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異世界にて天下を目指す  作者: 清水作朗
3章 人生50年
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8話 賽は投げられた

今回の相手はかませ犬です。だから戦闘は短めです。


決して、戦闘描写が苦手だからとかそういうわけではないです。はい。

「この3日間はあっという間に過ぎていったとも思えるし、今までの人生で一番長く感じたかもしれない」


と、興昌はのちにこう語っている。敵が来るまでの3日間は過ぎ、前方の視界には向こうが陣を敷いている様子が見て取れる。

興昌の予想通り、バーリナの軍勢は丘の頂上に陣を敷き、その前方に軍を配置した。


「前方の軍は約六千といったところか…」


現在興昌は、アリスの館からこの光景を見ていた。ここしばらくは忙しく、執務室で寝泊まりする日々が続いていたのである。


「これが終わればゆっくり寝られるかな…」


そうのんきなことを呟いていると、こちらに走ってくる兵士の姿を興昌は捉えた。


「宰相閣下、王子殿下がお呼びです」

「分かった。あと、閣下は要らんといっただろ」


兵士にそう伝えて、アリスの部屋に向かう。ちなみに、アリスが王女であるということは、まだ一般には公表していない。だから肩書は、いまだに王子である。


「失礼する」


そう言って部屋に入った興昌が見たのは、憮然とした表情のアリスだった。


「ご機嫌斜めのようだな」

「これを見ればそうなります」


そう言ってアリスは興昌に持っていた紙を見せる。それを受け取った興昌は目を通し、


「…降伏勧告か」

「興昌の言ったとおり、相手はこちらを舐めきって居ます。使者には館の前で待ってもらい、現在返答を考えています」

「答えは?」

「勿論否です。が、ただそう言うのもあれなので、何か皮肉のきいた言い回しはないかと」

「なるほど。なら、いい文句があるぜ」

「でしたら、教えてください」


興昌はたっぷりと間を取り、こういった。


「馬鹿め、だ」

「え?」

「馬鹿めと言ってやれ」


有名な宇宙の船乗りの言葉そのものであった。


「これ以外にいう事はあるか?相手はこちらを馬鹿にしている。なら、こちらも向こうを馬鹿にしてやればいい」


あっけらかんとそう言った興昌を見て、しばし呆然とした後、アリスは大声で笑いだした。


「…アハ、アハハハハハハ!」

「そんなに笑う事か?」


興昌の問いに対し、しばしの間笑い続けてアリスは、目じりに涙を浮かべながら返した。


「…アハハ、ええ、まあ。そんな返し方を思いつくのは興昌ぐらいでしょうね。今まで聞いたこともありません。いいですね、それ。採用しましょう」


そう言ってアリスは、その一言だけ書いた紙を折りたたみ、侍従を呼びつけた。


「これを表の使者に」

「かしこまりました」


侍従が部屋にいる間は体裁を整えていたアリスだったが、部屋を出てからまた笑い出した。


「アハハ…、まだおかしいです」

「ツボにでもはまったか?」

「いえ、そういうわけでは。…思えばここ最近は、心から笑っていなかったかもしれませんね」

「やることが多くなったからか?」

「それもありますが、やはり、命を狙われるというのはとてもつらいですね」


アリスは目を伏せる。


(やば、地雷踏んだな)


興昌は表情に出さないまでも、内心悔やむ。アリスの命を狙っているのは、もしかしたら彼女と同じ血を持つ家族かも知れないのだ。その事に気が付くのが遅れた、興昌自身のミスだ。


「…俺は無責任なことは言わない主義なんだが」


興昌のつぶやきに反応し、アリスは興昌を見る。


「結果が良いにこした事はないんだ。ハッピーエンドかどうかは保証できないが、ベターエンドには必ず持って行ってやる。心配するな」

「…ありがとうございます」

「じゃあ、俺はやることがあるから」

「はい。お願いします」


興昌は部屋を出ていこうとして、ああ、と思い出したように言った。


「知ってるか?数ある動物の中でな、人だけが”笑う”ということができるんだ」

「そうなんですか?」

「ああ。それっぽい顔はできるが、厳密には笑ってないんだ。…それができないのは、悲しいことだな」


最後のつぶやきは、ドアの音にかき消されてアリスには届かなかった。






時間がたち、間もなく日没という頃合い。

興昌たちは、後方に回り込むため、戦場を大きく迂回して移動する兵団を見ていた。


「…うまくいくでしょうか…?」

「やれることはすべてやった。後は奴らを、ガルラビューとクリス達を信じてやるしかない」


現在館には最低限の守備兵しか残っていない。出来る限りの兵を攻撃隊に割いた結果だ。


「大丈夫、うまくいくさ」

「その自信はどこから来るのですか…」

「人事は大いにつくした。あとは天命がどうなるかだが、こればかりはどうにもなる訳でもない。だから、必要以上に不安がることもないわけだ。それに、上の不安は、下を大いに不安にさせる。こういう時は堂々と構えていたほうがいいのさ」


ハッハッハ、と興昌は笑う。


「うらやましいです。私にはそんなことはできません」


ふむ、と興昌は顎に手を当てて思案する。


「…これは俺の理想だからな。個人の理想が違うのは当然だろう」

「そういう物ですか?」

「お前はお前の理想を持っていればいい。それが間違ってたら、家臣たちが正してくれるさ」

「私は…」

「少なくとも、此処に居る人間でお前を馬鹿にしてる人間はいない。間違ってたら、ちゃんと訂正しれくれる奴らばかりだ。良い臣下に恵まれてるよ、お前は」


興昌はそう言ってアリスを慰める。


「個人の能力は、伸ばそうと思えば伸ばせる。でも、人と巡り合うというのは運でしかない。お前はついてるんだよ。自信を持て」

「…だとしたら、私は彼らにとってふさわしい王になるべきなのですね」

「分かってきたじゃん」


何にしてもだ、と興昌は締めくくる。


「今は家臣を信じて待つ。それが王の仕事だ」

「はい!」


二人はまた軍勢の動きに目を配らせる。日没は刻一刻と迫っている。






side ガルラビュー in


ワシは今、バーリナの背後を突くべく、戦場を大回りに迂回して進軍しとる。そのせいで時間はくったが、襲撃の予定時刻には間に合うことができた。


「全員おるな?」

「はい、五百名、そろっております」


配下にそう尋ねる。脱落者はなし、か。士気の方は問題ないようだ。今頃クリスの奴が反対側から突撃をかける頃合いじゃろう。

いい具合に雲も出てきたわい。こりゃ、こちらに分がありそうじゃ。話では月を隠す程度だと聞いておったが、ずいぶん厚い雲に覆われておるな。こりゃ一雨来るかもしれんのお。無論、それも歓迎しよう。

鬨の声が聞こえてきたわい。陽動部隊が動いたようじゃ。


「聞こえたな?こちらも動くぞ。これより私語厳禁、音を小さくしてできる限り奴らに近づくぞ」


それに対し、全員が無言でうなずく。






音に気を使うというのは神経を減らすわい。ずいぶん長い距離を歩いたような気もするが、振り返ると山を下りた程度しかたっておらんかった。

陽動部隊は作戦通り、一当てして引いたようじゃな。敵の追撃をうまくかわしながら引いておる。


「…雨か」


振るかと思っておったが、やっぱり降ってきおった。


「今が攻め時ぞ。者ども声を上げろ、敵の喉元をかき切るぞ!!」


応、という掛け声とともに、敵の本陣へなだれ込む。雨音がこちらの足音を掻き消してくれたのだろう、敵の本陣まで肉薄しても向こうは気づく様子を見せない。発見されたのは大分近づいてからで、見張りの兵が慌てた様子で声を出す。


「て、敵襲---」

「邪魔だ!」


すり抜けざまに剣を抜き、首を切る。声を出されてしまったせいか、敵がこちらに向かってくる。だが、数は多くない。


「狙うは大将の首のみ、取ったものには褒美が出るぞ!」


本陣にいた敵兵はは千といったところだろう。クリスの奴がうまく敵を惹きつけてくれたようだ。こちらの声を聴いて、向こうも反転して攻めてくるだろう。

勢いは完全にこちらにあった。向こうは怖気づいて逃亡する者もいる。こちらも被害はあるが、士気は高い。そも、これは元々売られていた喧嘩なのだ。大なり小なり、民にバーリナへの不満があったのだろう。


「敵の大将を討ち取ったぞー!」


宇井に、そんな声が戦場に響く。味方がうまくやったようだ。正直この手で斬れなかったのは不満だが、勝てたのだ、良しとしよう。

敵はその声に完全に戦意をそがれた様で、我先にと戦場から逃げ出している。


「ワシの仕事は果たしました。後は頼みますぞ、宰相閣下…」


あの方は完璧に流れを読んでおった。この後も、下手は起こさんじゃろう。むしろ、次に何をしでかすか分からんからこそ、あの方は面白い。

あの方について正解だった。まだ抱えておる問題はあるが、そう思って間違いないじゃろう。


side ガルラビュー out






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