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異世界にて天下を目指す  作者: 清水作朗
3章 人生50年
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11話 まだ見ぬ目標

興昌は今、トールとユリーカの二人と向き合うような形で机を挟み、正対している。


「…それで、私を取り立てるというのは、どういう意味でしょうか?」


切り出したのはユリーカだ。興昌が応じる。


「言葉通りの意味です。私は、あなたを自分の家臣として迎え入れたい。そう考えているのですよ」

「なぜ私なのですか?他にも優秀な人物ならいるでしょう?」

「現在文官の数が足りていないのが現状でして、そんなに余裕がないのですよ。ですから、採用してすぐに動かせる人材を欲しているのです。あなたは現在、どこにも属していない。能力の方も、トールからお墨付きをもらっています。その結果、私が此処に居るという訳です」

「あなたの仕業ですか…」

「はは…」


ユリーカがトールをにらみつけ、トールは乾いた声で笑う。


「…まあいいです。ところで、なんでそんなに忙しいのですか?さっきから気になっているのですが」

「戦後処理です」

「戦後って…。どことどこが戦ったんですか?」

「テイニッシュとバーリナ。テイニッシュが勝ってバーリナは滅んだ」

「本当ですか!?」


ユリーカが食いつかんばかりに興昌に詰め寄る。


「ああ、まじだ。だから今俺はこの人の下についてるわけだ」

「え!?あなたは一体…?」

「これでもテイニッシュで宰相を務めている」


興昌がそう言うと、エリシャはさらに身を乗り出して興昌に問いかける。


「本当に、バーリナは滅んだんですか!?」

「あ、ああ」


ユリーカは興昌の襟をつかみ、前後に揺らす。見掛けに寄らず力があるようで、興昌の顔色はどんどん悪くなっていく。さすがにまずいと思ったトールが助け船を出す。


「おい、ユリ。それぐらいにしておけ。興昌が気絶しちまう」


トールにそう言われて、ユリーカはハッと気づいたようで、慌てて興昌の襟を離す。


「す、すすすすみません!つい…」

「ゲホ、ゴホ…。大丈夫、大丈夫…」


大丈夫とは言ってはいるが、興昌の視点は安定しない。


「ま、まあ。そんなわけで、さっさとこの混乱をどうにかしたいのです。でも人手が足りない。だからこうして人探しに奔走しているという訳なんですよ」

「なるほど、事情は分かりました」

「では…」


しかし、と興昌の言葉を制止し、ユリーカは言う。


「一つ、腑に落ちないことがあります」

「何でしょうか?」

「あなたは、私をあなたの家臣として取り立てたいと言いました。何故、テイニッシュではないのですか?あなたもそこの宰相であるなら、普通はそうするはずですが…?」

「そういやそうだな。俺も、あんたの下に水軍という形で取り込まれてる。何か意味でもあるのか?」

「それは…」


明らかに興昌の声が上ずる。何とか表情は崩していないが、痛いところを突かれたというのは見て取れる。


「何か深い理由があるようですね。その理由を教えてください。それ次第では、あなたに仕えるのもやぶさかではありません」


真剣な面持ちで興昌を見つめるユリーカ。目線を合わせないようにしていた興昌だったが、長い勝負の末とうとう根負けし、ため息をつく。


「はあ~。…分かった。正直に話そう」

「それがあなたの素の口調という訳ですか」

「ああ。君も楽にしてくれていい。ここからは宰相ではなく、『俺』としての理由だからな」


そう言って興昌は姿勢を崩す。


「これは誰にでも言っている事ではない。俺が見極めた人間にしか言っていない事だ。今までに言ったのは一人だけ、アリスのみだ」

「あんたの上司か」

「一国の王子に対して、『上司』はいかがなものですか…」

「口調は崩していいけど…」

「これが素なもので」


微妙な空気になったのを、エヘン、と咳払いをして興昌は続ける。


「今回バーリナを攻めたのは、俺の野望の始まりですらない」

「そうなのか?」

「そうだ。そして、今荒れてる本国の内戦を鎮めて統一してようやく始まりだ」

「野望とは、もしかして…」


興昌は勿体ぶるように間をたっぷりと取って、はっきりと宣言した。


「…天下を取る。それが俺の野望だ」


そう躊躇いもなく言い切った興昌に、ユリーカは疑惑の、トールは興味の視線で応じる。


「天下とはまた大きく言いよったな」

「当然。やるからには中途半端なんて認めない。徹底的にだ」

「本当にできると思っているので?」


ユリーカの尤もな質問に、興昌はあえて不遜な口調でこう告げる。


「…根性論だが、こんないい言葉がある。『出来ないと思うからできないのだ、できると思うから出来るのだ』とな」

「…」

「国を。いや、自らの領土を持った人間なら一度は考えるだろう。この領土を、もっともっと増やしたいと。トールも考えたことぐらいはあるだろう?」

「まあな。もっとも、俺らじゃバーリナには勝てなかったけどな」

「そう。いつかは必ずそれに待ったをかけるものが現れる。その時に勝てるかどうかはさして重要ではない。真に重要なのは、それとどう渡り合うかだ」

「外交、という訳ですね?」

「正解。勝てないのなら、いつか勝てばいい。だが、その”いつ”まで相手が待ってくれるかという保証はない。外交によってその時間を稼ぐのだ。そういう意味では、外交は剣と鎧の代わりに、ペンと口八丁で相手と斬り交わす戦いに等しい」


興昌の語りは止まらない。


「人の人生なんてあっという間だ。どっかで見ているかもわからない神様にとって、人間の一生なんてあっという間なんだろう。人にとっての50年は、神様にとって1日かもわかんない。だがな、そんなことはどうだっていい。俺はただの、”一人の人間”で終わってやるつもりなんて毛頭ない。久野金興昌という人間がいたという足跡を残したい!」


一通り興昌が話し終わり、場に静寂が訪れる。


「その足跡が、天下を取ることだと、そう言いたいのですか?」

「そうなるな」

「そうなるな、って…」

「俺は宰相だからな。これがもし、音楽家なら長い間に亘って聞き続けられる曲を創ればいいし、発明家なら偉大な発明を世に送り出せば良い」

「国を預かる人間だから、この世全てを自らの国の下に置くってか?」

「ああ。それに、これが達成されれば、お前らにだってメリットはある」


興昌はまずトールを指さし、


「国がでかくなれば、それだけ入ってくる金も相当なものになる。するとだ、お前に出せる報酬も多くなるし、」

「むう…」


次いでユリーカを指さし、


「土地が手に入れば、それを分配するかもしれない。手に入れることができれば、君の悲願に近づくという事でもある」

「…」

「そうだろ?元王女サマ?」

「…知っていたのですか?」

「戦うにあたって、バーリナの事は徹底して調べた。その中に、あんたの情報もあった。どこにいるかは分からなかったが、まさか人材創作の網に引っ掛かるとは思ってなかったがな」


やれやれといったふうに興昌は手を上げる。表情も崩れる。


「だからと言って諦める訳ではない。変わらず俺は君を勧誘する。要求するのはただ一つ、俺の部下となること。この一点のみだ。報酬として、ふさわしきだけの領土を提供するのも吝かではない」


それも一瞬、あっという間にその表情は真剣なものとなり、国を預かる施政者として相応しきそれとなる。

興昌は驕っている訳でも、ユリーカを見下している訳でもない。ただ単に、国の利益となるであろうことに真摯に向き合っているだけである。


「…分かりました、いいでしょう。ですが…」

「口約束では不安か?だったら後で書面でも…」

「いえ、そういう訳ではありません。あなたは信用にたる人のようですし」


それに、とユリーカは一旦言葉を切る。


「あなたの野望がどこまでの物なのか、見てみたくなりました」

「それは光栄だ。見せられるものになるよう、精進するとしよう」

「ダメになるようであれば、すぐに喉元噛み付きますからね」

「おいおい、いいのか?反乱を起こすっていってるぞ、こいつ」

「そうなったらそれまでという事だ。それに、それもまた一興だ。」

「ふふ、そういう事です。では」


笑顔で手を差し出すユリーカ。


「…交渉、成立だな」


興昌はその手を取り、固く握手を交わした。

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