そこまで隠す必要のある、という事か」
「一体、誰なんでしょうね?」
「ワシ等も会ったことのある方だと言っておったが、はて」
「見当もつきませんね」
その奥では、ガルラビューとスティーブンが会う人物が誰かと話し合っていた。さすがに露見を恐れてほとんどの人間に休みをやったのはまずかったかと、興昌は表情に出さないまでも後悔していた。
「・・・・・・」
トールはいつものようにわれ関せずといった具合に、椅子に腰かけ人物の登場を待っている。
「はわわ・・・」
キャロラインは、どんな人が来るかは分からないが、大物が登場するだろうというのを周りの空気から察して、今の時点で緊張している。ついこの間まで一兵卒であったのだ。無理もない事だと思う。
通常運転である事に一安心しつつ、興昌はアリスの登場を待つ。
(そろそろか・・・)
この集まりは、アリスが女性であるとこの六人に公開するためのものだ。
この事は公国の、いや、王家のトップシークレットだ。何処かからでも漏れる訳にはいかない。そのため興昌は、伝えたい人物にのみ伝わるよう、いろいろと策を弄した。
まず、六人を呼んだのだが、早朝に、最低限の人数で来てもらい、中に入るのは当人だけとした。さらに、ここで働いている役人や使用人については、全員に休みをやり、来させないようにした。現在この建物の中にいるのは、当事者であるアリス達を除くと、シャーロット以下、アリスの秘密を知る最低限のメイドだけである。
さらに、場所にも気を使った。現在興昌たちがいるのは地下である。ここは、かつてバーリナであったころ、他国との密使と会談するために使われていたらしい。そのため防諜性は高く、周りからうかがうことはできない。
という最高の準備をしたのだが、それがかえって裏目に出たようだ、と興昌は感じていた。
(やっぱばれるよなあ・・・)
ガルラビューは武人であるため、ここに張りつめられた空気がただ事ではないと気づいたのだろう。トールは何も言わないが、おそらく同じであろう。
スティーブン、アンジェラ、ユリーカの三人も、その境遇から人と接する機会が多く、中にいる人からいつもと違う何かを感じ取っていたようだ。
気が付いていないのはキャロラインだけのようだ。
不意に、部屋の扉がノックされる。
「・・・誰だ?」
「シャーロットです。お連れしました」
「分かった。入ってくれ」
短いやり取りの後、シャーロットが扉を開けて入ってくる。その後に入ってきた人物に、興昌以外の六人は驚いた。
勿論アリスである。だが、いつもと違い、その服装はドレスであった。
「え・・・?」
「これは一体・・・」
「なんと!」
「・・・夢じゃないですね」
「ほう・・・」
「え?え!?」
その姿に、驚きを隠せない一同。
「・・・自己紹介をお願いします、陛下」
「分かりました」
恭しく恭順の姿勢をしつつ、興昌がそう言う。ここからは、宰相としての仕事である。アリスもそれに答え、言葉を紡ぐ。
「私の名前は、アリス。これまではアドルフという名前を使っていました」
その言葉だけで、六人は全てを理解した。
「・・・本当、なんですね・・・。殿下」
「はい」
いち早く立ち直ったアンジェラがそう尋ねる。それに対しアリスは、最低限の言葉だけで返答する。
「・・・理由を、お聞きしても・・・?」
「勿論です。そのために、今日集まってもらったのです。宰相」
「はっ」
呼ばれた興昌は、六人にアリスが性別を偽っていた理由を伝えた。自身が命を狙われていること、自分のせいで、王家が混乱していることなど、包み隠さずすべて。
「・・・という訳だ」
興昌が話し終わっても、誰も口を開こうとはしなかった。それだけの事を伝えられたのである。
「・・・ごめんなさい。秘密の漏洩を防ぐため、最低限の人にしかこの事は話せませんでした。どこに敵の間諜が潜んでいるか分からなかったので」
「・・・その人物とは?」
ようやく口を開いたアンジェラが、そう聞く。
「クリス、アルフ、シャロと数人のメイドだけでした」
「興昌さんは?」
「興昌には、この事がばれてしまったのです。ですが、その知恵を見込んで、協力者となってもらいました」
沈黙が場を支配する。
「・・・ここで聞きたいのは、たった一つ」
打破すべく、興昌が動いた。
「この秘密を知ってなお、この人のもとで仕えるか、否かだ。仕えたくなければ黙ってここから出ていけばいい。そのあとは知った事じゃない」
だが、と興昌は続ける。
「仕えると決めたなら、絶対なる忠誠を誓え。それだけだ」
そして沈黙が再び訪れる。
「・・・ワシは、殿下のために戦うと決めた身。それに偽りなどありませぬ」
「私も、同じでございます」
「じ、自分もです!」
ガルラビュー、アンジェラ、スティーブンが相次ぐように自分の意を示す。それは、是であった。
「・・・お前らは?」
残った三人に興昌は声をかける。
「私たちはクノカネさんの臣下です。仕える方が臣従するお方に従うのは当然のことです」
「お前さん、大切な事忘れんなよな」
「はいです!」
「だそうだ」
全員の答えを聞き、興昌はアリスに話しかける。
「此処に居るのは、全員忠誠を誓う。俺も再び誓おう。命じてくれ、殿下」
そう言って臣従の姿勢をとる。それを見、他の人間も同様にする。
「・・・まったく、困った臣下ですね」
小さな声でそう呟いた後、アリスは言う。その声は震え、目じりには涙が浮かんでいる。
「これより我らは本国の内戦に介入する。命ずるのはただ一点、完膚なきまでの勝利のために全霊を尽くすこと!」
「「「「「「「御意」」」」」」」
こうして、今一度忠誠を誓った興昌らアリスの家臣一同は、来るべき内戦に向けて動き出すのだった。




