13話 褒賞
興昌が何とか復活し、何とか動くまでになったのはそれから3日後の事であり、褒賞を準備するのも併せて、全ての準備が整ったのはそれからさらに3日後の事だった。
忙しい中でも少しづつではあるが褒賞授与は行ってきており、すでにあらかたの兵士には褒賞は渡し終えていた。今からやるのは特に高い貢献をした者達への褒賞の授与である。
「なんとかここまで来たな…」
「ええ。興昌がもっと早くに動ければ早く済んだのですが…」
「お前がそれを言うか…」
興昌が受けたのは、シャーロットが考案した対エリザベス用のお仕置きプログラムであった。興昌の記憶には、アリスが言った『Cランク』という言葉がやけにくっきりと残っていた。
「あれよりさらに上があるのか…」
「B、A、あとSがあります」
「Sって何?」
「エリーが全然やめないのでグレードアップしていったのですよ」
「…」
あんなモノを受けてなお態度を改めないエリザベスがすごいのか、あんなモノを考え付くシャーロットがすごいのか。興昌はそう考えたが、こんな不毛な考えは早々にやめることとした。今思うのは、もう二度とあんな思いは御免である、それだけだった。
「次が最後ですね。連れてきてください」
そうこうしているうちに、ユリーカが着々と事を進めていたようで、最後になった人物を読んできてもらうよう頼んでいた。
「お、ようやく最後か」
「はい。ところでクノカネさん、一つお聞きしたいのですが」
「何?」
ユリーカは手に持っていた紙を興昌に見せていった。
「次の方の褒賞が書かれてません。どういう事ですか?」
「それね。こっちで用意してたから、書いてなかったんだ」
そう言って興昌は、新しい紙を取り出して、さらさらと何かを書き始めた。
「今書いてるんですか!?」
「ああ。どこで漏れるともわかんなかったからねえ」
描き終わった紙に誤字脱字がない事を確かめてから、興昌はそれをユリーカに渡す。
「はいこれ」
「…正気ですか?」
「正気だよ?」
「よくこんなのが書けましたね。またお仕置きコースですよ?」
「今回は事前にアリスに伝えておいたから大丈夫」
興昌のその言葉を確かめようとユリーカはアリスの方を向く。ユリーカの視線に気が付いたアリスは、笑顔で頷き肯定の意を表する。
「…はあ。まあ、いいですけど」
「そうそう。それに、それに見合うだけの働きはしたと思うよ?」
「ええ。ある意味、今回一番の立役者だと思います」
ユリーカはまだ何か言いたそうではあったが、すでに決まり切っているようなので、この話は打ち切ることにした。実際、それだけの働きをしたという事は間違いがないわけで、ユリーカとしては、別の案でもよかったのではないかというのが正直なところであった。
「まあ、今回は特別だしな」
「特別…とは?」
「今回の戦いは、正直兵の士気はあまり高くなかった。そりゃそうだ、自分達よりはるかに格上の敵と戦わなきゃいけなかったんだからな。今回は俺の策がうまくいって勝つことができた。だが次はどうか?また勝てるか?と聞かれても答えることはできない」
「それは、そうですが」
「だからこそ、兵の士気は高くしとかないといけない。いくら策を練ろうとも、兵の数を揃えようとも、兵自身の戦う意思が欠けてたら話にならん。そのための褒賞だ。しっかり戦えば、それに見合うだけの褒美が出るという事をここで示しとかないといけないわけだ」
興昌の話が終わったところで、部屋の外から声がかかった。どうやら、その人物が到着したようだった。
「入っていいぞ」
「し、失礼します!」
そう言って入ってきたのは、一人の女性、いや、少女というべきか。茶髪を耳の後ろでバッサリと切っており、活発さを感じる顔つきと、まあそんな感じだ。
尤も、現在の彼女は一目で緊張していると分かるほど表情にそれが現れており、前述した要素はかけらも認められなかった。
「キャロライン・ズマレッジです!本日は!、本当に、…じゃなくて、まことに!、ありがとうございます!」
正直見ているこっちにも緊張が移りかねないほどの、緊張してますというオーラが影響を及ぼす前に澄ませてしまそうと、興昌が口を開く。
「まあ、そう緊張するな」
「き、恐縮です!」
「望みとかあれば叶えてやれるかもしれんが?」
「き、恐縮です!」
「他の奴らがどんなものもらったか知りたいか-」
「き、恐縮です!」
「…おーい」
「き、恐縮です!」
「(…無限ループって、怖くね?)」
結局、緊張が緩むまで少々の時間を要することとなった。
時間がたち、キャロラインの緊張もようやく落ち着いてきたところで、興昌が話し出す。
「…少しは落ち着いたか?」
「は、はい。申し訳ありません」
そう言ってキャロラインは頭を下げる。
「まあいいか。さて、続きだ。キャロライン・ズマレッジ」
「はい!」
「貴公は先の戦闘において、大将首に加え、敵の部隊長4人の撃破という多大なる功績を表し、ここに褒賞を授ける」
興昌がそう言い、ユリーカに目線で合図すると、ユリーカは先ほど興昌から渡された紙をキャロラインに渡す。
「そこに今回の褒賞の内容が書かれてある。読んでみろ」
そう言われて、キャロラインは手元の紙に視線を落とす。そこにはこう書かれていた。
『キャロライン・ズマレッジ
本日付で
男爵の爵位を与え
クノカネ=オキマサ直属の武官として任命する』
「…ん?」
キャロラインは、自分が見た内容が信じられず、いったん顔を上げた。
爵位とか直属とか、おおよそ自分には縁のないと思っていた単語が並んでおり、一瞬これは夢なのではないかと疑ってしまう。
「…痛い」
自分のほほを抓り、これが現実であるとキャロラインは再認識したうえでもう一度紙を見る。書かれている内容が変わっているはずもなく、一言一句同じ内容が飛び込んできた。
「-----」
「耳をふさげ」
キャロラインが息をのむ音が聞こえ、興昌はこの後に起こるであろう事柄を予想しそれに備えると同時に、アリスとユリーカの二人に聞こえる程度の小さな声で注意をする。
「……えええええええええええええええええええ!!!!!!!!!!」
ビリビリと、空気を震わす絶叫が響き渡り、周りに猛威を振るう。この状況を予想し、それに対しての最高の対策をしたおかげで、興昌達は意識を保つことができた。
要するに、いくら耳をふさいだところで、かなりの近距離でこの絶叫を聞いたため、少なからずダメージを受けてしまったと言える。
「…嘘じゃないからな。それは」
顔をしかめながら興昌はそう言う。一番近くで聞いたため、いまだに頭の中に残響が残っているようである。
「で、でも!こんな…」
「もともとこうする予定だったんだ。この戦いで一番手柄を立てた奴を俺の直属として引っ張ってくるのは。それがお前だったと言う訳だ」
武勇を確かめるためにはどうするか。単純である。実際の戦場において手柄を立てたものが武勇があるという事である。
そう興昌が伝えても、なかなかキャロラインは納得しなかった。
「…本当に、私なんかで宜しいのでしょうか…?」
しばらく沈黙していたキャロラインが、興昌に尋ねる。
「何度も言ってるだろう。そうだと」
「…分かりました。これ以上長引くようだと、宰相閣下に申し訳が立ちません」
「という事は?」
「…はい。引き受けさせていただきます」
その言葉を聞き、これまで張り続けていた興昌の姿勢がつぶれる。
「いや~よかった。ダメかなと思ったけど、何とかなったな」
興昌はのびながらそう言うが、目線だけはキャロラインから離さない。
「んじゃま、これからよろしく頼むわ」
「はい!ふ、不束者ですが、よろしくお願いします!」
「(…ん?地雷踏んだ?)」
なぜか一瞬そう思ったが、すぐにその疑問は興昌の頭から消え去っていた。




